第一章第十九話 人はそうは変わらない
俺が目を覚ますと、奈々が俺の手当てをしてくれていた。
俺達は屋根が吹き飛んで瓦礫の山となった建物の中にいた。
「よかった・・・」
奈々は安堵の表情を見せた。
「動かないでじっとしてて。かなり出血が酷いから無理に動いたら危ないよ。」
奈々は俺の体を支えてくれた。
「あのさ・・・、もう自分を犠牲にするようなことはやめてよ。浅風はそれでいいかもしれないけどさ、私は凄く辛かったよ。あんたばっかりこんな傷だらけになって・・・」
「ごめん…」
「ううん、ありがとう!さすが軟弱なヒーローだね!」
「ははっ、なんだか褒められてるのか貶されてるのか良くわからないな。」
声を出すと全身に痛みが走る。
「ああ、だから無理に動いちゃダメだって・・・」
すると銀河が俺を立ち上がらせてくれた。
銀河も俺が目を覚ますまで、見守ってくれていたようだった。
「追ってが来るかもしれねえ。早く佐倉姉ちゃんとこへ戻るぞ。」
「え?瀬戸と出雲は?」
「あっちの建物の牢屋にいるがよ、セキュリティが頑丈で俺の能力じゃ壁を壊すこともできねえ。俺達じゃ救出は無理だ。助けを呼ばねえと。」
瀬戸と出雲の救出を諦めようと考えていた時、奈々が提案した。
「でも施設を探し回れば、牢屋を解放する方法が見つかるかもしれないよ。」
「はあ?何RPGゲームみてえなこと言ってんだ。直感でわかるわ、こりゃ俺達だけじゃ無理だってな。」
その時、何者かの足音が聞こえた。
警戒して銀河が身を構えと、やって来たのは大人浅風とミシェルであった。
「少し見ない間に随分と強くなったようだな。」
大人浅風は笑みを浮かべた。
「おいてめえ、気安く話かけてんじゃねえぞ。俺達がてめえにどれだけキレてんのかわかってんだろ?」
銀河は今にも殴りかかろうかという表情で浅風を睨み付ける。
「君達が俺に腹を立てるのは無理もない、当然のことだ。とはいえ、今は君達と戦うつもりはない。瀬戸と出雲は解放するから、さっさと帰ってくれ。」
「はあ?ナメてんのかてめえ。」
「君達の要求を聞く前に飲んでやったつもりだったんだけどな。とにかく捕らえた二人は部下に解放するよう指示した。それで文句ないだろう。悪いこと言わないから豊橋の手の奴らが来る前に逃げろ。俺をぶちのめしたところで何も君達にメリットはない。」
俺は奈々と銀河に両肩を支えられながら声を振り絞った。
「なあ、教えてくれよ。なんでこんなことしたんだよ。何が目的なんだよ。奈々も瀬戸も出雲もみんな友達だったのを忘れたのか!」
「友達?笑わせるなよ、所詮は上辺だけの友達だろう?。監禁したのはドリームレッドから人質を取るためさ。」
「人質?」
「お前達と最初に合う前に、いきなりドリームレッドが俺を訪ねて来た話はしただろ。そんでこう言った。『あなたは早くリベリオンなんて組織を抜けるべきだ。』とね。
しかもあいつは俺が浅風竜義だと知っていた。そしたらその直後にお前達が彼女にこの時代に連れてこられたと聞いた。そういう話ならドリームレッドは俺をピンポイントにターゲットにしているということだ。俺はすぐに分かった。ドリームレッドは俺を組織から追い出すために豊橋が送った刺客だとね。
何が目的でお前達を連れてきたかは分からないが、何か目的があることは明白だ。だから人質に取ったのさ、奴と豊橋の動向を探るためにな。」
「そんなことのために・・・お前は・・・」
「でももう人質は必要ない。目的は果たせたからね。」
すると、大人浅風は天を見上げて叫んだ。
「出てこいドリームレッド!!どこかで見ているんだろう!」
ドリームレッドは瞬間移動で即座に大人浅風の前に姿を現した。
そして瀬戸と出雲も一緒だった。
「みんな、大丈夫!?遅くなっちゃってごめんね!」
俺達はドリームレッドが現れたことにも驚いたが、瀬戸と出雲を助けてくれたことにもっと驚いていた。
瀬戸と出雲との再開を喜ぶ暇もなく、ドリームレッドは俺達を瞬間移動で奈々の車まで送ってくれると言って俺達と一緒にテレポートしようとした。
しかし、失敗したのかテレポートできなかった。
「逃がしはしないぞ。ドリームレッド、お前に合うために、そこの少年達を敵に回してまでわざわざ人質まで取ったんだからな。君には聞きたいことが山ほどある。」
瞬間移動する直前にミシェルが超能力妨害装置を作動していたためテレポートは失敗に終わったのだ。
「あはは、そんな私のことが好きなんですか?照れちゃうな。」
ドリームレッドは大人浅風に問いかける。
「お前が子供の頃の俺達をこの時代に連れて来た目的はなんだ?お前は何を企んでいる。俺を組織から追放して何がしたい?」
「えーっと、そのなんて言ったらいいんだろう。ちょっと一から説明するのは・・・」
ドリームレッドがもったいぶっているのことに腹を立て、大人浅風は彼女に拳銃を向けた。
「子供達にも分かるようにきちんと説明してもらおうか。ドリームレッドから話を聞けるように一応彼らと約束したからな。悪いが彼らの前で洗いざらい話してもらうぞ。」
俺達は耳を疑った。大人浅風はもう敵なのか味方なのかすらもわからない。
「…わかりました。全部話します。」
ドリームレッドは渋々承諾した。
「簡単にいうなら、あなたに変わって欲しかったからです。」
「変わるってのが、リベリオンから抜けろってことか?」
「まあそういうことになるかな。あなたは子供の頃は正義感に溢れた立派な少年だったはずです。だから少年時代の自分をみたら変わってくれるのかなって思ったです。
一緒にいた友達も危ない状況だったので一緒に・・・ごめんなさい、勝手なことをして。悪気はなかったんです。でも、私はただあなたにこんな組織じゃなくて、普通の世界で生きてほしいって思ったんです。」
「謝らなくてもいいが、話が読めない。見ず知らずの奴に立派だとか、あなたはそんな人じゃないとか何を根拠に言っているんだ?」
「私はあなたのことを前から知っています。大好きだった人に騙されてボロボロだった私に失敗も失敗をバネにして強くなれたら失敗じゃな言って教えてくれた。あなたはこんな組織にいるべき人じゃない…」
「…もういい。なんのことかよくわからないが目的についてはとりあえず分かった。
もう1つ教えろ。お前は誰かに指示をされて動いているのか?それか裏で支援してる奴がいるのか?」
「誰の指示も受けてません!全部私の、私の意思でやってることです!」
「なら、お前に言いたいことは二つだ。まず1つ。
俺は組織を辞めない。弱者が救われる国を作ること、それは俺だけでなく俺と同じ意思を抱く者全員の夢であり目標だ。元々俺の身勝手とも言える目標だったが、それを応援してくれる人や、人生を託してくれる人までいる。俺が組織を抜けたら、本来の俺を受け入れてくれた仲間達と俺自身を裏切ることになる。」
「…。」
「そしてもう1つ。
さっさと少年達を元の時代に戻して、もう二度と俺に関わるな。世間で悪だと言われる組織にいるだけで、子供の頃を思い出して当時の俺に戻れとか人の気持ちを軽んじるのも大概にしろ。
俺は自分で考えもしないで世間一般の理想や理屈を押し付ける奴らが大嫌いなんだ。もうお前の話を聞くつもりはない。
お前がこれ以上俺に関わるというのなら、俺はお前を今ここで射殺する。」
ドリームレッドは一瞬悲しい表情をしたが、すぐに少しだけ笑みを浮かべた。
「分かりました。私も一つだけ聞いていいですか?」
「なんだ?」
「あなたは今幸せですか?」
「……」
大人浅風はしばらく沈黙した。そして小声で
「さあな…。俺がこの組織の総裁になって新しい国を作る夢を叶えられたなら俺は幸せだろう。」
と答えた。
この時、浅風の派閥、革新派のメンバーであるタカヒロが慌ててやって来た。
「浅風さん!豊橋が!豊橋が来ます!!」
上空を見上げるとヘリコプターが飛んでいた。
そしてヘリコプターから豊橋が顔を覗かせているのが分かった。




