第二章第四話 面接もないバイトはブラックバイト
俺少年浅風は瀬戸、出雲、奈々、銀河と共に朝食を食べていると、ドリームレッドから電話が掛かって来た。
「話があるので大人奈々以外の全員を連れて、公園まで来い」ということだったので俺達は急いで公園へ向かった。
「一緒にアルバイトやらない?」
「はあ?なんだ急に!?」
銀河はキレ気味だった。
「どんなバイト?」
「何でも屋的なやつ。」
「何でも屋って・・・」
「困っている人たちを助けるの。解決するのは私がやるから、みんなには宣伝してもらえないかなって思って。」
「でも、ドリームレッドはプロレスラーって本職があるじゃん。なんでまた?」
「いやーその、奈々さんみたいにもっと優雅な暮らしがしたいな~みたいな・・」
ドリームレッドは嘘をつくのが下手である。
敏感な奈々がそれは嘘だと察知してドリームレッドに尋ねる。
「奈々さんに何かあったんだね・・・」
ドリームレッドは動揺している。
「あ・・・、うん。」
それからドリームレッドは大人奈々がホテルの屋上から飛び降りようとしたのを止めた後、一緒に寄り添って話をしたのだった。
俺達が居候していることでお金がなくなり俺達の生活費を稼ぐために、ヤラセと分かっていてテレビ出演を引き受けたこと。
俺達に言えば、俺達が家を出たり、無茶なことをすると思ったのでかなりつらい状況ではあったが俺達には黙っていたこと。
自身への誹謗中傷によって俺達に迷惑かけてしまったことを苦しんでいたこと。
そして、自殺未遂をしたこと。
俺達は聞いていて胸が苦しくなった。
「俺のせいだ・・・。俺が元の時代に戻っていれば・・・。ドリームレッド、やっぱり俺達を過去に帰してくれ!」
ドリームレッドは俺の肩をそっと叩いた。
「そうやって必要以上に抱え込むのが浅風君の悪いところだよ。奈々さんは浅風君達がいなくなることを望んではいないと思うよ。だから奈々さんを助けるためにアルバイトしよう!」
「バイトならコンビニ店員みたいなのねえのかよ。」
銀河が突っ込みを入れる。
「今の時代そんなのないよ。レジも品出しも単純作業は全部機械がやる時代なんだから、やるなら仕事をもらうところからやらないと。」
「はあ?仕事探しからやんのかよ、面倒くせえ。」
その時、俺達をある人物が訪ねて来た。
「やあ久しぶり!仕事探してるのか?」
やって来たのはスーツをしっかりと着こなした大人瀬戸であった。
「瀬戸さん!はい、ちょっとお金稼がなきゃと思って。」
「なら、エスパー義勇軍に入らないか?」
「エスパー義勇軍?」
「分かりやすくいうならアニメとかでよくある、超能力特殊部隊みたいな奴だよ。一応政府も承認している団体ではあるんだけど、超能力者を扱った仕事ってあまり定着してないから、まだ将来国の正式な超能力部隊を編成するための試験的な組織なんだ。
だから大したことはしてなくてやってるのは何でも屋みたいなことだよ。子供のアルバイトもいるから浅風達も興味があればどうかな?」
「え?ちょうどそういう仕事始めようと思ってたんです!」
俺がどう返事しようか考えている間にドリームレッドが飛びついてしまった。
「良かった。じゃあまずインターンからやってみるか。」
「インターンって?」
「お試し就職みたいなもんだよ。浅風達も大学卒業したら多分やるだろうな。俺の経験から言わせてもらうと、職場選びめちゃくちゃ大事だからな。
これ間違ったら一生地獄になる。そうならないためのお試し就職がインターンさ。」
「瀬戸…なんか気合い入ってるね。」
奈々は瀬戸が放つオーラを感じ取ったようだ。
「あはは、ちなみにインターンで素質が認められたらバイトとして採用されるんだ。」
「うわっ、なんかブラック臭い匂いがする・・・」
ドリームレッドは少しテンションが下がった。
「でも、自分たちで仕事探すより手っ取り早そうだし、やってみようよ。」
俺達は少しでも奈々を助けることができればそれでいいと思ったので賛成したのだった。
こうして、能力が開花している俺とドリームレッドと銀河は大人瀬戸の勧誘で、エスパー義勇軍にインターン生として参加することになった。
「君達が採用されれば俺の評価と給料も上がるから頑張ってくれよ!」
「瀬戸、営業マンっぽいとは思ってたけど、本当に営業の仕事してたんだ・・。」
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俺達は瀬戸に連れられて、エスパー義勇軍の本部とやらを訪れた。
本部と言えば、大きな事務所や施設を持っていると思うのが普通なはずであるが、瀬戸が紹介してくれたエスパー義勇軍本部は、古いビルのフロアの一角にある小さなオフィスであった。
「え?これが本部??随分狭い本部だね・・・」
「普通本部っつったら、ビル丸ごととかが普通じゃねえの?」
銀河も同じようなことを考えていたみたいだ。
「ああ、えーと、ほら、小さい建物の方が無駄に家賃かからないからさ…」
エスパー義勇軍の本部らしきオフィスではオペレーターの女性がずらっと並んで必死に電話をかけていた。
「この人達何やってるの?」
「テレア・・じゃなくて、電話でお仕事の依頼を受けてるんだよ。」
大人瀬戸の態度が終始何か隠しているような雰囲気なのが気になったが、それ以上に気になったのはオペレーター達が全員死にそうな目をしていて、ゾンビが沢山いるような気配を感じたからである。
「おい、なんか黒いっつうか全体的にやべえオーラが漂ってる気がするんだけどよ、マジで瀬戸を信用していいのか?」
「そ、それは大丈夫だよ。」
「ちゃんと、お給料はもらえるんですよね?」
ドリームレッドは瀬戸に真剣な表情で尋ねる。
「だ、大丈夫だよ。給料はちゃんと保証するから、うん」
「なんか怪しい返事ね…」
その時、オフィス内のサイレンが鳴った。
「な、何だ?」
「お!依頼をもらえたようだな。どれどれ・・・」
瀬戸は高速でパソコンを叩くとオフィスのモニターに依頼内容を映し出した。
--近所に、関わると呪われる子供がいるんです。なんとかなりませんか?--
「え?何これ?これが依頼?」
「そうだよ。依頼者は中野区の大仙さんという60代女性の方だ。…というわけで君達はこれから、依頼者から事情を聴いてこの問題を解決してきて欲しい。宜しく頼むよ!」
「おい!解決して来いって、どうやって解決するとかの指示はねえのかよ?」
「ああ、ごめん。指示とかルールとかないからとりあえず解決すればOK。というわけで宜しく!
じゃあ、俺はノル…いや目標があるから次の営業行かないと!」
そう言って瀬戸はそそくさと去って行ってしまった。
ドリームレッドがそっと俺と銀河に声を掛けた。
「ねえ、浅風君、銀河君・・・。」
「ああ?」
「バックレようか?」
「いやでも仕事もらっちゃったよ。何かよくわからないけど困ってる人いるみたいだしこのまま放っておくわけにもいかないよ。」
そう言った俺をドリームレッドはやや怖い目つきで見つめた。
「よく覚えときなよ。こういうやばーい会社はね、浅風君みたいな真面目な子を狙ってきつーい仕事をさせるんだよ。」
「え?ヤバいのここ?」
「ヤバいヤバい、ヤバさしかないよ!真っ黒だよ。依頼の内容もイタズラレベルだし、最初の仕事なのにサポートもないとか…。大人になったら絶対こういう会社は就職しちゃダメだからね!」
とりあえず俺達は今回の案件だけ受けてみて、あまりに酷ければ今回限りで辞めようという話になった。
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俺とドリームレッドと銀河は依頼者である大仙さんのお宅へ依頼の詳細を確認に向かった。
大仙さんは少し目つきの怖いおばあさんであったが、俺達を和室に案内してくれてお茶も出してくれた。
「よく来てくださった。実はこの辺りで悪さをする小学生くらいの女の子がいてね。
近所で沢山の人が、その子に食べ物を盗まれる被害にあっているんです。」
「子供が食べ物を盗むんですか・・・?」
「ええ、それだけなら警察に言えば終わる話なんですが、女の子に関わるとみんな事故だったり火事だったりで不審な死に方で死んでしまうのです。
しかも、その子は髪が銀色で緑色の瞳をしているんです。」
大仙さんは手を震わせながら説明していた。
「こわっ・・・」
「ええ、それから近所で回覧板を回して、女の子を見つけても声を掛けない、目も合わさないということを決めたのですが・・・
女の子は盗みを辞めなくて、なんとかしなければと思っていた時に偶然エスパー義勇軍さんから電話をもらいましてね。
どうか、その女の子をなんとかしてもらえないでしょうか?」
一見イタズラのような案件には見えたが、実際は命がけの案件であったようだ。
俺達は大仙さんから女の子の後ろ姿が移った写真と、よく出没する場所を教えてもらった。
よく出没するのはとある住宅密集地の路地裏であった。
女の子は、その辺りで人から姿を隠すようにして一人で静かに座っていることが多いのだという。
ドリームレッドは女の子の写真を見つめて悩ましい表情をしていた。
「呪いって本当に呪いなのかな?なんかの能力?でも関わったら死ぬ能力なんて持ってる人がいたら今まで放置されてるのはおかしいし・・」
俺は怖くなって鳥肌が立ってくるのが分かった。
「ビビってんのか?」
と銀河に突っ込まれた。
「どうせ、髪染めてカラコン入れただけだろ、それか学芸会の練習とかってオチじゃねえの?そもそも銀髪で緑目とかコスプレイヤーくらいだろそんな奴。」
銀河は終始楽観的であった。
その時、何者かがやって来るのに気づき、俺達は慌てて近くの民家の駐車場に身を潜めた。
やって来たのは銀色の髪に緑色の目をした少女である。
「やべえコスプレだな・・・」
すると、少女がやって来たのと別の方向から3人の男達がやって来た。
3人の男達と少女は目を合わせると、男たちが少女を睨む。
「てめえ、人の物を盗んじゃいけねえって親に教わんなかったんか、ああ?」
少女は何も答えない。
「おい、シカトすんなよ」
一人の男が少女の胸倉をつかむ。
もう一人の男はスマホで連絡を取っているようだった。
すると、男から連絡を受けたからなのか、10人くらいの近所の住民と思われる人達がやって来た。
彼らは一斉に「街から出ていけ!」と怒鳴ると、ペットボトルやケチャップや卵を少女に投げつけ始めた。
少女は避けたりもせず何も喋らない。
俺はこの一部始終を見ている間、何度も少女を助けに行こうとしてがドリームレッドが俺を止めていた。
しかし、我慢できなくなった俺はドリームレッドを振り切って、ついに少女を庇うために両手を広げて少女の前に立った。
「おい!! いい加減にしろよ!相手は子供だろ!何があったかは知らないけど、ちゃんと会話して解決しろよ!大人だろ?」
「ああ?なんだてめえ魔女の仲間か?」
魔女とは少女のことらしい、少女は本物の魔女だと思われているようで、俺を見ては「魔女が使い魔召喚したぞ。」などという者もいた。
俺を魔女の使い魔だと勘違いした住民達は俺をめがけてありとあらゆる者を投げつけて来た。
また、ケチャップや小麦粉などやマヨネーズなどを大量にかけられた。
それを見かねてドリームレッドと銀河は、住民達と対峙し彼らを退散させた。
俺がふと後ろを振り返ると、少女がいなくなっていた。
仕方がないので、俺達は少女を探し始めた。
俺はもちろん、ケチャップや小麦粉を浴びてハロウィンの仮装のような姿のままでだ。
数分後、突然爆発音と悲鳴が響き渡った。
慌てて爆発音がした場所へ向かうと、大通りでトラックが炎上しており、消防車や救急車が何台も駆け付けていた。
消防士が大通りをロープを張って封鎖し、「危険ですから近寄らないでください」と叫んでいたが、ドリームレッドの能力で事故現場まで瞬間移動した。
現場はガードレールをなぎ倒してトラックが歩道を走行し、建物に衝突して炎上したようであった。
トラックが通った歩道には人が何人も倒れており、警察と消防が何やら確認作業を行っている。
銀河が呟いた。
「なあ、こいつらさっきの住民達じゃねえのか?」
よく見ると、倒れている人達は確かに俺が少女を庇った時にケチャップや小麦粉を投げつけてきた奴らだった。
「まさか・・・、あの子に呪われたのか・・?」
その時、銀河が遠くを指さした。
「おい、あれ魔女じゃねえのか?」
遠くでじっとこちらの様子を見ている少女がいた。
銀髪緑目の少女である。
少女は俺と目が合うと急いで逃げようとした。
「あ、待てっ」
その時、ドリームレッドが俺達を連れてテレポートしてくれた。
俺達は少女の真上に瞬間移動し、覆いかぶさるよう少女を押さえつけた。
「捕まえた!」
少女は起き上がると、もの凄い形相で俺達を睨みつけた。
そんな少女をなだめるように優しい声でドリームレッドは声をかける。
「あの事件、あなたが起こしたの?」
少女は何も答えず俺達を睨み続けた。
「俺達、別に君を責めたいわけじゃないんだ。あいつらに酷いことされて仕返ししたのかもしれないけど、だとしたらちゃんと親とか先生とか警察とかに相談するべきだよ。」
「うるさい・・・」
初めて少女が言葉を発した。
「え?」
「お前達も嫌い、死ねばいい。」
少女は俺達を緑の瞳で思いきり睨みつけた。
背筋がぞっとするような悪寒がした。
「気を付けて!!嫌な予感がする。」
ドリームレッドが叫ぶ。
すると、突然物凄いエンジン音が聞こえて来た。
「おい、てめえら後ろ!!」
銀河が叫んだ。
振り向くと消防車が物凄いスピードで俺達に向かって突っ込んで来た。
間一髪のところでドリームレッドは俺と一緒に建物の屋上にテレポートしてくれた。
消防車は建物に衝突し、けたたましい爆発音をあげて炎上した。
「あっぶな!でもよかったね、避けられたってことは呪いじゃないよね。呪いってかけられたら必ず死ぬって感じだし・・・」
俺達がほっと一息ついていると、今度は上空を飛んでいた航空機が俺とドリームレッドを目掛けて直進して来た。
「えーーー!!嘘でしょ!」
ドリームレッドは俺を連れて飛行機の機体の上に瞬間移動し、再び機体ごと遥か上空にテレポートした。
「あー心臓に悪い、マジで勘弁して!」
ドリームレッドは今にも泣きそうだった。
しかし、まだ油断はできない。
今度は上空に戻したはずの航空機が下界の市街地に向けて高度を下げ始めた。
「やばい、お、落ちる!!」
「浅風君、能力を上手く駆使して機体を海まで運んで。飛行機が着水する前に私が乗客を避難させるから!」
「分かった!」
俺は空気を操る能力を使って機体を猛烈な風で後押しし、海まで機体を運ぼうとした。
だが、機体が重く全力で能力を使っても中々速度が上がらない。
ドリームレッドは客室に瞬間移動すると、乗客を次から次へと瞬間移動で避難させた。
さらに悪いことに乗客の一人が客室内に火を着けたのだ。
飛行機の客室は炎上し煙が立ち込め始めた。
「ああもう!勘弁してよ!」
ドリームレッドは半分泣きながら瞬間移動でペースを上げて乗客を避難させた。
なんとか乗客全員の避難が完了すると、機体は炎上しながら東京湾の上空で爆発し、海に沈んだ。
すると俺のスマホに銀河から着信があった。
「おい、魔女を取り押さえたぞ。もう大丈夫だ。」
銀河の知らせを聞いて、彼の元へ急行した。
そこには銀河と少女がおり、少女は泣いていた。
「どうして…こんなことを」
ドリームレッドは優しく少女に聞くが、少女は答えない。
そこへある男がやって来た。
「君達、なんでここにいるんだ?」
やって来たのはリベリオンを脱退した大人浅風であった。
「はあ?浅風こそなんでここにいんだよ?」
銀河が聞いたが、大人浅風はそれを無視して少女に歩み寄った。
「まりも!よかった、無事で。」
「あさ・・・かぜ?」
銀髪で緑色の瞳をした少女の名前は、月潟まりもである。
2年前に浅風がオネキサラツシティで入院できる病院がないことをきっかけに東京に連れ出し、
児童相談所に保護された少女だ。
まりもは大人浅風の顔を見ると、彼に抱きつき、今まで溜めていた物をすべて吐き出すように大泣きした。
「申し訳ない。まりもには辛い思いをさせてしまったな。」
大人浅風はまりもの頭を優しく撫でる。
そしてまりもと顔を向き合わせるようにして話しかける
「俺と一緒に房総へ来ないか?」
まりもは静かに首を縦に振った。
それを見たドリームレッドが浅風とまりもを足止めする。
「教えてください、この子に関わった人達が次々に事故にあって死者も出てます。それはこの子の能力によるものですか?」
「恐らくな。まりもの能力は精神憑依。自分の意識を他人に移すことができるんだ。他人を乗っ取る能力と言えばわかりやすいか…」
「だとするならその子のしたことは立派な犯罪です。警察に連れていきます。」
すると、大人浅風は鋭い目つきでまりもを睨んだ。
まりもは再び泣きそうになりながら震えている。
「わかった・・。後でしっかり叱っておく。とにかく今はまりもが逮捕されては困る。」
大人浅風とまりもは急に姿を暗ました。
「叱っておきますで済んだら警察必要ありませんから!!ってこらー!逃げるな!」
俺の初バイトはこうして終了した。
結果的には犯人であった、まりもという少女が大仙さん達に悪さをしなくなったため任務は成功であったが、後味が悪かった。
そして、大人浅風と久しぶりに会えたにも関わらず、なぜ彼が闇落ちしてしまったのか、詳細を聞きだすことができなかったのが心残りであった。




