第一章第十五話 優しい鬼
薬の副作用は翌日まで続いた。
それまで奈々は水を飲ませてくれたり、お粥を作ってくれたりしてくれた。
奈々の看病のお陰なのか、翌日の朝には次第に様態は回復に向かい、薬を飲んで丸一日となるお昼頃には症状はほとんどなくなっていた。
元気になった俺を見て、銀河が声を掛けてきた。
「飯食ったら俺と勝負しろ。お前の能力がどんなもんか試してやる。」
「そんなのダメに決まってるじゃん、病み上がりなのに。」
と奈々は反対した。
しかし、大人奈々は賛成のようだった。
「いいじゃない。明日作戦決行だから今日のうちに能力をどれくらい使えるか把握しておかないと。銀河君も平和ボケしてそうだったし、私から銀河君にお願いしちゃった。」
大人奈々が元気そうなのは救いであったが、俺や奈々にスパルタをするようになった事だけは不満であった。
「そんな鬼を見るような目で見ないでよ。」
と俺を茶化す大人奈々に対して、
「いや、奈々さんマジで鬼だから。」
と奈々も少し引いていた。
結局奈々の家の庭で俺と銀河の対決が行われることになった。
正直大人以外の誰も乗り気ではなかったが、居候である俺達は誰も彼女に逆らうことはできないのだ。
また断るのも面倒くさいので渋々受け入れた。
「それでは本日のメインイベント!浅風竜義と萩野谷銀河によるシングルマッチを行います。
制限時間は10分、家や物を壊す行為は禁止。勝敗に限らず、家を壊した者は私の奴隷になってもらいます。では二人とも準備はいい?」
プロレス好きの大人奈々は勝手に盛り上がっていたが、俺と銀河はノリについていけずテンションが下がっていた。
俺は渋々「はーい。」と答え、銀河は「なげーよ、早くしろよ」と駄々を捏ねていた。
「ああもううるさいな。はい、それじゃあ、レディーファイッ!!」
奈々の合図で戦闘開始となった。
すると銀河は迷わず俺に、白く光るビームを容赦なく放ってきた。
俺は能力で反撃しようかとも考えたが、ビームの威力が凄まじいので、ひたすら銀河の攻撃から逃げ回っていた。
銀河のビームの衝撃で洗濯物干しが倒れ、破損した。
「あーやった!銀河君は今日から私の奴隷ねー。」
大人奈々は相変わらず上機嫌だ。
「はあ!?家は壊してねえだろ、たかが洗濯物じゃねえか」
大人奈々は異論は認めないという目線を銀河に送った。
銀河は俺の腕を素手で捕まえて殴って来た。
パンチの衝撃で俺は尻餅をついてしまった。
「おい、これから戦争みてえな事しに行くのに逃げてばかりでどうすんだよ!さっさとお前の能力見せてみやがれ!」
銀河は追撃をせず、俺の攻撃を煽って来た。
俺は大人浅風が繰り出していた爆発のような風圧を生み出す技、爆撃を繰り出そうとした。
しかし、どれだけ力を込めても風一つ吹かない。
「いけっ、ぶっ飛べ!吹っ飛ばせ!、おりゃっ!」
俺は何度も爆撃を試みるが、何も起こらない。
そうこうしている間に銀河が痺れを切らした。
「あーもうやってらんね。」
銀河は俺にビームを浴びせた。
今度は空気のバリアで防ごうとしたが、やはり何も起こらずビームは俺は直撃した。
俺はビームの衝撃で庭の壁まで飛ばされ、激突して倒れた。
このタイミングで大人奈々が銀河を止めに入った。
「はい、ここでレフリーストップ!! 勝者、萩野谷銀河!」
「おい佐倉の姉ちゃん。はっきり言って話になんねえ。こんなんじゃ連れて行っても足手まといなだけだろ。」
「確かに今のままでは何の役にも立たないね。でも連れていくよ、銀河君は私の奴隷だから異論は認めないよ。」
「ああはいはい、じゃあ勝手にしやがってください女王様。」
「うん、勝手にさせてもらうね。」
それから大人奈々は俺に歩み寄る。
「大丈夫?無茶なことさせてごめんね。気は落とさないでね。銀河君と同じ薬を飲んだ訳だし、能力は開花してるはずだよ。多分、うまく使えてないだけだと思う。科学的にも能力者になれる素質のある人は能力が開花した時点で使えるようになると証明されてるし。」
「わかった、とりあえず努力はするよ・・・」
すると奈々が大人奈々に真剣な口調で言った。
「ねえ、私浅風と一緒にここに残る。銀河の言う通りだよ、能力も使えない状態で危ない場所に乗り込ませるなんてどうかしてるでしょ!」
大人奈々は少し笑みを浮かべた。
「あーあ、浅風ったら情けない。奈々ちゃんに心配ばかりかけちゃって。力がなくても私を庇ってくれたあの時のヒーローは何処へ行っちゃったのかなー。」
「ねえ、ちょっと聞いてるの?」
「聞いてるよ。とにかく誰であっても私の決断に異論は認めません。奈々ちゃんも浅風も連れていきます。だから浅風頑張って特訓してねー。」
大人奈々は退院後、随分と自由奔放な女性になってしまった。
大人浅風に裏切られたショックに加え、急に俺達が家に居候し始めて、生死を彷徨う程の重傷も負ったとなれば気が狂って性格が変わってしまっても無理はないと思った。
しかし、銀河や奈々は大人奈々に対して不信感を持ち始めていて俺達の人間関係は非常にギスギスしたものとなってしまった。
それから、俺は能力を使える方法を探るため一人で特訓した。
だが、結局能力は全く使えるようにならなかった。
どれだけ力を入れても能力が使えないし、インターネットで「初めて能力が使えた時にやったこと」と検索してヒットしたサイトに記載されていたことも試してみたが何もしても変わらなかった。
結局俺は能力が使えないまま、瀬戸と出雲を救出しに行かなければならないのだった。




