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第三章第五話 超能力部隊ネクストフォース結成

俺、少年の浅風竜義は株式会社エスパー義勇軍というややブラックな会社でバイトをしていた。

仕事内容は超能力を使用したお悩み解決、言わば何でも屋だ。

この仕事を始めたのは俺達を居候させてくれる大人奈々を金銭面で助けるためだ。


この仕事は俺にとって正直楽しかった。

「ドリームレッドは給料が安すぎる、会社の管理体制があまりに酷い」と彼女らしからぬ文句を言っていたが、俺は自分の力で頑張って人助けをして、人に感謝されることが、何より嬉しかった。


10年前の時代に戻れば、勉強や部活を頑張らされる日々だ。

勉強も運動もどちらもできない俺には感謝されることは中々ない。

「将来仕事をするなら、こんな職場が良い」と思っていたくらいだ。


しかし、そんなに日々は終わりを告げようとしていた。


先日、どういうわけかリベリオンが新生リベリオン王国として建国され、その記念式典の警備になぜか俺達も派遣されたのである。

リベリオン建国記念と女王陛下即位の式典は何事もなく行われた。

暇すぎてドリームレッドはうたた寝してしまっていた程だった。

そんな任務を最後に俺達はエスパー義勇軍として仕事をすることはなかったのであった。


式典の後、大人瀬戸が「皆に重要な話がある」と言って俺と銀河とドリームレッドをエスパー義勇軍本社に呼び出したのだった。


大人瀬戸にはいつもみたいな営業スマイルがなく、雰囲気からかなり真面目な話をされるだろうという想像がついた。

「唐突な話だけど、エスパー義勇軍は会社をたたむことになったんだ。」


この話を聞いて銀河が真っ先にため息を吐いた。

「やっぱ潰れたんかよ!どうりで黒い感じがしてたわけだ。」


「いや、潰れたわけじゃない。政府からお達しがあったんだ。政府が新しく編成する防衛省直属の部隊に、能力を生かした仕事経験のある人材を引き抜かせて欲しいとね。」


「新しい部隊?」


「おう、自衛隊とは別に超能力者だけの新しい部隊を作るんだ。その部隊に君達も参加して欲しいという政府からのお達しだ。」


「なんで急にそんなことになったんですか?」

ドリームレッドは疑問を大人瀬戸に投げかける。


「テロ対策だよ。リベリオンは東京を丸ごと火の海にできる新型兵器を持ってる。それに無人戦闘機とか、自衛隊も持っていない兵器も沢山持ってるし、政府はリベリオンに対抗するなら自衛隊だけじゃ太刀打ちできないと考えたんだ。

しかも、すでにリベリオンの女王は日本政府と戦争する準備を始めてるという噂もある。急を要する事態なんだ。」


ドリームレッドは鋭い目つきで大人瀬戸を睨みつけた。

「その提案には乗れません。どうしても軍隊に参加しないといけないなら私だけ参加します。」


「待ってよドリームレッド、俺達は…」


自分達も参加したいと言おうとした俺をドリームレッドは目で牽制した。


「彼らはまだ子供です。しかもこの時代の人でもないんです。戦争になったら戦地へも行くんですよね?そんなことさせられるわけないです。すいませんが、彼らは10年前に送り返します。」


「分かってる。俺だって浅風達を軍隊なんかに参加させるつもりはない。だから君達には今日で超能力を使った仕事を辞めてもらいたいんだ。」


俺は「はい、わかりました」とは言いたくなかった。

「今の仕事が好きだから」なんてワガママを言うつもりはもちろんない。


大人になった俺のせいで、大勢の人が命を落とすかもしれないのだ。

奈々や瀬戸や出雲もみんなあいつに殺されるかもしれない。

浅風竜義として、未来の自分のそんな行動を黙って見ているわけにはいかないのだ。


「俺も軍隊に参加したい。相手は大人になった俺だ。この前、春雄さんが言ってたみたいに自分のことは自分が一番分かってる。だから、俺にも力になれることがあると思うんだ。」


しかしドリームレッドは頑なに拒んだ。

「力になれるなれないなんて話じゃない。浅風君なら、頑張れば戦争でも生き残れるくらい強くなれると私も思ってる。

だけど、戦争ってのは浅風君が想像してる以上に何倍も残酷で厳しいものなんだよ。

浅風君も…人を殺さないといけないんだよ。」


俺は急に言葉が出なくなった。


「今までやってた人助けとか、漫画に出てくるような超能力バトルとは違う。この国と人々を守るために何人もの人を殺すんだよ。殺して殺してひたすら目の前の敵を殺して生き残る。

心優しい浅風君にそんなこと…出来たとしてもさせたくないよ!」


俺は言い返せなかった。

ドリームレッドの言う通り、俺じゃ人を簡単に殺すなんてできないと思う。

それでも引き下がりたくはなかった俺は大人げなくも感情をドリームレッドにブチまけた。


「だからなんなんだよ!!俺は戦争だってなんだってやる!戦争になるのだって俺のせいなんだ。だったら俺なんか心配される資格もないんだよ。

むしろボロボロになって殺されて当然なんだ。だから俺は死んでもあいつと戦うんだ!!」


ドリームレッドは思いきり俺を頬を叩いた。

今まで誰からも浴びせられたことのない、本気のビンタだった。


「何もしらないくせに…。私は…嫌だよ。」

ドリームレッドは目頭を押さえて涙を堪えているように見えた。

俺にはその理由が分からなかったが、とても申し訳ない気持ちになった。


取り乱した二人の間を取り持ったのが意外にも乱暴者の銀河だった。

「いいから落ち着けよ、てめえら。そもそも元の時代に戻ったって同じ歴史が繰り返されっかもしれねえ。

俺達が戦争に参加しなくなって、戦争に巻き込まれちゃ戦わなきゃなんねえ。それなら俺達が軍隊に入って金稼いだ方が佐倉の姉ちゃんのためになんじゃねえの?」


大人瀬戸が銀河の大人な対応に絶賛した。

「銀河、お前本当にいい奴だな。見直したぜ。」


「見直したってなんだよ!失礼な言い方だな。」



それから大人瀬戸は「今すぐ決める必要はないからゆっくり考えて来い」と俺と銀河に促し、俺達は解散した。


しかし、ドリームレッドは納得がいかないのか、その場に残って一人頭を抱えていた。

そんなドリームレッドを大人瀬戸が気にかけて自動販売機で購入した缶コーヒーを手渡した。


「大丈夫?とりあえずこれでも飲んで少しリラックスしようか。」


「ありがとうございます…。お金払いますね…。」


「いいよ、大丈夫。で、さっきから思ってたんだけど、あんた浅風のこと好きなの?」


ドリームレッドは我に返ったように顔を赤らめて動揺したのだった。

「え!?いや、急に何を言うんですか!?そんなわけ…そんなわけない…と思うんですけどね…。」


「あはは、からかって悪かったな。でも浅風が心配なのは俺も同じだ。だから浅風が本気なら俺も軍隊に入ろうと思う。」


「ええ!?でも、瀬戸さんは無能力者ですよね?」


「いや能力者としてじゃなくて指揮官としてね。エスパー義勇軍でのマネジメント経験が評価されて、新部隊の指揮官にならないかって防衛省の人からヘッドハンティングされてんだ。」


「凄いですね!瀬戸さんならいい指揮官になりますよ。」


「そうなれるように頑張る。」


「あの、瀬戸さんは浅風君が軍隊に入ること賛成なんですか。反対なんですか?

さっきは仕事自体を辞めるべきだって言ってたのに。」


「どちらでもないな。あいつは中々自分の意見を言えない奴だ。でも芯は強くて譲れないことははっきり言う。だからあいつがどこまで本気なのか試したんだ。

そしたら浅風は軍隊に入る気満々だった。あんたに噛みついた時の浅風は相当覚悟が決まってたから今は賛成だな。」


「浅風君は、あなたが思う程強くないですよ。人一倍強がりますけど内面はとても弱くて…、戦争なんて絶対に無理です!」


「そうだな。でも心配しなくても大丈夫だ。

俺もあんたもいる。

それから出雲にも戦争含めた政治学の知識が買われて戦略担当として防衛省からスカウトが来てる。

大人三人がバックについてるんだ、浅風が挫けそうな時は俺達で支えるまでだ。」


「私が心配してるのはそういうことじゃないんですけど…。でもとても心強いです。」


ドリームレッドはもう浅風竜義が死ぬところを見たくはなかったのだ。

自死してしまう浅風の運命を変えるために何度もタイムリープして来たのに、彼が死んでしまっては自分が今までやって来たことの意味がない。

けれども同時に「生きていれば幸せなのか?」とも思っていた。

生きていることが辛いから死を選んだのだとしたら、無理やり生きさせるのが正しいかと言われてらそれは分からない。

だから迷いに迷った末、ドリームレッドも俺達と一緒に軍隊に入ることを承諾したのであった。


そんなこんなで少年浅風と銀河とドリームレッドは防衛相直轄の新部隊に配属されることになるのであった。



後日、俺達の元に一通の郵便が届いた。

「超能力部隊ネクストフォースへのご招待」という題名であった。


「ネクストフォース」というのが、新たに超能力者だけで編成される特殊部隊の名称である。

驚くべきことに入隊試験などはないらしい。

その代わり、部隊の一員としての適正がないと判断された場合、解雇となる可能性があることが注意書きとして書かれていた。


大人出雲が俺達が居候している奈々の家に来ていた。

「ネクストフォースの組織編制はアメリカの似たような部隊のやり方を参考にして僕が主に担当したんだ。これからも戦略担当として君達をバックアップして行くから宜しくね。」


「ってことは、出雲もネクストフォースに入るの?」


「そうだよ。ネクストフォースの最高責任者である上津輝耀うえつてるよしさんは、大学のゼミの大先輩で僕を招きいれてくれたんだ。」


大人奈々は自慢げに語る大人出雲の背中をポンと叩いた。

「さらっと言ってたけど出雲は大学時代から凄かったんだから。超能力を生かした今後の社会の在り方について論文を書いて賞も沢山取ってたんだよ。」


「凄い、さすが出雲だ!」


「ははは、僕が得意なのは政治とか歴史くらいだよ。それ以外は全然さ。別に頭がいいわけでもないし。」

謙遜する大人出雲であったが、彼は内心とてもワクワクしていた。



超能力部隊ネクストフォースはついに防衛相直属の超能力部隊として始動したのであった。


部隊を仕切るのは、最高責任者であり隊長の上津輝耀うえつてるよしという男だ。

ムキムキに鍛えられた体に大きな声を張り上げる、まさに軍隊の長に相応しい風格の男性である。


上津に仕える部下として、戦略担当の出雲総一郎いずもそういちろう

隊員の能力者の管理やサポートを全般的に行うアシスタントとして瀬戸慎也せとしんや

さらには上津の秘書兼情報収集担当に鯨波海青くじらなみ みさという女性が任命されている。


鯨波海青くじらなみ みさはサングラスをかけ、頭にはニットのヘアキャップを身に着けた何やら怪しい風貌の女性であった。

しかも胸をはだけた服装をしており、かなり色気がある人物である。


そして、部隊の隊員として強力な超能力を使用する能力者17名が集まった。

元エスパー義勇軍所属の浅風竜義、萩野谷銀河、時任夢朱(ときとうゆめか=ドリームレッド)の他、各所から集められた能力者達が集結した。


中には元リベリオン所属の能力者もいたのだった。

鷲兎夕凪わしう ゆうな。元はリベリオン豊橋派の後継者だった人物だ。

リベリオンの総裁選挙で対抗馬のミシェルに敗れてからはリベリオンを脱退。元は同じ上司に仕える同僚ながら、なぜかミシェルのことを憎み、新生リベリオン王国への執権メンバーへの参画を拒否した。

そしてミシェル率いるリベリオンを倒すべく、夕凪は超能力部隊ネクストフォースに参画したのであった。


また、警察も手に負えない程の荒くれ者もいた。

水野直みずの なお

高校生くらいの年齢の少年だが、素行が悪く超能力を使って傷害事件を起こすことも多々あったという。

「俺は誰よりも強くなりたい」というのが水野の信条で、喧嘩や勝負事には常に本気を出す男だ。


隊長の上津うえつは俺達隊員を集めてはいきなり大声を張り上げた。

「お前達!!随分舐めた目つきをしているな!これからはお前らを容赦なく叩き上げ国民を守る英雄集団へと我々は育てあげる。

いいか!お前達はどれほど苦しくとも諦めないことを信条として欲しい。

弱い奴もしっかりと俺は面倒みる。だが…、やる気を失った奴は即刻部隊から抜けてもらう。

国民を守る部隊を名乗る以上、命がけで全力で腕を磨いて欲しい。

以上だ、宜しく頼む。」


やる気に満ちていた隊員達は一瞬にして静まり返った。

「この隊長は怖い」ほとんどの人がそう思ったことだろう。

だけど俺はそれほど怖いとは思わなかった。

銀河がキレた時なんかは慈悲もなく俺を殴ってきたこともある。理性があって俺達のことを少しでも思いやるような言葉を掛けるくらいだから、ちょっと怖いくらいの部類と言ったところだろうか。


続いて、大人出雲が隊員達の前に立つ。

「皆さん、私達の目標はテロ組織と化したリベリオンの暴力から国民を守ることです。彼らは超能力を遥かに超える宇宙の力を駆使して日本を制圧するつもりです。そして、この東京をいつでも攻撃できる体制がリベリオンには整っています。罪のない尊い命をテロによって失わせてはいけない。

尊い人々の命を守れるのは恵まれた力を手にした皆さんしかいません。神にそして国家に選ばれた者として平和を守るために戦いましょう。私達も命を懸けて皆さんをサポートします。」


こうして俺達は大人浅風が属するリベリオンを打倒するため、新たな第一歩を踏み出したのであった。

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