2.星の林
「結局野宿かよ、、、」
「ですね。」
あの後、僕らは休憩を取らずに前に進んだ。でも、最後の休憩の時にはすでに夕方だった。もしかしたら間に合うかなとは思ったが、体力は有り余っているはずなのになぜかペースが落ちてて、結局宿にたどり着けなくて、今は三人で焚火を囲んでいる。
「これコハクちゃんのせいだからね。」
「え~でも~ハルさんだって休憩許してくれたじゃないですか~」
「許したんじゃないよ。強行突破されたんだよ。」
「まあまあ、異世界なんて滅多に来れないんですから堪能しましょう。」
「そ~だよ~ナノちゃんの言う通りだよ~」
あれ?どうしたんだろう。さっきナノハちゃんは野宿をしたくないって言ってたのに。急に心変わりでもしたのだろうか。
「ほら見てよ~あの満天の星空をさ」
「わあー本当だ。すごく綺麗ですね」
「星なんてあっちの世界でも見れるでしょ。」
とは言ったものの無駄な光がないから星が鮮明に見える。なんか分からないけどここでの夜空を新鮮な気持ちで見れている。あっちの世界では僕にとって星は道端の小石と同じような存在だったのに。
「まさに星の林って感じだね~」
「なにそれ?」
「ん?星がいっぱい集まってる様子を林で例えた言葉ですよ~。柿本人麻呂の「天の海に 雲の波立ち 月の船 星の林に 漕ぎ隠るを見ゆ」っていう万葉集に載っている歌にこの言葉が使われてるんですよ~。」
「そうなんだ。」
「綺麗な言葉ですね。」
「でしょ~」
コハクちゃんの語彙力と知識量は凄まじいもので、脳に辞書が丸ごと入っているのではないかと思うようになった。以前なんでそんなに多くの言葉を知ってるのかと我ながら幼稚な質問だなと思いながらも気になったので聞いてみたところ、『切手集めとかと同じような感じですよ~。ただ言葉とか知識を集めるのが趣味でそれが楽しいんですよねぇ』と僕には理解の出来ない答えが返ってきた。コハクちゃんの言葉への愛は本物のようで、先ほどのナノハちゃんのように言葉を褒めたら、我が子を褒められたようにうれしそうな顔をするのだ。もはや言葉オタクだ。
「それ歌詞に入れてみたら?」
「うーん、、どうしようかなぁ」
「素敵な言葉だから使ってほしいです。」
「そんなに気に入ったのー?じゃあナノちゃんが言うなら前向きに検討しようかなぁ~」
検討するだけか。それにしてもコハクちゃん、ナノハちゃんに弱いな。僕が提案した時は、なぜか嫌がるような素振りを見せたのに。
「もう眠くなってきたなぁ」
「そろそろ寝ようか。」
「そうですね。明日には町に着くと思うので体力温存しなくちゃですもんね。」
僕らは、ナノハちゃんの荷物から寝袋を取り出した。本来ならば自分の持ち物は自分で持っているべきだけど、僕とコハクちゃんは楽器を持っているから、持ちきれないものはナノハちゃんに預けている。一番年下の子に荷物を預けるのは申し訳なさでいっぱいになる。焚火を消すと、星がよりはっきりと見える。
「じゃあ、おやすみなさーい」
「おやすみ」
「おやすみなさい。コハクさん、ハルさん」