#6 【夫婦】と【義父】
只今の時刻は間もなく17時。
……おっと!?夕食の準備をしなくては……!
時間を確認した俺は家事の合間に遊んでいたTVゲームを終わらせて、いそいそとキッチンへ向かった。
いやぁ……ゲームは楽しいけど、集中してるとついつい時間を忘れちゃうのが問題だよねぇ。妻にもやり過ぎはいけないって度々釘を刺されているし……続きはまた明日にしようっと。
キッチンに着いてからは、まずは食材の確認っと……キャベツとポテトとベーコンがあるねぇ、ああタマネギとニンジンもある……今日はポトフでも作ってみるかなぁ〜、野菜も肉類も摂れるからね。
メニューも決まった所で、さて!と、腕まくりで気合を入れて、包丁を手にとったその瞬間だった。
ピピピ、ピピピ、ピピピ……と、リビングの方から響くスマホの着信音。
この音は電話だろう、と俺は料理の手を止めてリビングへ戻った。
「んあ?電話……??こんな時間に珍しいなぁ……?」
俺の番号を知っている人物は限られている。妻とそれ以外はほんの数人だ。妻は【機械音痴】ということもあって余程のことがない限り、自分から電話を掛けてくることはない。俺としてはいつでも彼女と話したいっていう下心もあって、使い方を一通り教えてはみたんだけどね、上手く動かせなくってイライラしちゃうっていわれちゃってさ。残念だけど、そんな不器用な所も可愛いよねぇ……ははは♪
「はいはいっと……!?」
画面に表示されている名前は、残念ながら妻ではなかった。つまり【それ以外】の人物。
ついでに言うと、悪い人ではないと思うんだけど、俺的には極力関わりたくない人物なんだよねぇ……。
「ああ、もうそろそろ来るとは思ってたけど……はぁぁ……」
どうにも心境的に出るのを躊躇ってしまい、少し放置していたけど……残念ながら鳴り止まず。
うーん……これ以上放置しても、今度は違う【問題】が発生しかねないねぇ……仕方ない、出るかぁ……うげっ。
深呼吸の後、意を決して、着信ボタンを押し、そっと耳元へ。
「……はい、もしもし……?」
『……随分と出るのに時間が掛かっているんじゃないかね……なぁ【婿殿】??』
「ああ、【お義父さん】!ご無沙汰しております〜」
なかなか繋がらなかったことに苛ついていたのか、通話口からはいつもよりワントーン低い声が聞こえてくる。わー怖い怖い。
そう……今回の電話の主は俺の【義父】、デウス・リーデッド。
表社会では某国有数の貿易会社【RDユニオン】を経営する実業家、裏社会では暗殺請負組織【会社】の【社長】として、表裏どちらの世界にも多大な影響を持ついわゆる【ゴッドファーザー】なのよ。二つ名は【帝王】。普段は温厚な好々爺じみてるんだけど、逆らったものは文字通り【この世から消す】ような冷酷さもある人なんだよねぇ。
俺のことは【自分から愛娘を盗った不届者】って認識があるみたいでさぁ、彼女と別れさせようと何かと【策略】してくる【親バカ】なんだよ……まあそんな【策略】如きで離れるような俺達じゃないから、全て不発に終わってるんだけど。むしろ、乗り越える度に二人の愛は深まってるとも言えるね、へへへっ♪
『……まさか、私からの着信だと分かって取らないように無視していた、と言う訳ではないだろうね?』
「あっはは〜、そんなはずないじゃないですか〜。夕食の支度中だっただけです。それで気付くのが遅れてただけですよ〜?」
おっと、バレてたか。この爺さんはそういう【読み】が神懸ってるからなぁ。気をつけようっと。
『……ふん、実はどうだか分からないが……今回はまあ良かろう……』
俺の答えにとりあえず納得したようで、先程よりはまだ穏やかな声色が返ってきた。
「それで……今日は何の御用ですか、お義父さん?」
『まあ……用というほどのものではないんだが……その……娘は元気でやっているかね?』
「……フィフィの様子であれば、お義父さんの方が詳しいのではないですかねぇ……同じ【会社】で働いている訳ですし?」
『……全く君は相変わらず意地が悪いな。私が聞きたいのは君の【妻】としての娘のことだよ……!』
「ああ!?そっちですかぁ〜!?」
ややオーバーなリアクションで返事を返すと、電話口の向こうで小さく舌打ちする音が聞こえた。ちょっとー聞こえてますけどー?
まあ……実の所、電話が来た時点で分かっていたんだけどねぇ。というか、この爺さんが【娘】のこと以外で掛けてくるなんてありえないって言ってもいい。だって、親バカ過ぎるからね。
半年に一度ぐらいのペースでこういった電話が来るんだよねぇ。俺は一応【婿養子】ってことになってるから、彼女の親としての義理はあるし、面倒だけど無視する訳にいかないしね……。
俺に聞かずに本人同士で話せばいいと思うんだけど、妻がお義父さんのこと明らかに避けているらしいんだよね……昔から【過干渉】が過ぎていた所もあるらしいから、当然の結果とも言えるかな。
「そうですねぇ……何を話していいか迷うんですが……?」
『……どんな些細なことでも構わんよ。良かったら聞かせてくれないか?』
俺が彼女の【日常】の様子をぽつぽつと話していくと、義父はふむふむと相槌を打ちながら聞いていた。先程の苛立ちはすっかり鳴りを潜めたようで、その声色は嬉しそうで、子を思う父親の穏やかなものを感じた。
全く……いつでもこんな態度でいてくれれば助かるんだけど。ついでにそろそろ俺のことも【認めて】くれると更に助かるんだけどねぇ……まあ深くは望むまいって感じだね。
「ああそうそう、直近だと……【フロッギー・サーカス】に泊まり掛けで行きましたよ〜。あの【プラチナチケット】ってお義父さんからのご厚意だったんですよねぇ?いやあ〜楽しい数日間を過ごせました〜!あ、この間【お土産】を送りまして、もう届いているとは思うんですが……ご覧になりました?」
『ああ、君は気付いていたか。なかなか【父親】らしいことの一つも出来ないのでね……楽しんでくれたのなら何よりだよ。そういえば、数日前から庭先に妙な物が増えたとは思っていたんだが……あの【奇妙なオブジェ】は君たちからの土産だったのかね……!?』
おっ??ようやく【お土産】に気づきましたかぁ……!?
俺は内心ほくそ笑んでいた。てか笑いが堪えきれずに吹き出しそうになっていたよ。危ない危ない。
先日の旅行で泊まったホテルのオーナーさんから、何故かマスコットキャラクターの【フロッギー君】のきぐるみを貰ってしまったんだけどさ、残念ながら我が家に置いておくには場所がなかったんだ。それなら【実家】に送れば?って妻が話してくれたんで、俺の【能力】を使って【一工夫】加えてから、【お土産】として妻の実家の庭に届けておいたんだよねぇ〜。あはははは!!【サプライズ】大成功〜♪♪
「そうですよ〜。ああ、ついでに【会社】の【競合】の誰かさんが良からぬことを考えているのを偶然【見つけて】しまったので……一緒に【まとめて】おきましたよ?」
『……何?一体何処にあるんだね?』
「その【お土産】の中ですよ?開ければ分かりますって〜」
俺の言葉に何か悟ったのか、慌ててマイクを離して、誰かに指示を飛ばしている様子の声が電話の向こうから聞こえる。そうそう、【早く】見た方が良いかもですよ〜?
それから数分後、義父の声が帰ってきた。その声には驚きと焦りと悔しさが隠せていない様子があった。多分、嫌いな俺に借りを作ってしまったという負い目があるんだろうねぇ……プライドが高いと色々と大変ですなぁ。
『……【土産】の件だが、先程部下に確認させた。……確かに何やら【オマケ】が付いていたようだな。二人には面倒を掛けたようだ……すまないね……』
「いえいえ〜。【婿】としては当然のことをしたまでですよ?」
『そうかね……この件はまた後日礼をしよう。何か【望み】があるかね?』
「ははは、別に礼が欲しくてやった訳じゃないですから……お構いなく。まあ、でも、強いて言うなら……」
『……何だね?』
今回の【オマケ】が付いたのは本当に偶然だったから、別に見返りが欲しいとは思ってないのは本心なんだ。それは彼女も一緒。
でもね、【望み】をって言うぐらいに、この義父は本当にプライドの塊みたいな人だから、どうにかして優位に立ちたいって魂胆が見え見えなんだよね。
まあ折角だし、この機会に少〜し【ご進言】差し上げようかね……婿としてね。
「……妻の【仕事】をもう少し減らしてもらえると助かりますねぇ。いくら彼女が有能で【指名】するお客が多いって言っても、退社後や休暇中も【呼び出し】があっては……フィフィが消耗するばかりですから……」
『……それは私にとってなかなか耳の痛い話だが……』
「夫として彼女の【仕事】のことは理解しています。彼女のおかげで今こうして俺は【平穏無事】に暮らせているわけですし、彼女を支えることに何の不満もありませんよ?ですけどね……最近じゃ夜も急な【仕事】も入るし……大切な、貴重な【夫婦の時間】が中断したことも何度もあるんですからね??」
『ふん……言い方は悪いが、たかだか主夫の君より、フィフィはより重要な【役割】を担っているからだ。彼女が動かなければ我社にどれだけの【損害】が出るか……。その為なら、君達の【時間】など些細なことだろうと思うがね……?』
今の義父の【発言】に、俺は言葉を失ってしまったが、瞬時に沸騰する感情。
嫌いな俺を見下すのは結構。ただ……妻を【会社の駒】としてしか見ていないその意識……貴重な夫婦の【時間】を些細と軽んじる態度……これは【怒って】いいよな、むしろ怒らないはずがないよなぁぁぁぁぁ!!!?
『……ん?どうしたかね……婿殿?』
急に無言になった俺を不審に思ったのか、義父は少し心配したような声色で声を掛けてきた。
俺は受話器の向こうにも聞こえるような大きいため息をついた後、まずは怒りを込めつつも静かな【声色】で話し始めた。クソジジイがよぉ……とりあえず、言いたいことは言わせてもらうからな……!!!
「あーあ……お義父さんはそう言うお考えでしたか……残念ですよ。それなりの雰囲気になってる時に、俺も彼女も【準備万端】だった時に、下手すれば【最中】に……行かなければと悲しげに離れてしまう愛しい彼女の【感触】……その後の何とも言えない微妙な【空気】……そして彼女が行ってしまった後の俺の心情たるや……分かりますか、お義父さん……!?」
『……お、落ち着き給え、婿殿……。私が何か失言をしてしまったようだが……ここは穏便にだな……』
俺の今の心境を悟った義父は慌てて宥めようとするが、時既に遅し。
……【何か】って言ってる時点で、悪いと思ってねぇってことだろうが!!!プッツンキレた俺は【反撃】に移ることにした。
「……いいえ、この際だから言わせて頂きますよ!!アンタは自分の娘のことを何だと思ってるんだ!【会社】の都合だか事情だか損益だか知らねぇけど、彼女は俺の【妻】なんだよ!!アンタの【駒】じゃない、俺だけの【女】なんだよ!!!彼女はどんなに忙しくても必ず【我が家】に帰ってきてくれる……それは【夫婦の時間】を少しでも長く取りたいっていう彼女の【強い願い】があるからだ!!!愛娘の【希望】を親のアンタが【潰してる】んだよ!!!いい加減気付けよ、馬鹿親が!!!!!」
『お、落ち着きなさい!い、いくら娘のことを思っているからと、親の私に向かってなんて言い草を……!?』
ん!?おっと、ついついヒートアップして口が悪くなってしまった……一旦、深呼吸っと。
「……口が過ぎたようで失礼しました、お義父さん。でも最近の彼女の【仕事】の様子には、夫として心を痛めているのは事実なので。……彼女の【親】でなければ、とっとと【消し】てます。でもそうしないのは曲がりなりにも俺がリーデッドの【婿養子】だからです。でも何なら今から【お伺い】して【直接】【お話】しても構いませんけど……どうされます?」
『い、いや……君の考えは伝わった……私が君達の心情も考えずに、また発言に気を付けるべきだった……申し訳なかった……』
「いえ……少しでも分かって頂ければ助かりますよ、お義父さん」
……いや〜、言いたいこと言うとスッキリするねぇ〜!!
まあ面と向かってさっきの【発言】聞いてたら、多分【殺ってた】だろうし……電話で良かったなぁ〜。
あー……このぶっちゃけついでに【オマケ】も言っちゃおうかなぁ〜!?
「……本当ですかぁ〜??俺と違って、お義父さんは【相手】なんか選び放題だし、時間も場所も【関係なし】ですもんねぇ〜??そんな【持ってる】人には、たかだか小物の俺の心情なんて、理解しようがないと思いますけど〜???あ……そういえば今の【正妻】様に【浮気】になるから【お遊び】は禁止されているんでしたっけ??いやぁ〜俺としたことがとんだ【失言】でしたかねぇ……申し訳ないです〜!」
『くっ……君が何故その【極秘情報】を知っているんだ……!?このことは夫婦以外には伝わっていないはずだが……!?』
「あはは、【ソース】は秘密です〜。ああ、この電話を掛けてらっしゃる【今】も、実は【別宅】にいるってのも知ってますよ〜??で、【今】お義父さんの隣にいるのは……一体【誰】でしょうかねぇ??【ミランダ嬢】ですかね?それとも【スワード婦人】ですかねぇ??何なら【お義母さん】に今からお伝えしても構いませんが〜??」
『そ、それは!?それは勘弁してもらえるか!?な、なぁ……婿殿!?』
先程の激怒モードから一転、煽りモードに移行した俺の【特大爆弾】にまたも慌てふためく様子の義父。
ふっふっふ……俺の【情報網】を舐めてもらっちゃ困るねぇ〜。実は他にも素敵な【爆弾】を用意してるんだけど……それは次回以降の【投下】にしてやろうかね、へへへ。
義父の現在の【正妻】はとても【愛情深い】が非常に【嫉妬深く】、【束縛癖】、【監視癖】が強いことで知られていて、誰からも畏怖される【帝王デウス】であっても、まるで歯が立たない女性なのだ。俺のことは【婿養子】に入った時から、妻共々可愛がってもらっているのだよ……最強の後ろ盾があるって安心だよね〜。
さしもの義父も【正妻】の名前を出されては敵わなかったらしい。
『……わ、分かった……!娘への……【ヴァルゴ】への【依頼】の頻度や時間に関しては、十分検討する……!こ、これで満足かね……!?』
「ははは、ご理解頂けて幸いです。夫として妻を案じるのは義務ですから!くれぐれも宜しくお願いしますよ、お義父さん?」
その後、狼狽える様子の義父を無視してブッツリ電話を切った。
あーもう全く……下らない電話のせいですっかり時間が取られてしまった……早く料理に取り掛からないとね!!
ああ、フィフィ……早く帰ってこないかなぁ……あの義父との対話で荒んだ俺の心に癒やしが欲しいなぁ……ぐすん。
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今日の【仕事】も全て片付いたので、今は自分のオフィスで一人【報告書】の入力中。
未だに慣れないパソコンに四苦八苦しつつ、少しずつ内容を入力していく。
本当は【部下】に任せても構わないのだけど、それでは【習得】できないと思ったので、苦手だけど何とか頑張っているわ。【部下】も【同僚】もそれなりにサポートしてくれるし、以前よりは進歩はしている……はずよ。
数十分の格闘の末、ようやく【報告書】の入力が終わった。……今日もなかなかの戦いだったわ……!
【報告】さえ終わってしまえば、あとは帰社するだけ。
デスク周りを整えつつ、明日の【予定】を確認していた時、ふと旦那から【おつかい】を頼まれていたことを思い出したの。
「そういえば……帰りにコーヒー豆と……あと1つ何かを買ってきてって旦那に頼まれているのよね……えっと、何だったかしら……??」
出勤の時に【メモ】も貰っていたのだけど、何処かに入り込んでしまったか、落としてしまったか……どうにも見つかりそうにない。あら、困ったわね……。
とりあえず何とか操作して彼に電話を掛けてみたのだけど……コール音が続くばかりで一向に繋がらない。
もしかしたら、料理中で気付いていないのかもしれないわね。でも、繋がらなくて残念だわ……。
一旦、旦那への確認は諦め、また時間をおいてから電話しようと思った私に【部下】から『急ですが【召集】のようです』という【連絡】があった。
呼び出した主は、【会社】の最高権力者、【社長】だそうだ。
すっかり帰宅モードになっていた私は、出鼻を挫かれたような思いで、内心うんざりとしてしまった。
このまま聞かなかったことにして帰ってしまえばとも思ったが、相手が相手だけにそれは得策ではないだろう。
全く……こんな時間に【呼び出す】なんて、どうせ大した理由もないくせに……面倒だけど行くしかないわね……。
【部下】にこれから向かうと【伝言】を頼み、私は浮かない気持ちのまま【社長】の元へ向かったのだった。
【社長】は昔から多忙であり、幹部クラスの【ゾディアック】ですらそうそう会える存在ではないのだけれど、【身内】に限っては急な【呼び出し】が時々あるのよ……正直嫌だけど。
【会社】の33F。社長室のドアを軽くノックし、静かに入室する。
ワンフロア1つながりで大きく開けた部屋の中心に、重厚な木製デスクが一台。そこには私を呼び出した張本人が黒革のビジネスチェアに悠々と腰掛けていた。
「……お呼びでしょうか、【社長】」
「おお、よく来てくれたな、【ヴァルゴ】……いや、フィフィよ……!!」
【社長】……いや私の【父親】、またの名を【帝王】デウス。私が【世界一嫌い】な人物。
白髪のオールバック、整った顎髭、穏やかそうな好々爺じみた表情、70代後半ながらも体は細く健康的に引き締まって、背筋はピッと伸び、私と同じ紫の眼光には老人ではなく獲物を探す荒々しい獣の気配が潜んでいるようにも思える。実年齢より若く見られるのが自慢らしいわ、補足だけど。
彼は私の顔を認めると、椅子から立ち上がり、デスクの前に素早く立つと、おもむろに両腕を広げて笑顔で私を近くへと招いているようだった。
そのポーズを受けて、私はここで結構ですという意味で片手をスッと前へ。それを見た父は少々拗ねたような表情を浮かべながら、やれやれと言ったように両腕を静かに下ろしてみせた。
「ふん、相変わらずつれないな、お前はという奴は……!」
などとブツブツ呟いているのが聞こえたけど、父の機嫌なんて正直どうでもいいわ。
兎も角、私は早く帰りたいのだから……こんな所で足止めを喰っている場合じゃないのよ……!!
「……私、もう退勤の時刻でして。急用でなければ、今すぐに帰宅したいのですが?」
「む……そう言うな、我が娘よ。勿論、用があったので呼んだのだよ……」
「であれば、お話頂けますか?本日は夫に頼まれていることもありますし、今も家で待っておりますので」
「相変わらず取り付く島がないな、お前は……。たまの【親子】の会話ぐらい……なぁ?」
「特にお話出来る事柄もありませんので……」
「いやいや、そんな急がなくても良いではないか……【婿殿】とは毎日会っているのだろう?私は久し振りにお前の顔を見れたんだぞ?ならば、こちらを【優先】させてくれても罰は当たるまいよ……」
苛立ちが急スピードで募っていく私の心中も知らず、何とか引き留めようと必死な父。はぁ……実に見苦しい展開だわ。
ここは引導を渡さねばならないだろう、娘としてはね。
「以前から何度も申し上げておりますが、私にとって何よりも【最優先】は【夫】です。間違っても【父親】ではありません。それでは、用も済んだようですので……失礼させて頂きます」
【身内】とはいえ、ここでは【上司】だ。狼狽える様子の【社長】に軽く一礼をした後に、私は速やかに出口に向かって身を翻した。
全くもって貴重な時間を無駄にしたわ……と内心が大いにモヤついてしまっていたのだけど、折角の機会だから一つ確認したいことがあったのだったわ……!
「ああ、そうでした……一つ伝えたいことがありました……!」
出口に向かう足を止め、再度振り返る私。そして、父親の顔をじっと睨みつけるようにまっすぐ視線を向けた。
「!?な、何だね!?この父に言ってみなさい!」
「では……先日は【長期休暇】を頂き、感謝しております。おかげで夫との時間を多く取ることが出来ましたので、休暇をより楽しむことができたと思います」
「そ、そうか……それは何よりだった……!」
「ですが……一つとても残念なことがあります」
「残念……とは??」
「私は【休暇中】にも関わらず、何故か【任務】が【受注】されていた件です。今回は夫の協力もあり、幸い問題なく【完了】出来ましたが……。何故あのタイミングで【呼び出し】があったのか……その点だけは【非常に不満】でした」
「な……何かシステムの異常だったのではないかな……?それか、君が【休暇中】であることを知らなかったものの仕業かもしれないな……??」
「結論から申し上げますと、【社長】が先程仰った【仮説】はありえません。何故なら、私が【休暇】を決めた日とに入る前日には、【同僚】達にも【部下】にも【通達】しておりました、確実に。念の為ですが、先日の【休暇明け】には、彼らに【聞き取り】をしましたが、誰も私に【任務】を流したものはおりませんでした。そして、ここ半年間【システムの異常】はなかったとエンジニアから確認が取れております」
「そ、そうか……不思議なこともあるものだな……?」
そう。この間の【アクシデント】を仕組んだのは、誰でもないこの【父親】。大方、私達の旅行を【邪魔】してやろうという妙な考えがあったからよ。
ここまで【証拠】を述べても、シラを切って逃げようとする父親。いっそのこと、正直に【認めた】方がまだ心証が良いのだけれど……この人にそれを求めるだけ無駄よね。
「……敢えては申しませんが、恐らく【上層部】の【誰か】が【意図的に】そうしたと考えられます……どう思われますか、【お父様】??」
「そ、それは……」
「今後このような【イレギュラー】がある場合には、私も【徹底的に抗戦】させて頂きますので……そのつもりでご了承下さいね、【社長】?」
最後に少々の【威嚇】と【警告】をした上で、今度こそ私は社長室を後にした。
言いたいことの一つが言えたので多少なりとも溜飲が下がった思いだわ、ふふふ。
さてと、【おつかい】の内容を早急に確認しないといけないわね……とりあえずアンノに頼んでスマホを操作してもらう所から始めないといけないわ……ああ、本当に機械は嫌いよ!!
その後、アンノさんの助けもあり、フィフィは無事に【お使い】を聞くことが出来たようです。
ちなみにもう1つの内容は、マーマレードジャムでした。
コーヒーと合わせて、リーデッド家の朝の必須アイテムだったようです。