第二章第八話 時を超えた謎
俺、少年浅風は大人浅風とドリームレッドと共に敷島兄弟と面会した。
大人浅風が敷島兄弟に過去の自分を紹介すると兄弟は揃って驚いたものだった。
特に長男の春雄は「容姿は似ているが雰囲気が違いすぎる」と大笑いしていたものだった。
選挙までの時間が限られているため、挨拶を済ますと即座に過去に出発することとなった。
敷島兄弟の長男、春雄が非常時に備えて元の時代に残り、俺、大人浅風、夏子、秋子、冬基とドリームレッドの6人でタイムリープする。
タイムリープするのは月潟まりもの両親である月潟夫妻の事故現場と、豊橋の妻子殺害事件の事件当時の現場だ。
現場で事件の真相を突き止めて、写真を撮って豊橋が関係している証拠を作ることが目的である。
今回の役回りとしては、千秋の姿を消すことができる能力で現場を確認し、カメラ役の冬基が証拠を取る。
そして思わぬ難題に直面した場合探偵の夏子が推理する。
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<タイムリープ①>5年前月潟夫妻の事故現場
月潟夫妻は娘である、まりもと共に三人で暮らしていた。
月潟夫妻が悲劇に見舞われたのは自宅を出てすぐのことで、自宅前で乗り込んだタクシーがコンビニに突っ込み車が炎上、結果として死亡してしまったという事故が起きている。
俺達がタイムリープしてきたのは事件発生の10分前であった。
すでに事故を起こすタクシーは自宅前で待機していた。
千秋の相手の視界から消える能力を使って俺達は自宅前に止まっているタクシーに近づいた。
すると家の中から子供の叫び声が聞こえる。
まりもの声だろうか。
「パパ!ママ!行っちゃやだよ!!」
まりものパパと思われる人の声がする。
「大丈夫だ、まりも。ちゃんと戻ってくるからいい子でお留守番してるんだよ。まりもが寝るまでには帰ってくるから。」
「嫌だ!!パパとママと一緒に行く!なんで一緒にいっちゃいけないの?」
次はまりものママと思われる女性の声が聞こえた。
「大人の用事。まりも、ママとパパがまりもとの約束破ったことあった?」
「ない…」
「でしょ。いい子だから、パパとママを信じて。」
俺達は千秋の能力で身を隠しつつこっそりと家の中の様子を除きこんだ。
玄関には遊園地や海に行った時の笑顔の家族写真がいくつも飾られていた。
大人浅風はまりもの臆病さを考えると、まりもは虐待をされてきたのではないかとも考えたが、
優しい家族に恵まれ、大切に育てられて来たようだった。
月潟夫妻はまりもに手を振ってタクシーに乗り込んだ。
そして、痛ましい事故が起こる。
月潟夫妻が乗ったタクシーは猛スピードを出してコンビニエンスストアに突っ込んだ。
タクシーが炎上して周辺の住民が困惑しながら消防に連絡をしていた。
「大変だ、救急車!」
事故が起きると分かっていても、事故現場を目の当たりにしたショックはあまりにも大きかった。
俺は思わず取り乱したが、大人浅風はそんな俺を叱咤する。
「そっちはいい、あの人達はもう助からない。周辺に怪しい人物がいないか探せ!」
大人浅風は事件に気を取られていた俺に周辺を探るように指示した。
すると、何者かが慌てて足り去って行くのが見えた。
「今、誰か向こうに走って行った!」
「ドリームレッド、飛ばしてくれ!」
俺達はドリームレッドの能力で瞬間移動して、逃げて行った何者かを先回りしてゆく手を塞いだ。
逃げていたのは、まりもと瓜二つの銀髪で緑目の少女であった。
「え?まりもちゃん?」
「いや違う。こいつはまりもではない。豊橋大空だな?あの事件を起こしたのはお前か?」
大人浅風は少女に拳銃を向けた。
少女は何も答えなかった。
暗くてよく見えなかったが、該当に照らされた少女の目は涙を浮かべていたように見えた。
その時、二人のスーツ姿にサングラスをかけた男が現れ、瞬間移動するように男達と共に少女は姿を消した。
大人浅風は冬基を呼ぶ。
「証拠写真は撮ったか。」
「はい、念のため録音もしました。」
「さすが冬基だ。助かるよ。」
ここで夏子が推理する。
「兄弟や姉妹や親子は同系統の能力を持ちやすいと言われています。だから大空ちゃんとまりもが双子なら同じ能力を持っていて、今の事件を起こしたと考えることができます。」
「アリバイはあるのか?」
「主観による推測にすぎませんが、やはり、まりもと大空ちゃんのどちらかは本当の親ではない親に育てられていると推測できます。彼女達の親は月潟夫妻か豊橋夫妻かどちらかでしょう。
月潟夫妻が実の親なら実の親に捨てられた恨みを大空ちゃんが晴らしたととも取れますし、豊橋夫妻が実の親なら、姉妹であるまりもを奪った月潟夫妻への怒りということが推測できます。
私的には前者なのかな…と思っていますが…。」
「なるほどな。冬基、まりもか大空が生まれた病院はわかるか?」
「共にムーンライトクリニックです。月潟夫妻が経営する産婦人科です。」
「何!?なら、まりも達が生まれた日の病院にタイムリープするぞ。」
俺達は二度目のタイムリープを行う。
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<タイムリープ②>10年前、まりもと大空が生まれた病院
ムーンライトクリニック、それはまりもの父親である月潟鹿男と、母親の月潟稲穂が夫婦で経営していた産婦人科である。
再び秋子の能力で姿を暗まして病院に潜入すると、夏子がすぐに怪しいことに気が付いた。
まりも達が生まれる当日、まりもの母親であるはずの稲穂は普通に病院に勤務していたのだった。
「稲穂さん、お腹大きくない…」
「月潟稲穂はまりもの本当の母親ではないのか…?」
「だとしたらまりもは豊橋の子供…?」
「でもまりもちゃん凄く両親に大切にされてた。本当の親子じゃないなんてとても思えないよ…」
「本当の家族じゃないから大切にされないなんて偏見だよ。ドラマなんかじゃ虐待されてたりって展開も多いけど、養子を大切に育てる優しい人だっているのは確かだよ。」
その時、バタバタと慌ててやってくる急患患者がいた。
そして、急患患者に寄り添う男には見覚えがあった。
大人浅風の最大の敵である男だ。
「豊橋!?」
急患患者は豊橋の妻のようだ。
豊橋の妻は分娩室に搬送された。
豊橋は祈るように分娩室の外で待っていた。
豊橋は今の人でなしの面影はない穏やかそうな人だった。
「ドリームレッド、真実を確かめる必要がある。分娩室内にテレポートしてくれ。」
するとドリームレッドは大人浅風を平手で叩いた。
「プライバシーの侵害ですよ。女だけで行きます。男達は外であのおじさんと待っていてください。
あ、それと一つ注意です。変に過去の人物に干渉すると未来が変わっしまうことがあるのでなるべく接触は控えてくださいね。」
「わかった。黙って待っていればいいんだろう。」
千秋が冬基からカメラを受け取り、ドリームレッドと夏子の三人でテレポートした。
すると驚くべきことが明らかになった。
豊橋の妻が生んだ子供は双子だったのだ。
そして、生まれてきた子供は銀色の髪をしていたのである。
それだけではない、驚くべきことに双子の子供達はそれぞれ胸に赤く光る球体のものが付いていた。
「なんなのこれは…?」
出産に立ち会った月潟稲穂は、双子のうちの片方を抱き上げ夫である鹿男に声をかけた。
鹿男も稲穂が抱いている子供を見て非常に驚いていた。
「なんなんだこの赤い球は…?」
「それだけじゃないのよ。生まれて来た子供は双子だったの。」
「なんだって!?エコーではわからなかったのに…どういうことだ。
これでは奥さんになんと説明したらいいんだ…。」
「豊橋さんを怒らしたら私達の命がないわ。納得のいく説明をしないと…」
「こうなったら子供は双子ではなかったことにしてしまおう・・・」
「何を言っているの?」
「片方の子供は僕達が僕達の子供として育てる。」
「あなた!何を言っているかわかってるの?あなたのやろうとしていることは犯罪よ。」
「豊橋さんに秘密をばらすなと何度も脅迫されて来たんだ。今日だって何かあったら病院を潰してお前もその場で殺すと言われて、病院には他に誰もいないようにしろってまで言われたんだぞ。
話なんか通じる相手じゃない。腹が立てば命を奪う、そういう男だぞ。」
「だからと言って人の子供を攫うことが許されるわけじゃないわ。」
「だからこそだ。あんな思いやりもない親の元で育ってこの子が幸せになれるとは思えない。
赤の他人に暴力的な態度をする人は家族にも同じような態度を取るんだ。」
「そうだとしてもダメなものはダメ…」
「僕の父親もそうだった。仕事で嫌なことがあると酒を飲んでは僕や母さんに当たった。
豊橋さんと同じように気に食わないと普段から飲み屋の店員を脅迫したりしたこともあった。
産婦人科をしながら数々の親御さんを見て来たからわかる。あの男は子供を幸せにできない男だ。
しかも、人と違う体を持っているんだ…。
多分この子の人生は凄く辛い人生になる。でもそんな時は僕が側にいてあげたい。家族の温かみや無償の優しさってものをこの子に教えてあげたいんだ。この子が少しでも幸せに生きられるように。」
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俺は大人浅風と冬基とともに分娩室の外で豊橋とは距離を置いて座って待っていた。
すると豊橋が話しかけて来た。
「君達、病院の関係者じゃないね?何をしているんだい?」
「あ、えーと。ちょっと一休み」
俺が誤魔化そうとすると豊橋は俺を睨んで来た。
千秋がいないため、俺達は豊橋から姿を隠せない状態になっていたのだ。
完全に油断していた。
この時は豊橋とは顔も知らないはずのため、まさか話しかけられるとは誰も思っていなかった。
「本当のことを言いたまえ。この病院は貸し切ってもらったはずなんだ。先生から入ることを特別に許可されたのかい?」
俺は豊橋から殺意を感じて震えあがった。
豊橋が俺に詰め寄ろうとした時、大人浅風が俺を庇ってくれた。
「すみません、保険証忘れてしまって取りに来たのですが曜日を間違えてしまって。ご迷惑になりますのですぐに退散します。失礼致しました。」
「保険証を取りにくるのに3人で来る必要があるのかね?」
「弟達も車で待ってるのは退屈だというものですから。じゃあ邪魔になりますので僕らは失礼します。」
「兄弟か…。道理で容姿が似ているわけだ。おう、驚かせてすまなかったね。」
大人浅風は俺と冬基が自分の弟という設定にして誤魔化した。
俺達はドリームレッドからまりもと大空の話を聞いた。
彼女らは一卵性の双子で親は豊橋夫妻。
月潟夫妻が自分達の診断ミスを誤魔化すなどの目的でまりもを自分の子供として育てたというわけだ。
「月潟夫妻はまりもを大切にしていたけど、どこかでまりものことが豊橋にバレてしまった。だから豊橋は月潟夫妻に復讐をしようとした。それが殺害指示に至った真相でしょうね。」
夏子が補足説明をしてくれた。
大人浅風はあることを思い出した。
まりもが銭湯に行くことを頑なに拒んだ理由は胸の赤い球を見られたくないのが理由なのだろう。
そして緑目に銀髪というコスプレでもしていないければないような容姿によって、まりもは幼いながらに自分は人とは違うのだと感じ取っていたのかもしれない。
だからまりもは人に対しては絶対に距離を取る。
自分の秘密を知られればどうなるか考え、怯えながら生きている。
「あの赤い球、何なんでしょうか?」
千秋が尋ねる。
俺はスマホでインターネットを検索したが、胸に赤い球ができる病気などは出てこない。
とはいえ、今はそのようなことをしている余裕はなかった。
「今はまりものことは後回しでいい。豊橋の秘密を解き明かす方が先だ。次は妻子殺害現場へ行くぞ。」
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<タイムリープ③>5年前、豊橋の妻子殺害事件現場
現場では豊橋婦人と娘の大空が親子喧嘩をしていた。
大空が豊橋婦人に大声で何かを訴えていた。
「私学校行きたいなんて一言も言ってない!!
ママもパパも私のため私のためって言って、いつも私にあれしちゃこれしちゃダメってのばっかり。
体のことがわかっちゃうから健康診断は受けちゃダメ、プールも行っちゃだめ、学校のプールの授業も全部見学。私はそんなの気にしないって言ったのにママとパパが先生に健康診断とプールは絶対にやらせないでって言ったせいで、パパとママが怖いからみんな友達いなくなった、髪が白いから『ババア』って言われていじめられた。もうこんなの嫌、死んでやる!」
「待ちなさい、大空!本当に大空のためを思ってやったことよ。大空が学校でいじめられないようにパパも先生に強く言ってくれたし、私達はいつも大空のためを思って来たのに…」
「パパ、私をいじめたら殺すって言ったんでしょ。そんなことして欲しいなんて私言ってない!言ってないのに全部パパとママが勝手に私のためだって言ってやったんじゃん!!」
すると大空は拳銃を母親である豊橋の妻に向けた。
「大空…いい加減にしなさい。そんなもの捨てなさい…」
「うるさい…、全部パパとママのせいだ。」
すると豊橋の妻も拳銃を取り出して大空に向けた。
「体が勝手に!? 何してるの大空!?」
大空が精神憑依の能力を使用して母親の体を操っているのだ。
「私のことを大事だっていうなら、幸せにしたいっていうなら、なんで私がこんなに泣いているのに間違ってるって分かってくれないの?」
「わかったわ大空、ママとパパが悪かった。謝るから、これからちゃんと大空が望む通りにするわ。
大空が喜んでくれることだけを…」
豊橋婦人は涙を流しながら必死で拳銃の銃口を下げようとするが体がいうことを聞かないようだった。
大空は俯いた。
「もう聞き飽きたよ、それ…。いつも口ばっかり…。」
豊橋の妻と大空はお互いの頭部を拳銃で撃ち合い、倒れた。
大人浅風達は二人の遺体を確認し、証拠写真を撮った。
人の死体を見るのが初めてだった夏子は、鮮血が流れでる遺体を見て気分が悪くなってしまって嘔吐していた。
しかし、探偵としてのプロ意識があった夏子は息を荒げながら、涙をぬぐい、自分の推理を大人浅風に伝えた。
「繋がりましたよ…。見ての通りこの事件は大空の能力によるもので、豊橋も地域住民も妻子は殺していなかった。父親である豊橋がここに来ていたなら彼は、事件が大空の能力によるものだと分かってたはず。だけど大空がこんな事件を起こさなきゃいけない要因は学校でのいじめだったから、学校のクラスメイトの親も含まれる地域住民にその怒りの矛先を向けようとしたのではないでしょうか…。」
夏子は千秋に背中をさすられながら、一生懸命に説明した。
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疑問が数多く残るが、俺達は2030年の世界に戻り一度情報を整理した。
タイムリープして事件の真相を掴んだ大人浅風達であったが、大事なことを忘れていたことに気づく。
豊橋を批判する材料があまりなかったことだ。
冬基が言う。
「豊橋の不祥事として公開できる情報は、産婦人科への脅迫と学校への脅迫ですね。
しかし残念なことに肝心な部分の証拠が得られていません。いずれも月潟鹿男さんと大空さんの口から聞いたものに過ぎません。」
大人浅風は唇を噛んだ。
「いやまだ諦めるつもりはない…。ドリームレッドなんとかならないのか?」
ドリームレッドは気が付くと壁にもたれかかってかなり具合が悪そうだった。
「ごめんなさい。時間も場所も分からない事件現場になんて行けません。それにタイムリープはできる回数に限度があります。連続3回が限界で、この能力を使ったら一週間は休まないと脳にダメージを受けてしまうんです。」
「彼女、能に負荷をかけすぎてます。これ以上やらせたら命に関わりますよ。
特にタイムリープなんてどれだけ使用者負担の大きい能力か分かって言ってるんですか、浅風さん?」
春雄が大人浅風を説得する。
「じゃあどうすればいい!このまま諦めろってのか?もう時間がないんだぞ!!」
俺は大人浅風を見て非常に情けなくなった。客観的に見たら自分はこんなにも自分勝手なのかと愕然とした。俺はドリームレッドに声をかけた。
「ありがとうドリームレッド。無理して大人の俺に力を貸してくれて。」
敷島兄弟も揃ってドリームレッドに感謝の言葉を述べた。
しかし頭を抱えてイライラしたままの大人浅風に頭にきた俺は「お前もお礼くらい言えよ」と叫んでしまった。
大人浅風は「事情を知らない奴が偉そうにいうな」と怒鳴っていたが、そんな大人浅風は敷島兄弟に必死になだめられていた。




