地宮04年3月4日(土)
「ハッ!、ヤッ!、ハァッ!」
「カズキ様、今日は随分とヤル気ですね。」
「うん。ハッ!、剣があると、ヤッ!、練習する気になるよ!、ハァッ!」
昨日手に入れた剣で素振りをしながらウメコに答えた。
「いよいよダンジョン攻略を本気で始めるのですね。情報を掻き集めてダンジョンがあると思しき場所をリストアップしましょう。」
「いや、ハッ!、それは、ヤッ!、違うよ!、ハァッ!」
そこで一旦手を止めた。ウメコにダンジョンを探されて、また無理矢理攻略に行かされては大変だ。
「ただ剣の練習をしているだけで、ダンジョン攻略のためではないから。」
「そうですか。私はてっきり攻略に乗り出すのかと思いました。」
「ダンジョン攻略なら剣より他の物の練習をした方がいいでしょう。」
「といいますと?」
「重機の免許取るとか。前回穴に潜って思ったんだけど、ダンジョンをショベルカーとかで掘り起こしたほうが楽なんじゃないかな。前にウメコは銃が効かないと言っていたけど、銃も弾幕張るくらい撃ちまくれば有効だと思うし。」
「私たちの種の外殻は硬いため、重機と言えど簡単には破壊はできないでしょう。銃も狭く入り組んだ通路では優位性が薄いと思います。飛び道具を至近距離で使うというのはロマンがありますが、実際には近接武器の方が効果的です。ダンジョンと人間の全面戦争となり、大量の重機や人を投入すれば別ですが、個人レベルでは白兵戦での能力と、コアの場所を察知できる能力こそが重要と考えます。」
「個人レベルではか。そうだね。俺が人間とダンジョンの全面戦争を心配しても仕方ないか。俺は俺のできる範囲で頑張ればいいよな。」
「はい。ですが、カズキ様一人での活動には限界がありますので、信頼できる人間の仲間が増やせればよりよいとは思います。」
「でもウメコのヒミツを教えられるほど信頼できる人なんてなかなかいないからなぁ。」
以前にも同じような議論をしたが、信頼できる仲間というのは難しい。
だが一人での活動には限界を感じている。今は春休みだからいいが、4月に入って通学するようになれば平日は活動できなくなる。ダンジョンが見つかったとしても長期休みまでは手が出せないだろう。
ダンジョン攻略は別としても、ウメコのことを知る仲間についてはそろそろ真剣に考えた方がよさそうだ。
親は無理だ。絶対に理解を得られない。
既に就職して家を出ている兄貴がいるが、就職先が茨城県だからここからは俺の大学よりも遠い。
大学のオタク仲間のマモルはダンジョンに食いついてきそうだ。上手く話せば協力してくれるかもしれない。だが活動できる時間が俺と同じだから俺が活動できない時間の穴埋めにはならない。
地元の友達でこういう時に話せるほど仲のよかった人は思いつかない。大学に行ってからは全く連絡を取っていないから連絡も取り辛い。
おおうっ。もうあてが無くなった。交友関係の狭さが浮き彫りとなるな。
「駄目だ。仲間のあてが皆無。」
「では、仲間に求める水準を見直しましょう。」
ウメコの話を聞いてみると、ウメコの言う水準というのは、仲間を作ったとして、どこまで話して何処まで見せるかを決めておくことだった。それによって仲間に求める水準を引き下げることができる。
看直し後の水準は、ウメコのことは秘密。ウメコ産の作物は、話すし見せる。作物が何処でどうやって作られているかは秘密。それでいて販売の協力をお願いすれば、俺がいなくても資金作りは継続できるだろう。
とりあえずウメコには客間を作って貰うことにしよう。そこには人を案内してもよいことにする。ウメコは人がいない時間に作物を客間に納めて、仲間は決まった時間に客間に作物を取りに来て出荷してもらうことにする。これならば俺がいなくてもできるし、ウメコの存在を教えなくても何とかなるだろう。
「あとは客間の入り口が問題だね。どこにすればいいだろう。」
「できれば陸上に作りたいですね。ですが実家の敷地内は色々と問題があるでしょうから、ここは物件情報を検索してみましょう。安くて良い場所があるかもしれません。」
ウメコと二人で物件探しを始めた。ネットでも色々と情報が集まるものだ。
直線距離で2km離れた場所で土地が売り出されていた。約200平米で40万円だから買えそうではある。流石は田舎の安さだ。
直線距離で3km離れた場所には競売物件があった。一軒家で売却基準価格が約50万円。競売なんてちょっと恐いので優先順位は下げる。
少し距離を延ばせば貸家が沢山見つかった。
だがどれも決め手に欠ける。もっと近ければ決め手になるのだが。
決め手のないまま、とりあえずは物件情報に注目しつつ仲間を探そうということになった。