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第一章第十一話 悪い人も表面上はいい人を装う

俺達が大人奈々の家に戻ると、大人奈々と銀河が俺達を待っていた。

銀河はソファーでふんぞり返っていて待ちくたびれた様子だった。

「遅かったなあ、随分と待たせやがって。」


銀河は普段通りの銀河で変わりはないようだ。

俺は銀河に今までどこで何をしていたのかを尋ねると、銀河は詳しく教えてくれた。


「俺はこの世界に飛ばされてから、行く当てがなくてしばらくウロウロしてたんだけどよ、

そしたら暁横丁(あかつきよこちょう)ってめちゃめちゃ安い商店街を見つけて、そこでなけなしの金で食い物や飲み物を買って生き延びてた。よくわかんねえけどそこだけは現金で買い物できたんだわ。

そしたら、チャラい男が家に泊めてやるからリベリオンって組織の仲間になれって言って来たんだ。

そん時は風呂入りたかったし腹減ったしで、泊めてもらえるんならなんでもいいやって思いでついていっちまったら、人を騙して金儲けしようとする悪の組織なんじゃねえか。

そのチャラい男が急に掌返して『会費を払え』だのなんだの言ってくるようになったから、あとで払うとごまかし続けてやったんだ。

でも、結局俺が一文無しなのがバレちまい、俺は組織もチャラ男の家も追い出されたってわけよ。」


大人奈々が心配そうに銀河に声を掛けた。

「大変だったでしょう。これからは私達を頼っていいからね。それからあなた達は元の時代に戻れるようにドリームレッドと交渉しておいたから、もうすぐ帰れるよ。」


銀河は足を組んで貧乏ゆすりをしながら言う

「そんなもん屁でもねえよ。むしろ楽しかったぜ。」


すると銀河は思い出したように俺を睨みつけてきた。

「ああそうだ、浅風。知ってたら聞きてえんだけどよ、この時代のお前は悪の組織にいるのか?」


「え!?」


一瞬場の空気が固まった。

大人奈々はかなり慌てている様子だ。


「萩野谷、あんた何言ってるの?この時代の浅風とはあったけど全然悪い人じゃなかったよ。むしろいい人だったよ。」

奈々は怒っていた。


「なんだお前ら会ったことあんのかよ。リベリオンって組織は二つに割れてて、片方の派閥を取りまとめてんのが浅風だって聞いたんだが、マジなのか?」


「え?なにそれ?俺がリベリオンに??いやそりゃないよ。だってタワマン住んでて同居してる彼女もいて俺達の力になってくれた。」


「はあ同居してる彼女!?てめえそりゃどういうことだ!?」


俺はどう答えていいか分からなかった。

確かによく考えてみれば、弱虫で努力もできない俺があんな順風満帆そうな人生を送っているなんて不自然だとは思っていた。

組織が関わっていたのだろうか。


「ちょっと・・・いい?」

そこで大人奈々が割って入る。


「ごめんなさい。私知っていたのにわざとあなたたちに黙ってた。本当にごめんなさい。」

大人奈々は深々と頭を下げて謝っている。


「どういうことなの、ちゃんと分かるように説明してよ!」

奈々が大人奈々に口調を強めて言った。


「全部話す。浅風、これから話すことを聞いたら、あなたはとても辛くなると思う。

でも頑張って聞いて欲しいの。やりきれない怒りとかがあるならいくらでも私にぶつけていいから。」


それから大人奈々は俺達に俺の過去について知る限りを話してくれた。

結論から言えば、俺が今リベリオンの一派閥のボスであることは真実だという。

以下が大人奈々が語ってくれた内容だ。


--------------------------------

浅風は中学生卒業までは何をしてもダメな人間だった。

でも高校に入学すると一念発起し、猛勉強の末、難関大学に合格。

浅風の大学合格をきっかけに、高校卒業前に浅風は奈々に告白し、二人は交際を始めた。

奈々はファッションモデルとして事務所にスカウトされたため、大学にはいかずモデルとなった。

浅風は大学時代、4年間に渡って奈々と交際を続けた。

しかし浅風が大学卒業後、二人は同棲を始めるが、突然浅風が豹変してしまう。

新卒採用で入社した会社をすぐに退職し、まだ別の会社に再就職することを繰り返したが、

仕事が長続きすることなくすぐに退職。

やがて浅風は家に引きこもるようになった。

浅風にはアスペルガー症候群という発達障害があることも同時に判明した。

対人関係を避けて通ろうと思えば通れる学生時代は努力で乗り切ることができた。

しかし、社会人になってからは会社になじめずパワハラを受けてうつ病を発症。

再就職すら難しくなった。

浅風が無職になってからは、奈々がモデルの他に副業をして浅風を養った。

そんな中奈々は無理をして体調を崩してしまうこともあったという。

浅風は現状を変えるべく社会復帰するための努力を始めた。

しかし、その時から浅風の引きこもりは解消されたものの、夜になっても家に帰らない日も増えた。

そして、ある日突然奈々は浅風から別れを切り出された。

奈々に隠れて他の女と夜な夜な会いに行っていたらしい。

激怒した奈々は浅風と別れることとなり、それ以降は連絡すら取っていない。

しばらく年月が経って風の噂で浅風が暗部組織リベリオンのメンバーになっていることを奈々は知ることになる。

-------------------------------------------------------------------------


俺は大人奈々の話を聞いて絶望と諦めの感情が芽生えた。

こんな俺でも努力すれば変われると思っていた。

でも未来の俺は変われなかったのだろう。

やっぱりそうなのか、やっぱり俺はいない方がいいのではないか。

死んだ方がいいのではないかとすら思った。

でも、気丈に振る舞った。

俺が取り乱したり、落胆したりすれば辛い過去を話してくれた奈々をさらに苦しませることになるだろう。

俺は声を振り絞った。

「大丈夫。ちゃんと受け止めて、こんな未来俺が変えてやる。奈々、こんなダメな奴に色々尽くしてくれてありがとう。」


大人奈々は眼頭を押さえていた。

いつも強気な奈々が必死に涙をこらえている姿を見て俺はとても切なくなった。

それと同時に怒りが湧いて来た。

大人浅風が奈々にこんなにも辛い思いをさせたことが何より許せなかった。

過去がどうだろうと知ったことではない。

どれだけ弱くても頼りなくてもヒーローでいたいと思っていた。

なのに大人の俺は大切な人を泣かせたのだ。

何がヒーローだ…誰よりもクズじゃないか、最悪じゃないかお前は。


それからしばらく全員が黙り込んでいた。


重苦しい空気の中、銀河が口を割った。

「おい、そういえば瀬戸と出雲の奴はどうしたんだ。もう22時すぎだけどまだ帰ってこねえのか?」


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