証拠写真
『夏希、元気にしてる? あんた春休みには帰ってくるって言ってたから待ってたのに、結局帰ってこなかったじゃない。』
(新歓の翌日、珍しくお母さんから連絡があったの)
頻繁に連絡とってそうなのに
(なんの為に実家出たのよ)
「ごめんごめん。サークル活動で旅行行ってたから」
(この時は鹿児島に行ってたでごわすよ)
うん
(軽く流さないでよね)
『まさか、男も一緒に寝泊まりしてないでしょうね?』
「違う部屋だし、7人で行ったから」
(彼女には甘いのに私にはうるさいのよ)
あなたは昔から期待されてたからね
(だから実家を出たの)
『何もなかったならいいけど』
「ないから」
『そう言えばお隣の春斗くんが夏希の後輩になったから気をつけなさいよ』
僕は嫌われてるね
「気をつけるってどういうこと?」
『夏ごろにね、秋穂と付き合ってたのに他の女の子にも手を出してたみたいなのよ。秋穂は冬馬くんに相談に乗ってもらってたみたいだけど。真面目ないい子だと思ってたのに女の子にだらしないなんて意外だったわ』
(信じられなかったのよ)
うちの両親は信じたけどね
「待って。夏って去年の?」
『そうよ。うちも古川さんも一緒に冬馬くんから説明されたのよ』
「秋穂からも?」
『同じよ』
「はるくんからは?」
『言い訳は聞いてないわよ。聞く必要ないでしょう? 実際に秋穂は泣いていたのよ』
「お母さん、スマホからだったね。一旦切るね。すぐにかけ直すから」
(私は写真のマイアルバムをスクロールしていったの。2年前のクリスマスまで)
「あった。やっぱり年号も入ってた」
「もしもしお母さん。見てくれた?」
『・・・どういうこと? なんでこんな写真をあなたが持ってるの?』
(私がお母さんに送ったのは2年前、クリスマスに帰省したときに撮った写真)
♢♢♢♢♢
「うん、わかってる。はいはい、またすぐに帰ってくるから。じゃあね」
(大学1年のクリスマスに私は実家に帰省したの)
クリスマスによく帰れたね
(1年のときはいい子だったからね)
いまは悪い子なんだね
(否定できないね)
(私が下宿先に戻るために駅に行くと駅前はクリスマスイルミネーションで彩られて多くのカップルが見に来ていたわ)
僕は行ってないよ
(きみにも彼女がいたのにね)
断られたんだよ
(そうね。でも彼女はいたんだよ。彼と一緒にね)
「秋穂?」
「えっ? お姉ちゃん? 今から帰るの?」
(バツが悪そうな顔で彼女は私を見たの)
「うん、明日用事があるからね。しかし、意外な組み合わせだね。なんではるくんじゃなくて冬馬くんといるの? まさか浮気かな?」
(冗談のつもりだった)
「なっちゃん久しぶり。春斗とはもう別れてるよ。いまは僕が彼氏だよ」
「え〜! 知らなかったよ」
「春斗には今、他に彼女がいるんだ」
「うん? 秋穂が振られたってこと? はるくんが二股?」
「そういうこと。まだおばさん達も知らないと思う。いまは春斗とも良好な関係なんだ。だからおばさん達にも内緒にしといてくれない?」
「う〜ん。ちょっと信じられないかな? あのはるくんが二股なんてね」
「人は変わるよ? 僕らだって小さいままじゃないんだ」
「そうかもね。うん、わかったよ」
(次に帰省したときにきみに確認するつもりだったんだけど、なかなか会う機会が作れなかった)
そうだね
「ねぇ、せっかくだからツーショット撮らせてよ。イルミの前でね」
「そうだね。記念に1枚お願いするよ」
「じゃあ撮るよ〜。はいチーズ」
♢♢♢♢♢
「その時の写真よ。都合よく年号まで入ってるからね。私は2年前のクリスマスに付き合ってるって聞いたよ。それってお母さんの聞いた話と矛盾してるよね?」
『ごめん夏希、秋穂に確認する。また連絡するわね』
「ただいま」
バイトが終わり帰宅した秋穂を待っていたのは感情の見えない表情をした母だった。
「お母さん?」
「座りなさい」
促されるままに正面に座った秋穂の前に母はスマホを置いた。
「何?」
怪訝に思いながらもスマホを見るとそこには自分と冬馬が仲良く写っている。
「え? あ、これって去年のクリスマスイルミネーション見に行った時の写真じゃない。やだな冬馬くんに送ってもらったの? 恥ずかしいなぁ」
もちろん、秋穂にはこれがいつ誰によって撮影されたものであるかは理解している。それでも尚、シラをきることを選択した。
「秋穂。それは本当に去年のクリスマスの写真なの?」
「えっ? やだな、当たり前じゃない」
母はスマホを秋穂から受け取り、画面を指差しながら再度尋ねた。
「これは本当に去年のクリスマスの写真なの! これを見てもそう言い切るんだね!」
母の激情に触れた秋穂はビクッと身体を震わせる。冬馬であれば受け流して誤魔化すこともできたであろうが、元は真面目な性格な秋穂にはこれ以上シラをきることができなかった。
「……ごめんなさい」
消え入る様な秋穂の謝罪を受けた母は怒りに任せて右手を振り抜いた。
『バチっ!』
あまりの勢いに秋穂の身体は椅子から落ちた。
「何をした! 正直に話しなさい! 浮気したのは、裏切ったのはあんたなの? 裏切った上に春斗くんに罪を擦りつけたの? 答えなさい!」
打たれた頬を手で押さえながら秋穂はゆっくりと頷いた。
「なんて卑怯なことを! お前たちがしたことで春斗くんがどんな思いをしたか考えたことがある? 他人を裏切っておいて自分たちは仲良くお付き合いかい」
「……なによ」
「何?」
「自分だって冬馬の口車に乗せられて散々春斗を罵ってたじゃない! 自分達が春斗に追い討ちをかけたんじゃない! 私達だけが悪いみたいに言わないでよ! お母さんだって、春斗のお母さんだって誰も春斗を信用してなかったじゃない! 私だって、私だってこんなことしたかったわけじゃないのよ!」
秋穂の様子に疑問を感じた母は、気持ちを落ち着かせて向き合うことにした。
「理由があるって言うの? 春斗くんを欺くに相当するだけの理由が。お茶を淹れるから座りなさい。落ち着いて話してみて」