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6、異形の動物(1)

 夜の帳が落ちて、部屋を静寂で包んでいる。

 今、月は雲に隠れ、濃い闇がシンの黒髪と溶け合っていた。

 マコが毎日洗濯してくれているおかげで清潔なシーツが張られたベッド。

 壁に乱雑に打ち付けた何本かの長釘に数着、適当に引っ掛けた質素な衣服。

 木の板を組み合わせた簡素な机の上にはマコ手縫いのシン専用エプロンが丁寧に畳まれて、壁の衣類とは相対的に宝物のように置かれている。

 彼の部屋の家具や持ち物といったらそれくらいだった。しかし本当はベッドですら必要ない。彼は眠りについたことすらないのだ。眠りは必要ない。人ならぬ身には。


 シンは窓際に佇んで、宵闇の中にじっと目を凝らしている。


 彼の足には白蛇が頭をからみつかせ、そばには左右に分かれて黒猫と銀狼もお座りをし、控えている。黒猫の額には、昼間は無かったまぶたがあり、今は暗闇の中、そこに在る三つめの目をゆっくりとまたたかせている。

 そして窓際には双頭のオウムもとまっていた。

 動物大集合である。ただし、異形の動物。


「我が君、先ほどから森の結界を気にしておられますが……何か異変でも?」


 シン以外、誰もいないはずの部屋に澄んだ女の声が聞こえた。言葉が放たれたのは白蛇の口からだ。

 しかしシンは僅かほども驚かない。


「王都のクソ神殿のクソ神官どもめが、また僕とマコの愛の城を覗き見しようとしている」


「愛の城」


 シンの言葉に含まれる一部の単語が気になったらしい。白蛇は無機質に繰り返した。


「今朝も今朝とて泉の周りを飛び回っていたから早々に駆除してやったのに、また今も結界をこじ開けようと……無駄な努力だな」


「なんと浅ましい。裏切り者の光の源祖ともども腐り果てるが似合いの愚か者たち。我が君、私が殺してきましょうか?」


 白蛇のたおやかな女の声とは裏腹な、冷たく物騒な物言いに、シンは少年とは思えぬほど艶やかに笑う。


「捨ておけ。クソ神殿がたとえ億の労力を費やそうと、僕とマコの愛の城には一歩も踏み込ませない」


「愛の城」


 白蛇は再び一部の単語を繰り返した。どうにも聞き入れがたい言葉らしい。


「ーーあるじどのは本当に愛情が深くていらっしゃる。先ほどもマコどのに魅了眼まで駆使されておりましたな!素晴らしき御技をおそばで拝し奉り、至福のひとときでございましたなぁ」


 突然、窓枠にとまっている双頭の大鳥のうち、左側の頭が甲高い声で話し始めた。

 すると右側の頭の方が首を傾げて、対抗するように羽ばたきをする。


「よう言うわ、左の。何が素晴らしき御技じゃ。あるじどのの魅了眼、我らに向けられていればたちまち正気を失うものであろうが、どっこい、あの小娘には全く効いておらんかったのをおぬしも見たろうが」


「黙れい、右の。ヌシにはあるじどのの涙ぐましい努力が分からぬのかっ!隙あらばマコどのの口から言霊を引き摺り出そうとされ、マコどのに暗示や誘惑を日々仕掛けておられるが、今に至るまで全く努力が実っておらんのだぞ」


「知ったことかい。あるじともあろう御方が、あのような小娘に……ワシはあるじどのは強くて好きじゃが、あの小娘は好かん。得体が知れぬわ……」


 右と左の両頭で口論を始めた大鳥を、シンはうんざりといった体で見やるが、何も言わない。大鳥のいう、魅了眼の件も言霊のことも、本当のことだからだ。


「オイタワシや……」


 ボソリ、と今度は銀狼が呟いた。地を這うような低い唸り声。だがつぶらな黒い瞳は微かに潤んでいて、銀狼の優しくて平和な性格を物語っていた。

 隣では三つ目の黒猫が我関せず、というていで前足を舐めては顔を擦っている。と、ふいに前足を下ろし、部屋の中央を3つの目でじっと見つめた。


「しかし今日は来るのが遅いのう、炎のダンナは。とうとう諦めたかの?」


 双頭の大鳥の呟きに、黒猫はチラリと目を向け、静かに、


「来たわ」と囁いた。


長いので分けました。

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