#7−1 【彼女】と【嫉妬】
基本的に【仕事】は単独で行う事が多いのだけれど、時折【複数】を組む事もあるの。
【目標】が特殊な人物であったり、個人の【スキル】では対応出来ない場合は状況に応じて【上司】から【指示】が下されるのよ。私の場合は【色事】に関しての【スキル】がないから、組むとすればそれを補える人物が【派遣】されてくる形よ。
私としては、個人で動く方が気が楽なのよね。だって、人付き合いとか馴れ合いが苦手だから。
なのに何故その話をしているかと言えば、その【複数】での【仕事】が回って来たからよ。正直気が重いわ……。
【会社】の会議室で今日の【助手】を待っているのだけど……もう集合時間から30分経っているのに音沙汰がないのよ……困ったわ。
移動や最終の打ち合わせもあるから念の為と思い、予定時刻の1時間前に集合するようにあちらの【上役】に伝えておいたのだけど。これだから【個人】の方が楽なのよ……はぁ……。
そういえば【仕事】を振ってきたその【上役】が言うには、【妙な癖】があるから扱いにくいらしいの。どうして私がそんな【事故物件】みたいな奴と組まなければいけないのかしら……自分のその方面の【スキル】の無さを恨むしかないわ……。
それからもう10分も遅れて、ようやく今回の【助手】がやってきた。
現れたのは20代前後の女性。豊満なスタイルに男受けしそうな顔立ち、露出度の高い扇情的な服装、離れていても感じるほどの香水の強さ。まるで何処か場末のショーパブからやってきたような女だった。
集合時刻を大幅にずれていたにも関わらず、彼女は悪びれた様子も見せず、呑気に自己紹介し始める始末だった。香水の匂いのキツさも相まって、久々に頭痛を覚えたわ……。
「あ〜はじめましてですぅ〜。ワタシ【ホワイト】と申しますぅ〜。今日は宜しくお願いしま〜す♪」
【ホワイト】と名乗ったこの女性は【会社】内の【色事】専門の部署、【カサノヴァ】に所属しているわ。所属している【職員】は【番号】で呼ばれるのだけれど、優秀な【職員】には【クリムゾン】や【ビリジアン】など色を元にした個人の【コードネーム】を名乗る事が許されているの。
でも、【何かの事情】がある【職員】にも【コードネーム】が当てられたりするのだけれど、それが【ホワイト】。この【名前】を名乗るという事は……正直後がないって言い換えてもいいわね。幹部クラスは知っている事だけれど、はっきり言えば【蔑称】としての【コードネーム】なのだけれど……恐らく彼女は知らされていない様子ね。可哀想に……。
ちなみに、父の現【正妻】ヘーレはこの部署の出身。当時は【ガーネット】という【コードネーム】で活躍していた所を父が見初めて【娶られた】過去があったりするから、【所属職員】の中には【社長】の【愛人】ポスト狙いをしているものもいるとかいないとか聞いた事があるわ。余談だけど。
「……ええ、【ホワイト】ね、宜しく。私は……」
「【ヴァルゴ】さん、ですよねぇ??【お噂】はかねがね伺ってますぅ〜」
「今回の【仕事】は貴女と【タッグ】という事だけど……【準備】は大丈夫かしら?」
「ええ〜、大丈夫ですぅ〜!私の【魅力】があれば、【目標】なんてイチコロですよぉ〜♪」
「……それなら良いのだけれど。では、15分後に【仕事】開始、【時間厳守】で頼むわね」
「はぁ〜い♪♪」
浮ついた態度と甘ったるい口調により頭痛と苛立ちが強まったし、正直このまま帰りたいとまで思ってしまったけれど……振られた【仕事】は【遂行】しなければならない。
とにかく【仕事】を片付けることだけを意識して、私は彼女と【現場】に向かう事になった。
……その後、彼女の【スタンドプレー】があって、少々【現場】が荒れたけれど、概ね予定通りに【仕事】は【完了】したわ。
今は【会社】へ帰還している車の中よ……片付いて本当に良かったわ……。
私としては静かに乗っていたかったのだけれど、この【インプ】がやたらと話しかけてくるのよ……内容はどうでもいいので割愛するけれど、主に自分の自慢話だったと思うわ。聞くだけ面倒よね。
適当に相槌を打って流していたのだけれど、彼女は私の薬指の【指輪】を見つけたようで、よりテンションも高く話しかけてきたから、より面倒な展開になったのよ。車から叩き出してやろうかと思ったけど、他の人に迷惑かと思って止めておいたわ。【ゴミ】を増やしたら迷惑でしょう?
ちなみに、私と旦那の【結婚指輪】だけど、薬指の所に指輪状の【刺青】をお互いに彫ってあるのよ。万が一【仕事】中に落としてしまったらショックで立ち直れそうにないだろうし、同じ痛みを刻んだ事でより二人の【絆】が深まるって。旦那からの発案だったのだけれど、私もその時丁度同じような事を考えていたので驚いたのを覚えているわ。もしかしたら無意識に【読んで】いたのかもしれないけどね、ふふ。
「え〜!!?【ヴァルゴ】さんってご結婚されてたんですかぁ〜!?」
「そうよ。旦那とはもう6年になるかしらね」
「ええ!?もうそんなに長いんですかぁ〜!?ヤダぁ、ビックリですぅ〜!でも……【ヴァルゴ】さんでも引き取ってくれるような【奇特な】人がいたんですねぇ〜?」
「……それはどう言う意味かしら……?」
「えーだってぇ、【ヴァルゴ】さんってまるで男っ気ないじゃないですかぁ〜。【仕事】が恋人的な感じ??それにぃ、どうにも近寄り難い雰囲気MAXですしぃ〜??あと、そのぅ、女性的な【アピールポイント】が見当たらないって言うかぁ〜??その点ワタシってば、スタイルも顔も性格もイイから引く手数多な【優良物件】なのでぇ〜。選び放題っていうかぁ〜??あ!ウフフ、ごめんなさ〜い♪ついつい自慢しちゃいましたぁ〜♪」
会話の端々に私を見下していたり、妙に噛み付いている節はあると思っていたけど、ここまで露骨に言われるともう呆れを通り越して笑いしか起きないわね……。
恐らく、というか確実に、私を【煽って】いるつもりなのだろうけど、正直相手にするだけ時間が惜しい。今までにもこういった輩はいたから、【煽り】に乗ってしまうとそいつの思う壺だという事も知っている。
……私を馬鹿にするのは構わない、けどこの女は私の旦那を馬鹿にした。私がこの世で最も信頼し、愛している人を、この■■女は愚弄したのよ。それだけは絶対に償ってもらうわ……【絶対】に。
「……貴女が私をどう思っているのか、良く分かったわ……」
この場で【処分】してしまっても良いかと思ったけれど、【会社】まではまだ距離があるし、【ゴミ】と一緒に乗るのは御免だ。それに何より【汚れて】帰ると旦那を困らせてしまうから……得策ではないわね。
そう考えた私は、密かに構えていた【獲物】をそっと引き、冷静でいなければとこの場を流す事を決めた。
すぐに留めたつもりだったけど、私の漏れた【殺気】を感じたのか、彼女は一瞬怯んだ様子を見せたけれど、すぐに調子を戻してニヤニヤと話しかけてきた。多少なりともこの【仕事】に就いているだけはあると少し感心したわ。
「あ!?ヤダヤダ!?別に【ヴァルゴ】さんの事をディスっている訳じゃないんですぅ〜。率直な意見を述べただけですよぉ〜?お気を悪くしたならすみませんでしたぁ~」
言葉上では謝っているけれど、表情はニヤニヤと上目遣いの【煽り】そのものだった。
「まあ……別に構わないわ。貴女程度の戯言ならもう聞き飽きているから」
「な!?」
「それに旦那とは【想い合って】結ばれたの。別に他の誰からどう思われようが、私には彼さえいればそれでいいのよ」
「……っ、そ、そうですかぁ〜。さ、流石【ヴァルゴ】さん、お心が広いんですねぇ〜」
最後の私の言葉に、彼女は辛うじての笑顔で返してきたのだけど、悔しさか嫉妬か、笑顔はあるものの頬や口元、目の端が震えている様子が伺えた。あらあら、本音を言っただけだったのだけど……いけなかったかしらね?
彼女はその直後に【用事】を思い出したと、そそくさと車を降りていってしまったわ。降りた際の顔をチラリと見たけれど……随分とお怒りの顔で綺麗なお顔が歪んでしまっていて見るに耐えなかったわ。
これは私の勘と経験則から思う事だけど……少し【警戒】した方が良さそうね。彼女如きが大した事は出来ないだろうけど、【念の為】旦那にも伝えておこうかしらね……。
彼女がいなくなった後は随分と車内が静かになった。ただ、香水の匂いだけがしつこく残ってしまっていて、流石のアンノも随分苦い顔をして運転していたわ。
私はアンノへの今日のチップを多めに渡すと決めた。車内と服のクリーニング代と迷惑料を上乗せしてね……。
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【同日、とある裏路地にて】
「……何なのよあの女……ワタシよりブスのくせして、【ゾディアック】の一員だからってお高く止まりやがって……ワタシの【煽り】にも乗ってこないし……その上【惚気】で返してくるなんて……ムカつく!!!」
ワタシは半年前までは一介の【娼婦】だった。だけど、とある人物がワタシの【才能】を見抜いて【会社】にスカウトされてから、人生が大きく変わった。
男を落とすなんてワタシにとっては【朝飯前】。息をするより容易い事だもの。
【指示】を受けて【目標】の男を【落とす】だけで、今までの何倍も何十倍も金が入ってくるの。それに【秘密のコネ】もゲット出来て余計に潤っているし。本当に天職だって思っているわ。
スカウトで入社してから約半年で【ホワイト】という【コードネーム】も授かった。でも、ワタシはこの【コードネーム】は大嫌いなの。だってもっと相応しい【名前】があるんだもの。
「本当なら【ヴァルゴ】の名前は誰よりも美しいワタシが相応しいのに……何であんなブスが名乗ってるのよ……ありえないわ!!!!」
ワタシが【カサノヴァ】に所属しているのは、ただの腰掛けでしかない。もっと高みにいける【才能】があるの……それが幹部クラス【ゾディアック】の【乙女座】の位置。あの女には美しさの欠片もない、ワタシの足元にも及ばないブスなんだから!
「ああ、そうだわ……なら【奪って】しまえばいいのよ……!あのブスから何もかも!!」
【この世界】では【下剋上】は日常茶飯事。例え【上司】だろうが、【消して】しまえば周りも文句は言えまい。むしろ自分の【実力】を示すには、願ってもない機会ではないか。
「……まずはあの女の【旦那】を【落として】、【手駒】にしちゃえばいいわ……その方があの女にもひと泡吹かせる事が出来るでしょうしね……ウフフフフ……今に見ていなさい、ブス女!!ワタシの事を見下した罰よ……【ヴァルゴ】の座も何もかも、全てワタシのものにするんだから……!!!!」
【ヘーレー・リーデッド】
フィフィの父、デウスの現【正妻】。色事専門部署【カサノヴァ】出身。
60代後半ながら、見た目は30代という絶世の美魔女であり、異性・同性問わず魅了してしまう特性を持っている。
継子であるフィフィや婿養子であるジグの事を自身の子供のようにとても可愛がっており、困った際のサポートも進んで行ってくれる事から【夫婦】に取って【信頼】出来る人物の一人。
夫のデウスの事は【盲信的】に愛しており、献身的に彼を妻として支えているが、彼の【浮気癖】は一切認めておらず、近づく女性には猛烈に【嫉妬】し、【復讐】する事も厭わない。
結婚を機に現役は引退したものの、過去の実績を買われ【カサノヴァ】の【指南役】として、【会社】にも籍を置いている。