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1.休憩したい

 混じり気のない空。木の葉を見ないと気づけないくらいひっそりとした風。まさに旅日和だ。三人の若者が歩いてくるのが見える。そのうち二人は楽器ケースを手に持ち、背嚢(はいのう)を背負っていた。もう一人は楽器組よりもやや大きい背嚢を背負っていた。この三人は端から見ても、実際にも旅人であった。しかし、ただの旅人ではない。

「よしっ!休憩しよ~」

 リーダー格の少女が自分の荷物を芝生の上におろそうとしたが、

「ちょっと待って。」

気だるげな青年が止めたため出来なかった。

「休憩を取るのが早すぎる。」

「大分歩いたと思いますよ。ハルさん。」

「僕の感覚が正しければ全然歩いてないんだけど」

「ハルの感覚を信用できるほどまだそんなに一緒にいないからなぁ」

 ハルは肩をくすめた。そして、もう一人の少女の方を見る。

「ナノハちゃん」

「えっ、、、あ、、はいっ!」

 急に会話の輪の中に入れられて驚きながらも何とか返事をする。

「さっきの休憩から何分経ったか分かる?」

ナノハはポケットから懐中時計を取り出した。

「えーっと、、あっ10分くらいです。」

「ありがとね。じゃあコハクちゃんの感覚がバグってることが分かったし先を進もうか。」

ハルは歩みを進めようとした。しかし、ナノハが控えめにハルの袖を掴み止めた。

「あのー、、ハルさん。実はですね、、私たちがお話してる間にコハクさん休憩に入ってました。」

 驚いて振り向くと、楽器と背嚢を置き、涼しげな顔で腰を下ろしているコハクがいた。

「ごめんなさい!私気づいてたのに何も言わなくて、、、」

「別にナノハちゃんは悪くないでしょ。しょうがない。我がチームの()()()()に従って僕らも休憩しますか。」

リーダーの部分を皮肉を込めるように言った。

「、、はい。」

 ハルに続いてナノハも地面に座る。

「今日5回も休憩してるよ。僕ら」

「まあいいじゃないですか~。特に急いでる訳じゃないんだからさー」

「確かにそうですね。マーツ山の頂上に着かなきゃいけない期限みたいなものはないので、そんなに急ぐ必要はないですが、、、」

ナノハは遠くにそびえ立つマーツ山の方へ視線をずらした。

「そ~そ~。せっかく異世界にきたんだからさー異世界ライフをじっくり堪能しましょうよ~」

「気持ちは分からなくはないけどさ」

 ここはヤハブル。コハクが言った通り異世界の国である。この三人はこの世界に転生され旅をしていた。目的は一つ。最も天に近い場所マーツ山の頂上にたどり着くことだ。

「大変じゃないのかな~。この国の人たちは」

「何がですか?」

「この国の人たちってさ常に神の存在を強く意識しなきゃいけないんだろーなーって。でも、それってめちゃくちゃめんどそうだなって思うんだよね。」

「どうゆうこと?」

「うーん。なんていえばいいのかなぁ?」

 コハクが顎に手を当てて考え込む。コハクは自分の伝えたいことを正確に確実に伝えられるように説明をする。だから、こうやってじっくり考えて言葉を慎重に選んでから説明に入る。

「マーツ山ってさ、天に一番近いって言われてるからさ、そのマーツ山のある国ヤハブルは神の住む国って言うじゃないですか~」

「そうだね。」

「だからさ信仰心が強いんだよね。毎日のように神に祈ったりするのって疲れないのかなーって。伝わったかな?」

「大丈夫です。伝わってますよ。」

 伝わることを大切にするコハクを安心させるように応える。

「確かにそれはだるいね。そういえば、マーツ山に近ければ近いほど信仰心が強まってる気がするんだけど気のせいかな?」

「それは気のせいじゃないと思うよ~。私もなんとなくだんだん狂信的になってるなーって思ってたし。ナノちゃんもそうだよね~?」

「えっ、、。私は言われてみればそうかもという認識程度なので、、お二人みたいに感づくみたいなのは、、、」

「いーの、いーの。分かっていれば」

 故郷の国で一番大きい山よりも明らかに大きい山は、確かに荘厳な雰囲気があって「たかが山じゃん」という言葉を軽々しく吐けないほど圧倒的な存在感がそこにはあった。

「こんなところに立派な山なんて作って。神ももっと人間のことを考えて遠慮したらいいのに。」

「そーだねー。でもさー、神もここじゃないと駄目だっていう理由があったわけだしさー大目に見てあげよーよ。」

「異世界から来た僕らが文句を言ってもしょうがないしね。」

 太陽の光が斜めに差す。

「次の町の人たちの信仰心はすごいものなんでしょうね。」

「だね。でもマーツ山までまだまだ遠いから序の口かもしれないよ。」

「まぁ、私的には演奏に支障がなければそんなことどーでもいいんだけどねー。」

「楽天的だね。」

「それほどでも~」

「そういうところも含めてか。」

 コハクの楽天的なところはこのチームを支えている面の方が多いが。なんとなく認めたくないという気持ちがハルにはあった。

「そろそろ行きませんか?いくら私たちにたくさん時間があったとしても日は暮れますよ。」

いつもコハクかハルの意見に従ってばかりのナノハが珍しく提案した。

「異議なし。じゃあ行こうか。」

「え~~、、早くないですか~あれ?私の意見はー?無視ですかー?ちょっとナノハちゃんもハルさんも荷物持つの早くないー?もう野宿でいいじゃーん」

「七日間連続で野宿は無理。そろそろちゃんとした所で寝たい。」

「ごめんなさい、コハクさん。私も限界が近づいてきました。屋根と壁のあるところで休みたいです。行きましょう。」

「え~~~」

 ごねるリーダーを無理やり立たせ、休憩の時間に終止符を打った。

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