地宮01年12月24日(木)
何時の間にやら九十九里浜。おっ、演歌のタイトルとかでありそうなフレーズだな。
そんな馬鹿なことを考えていないと生きていられないくらいに気分が落ち込んでいる。2時間前、彼女に言われた台詞を思い出してしまう。
「他に好きな人ができたの。別れましょう。」
付き合い始めて3ヶ月だった。同じ大学に通う同学年の子だ。同じ講義を受けていたら話し掛けてくれたのがきっかけだった。俺にとっては生まれて初めてできた彼女だ。
彼女とのクリスマスデートに張り切って出かけていき、奮発して買ったプレゼントを渡した直後のことだった。
意味が分からなかった。いや、分かった。分かったけど、分かりたくなかった。正直に言えば、ちょっとは感付いていた。二股かけられているって。
おかしいとは思っていたんだよ。やたらと週末に予定があって会えないし、メールの返信遅いことが頻繁にあったし。「またお風呂に入っていたのっ」て、一日何回入るんだよ!シズカちゃんか!
振られたその場ではクールに、「君の気持ちが固まっているのなら仕方ない。諦めるよ。」とか言って、足早に立ち去ったけど、その後泣いたね~。バイト代を貯めて買った中古車に乗って、泣きながら走った。そして何時の間にやら九十九里浜。夕暮れの冬の海は寒々しい。人なんて全然いないし、今の気分にはぴったりの場所かもしれない。思わず「バッキャロー!!」とか叫んでみちゃったよ。やっちまった後の恥ずかしさは想像以上なので注意が必要だ。
とりあえず波打ち際を歩いてみた。身投げ?いやいや、そんな度胸はないよ。寒いし。冬の海だよ?死んじゃうよ?いや、身投げは死ぬためにするんだけど。
折角海に来たのだから近くで見るだけだ。折角だからな。
ここからだと大学の寮よりも実家の方が近いので、この後は実家に帰ろうと思う。でもクリスマスイブに突然帰ったりしたら聞かれるよな~。「あんた彼女とかいないの?」って。その言葉、今の俺には刺さりまくりだからな、母さん。
直ぐに帰る気分にはなれなかったので散歩していると、砂浜で奇妙な跡を見つけた。波打ち際から陸に向かって残る砂浜に描かれた一本の線。その先にある物をひょいっと拾い上げた。
「何だこれ?」
梅干の種?それにしては大きいな。俺はそれを何の気なしにポケットに入れて持って帰ることにした。
実家に帰ると言われましたよ。「彼女の一つもいないのかい」ってね。刺さったね~。思わず「煩い!」と怒鳴ってしまったよ。俺は悪くないよね。当然の様に俺の心を刺してきた母さんが悪いと思うんだ。
これでもちょっと前まで彼女が一人いたんだよ。でも彼女には彼氏が二人いてさ~、俺はすっぱり切り捨てられたんだよね~。なんて事情は説明する気にならなかったけど、その後の母さんはなんとなく優しかった。何かあったと感付いているようだった。