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第二章第七話 ダメ男は大人になるほどダメになる

<選挙二日前>

結局豊橋の妻子殺害事件の真犯人もわからず、豊橋の素性も分からず、謎を解き明かせないまま選挙の二日前を迎えることとなった。

まりもと大空はるかの関係についても、まりもから聞き出そうと試みたが、まりもは「何もしらない」と答えるのみであった。


「もはやこれまでか…」


大人浅風は半ば諦めかけていた。

そんな彼を見て、歩美が叱咤する。

「途中で試合を棄権するのがヒーローのやること?」


「前にも言っただろう、ヒーローになんか俺は無理だ。俺は強くなんかない、元々かなり弱い人間だ。」


「たっ君が最初に言ったんだよ。俺は社会的弱者を助けてヒーローになるんだって。全部口ばっかり…。昔のがよっぽど立派だったんだね。」


「何言ってるんだ?」


歩美はため息をつくと一通の手紙を浅風に手渡した。

「これ10年前のたっ君が自分に宛てて書いた手紙でしょ?読んでみたら?」


大人浅風は少し期限を悪くした。

「人の手紙を勝手に開けて読むな。」


10年前、少年浅風がタイムリープする前に書いた手紙が今大人になった浅風の元に届いたのだ。

大人浅風は自分の過去を思い出しながら、過去の自分からの手紙を読み始めた。


----------------------------------------------------------------------------------------

10年後の僕へ


お元気ですか?

もう仕事してるんですか?ちゃんと仕事してますよね?ニートとかなってないですよね?


もし今苦しんでいたら思い出してください。


今の僕は凄く弱い。勉強も運動もできないし、友達もほとんどいないし、女子からは嫌われるし

正直言うと毎日が地獄です。

もう人生諦めたいなって思ってしまいます。

でもこんな経験を生かして誰よりも勉強頑張って、強くなって皆に好かれる人になりたいと思ってます。

「昔はダメな奴だったけど頑張ればここまでやれるんだ」って言って、みんなに頑張る勇気を与えてあげられるような優しいヒーローになるのが僕の夢です。

頑張れ!10年後の僕。僕は君に勇気を与えられたかな?

----------------------------------------------------------------------------------------


大人浅風は手紙をぐしゃぐしゃにして握りつぶした。

そんな浅風を見て歩美が言う。

「10年前のたっ君は凄いね。自分が凄く苦しいのに10年後の自分を励まして、努力してみんなに勇気を与えたいって。それなのに10年経ったら只の根性なしになるなんて…呆れるわ。」


「何が根性なしだ!俺は一切手を抜かずに一分一秒も無駄にしないで豊橋に勝つために全力を尽くした。こうやって歩美の前で愚痴をこぼさなきゃいけないくらい悩んださ。それでも何も状況が変わらないんだ!理想ばっかり口にするのもいい加減にしろ、自分は何もしてない癖に!」


その時歩美の目から涙が零れた。

「なんでそうなるの!私は悲しいよ…。敷島兄弟もミシェルちゃんもみんな最後まで必死で頑張ってるのに『あとひと踏ん張りしよう!まだやれるぞ!』とか勇気づけたり元気づけたりしてあげられないの?自分が絶望したら『もうだめだ、もうだめだ』って、情けないことばっかり…」


「歩美…」


歩美は拳をぎゅっと握った。

「逆転するよ。ここから!」


「何言ってるんだ。」


「たっ君の真骨頂の意地を見せてよ。どれだけ絶望的な状況でも勇気を与えるたっ君の理想のヒーローを最後に私に見せてよ!」


大人浅風は黙って立ち上がった。

「…わかった。ありがとう歩美。俺は最後まで俺の仲間を守ってやる。逆転するぞ!」


歩美は今度はうれし涙を流した。

「お帰り、私の大好きなたっ君。」



大人浅風は敷島兄弟を招集した。

そしてある提案をしたのだった。


「何ぃ?過去に行って証拠を作るですと?」

春雄は太い声で叫んだ。


「ああ、証拠がないなら俺達で作るしかない。カメラを持って過去に行き、豊橋が関わっている証拠を押さえてやる。それにタイムリープしている間はこちらの時間が進まないから時間稼ぎにもなる。」


しかしその考えには夏子が猛反対した。

「いやいやいや何言ってるんですか浅風さん。超能力で謎を解くのはミステリーのご法度です。

しかもタイムリープって、あのドリームレッドの力を借りるつもりですか?」


「無理だと思うよ。ドリームレッドには浅風が最悪な別れ方をした元カノがバックについてるんでしょ?佐倉奈々だっけ?ちゃんと協力してくれるの?」

千秋が口をはさむ。


「無茶なことを言ってることはわかっている。でも協力させる。例えどんな手段を使っても。」



大人浅風は少年浅風達も一緒に暮らしている、佐倉奈々の自宅を訪れた。

その時は丁度、ドリームレッドが奈々の家に来ていた時だった。


大人浅風がインターホンを押すと、少女奈々が扉を開けては、かなり驚いていた。

「あ、浅風!?どうしてここに?

大変だ!!浅風が来たよ、大人の浅風が!」


奈々の呼びかけによって、少年浅風と銀河、瀬戸、出雲、そして大人奈々とドリームレッドもやって来た。


「銀河君、こいつを通報して。指名手配犯が来たって、早く!」

大人奈々は現れるや否や、大人浅風を通報するよう指示した。


「待ってくれ。どうしても相談したいことがある。」

大人浅風は真剣な表情で大人奈々と向き合う。


「選挙が終わったらいくらでも俺のことを煮るなり焼くなりしてくれて構わない。だが今だけは、ドリームレッドの力を貸して欲しい。」

大人浅風は膝をついて頭を地面につけて土下座し、大人奈々に頼み込んだ。


「ふざけてんの?あんた自分が私達にしたことを水に流して協力してくれると思ったわけ?

もういいわ…。こいつと話しても腹が立つだけだし、私は知らない。勝手にすればいいんじゃない。」

大人奈々はそそくさと家の中に入ろうとした。


少年浅風が奈々を呼び止める

「待って、奈々。それって協力してもいいって言ってるの?」


「私はもちろん反対、だけどあんた達が協力したいんならあんた達で勝手にやりなさい。私は知らない!

とにかくそいつとはもう関わりたくない!」

大人奈々は力強く扉を閉めた。


ドリームレッドが土下座している大人浅風に歩み寄る。

「とりあえず、顔をあげてください。事情を教えてくれませんか?それ次第で協力するか考えます。」


銀河や瀬戸や出雲は納得いかないようだ。

「事情も聞く必要ねえだろ。却下して通報する以外に選択肢ねえだろうが。」


スマホで110番しようとした銀河を少年浅風が止めた。

「待ってくれよ。こいつがどうして悪い奴になったのか聞き出すために俺達この時代に残ったのに、逮捕されちゃったら聞き出せないよ。」


「じゃあ、今洗いざらい吐かせろよ。今なら大人しく吐いてくれんじゃねえの?なんかちょっと前のお前みたいな情けない顔してるしな、こいつ。」


揉めていた少年浅風と銀河をドリームレッドが止めた。

「ちょっと君達は黙ってて。それで、浅風さんは私に用があったんですよね?」


大人浅風は「過去の事件の真相を探るためにタイムリープしたい」という事情を伝えた。

そして、過去で得られた事件の証拠が選挙の結果を左右し、選挙結果次第では自分と自分の仲間の命がないこと、またせめて自分の仲間の命を守るために最後まで全力を尽くしたいことを説明した。


「事情はわかりました。協力しましょう。」

ドリームレッドはあっさりと大人浅風の要求を飲んだのだった。


「おい、優しすぎるだろ、相手は犯罪者だぞ。」

出雲がドリームレッドに言う。


「ただし条件があります。浅風君も一緒に連れて行かせてください。」


「はあ!?」

銀河と瀬戸と出雲は一様に納得いかない表情をした。


「10年前の俺を連れていけ行けだと?」


「はい、彼はあなたのことを詳しく知りたがっています。あなたみたいにならないために自分がどうしたらいいか探るためにあえてこの時代に残ったんです。」


「ちょっ、ドリームレッド…」

少年浅風はドリームレッドを止めようとするが、ドリームレッドはそれを振り切る。


「彼は今の浅風さんを見てとても悲しんでいました。特に奈々さんや瀬戸君達にしたことは非常にショックだったと思います。とはいえ浅風さんにもそれなりの事情があったかと思います。だから…」


「だから…?」


「浅風君と一緒に行動して、彼に教えてあげてください。どうしたら今の浅風さんみたいにならなくても生きられるのか。そして彼を勇気つけてくれませんか?」

ドリームレッドは真剣な目をしていた。


「ドリームレッド…」

少年浅風は目頭が熱くなった。


大人浅風はしばらく沈黙して、重い口を開いた。

「分かった。連れていけばいいんだろう…」


「あ、ありがとう…」

少年浅風は気まずそうに礼を言った。


「言っておくが、生易しいことではないぞ。それにお前にはかなり厳しく接する。全部俺からの愛情だと思って受け止めろ。お前にはひっぱたいてでも分からせたいことが山ほどあるんだ。」


こうして、大人浅風はドリームレッドの助力を得て、過去の世界へと向かうのであった。


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