プロローグ
「今日まで私たちの音楽を楽しんでくれてほんとーにありがとうございましたー。」
サックスを持ったリーダー格の少女に続いて、ギターを持った気だるげな青年と控えめな少女がお辞儀をする。観衆がそれに合わせて、拍手をしたり、口笛を吹いたり、歓声をあげたりする。
「いよいよこれが最後の曲となりました~。浮浪者の私たちを受け入れてくれた皆様に感謝の気持ちを込めて奏でます。聞いてください。私たちクラウディの始まりの曲『cloudy』」
リーダー格の少女が後ろに下がり、演奏する体勢が出来たか確認する。そして、リーダー格の少女がサックスを、気だるげな青年がギターを演奏し始めた。メロディーに合わせて、控えめな少女が踊り出す。前奏が終わると気だるげな青年の表情が変わり歌い出した。
"本日は曇り ゆーうつだ
何もする気にもなれない
つまんない1日だろう ぜったい
って何言ってんの? 小暗いだけで"
(パフォーマンスする二人の背中って私にしか見れない特権なんだよね~。今日の歌声は一段と感情が入ってるねぇ。後で拗ねない程度でからかってみよー。踊りも自信が出てきてより良くなってるなぁ。終わったら誉めてあげよーっと)
観客も手拍子をしたり、体を揺らしたりして彼女たちの音楽を楽しんでいた。
"僕らは進むよ 曇り空ぐらいなら
僕らは進むよ 自由な空の下を"
ふとサックスの少女は思う。
(この世界で私たちの音楽が作れて幸せだなぁ。もし、この三人が元の世界で出会ったとしても、この音楽は作れなかっただろうねぇ。盲信だけどね。でも、音楽を奏でられるのはここにいる私たちだけだ)
音楽が終わった。その瞬間拍手が起こった。建前の拍手ではなく、心からの拍手だ。拍手が鳴り止むのを見計らって、リーダー格の少女が挨拶をする。
「今まで本当にありがとうございました~。これにてパフォーマンスを終了させていただきます。クラウディでしたー。」
サックスとギターの完結の和音が響き渡った。