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第一章第十四話 死にかけて生きていることが幸せだとわかる

俺達が大人浅風と対峙した日から二週間が経とうとしていた。

今日は大人奈々が退院する日である。


俺は大人浅風の一件からほとんど誰ともまともに会話をしていない。

所謂引きこもり状態である。

大人浅風は奈々を殺そうとした。その上、瀬戸と出雲を自らの手で監禁した。

将来こんな人でなしになってしまうなら、俺はもう生きている必要がないという考えが頭から消えなかった。

自分が死ぬことで奈々や周りの人たちを少しでも楽にできるなら、俺はいなくなるのは悪いことではないだろうとまで考えていた。


ついうっかり「死にたい」と漏らした時には、

銀河から「気分が暗くなるようなことばっか言うな」とキレられた。


そんな脱力状態の俺に、奈々は大人奈々に変わって食事を作ってくれて、

「気にすることないよ。誰も浅風を責めてなんていないよ。私は浅風は悪い人になんてならないって信じてるよ。」

と励ましてくれた。

とても嬉しかった。

でも救われたけど気分は依然晴れなかった。


そんな状態の俺に銀河が話掛ける。

「おい、昼飯買って来てやったぞ。冷めっから早く食え。」


俺は俯いたまま頷いた。

そんな俺を見ては銀河はため息を吐いた。

「おいおい、人が親切で買って来てやったんだから礼くらい言えよ。…もういいや、付き合ってらんねえ。とりあえず置いとくぞ。」


銀河はコンビニで買ってきた弁当をテーブルに置き、自分の分を取って一人で食べていた。


そんな時、大人奈々は奈々と共に病院から自宅に帰って来た。

「ただいまー!」

と笑顔で元気に帰って来た大人奈々だったが、浅風と銀河が返事もせず黙々とコンビニ弁当を食べている姿を見て頭を掻いた。

「うっわぁ、これはめっちゃ深刻だね…」


大人奈々は俺の肩を強く叩いた

「ほら!!元気だぜ!もしかして責任感じちゃってるの?」


様々な感情が込み上げて抑えきれなくなった俺は、不本意にもその気持ちを大人奈々にぶつけてしまった。

「奈々はなんで怒らないんだ・・・。裏切られて殺されかけたのに、なんでまだ俺に優しくするんだよ!!」


「そんなの過ぎたことだもん。もう気にしてないよ。あいつとはそうなる運命だったんじゃないかな。それに私を傷つけたのは10年後の浅風でしょ。あなたは何も悪いことはしてないし。これからあんな奴にならないよう運命を変えていけばいいじゃない。」


俺は涙をこらえきれなくなってしまった。

奈々が励ましてくれたことの嬉しさと、未来の自分がこんなに優しい人を傷つけてしまったのだという罪悪感に耐えられなかった。


「私も死にかけなかったら、浅風みたいに今頃ずっとクヨクヨしてたかもね。

でも死にかけて変わったんだ。死んでたら今日の自分はなかったんだもん。せっかく過去の私が生かしてくれた人生だからこそ、辛いことは忘れて楽しく精一杯生きようってね。

だから、辛いなら泣いていてもいいけど、明日死んでも後悔ないように生きなさい。浅風も、…銀河君もね。」


「俺は普段からやりたいように生きてるから後悔なんかねえよ。」

と銀河は呟いた。

そして銀河は思い出したように大人奈々に尋ねる。

「そういや、明後日房総には行けそうなのか?」


「私は大丈夫。戦闘は勘弁だけど。問題は浅風だけかな。」


俺には「房総に行く」というのは何の話をしているのか分からなかったが、奈々が説明してくれた。

「そうだ、浅風に話してなかったね。瀬戸と出雲を助けに行く計画を私達三人で立ててたんだ。

浅風が元気になったら多分二人を助けに行きたいっていうよねって話になって。

それで奈々さんが入院中に情報収集してくれて房総にあるリベリオンの牢獄に送られてるってわかったんだよ。だからみんなでリベリオンの牢獄に二人を助けに行こうって話になったわけ。」


確かに少し前の俺なら奈々が言う通りのことを提案しただろう。でも今の俺はもう何をしてもダメだろうという気持ちであった。

「俺がいても足でまといになるだけだと思うから俺はパスするよ。こないだだって俺何もできなかったし・・・」


すると、銀河が立ち上がった。

「瀬戸と出雲を救出するためにはお前が必要なんだよ。」


大人奈々が続けて説明する。

「パスは認めません。リベリオンの本部の牢獄は強固なセキュリティが張られてるの。だから気づかれずに潜入するのは不可能で、救出するには超能力を使える人を二人連れて、片方が囮になって警備兵を引き付けて、もう片方が救出する作戦で行きたいんだよね。」


「でも、俺は能力使えないし・・・」


銀河がポケットから錠剤のような物が入ったビンを俺に投げて来た。

「そいつが能力を開花してくれる。俺もそいつを飲んで能力が開花したんだ。その薬で能力が使えるようになるかどうかは人次第みてえだが、将来のお前があれだけぶっ飛んだ能力を使えるってことはお前も同じ能力を使える素質はあるって訳だ。だからその可能性に賭けようって話になったんだ。」


「銀河君が言うには、その薬を飲むと24時間は吐き気や頭痛や全身の痛みがあるみたい。でも、男ならそのくらい気合いで乗り越えないとだよね。」


大人奈々は、俺の知っている彼女とは性格がかなり変わっていた。

以前は俺達が危険なことをやろうとすれば母親のように止めたり心配したりしたのだが。

生死を彷徨うと人はここまで変わってしまうのだろうか。


俺はまだ自分の中で気持ちの整理が出来ていなかったが、断れるそうもないし言い訳するのも面倒くさかったので、薬を飲んで能力を開花させて作戦に参加することに同意した。


「じゃあこれで決まり!明後日までに各自ちゃんと準備を済ませといてね!

あと奈々ちゃんは浅風が無事薬の副作用に耐えられるか分からないから一晩見守ってあげてね。」


「え?一晩中!?」


「男が頑張ってる時に支えるのは女の子の役目だよ。」


「えー…。」


いつの間にか大人奈々と奈々はお互いのことを「奈々さん」、「奈々ちゃん」と呼ぶようになったようだ。

俺が家に引きこもっていた間、奈々は毎日のように大人奈々の見舞いに行っていたから、親睦が深まったのだろうか。





俺は能力が開花するという薬を飲んだ。

悩みに悩んで悩み疲れていた俺は、この薬でも飲んで生死の狭間でも彷徨えば奈々みたいに何か吹っ切れるのではないかという思いがあった。


薬を飲んだ直後は何ともなかったが、副作用の症状は突然出始めた。

症状を簡潔に言い表すなら、インフルエンザの症状を悪化させた症状に吐き気と全身の激しい痛みが加わったような感じだった。

洗面所で嘔吐する俺の背中を奈々は優しく擦ってくれた。

「俺一人でもなんとかなるから大丈夫。放っておいてくれよ。」

と言っても、

「放っておけるわけないじゃん。一人じゃ歩けもしないのに。そんなことを言うのならもう何もしてあげないよ。」

と言われてしまった。

その時の奈々の目は意地でも引き下がらないという目つきであった。

正直、奈々の優しさを俺みたいな人間ではなくて、もっと立派で彼女を幸せにしてくれるような人に注いで欲しかった。

でもそのような事を言えそうな雰囲気ではなかったし、言える状態でもなかった。

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