第二章第二話 笑顔の陰に深い闇
《数週間後》
「おい、なんだよこれ!!」
銀河は雑誌を床に叩きつけた。
その雑誌の表紙には驚くべき内容が書かれていた。
--浅風とも交際疑惑の佐倉奈々、恋愛遍歴がヤバイ!!過去には二度の不倫も--
「嘘だろ…奈々が」
俺は言葉を失った。
大人出雲が雑誌を拾い上げるとゆったりとした口調で話し始めた。
「大丈夫、きっとデタラメだよ。
急に有名になったから売名行為だとかなんだとかいうアンチが増えてるんだ。それでも悪い意味で注目を集めてるからマスコミに引っ張り凧にされる・・・。そんなことに不満を持った人達が根も葉もない噂を流したんだ。」
「どうしよう…。このままじゃ奈々さん壊れちゃうよ…。もう何日も家に帰って来てないし、連絡もつかないし大丈夫かな…。」
少女奈々は不安そうな表情であった。
そんな奈々をドリームレッドが慰める。
「奈々さんなら大丈夫だよ、強い人だもん。芸能人は忙しいのが名誉でもあるし。」
瀬戸がスマホの画面を俺達に見せる。
「なあ、これ見てくれよ。酷いコメントばっかりだ。」
とある動画サイトの大人奈々が出ている動画に誹謗中傷コメントが多数寄せられている。
--さすがテロリストとも寝る女--
--売名のために元彼利用するとかヤバ--
--引くわー、マジできもい--
大人奈々は今どんな気持ちなんだろう。俺はとても心配なっていたが聞くに聞けなった。
そもそも事の発端は大人の俺だからだ。
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その夜、俺のスマホに大人奈々から着信があった。
「奈々!?大丈夫!?」
「どうしたの、そんな慌てて。大丈夫だよ。」
奈々の声はいつもと変わらない明るい感じであった。
物凄く落ち込んでいると思っていた俺は正直ほっとした。
「よかった…みんな心配してたんだ。奈々の酷いウワサが広まってて大丈夫かなって…」
「…ごめんね心配掛けちゃって。それより浅風こそ大丈夫?テロリストだのなんだの騒がれてるし、滅入っちゃったりしてないかなって心配で。」
「俺は大丈夫。色々酷いこと言われるのは慣れてるよ。」
「さっすが、浅風は強いな。」
「他のみんなは元気?あと、うるさいマスコミの奴らが家に押しかけてたりしてない?」
「時々来るけど銀河がブチ切れて追い返してるよ。みんななんだかんだで元気だよ。大人の出雲やドリームレッドも俺達を心配して頻繁に来てくれてるし、問題ないよ。」
「そうよかった・・。じゃあしばらく戻らなくても大丈夫そうね。」
「え?奈々・・?」
「ううん、なんでもない。頑張りなさい!今が踏ん張りどころだよ!アンチなんかに負けるなーー!」
「あ、う、うん」
「じゃあねっ!」
大人奈々は電話を切った。
彼女は滞在しているホテルの屋上で電話をしていた。
--星が奇麗だな--
大人奈々は空を見上げて呟いた。
子供のころ家族旅行で山へ行ったとき、満天の星空に感動した時のことを思い出した。
両親と手を繋いで地べたに寝そべりながら星を見ていた。
--あの頃は幸せだった--
--お父さん、お母さんに会いたい。会いたいよ。--
気が付くと大人奈々はホテルの屋上の、落下防止柵の外に立っていた。
--ごめんね。ありがとう。--
大人奈々は目を瞑ると、ホテルの屋上から飛び降りた。
そのまま真っ逆さまに落下しようという時、何者かが大人奈々の体にしがみつき、
彼女気が付くとホテルの屋上で倒れていた。
赤いスカートの白いワイシャツの女性が大粒の涙をこぼしながら叫んでいる。
「奈々さん、何やってるんですか!!何してるんですか!!」
大人奈々にしがみつきながら嗚咽していたのは、瞬間移動で駆け付けたドリームレッドあった。
彼女の能力で落下前に大人奈々を瞬間移動したため、大人奈々は無事であったのだ。
ドリームレッドは大粒の涙を流していた。
「・・・私何してたんだっけ??」
大人奈々は冷静になろうおと自分の行動を思い返していた。
「何してたんだっけじゃないですよ!!飛び降りましたよね、ここから!!馬鹿っ!奈々さんの馬鹿っ!そんなに辛いなら相談してくださいよ…。」
「ごめん・・・」
「浅風君が電話での奈々さんの様子が変だったっていうから、私時間を止めて探し回ったんですよ!もしあと少し時間を止めるのが遅れてたら…。」
大人奈々は泣きじゃくるドリームレッドを抱き寄せた。
「ごめんね…。」
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《数時間後》
大人奈々は久しぶりに自宅に帰った。
「ただいまー。」
奈々は大人奈々が帰るやいなや大人奈々に抱き着いては目に涙を浮かべていた。
俺と瀬戸と出雲も久々に大人奈々の顔を見れてホッとしていた。
「ちっ、ふざけやがって」
銀河は舌打ちしながらも内心安心しているように思えた。
俺たちはまだ、数時間前に大人奈々が何をしていたのか知らない。
でも相当苦しんでいたであろうことは想像できた。
大人奈々は顔色が悪く、前よりも痩せ細っているように見えた。
しかし、何かがスッキリしたような顔をしていた。
「今日は皆さんにちょっと残念なお知らせがあります!」
「凄く嫌な予感がする・・・」
奈々は両手を握った。
「私佐倉奈々はモデル活動を無期限中止しますー!!」
一瞬場が静まり返った。
その後みんな一斉に胸を撫でおろした。
「よかった…。このまま無理したら奈々が壊れちゃうんじゃないかって思ってたから安心したよ。」
と俺は大人奈々に言った。
奈々は笑顔で大人奈々を見つめた。
「お疲れ様。ゆっくり休んでね。」
「ありがとう。よーし、久々にのんびりするぞー!」
大人奈々は思いきり伸びをした。
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《翌朝》
テレビでは、「佐倉奈々、活動休止を発表」のニュースが大々的に報道された。
しかし、大人奈々活動休止と同じタイミングで大きなニュースが舞い込んで来た。
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「佐倉さんは所属事務所のブログを通じて、『誠に勝手ながら本人の希望により無期限活動中止とさせて頂きます。関係者やファンの皆様にはご心配をお掛けし大変申し訳ございません。』
と活動休止を表明し、謝罪しました。またインターネット上で騒がれております不倫騒動については『根も葉もない噂』であるとして否定しております。」
--ここで臨時ニュースです--
暗部組織リベリオンで次期総裁候補となっていた浅風竜義氏が立候補を辞退し、組織を脱退することが分かりました。
詳しい内容はわかり次第お伝えします。
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「おい、浅風リベリオン抜けるってよ!」
俺は瀬戸に呼び出され、テレビを見てその事実を知った。
「えっ、じゃあこの物語もう終わりじゃん。」
奈々は目を丸くした。
「いや、終わらないって。」
「てめえら何の話してるんだ?」
銀河は何について話しているか分かっていないようだったが無理もない。
ちなみにこの物語はまだまだ続く。




