第一章第十八話 「お前を守る」って簡単に言うけど有言実行するのはかなり大変
大人浅風はリベリオン浅風派閥のメンバーである、タカヒロとミシェルを連れてキサラヅシティに滞在していた。
タカヒロが牢獄の監視カメラの映像を浅風とミシェルに見せていた。
「少年二人を監禁して二週間になりますが、未だに何者かが救出に来るような動きはありませんね。本音を言えば可愛そうなのでそろそろ出してあげたいですけど・・・。」
「タカヒロは刑務所入ったことあるんだもんね。どうなの?やっぱめちゃくちゃ辛いの?」
ミシェルは刑務所に入りたいとは思わないが、どのような場所か気になるようだ。
「当たり前だろ。マジで入って得するもの何もないから。」
この時、監視カメラに動いている人影が移り、警報の音が鳴りだした。
「おっと、ついに来たか!?」
タカヒロが監視カメラの画像を素早く分析する。
「侵入者は全部で3名です。A棟に少年一人、B棟の外に少年と少女が一人ずつ。」
「あいつらか。子供だけなら簡単に対処できるだろう。とりあえず3人を捕獲して牢獄にぶち込む。二手に分かれて対処しよう。」
浅風はミシェルと共に牢獄へ向かおうとした。
「浅風さん、待ってください。もう一人侵入者です!映像を見るに、大人の女性のように思われます。」
「こいつは・・・!!まずい、こうしてはいられない!」
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その頃、俺少年浅風と少女の奈々はB棟と書かれた牢獄に侵入しようとしていたが、急にサイレンが鳴り始めた。
恐らく銀河が敵に見つけられてしまったのだろう。
俺達がサイレンに困惑していると、すぐさま銃を持って武装した警備兵がやってくるのが見えた。俺と奈々はそれを見て慌ててゴミ置き場の小屋に身を隠した。
「うっわ、凄く臭い・・・」
奈々はハンカチで鼻と口を覆っていた。
俺は小屋の窓からそっと様子を確認した。
見張りの警備兵が10メートル程度間隔をあけて立っていて、俺達を探しているようだった。
「どこかに隠れているはずだ。隠れられそうな場所を徹底的に調べ上げろ」
という警備兵の声が聞こえた。
その後、銃声があちこちで聞こえた。
銃で俺達をあぶりだすつもりらしい。
俺はこの時、もう逃げられないと悟った。
死ぬのかなと思いつつも、俺が死ぬことで将来悪い奴になるくらいならここで死ぬ方が社会のためになるだろうと考えた。
俺は外に出ようとすると、腕が強く引っ張られるのを感じた。
奈々が俺の腕にしがみついていて、今にも泣きだしそうな表情で震えていたのだ。
俺は奈々を抱き寄せて彼女の耳元で呟いた。
「俺が隙を作ってくる。奈々は俺が注意を引き付けている間にうまいこと逃げてくれないか?」
「嫌だよ!!」
奈々は俺の腕を掴んで離さなかった。
「このままじゃ俺達二人とも殺されてしまう。でも俺が犠牲になれば奈々だけは助かるかもしれない。それに俺がいなくなれば奈々は俺みたい奴のせいで苦しまなくて済む。」
奈々は俺の腕をそっと放した。
と、思ったら思い切り平手で俺の頬を叩いた。
「そんなわけないでしょ。浅風に私を庇って死なれたら・・・裏切れらるより100倍苦しいよ。」
この時、小屋の外の警備兵の声が聞こえた。
「おい、さっき物音がしなかったか?」
もう時間がないと察した俺は引き止める奈々を振り切って裏の窓から小屋の外に出た。
そして、警備兵の隙をついて小屋にゴミとして捨てられていた金属棒で俺は警備兵を思い切り叩きつけた。
警備兵は倒れたが、近くにいた警備兵が俺を目撃し、俺に銃口を向けた。
「見つけたぞ!打て!!」
警備兵は俺に向かって一斉に発砲した。
足がちぎれてもいいから奈々を助ける、それだけを考えて俺はただ全速力で逃げた。
前からの銃弾を必死で避けるが、後ろからも撃ってくる。
俺は後ろから来る銃弾を右足に受け、転倒してしまった。
「取り押さえろ!」
すると警備兵が何人も束になって俺の上に覆いかぶさって来た。
俺は必至で暴れて藻掻いたが、持っていた金属棒を取り上げられ、手錠を掛けられてしまった。
さらに身動きが取れないよう足も縛られてしまった。
俺はこのまま殺されるのだろうと思った。
ただ、小屋の周りの警備兵が俺を捕まえるのに全員俺のところに集まっていたため、奈々が逃げる隙を作ることはできた。
俺は心の底から奈々が無事に逃げられていることを願った。
しかし、最も恐れていたことが起きた。
俺が何人もの警備兵に連行されようとしていた時、少女の声がした。
「待ってください!その人は悪いことをしようとしたわけじゃないんです!放してください!」
後ろを振り向くと奈々が体を震わせながらも、警備兵達を睨みつけて立っていた。
「勝手に侵入してしまったごめんなさい。でもその人は・・・」
その時、俺を取り囲んでいた警備兵の数名が奈々に銃を向けた。
「もう一人侵入者だ、捉えろ!抵抗するなら射殺して構わん。」
俺は出せるだけの力を振り絞って手錠と足を縛る拘束具を引きちぎろうとした。
馬鹿力によって俺の腕が裂け、血が滴った。
何だっていい、奇跡でもなんでもいいからこの警備兵を全部ぶっ飛してやりたい、そう思ってもう一度出せる力を全て振り絞って藻掻いた。
すると、パキンと音を立てて、手錠がバラバラになった。
そして、物凄く頭の中が厚くなって一瞬意識が朦朧となった。
ふと我に返ると、足の拘束具もバラバラに砕け散っていた。
そして、俺を取り囲んでいた7、8名の警備兵が四方八方に倒れている。
奈々はたた呆然と立ち尽くして俺のことを見ていた。
その時、倒れていた警備兵が横たわりながら無線機で誰かと通信していた。
「こちらB棟警護。能力部隊、応援を頼む・・・。侵入者は能力者・・・だ・・・」
この時、俺は漸く自分が超能力を使ったのだということに気が付いた。
どんな技を使ったのかはわからない。
だが、拘束具を粉砕し、周囲の警備兵を一斉に倒したのは間違いなかった。
俺はすぐに呆気に取られている暇はないことを思い出した。
「奈々!今度こそ逃げるぞ!」
俺は奈々の手を取り、全速力で駆け出した。
体中傷だらけで足には弾丸を受けていた。
でも痛みなんてどうでもよかった。
足からは走るたびに出血していくのが分かった。
それでも俺はただ前だけを見て走った。
漸く牢獄の門が見えて来た。
もうすぐ敷地の外に逃げられる・・・
というところで、爆撃のような強い衝撃を受け、俺達は吹き飛ばされた。
「逃がしはしないぜ。」
行く手には二人の男が立ちはだかっていた。
恐らく彼らが能力部隊なのだろう。
俺はを力を振り絞って立ち上がった。
その瞬間ふらついて倒れそうになったが、誰かが俺の背中を支えてくれていた。
振り返ると奈々が俺の肩を支えていた。
「ごめん・・・。私も一緒に戦う。いや戦わせて!」
俺は奈々だけ逃げてくれと言いたかったが、奈々の表情を見て意地でも逃げないだろうと悟った。
そこへ能力部隊がエネルギーの塊のような物を俺達にむかって打って来た。
俺は何でもいいからこの攻撃を防いでやろうと全身の力を込めた。
空気のバリアが形成され、相手の攻撃を防いだ。
しかし、もう一人の能力部隊が緑色のカッターのような攻撃を矢継ぎ早に仕掛けて来た。
空気のバリアは呆気なく壊され、ほぼ同時にもう一人のエネルギーの塊の攻撃を受け俺達は吹き飛ばされ、壁に激突した。
しかし、俺の体は何ともなかった。
後ろを振り返ると、奈々が胸を押さえて悶えている。
俺が受ける衝撃を和らげるために体を張ったのだ。
この瞬間、俺の中で何かが切れた。
「お前ら・・・良くも奈々をこんな目に・・・」
俺は能力部隊の二人を木っ端微塵にしてやろうと激しい怒りを込めた。
すると爆発のような爆風が彼らを襲った。
だが、彼らは能力で爆風を防いだ。
彼らはさすがプロである。
もしかしたら俺の持てるすべての力を使っても勝てないだろうと思った。
でもそんなことはどうでもよかった。
俺は今にも壊れてしまいそうな体にムチを打って、何度も爆撃を浴びせた。
やはりどれだけ強く打っても、全て防がれてしまった。
さらには一瞬の隙を突かれ、俺はエネルギーの塊の一撃を浴びてしまった。
もう全身の感覚がなかったが、それでも俺は無意識に立ち上がっていた。
「ゾンビかこいつは・・・これ以上やったら死んでしまうぞ。」
「殺さなければ手におえない場合は殺害することが認められている。もう殺すしかない。」
能力部隊は先程の攻撃の2倍くらいの大きさのエネルギーの塊を生成し、俺に向かって投げつけた。
俺は意識も朦朧としていたが、この一撃受ければ確実に死ぬことは想像できた。
無意識に空に逃げようとした俺は、物凄いスピードで上空に飛び上がった。
エネルギーの塊を回避し、俺は上空500メートルくらいまで飛び上がっていたと思う。
俺は遥か下界を見下ろして思った。
この上空の空気を全てぶつけたら、あのエネルギーを持つ能力部隊の能力を上回れるのかなと。
俺はさらに上空を目指した。
そして、雲の上から空気を圧縮しながら猛スピードで急降下した。
物凄い空気の塊が大きく威力を増していくのが感覚で分かった。
俺はさらに加速しながら、空気の塊を能力部隊がいる地上に叩きつけた。
電柱が折れ、牢獄の屋根が吹き飛んだ。何本もの樹木が根元から折れた。
しかし、そんな史上最強台風を100倍くらいにした威力の空気の塊を能力部隊の二人は歯を食いしばって受け止めていた。
「なんだこの並外れた威力は・・・っ」
もうあと一押しが足りない。
あと少しにも関わらず、能力部隊の力に押し負けていた。
「やっぱりだめか・・・」
そう思った時、白く輝くビームが俺の一撃を後押しした。
「負けてんじゃねえ。もっと力入れて踏ん張れや!!」
なんと銀河が俺を援護していたのだ。
銀河はうなり声をあげると全力で白のビームを放った。
再び俺達の攻撃が能力部隊の攻撃を押し返していく。
その時、奈々が浅風と銀河の攻撃を受け止めている能力部隊の一人にタックルし、彼を突き飛ばした。
援護を失ったもう一人の能力部隊は俺と銀河の攻撃を押し返せず、二人の能力部隊と牢獄の建物を丸ごと吹き飛ばした。
それから俺は気を失った。




