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第二章第十二話 穢れた心

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まりもは実父である豊橋の記憶を覗いた後、大人浅風を睨みつけた。

まりもの瞳の色は緑色から赤色に変わっていた。



大人浅風は鳥肌が全身に立つのを感じた。

すると身構える間もなくまりもが全身から光を放つと、周囲30メートル程を巻き込む大爆発が起きた。


--こんな攻撃なにをどうやっても避けきれるはずはない--


浅風の視界は真っ白になった。



気が付くと大人浅風は集会所から100メートル程離れた場所にいたのだった。


「間一髪でしたね、千秋さんの能力で私が潜伏していなければ死んでいましたよ。」

ドリームレッドが大人浅風の傷の手当をしていたのだった。


ドリームレッドは千秋の能力で姿を隠して大人浅風に着いてきていたのだ。

まりもの広範囲に及ぶ大爆発の一撃を受ける直前でドリームレッドが瞬間移動して大人浅風を救出したのである。


「まりもを止めにいかないと…」

大人浅風は無理して立ち上がろうとするが、豊橋との戦闘で気力のほぼ全てを使い果たしていた。

結局立ち上がるのがやっとという状態であった。


そんな一部始終を見ていた俺、少年浅風は大人浅風に提案をした。

「俺が助けに行くよ。」


「浅風君!?無茶だよ、相手はどんな力を持っているか分からない宇宙人だよ。私が行くから大丈夫。」

ドリームレッドは俺一人では行かせたくないようだった。

でも、ドリームレッドも連続したタイムリープをしたことで、少し前まで起き上がるのもやっとの状態であった。

さらに戦闘で能力を酷使すれば命に関わると敷島春雄から忠告されていたにも関わらず、忠告を無視して彼女は大人浅風を助けに行ったのだ。


俺は正直思った。

彼女は類まれな瞬間移動とタイムリープという強力な能力を持っているし、プロレスラーだからもちろん肉体戦でも強い。

だからと言って無敵なわけではない。人間だからもちろん限界はある。

俺はドリームレッドよりは弱いけれど、体は動く。

それなら俺がやらない理由はない。


「心配しないでドリームレッド。必ず戻ってくるよ!」


しかしドリームレッドは不安で俺には任せられないという目をしている

「浅風君はあまり戦闘経験がないんだし、やっぱり心配だよ…」


驚くべきごとにそんなドリームレッドを諭してくれたのは大人浅風だった。

「大丈夫だ。この頃の俺はダメな奴だが弱くはない。それにまりもを倒しにいくんじゃないだろ。助けに行くんだ。こういう時は多分俺よりもあいつのが上手くやってくれる。」


「浅風さん…」


今度は春雄がドリームレッドに声をかける。

「自分のことは自分が一番分かってるもんだ。だから浅風さんが大丈夫だと言うなら大丈夫だ。

今度はしっかり休んでいろ、死んでもしらないぞ。」


「とはいえ、一歩間違えれば命を落とすかもしれん。気を付けるんだぞ。」


「はい、ありがとう春雄さん。」


大人浅風はこの時思った。

自分の10年前は何事にも自信がなくて、とても消極的だった。

でも目の前にいる10年前の自分は、できるできないに関係なく積極的に目の前の現実に立ち向かっている。

「彼は自分の知る自分よりももっとデキる奴なのかもしれない」と内心で思っていた。



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俺は大人浅風が豊橋と対決していた集会所跡地へと向かった。


まりもは正気を失い、能力のコントロールが出来なくなっているようだった。

まりも本人は眠っているように見えるが、全身から眩い光を発していて、近づけば体が解けてしまいそうな程熱い。

それでも無理やり近づこうとすると光から火花が散って爆発が起こった。

俺は爆発の威力で突き飛ばされ、瓦礫の散らばる地面に叩きつけられた。

物凄い激痛が走った。

多分、背中は血まみれになっているだろう。

でも、助けたい。

人を助けられるようになりたい。

俺はダメ元でまりもに呼び掛けて見た。


「まりもちゃん、聞いてくれ。俺は君を助けたい。どうしたらいいか教えてくれ!」


すると、まりもの声が俺の頭の中に響いて来た。

--助けるって何を?私は浅風を殺しに行く。あいつはずっと私を騙していた。パパも私も皆騙してた。--


「…ごめん。」

俺は歯を食いしばるしかなかった。


再びまりもの声が頭の中に響く

--なぜあなたはそんなに申し訳ないって思ってるの?そしてとても悲しんでる--


「俺のせいなんだ。俺がロクな努力もしないでクソ野郎になったから、君を傷つけたんだ。

普通に会社勤めが出来てれば組織なんかに入る必要もなかったし、もっと強くなってれば豊橋って奴とも正直にぶつかり合うこともできた。なのに俺が怠け者だったから、君も君のパパもみんな傷つけた。ごめんな…全部俺のせいだ。」


--なんであなたが謝るの?--


「え?」


--あなたはとても優しい人なんだね。心の中がとても暖かい。こんな暖かい心を持った人に初めて会った。--


「何言ってるんだ?俺の心の中を見てるのか…?」


--うん。私は人の心が読める。だけど心を読むのは凄く怖い。皆凄く優しい顔をしてるけど本当は凄く汚いことを考えてるから、心を読んで良かったって思ったことなかった。だから凄く怖かった。--


「そうか…心を読めるってのも大変なんだな…」


--あなたはとても心が奇麗。あなたの心を読んでも私の心は痛くならない--


「あ、あんまり覗かないでくれよ。なんか恥ずかしいからさ…」


--君、名前は何ていうの?--


「浅風竜義だ…。君の知ってる大嫌いな浅風の10年前だ。」


--浅風!?あなたが…?嘘!?--


「君なら俺が嘘ついてるかどうかわかるだろ?気になるなら見て見ろよ。」


--嘘じゃないんだね。…ねえ教えてくれる?--


「何?」


--私は浅風の心を読んだことがないの。もし浅風の優しさが上辺だけで本当は他の人みたいに心が汚い人だったら嫌いになるって思ったから。もしも浅風が悪い人だったら私は人を信じられなくなるって思った。

でもパパの記憶に出て来た浅風は凄く悪い人だった。パパやお姉ちゃんを苦しめてた。

パパ自身も浅風は悪い人だって言ってた。浅風は優しい人なの?悪い人なの?--


「そんなの俺が知りたいくらいだよ…。でも、多分…悪い人だ。」


--そう。わかった。--

まりもの声は少し明るかった。


--私何人も心を読んでるからわかるんだ。本当に悪い人は自分が悪いことをしてるって思わない人なんだ。悪いことをする人程、自分は正しい、自分のやってることは間違ってないって思ってる。

人が傷ついても自分は正しいことをしてるって思うから平気で人を傷つけるの。

でも浅風は自分が悪い人だって言った。そういう人はとってもいい人なんだよ。人の気持ちを考えられる人だから自分のことを悪いって言えるんだよ。--


「そ、そうなのか?」


--うん。よかった。浅風はいい人だ。私は間違ってなかったんだ。--


俺はどうしていいか分からなかった。

俺の勘が正しければ、大人浅風は本当に悪い奴だ。

でもそうと知ればまりもはどれ程悲しむだろう、そして憎むだろう。

それなら大人浅風に本当にいい奴になってもらうしかない。

まりものためにも、大人浅風に普通の社会に戻って真面目に生きてもらうようにしなくては。

俺はそう思った。


気が付くと、まりもは瓦礫の上で倒れていた。

熱い光のバリアも消えていた。

スヤスヤと寝息を立てて寝ているようだった。

今日は色々あってとても疲れたのだろう。


俺はまりもを起こさないようにそっと背中に担いで、大人浅風達の元へ向かったのである。



俺が大人浅風達の元へ戻ると、ドリームレッドや敷島兄弟が俺を心配して駆け付けて来た。

俺はまりもの安眠をじゃまさせたくなかったので静かにするようジェスチャーで伝えた。


「まりもは大丈夫なの?」

夏子はまりもを心配していた。


「疲れて寝ちゃったみたいだ。」


「お疲れ。やけに静かだったな。ほら、コーラでも飲めよ。」

冬基が俺に缶コーラを手渡して来た。


「ありがとう。まあ、戦う必要もなかったからね。」


「やっぱり浅風くんは軟弱な英雄だね。さすが、浅風君。」

ドリームレッドは俺の頭を撫でて来た。

彼女の距離感が異様に近い気もしたが、褒められるのは正直に嬉しかった。


春雄は腕を組みながら俺に声を掛ける。

「少年よ、覚えておきたまえ。

『戦わずして人の兵を屈するは善の善なる者なり』って孔子の有名な言葉がある。戦わずして勝つことは何回戦って勝つよりも素晴らしいことって意味だ。

戦争すれば財産も文化も人の命も失われることになる。

戦争だけじゃない、喧嘩だってそうだ。ぶつかり合えば必ず何かを失う。

殴り合えば体が傷つく、悪口言い合えば心が傷つく。だけど分かり合えば何も失わない。

それはお前がいくら強くなったとしても、一番利口な勝ち方は戦わないことであることには変わりがない。そのことをこれからも忘れるでないぞ。」


「まーた始まった!兄さんのかたっ苦しい説教。ごめんね、これ兄さんの悪い癖だから…」

夏子はおどけて笑っていた。


「おい、人が良い話をしてる時に余計なことを言うなと普段から言ってるだろう!」


「あー、はいはい。すみませーん。」


「貴様、舐めてんのか!」


敷島兄弟はリベリオン側の人間ではあるけれど、とてもいい人達だ。

一体何が正しくて何が悪いのか、それは今の俺には想像できない程に奥が深い問題なのかもしれない。




【二日後】

リベリオンの総裁を決める選挙は予定通り実施された。


大人浅風率いる革新派の代表者、ミシェルこと高梨瑞希と、豊橋派の後継者、ハゼこと鷲羽夕凪わしうゆうなの、二人の女性候補の対決となった。

この選挙の行方は日本政府や日本のマスコミも注目しており、ミシェルの演説内容も全国に報道された。


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皆さんこんにちは

革新派の高梨瑞希です。


皆様にとって幸せとは何でしょうか?

私は、自分の本当の気持ちが受け入れられることだと思います。

そして、本当の自分を受け入れてくれる人と出会えること。

それが幸せだと思います。


皆と合わせるために自分の気持ちを犠牲にすることは正しいことでしょうか。

人は皆子供のころから本当の自分を殺して周りと同じ生き方をするように社会によって仕向けられています。

私達は社会によって幸せになることを抑圧されているんです。

今のあなたの生き方はあなたが本当に望んだ生き方ですか。

そうでないなら、これからは自分のために生きましょう。

人のために生きる人生は幸せになれません。

勉強も仕事も恋愛も全部自分が幸せになるためにすることです。


私は、皆が幸せになれる新しい国家を作ります。

どうか皆様、私達に力を貸して頂けませんか?

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選挙は最後まで接戦となったが、結果としてミシェルの勝利となった。

ミシェルは浅風の派閥であるということで支持率が極端に低く勝ち目はないと思われていた。

浅風の豊橋の弱みを握って蹴落とす工作も失敗に終わって万事急須かと思われた。

しかし、ミシェルは浅風の考えではなく、持論を押し通して大逆転勝利を収めたのだった。


ミシェルは教養も信頼もあまりない。にも関わらず浅風に頼るのではなく自分の意思を貫いた姿勢に心を打たれたメンバーが数多くいたのだった。


しかし、同時にこの選挙は大きな禍根を残すことにもなった。

選挙で対抗したハゼこと鷲羽夕凪はミシェルには負けを認めず、これからも徹底抗戦し続けると明言していた。

全国に放映されているにも関わらず、ハゼが「覚えてろよ!クソビッチが!」などとマスコミの取材に対してコメントしていたのも衝撃的であった。


また、革新派における浅風の発言力はかなり低くなってしまった。

組織のトップとなったミシェルのメンバーからの信頼が厚くなったためである。

その中には浅風のやり方に不満をぶちまけた者達も含まれている。

それでも、革新派が権力を握った新生リベリオンは新しい国家の設立に向け第一歩を踏み出した。



後日、俺は大人浅風と初めて二人で話をすることが出来た。

俺はなぜだか物凄く緊張した。


「どうすれば俺みたいにならなくて済むかが知りたいのか?」


「あ…うん。」


「なら、もっと沢山勉強しろ。」


「ええ?勉強!?」


「勉強って漢字ドリルとか計算ドリルとかをやれと言ってるわけじゃない。人生の勉強だ。」


「人生の勉強?」


「ああ。生きていれば沢山の苦しいことや辛いこと、悲しいことを経験する。でもその度に成長して

乗り越えようとしている奴と、もう駄目だと諦めるやつとでは大人になった時に大きな差が生まれる。

いじめや喧嘩とかの人間関係のトラブル、勉強や部活での挫折、恋愛での失敗。そんな誰しもが経験する失敗や挫折を成長するためのバネにして行けるなら、お前は俺みたいにはならない。」


「挫けちゃいけないって分かってるんだけど難しいんだよね…」


「そんなに卑屈にならなくても、そもそもお前は俺みたいにはならない。

俺みたいになりたくなくて自分からこの世界に残って、友達と一緒に俺を救おうとしてるんだろう?」


「あ、うん。…分かってたんだ。」


「まあな。俺の知ってる10年前の自分なら、俺らしい未来だと笑って誤魔化してただろう。でもお前は俺みたいになるのが悔しいと思って、許せないと思って現実を直視して努力した。

それだけでも、もうお前くらいの歳の頃の俺の何歩も先を行っている。」


「…わかった。俺、何があっても挫けないで頑張るよ。挫折するたびに強くなれるようになる!」


「おう!ピンチはチャンスだ。絶体絶命のピンチなんか人生で何回かしか訪れない貴重なチャンスだ。大ピンチの時は、こんなピンチを経験できるなんてラッキーだと思うといい。そう思うと、ピンチが楽しくなる。」


「分かった!ありがとう!俺、頑張るよ!!」


「さあ、お前が本来いるべき時代に戻れ。俺からお前に話したいことは全て話した。お前なら大丈夫だ。俺みたいにはならない。」


「待って…。俺まだやりたいことがある。君を救いたいんだ。こんな暗部組織じゃなくて奈々や瀬戸や出雲と同じ世界で生きて欲しい。」


「それは無理だ。俺は日本社会シャバでは犯罪者だ。それにリベリオンには俺を信じて背中を押してくれる仲間がいる。こんなどうしようもない俺だからこそ応援してくれた仲間もいる。

リベリオンは俺が精一杯努力した作った俺の居場所だ。お前の言葉だけで変えられるほど軽い気持ちで俺はリベリオンに所属していない。」


「そうだとしても…俺は…」


「まもなく戦争が始まる。日本史上初めての独立戦争がな。」


「独立戦争…?」


「豊橋が置いていった宇宙の技術を日本政府が俺達から取り上げに来るだろう。俺はそれを全力で阻止して、俺達社会的弱者が生きられる国を作る。

そのためなら、俺はテロリストと呼ばれようと構わない。仲間に裏切られようと、全てを失おうと構わない。弱者を救うことは俺の生き甲斐なんだ。」


大人浅風は俺に背を向けて去って行く。

俺は大人浅風を止めようとしたが、能力の爆風で突き飛ばされてしまった。


「ふざけんな!戦争すれば力のない、罪もない人達が大勢死ぬんだぞ!!お前は弱者を救おうなんてしてない!ただ自分勝手がしたいだけだ!!自分のために大勢の人を殺そうとしてるんだ!!それを悪いとすら思ってない!お前は最低な野郎だ!!」


俺は力の限り叫んだ。

大人浅風は笑顔で俺の方を振り向いた。


「立派になったな。元の時代に戻ってもその元気を忘れるなよ。」


大人浅風は去って行った。

俺はうずくまって涙を流した。

大人浅風は俺の夢であった「いつも弱い者の味方になるヒーロー」になる夢をある意味叶えようとしていたのだ。

でもその結末が「戦争」に行き着くということが、どうしても許せなかった。


「俺は…帰らない。お前を奈々達がいる世界に引きずり戻すまで絶対に帰らないからな!!」

姿も見えなくなった大人浅風が去って行った方角に向かって俺は叫んだ。




《第二章 完》

第三章に続く。

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