#5 【旅行】と【アクシデント】
今日も【仕事】が終わって帰宅中の私。
実は……少々浮かれているの。何故って??珍しく【会社】で良い事があったのよね、ふふっ♪
いつもより足取りも軽くて、思わず勢い余って玄関のドアを蹴破ってしまったぐらいよ。それは……後で直しておかなくてはね……。
旦那はキッチンで何やら調理中……ふむ……漂う香りからするに……カレーかしら……?
「ああ、おかえりフィフィ!今日もお疲れ様〜。今夕食出来上がったばかりなんだけど、すぐ食べるかい??」
「ええ、ただいま、ジグ。折角だから頂くわ……」
彼が用意してくれていたのは、タンドリーチキンソテーとマッシュポテトのサラダ、コンソメスープと主食には珍しくライスが付いていたわ。若干予想は外れていたけど、これも美味しいのよね。
食事中は普段通りに会話して……ちゃんとドアの件は謝ったわよ。誠心誠意、ね?
「あはははは!今日はまた大胆に壊したねぇ!まあすぐ直るから大丈夫だよ〜」
ドアの様子を見に行った旦那は怒らず爆笑していたわ……本当おおらかな人……。
ドアの修理も終わった彼がリビングに戻ってきたタイミングで、私は先程敢えて伝えていなかった【吉報】を伝える事にしたのだった。
不思議がる彼をソファーに座らせて、その隣に腰掛ける。
「ねぇ、ジグ。急な話なんだけど……二人で旅行に出かけない?」
「んあ?確かに随分急な話だねぇ……どうしたの??」
突然の私の提案に首を傾げる彼……ふふ、予想どおりね。彼の反応を確かめた後、私はリビングにおいてあった仕事カバンからある封筒を取り出して彼に手渡す。
「……開けてみて?」
「えー??何々??……んん!?こ、これは……!?」
彼はワクワクした様子で手渡した封筒を開いて中身を確認した瞬間……驚いた顔で飛び上がった。彼の場合文字通り【飛んで】しまってたけどね。
天井近くまで【飛んで】しまった彼は、封筒とその中身を両手に持って眺めながら、未だ驚いた表情で呟いていた。
「こ、これは……【フロッギー・サーカス】の入場券!?しかもペア招待券で3日間のフリーパス……それに宿泊付きじゃん!?これは……プラチナチケット級のレアもの……!?い、一体こんなもの何処から……!?」
そう……私が差し出したのは、某州の海沿いにあるテーマパークのチケット。その名も【フロッギー・サーカス】。
貰った際に伝えられた文言は……【某国中の誰もが羨む素敵な夢の国!海風が薫る理想郷!50以上のアトラクションが君を待っている!マスコットのフロッギーも君の来るのを待ってるよ♪】……だったかしらね。
私はあまり知識がなかったのだけど、旦那の話では自国民だけではなくて外国からも観光客が来るような世界的に有名な観光スポットらしい。ただ、入場料が結構お高いらしくて、そうそう気軽に行けるような感じではないのだとか。それを聞くと旦那の驚きようも納得だわ。
「今日ね、【会社】で表彰式があったの。それで……今期の【最優秀賞】に選ばれたみたいで、それの【副賞】でこれがついてきたのよ」
定期的に【最優秀賞】の表彰があるのだけど、私は今回27回目。最高43回受賞した【強者】もいるそうだから……私はまだまだって事。……でも挑戦し甲斐のある目標だと思わない??
ちなみに何故今回このパークのチケットが【副賞】かといえば、パークの運営会社が実は【勤め先】の子会社だから。密かに【会社】の保養所にもなっているのよ、余談だけど。
「す、凄いじゃないか、フィフィ!!流っ石俺の奥さんだよ〜!!」
彼は余程嬉しかったのか、私まで抱き上げて【飛び始めて】、しばらく【空中】ではしゃぎ回っていたっけ。私としてはこんなに喜んでもらえるとは思っていなかったから、少し反応に困ってしまった所はあるのだけど……貰ってきて損はなかったって事よね、良かったわ。
「それで、その……最近二人で出かける事も少なかったし……この機会に……どうかしら?」
「愚問だねぇ。愛する妻からのお誘いだよ?そりゃあ断る訳無いじゃんか!?ねぇいつから行く??何なら今からでも……!?」
「落ち着いて!?今からは流石に無理よ……」
私の提案を彼は興奮覚めやらぬ彼が畳み掛けるように言ってくるけど、どうどうとそれを制す。ここでしっかり抑えておかないと、今からでも本気で行きそうなんだもの……。
実を言えばね……私も行きたい気持ちは山々ではあったけど、明日や明後日以降も【仕事】が入っているから……その話を伝えると、はっと我に返ったように落ち着いた彼。
「そ、そうだよねぇ……俺ってば、君の都合も考えずについつい浮かれ過ぎちゃったねぇ……ははは」
「ごめんなさい……明日から早急に【仕事】の都合を付けてみるから……もう少し待っていてくれる?」
「うん!待つともさぁ!それじゃあ、フィフィの予定がいつ空いても良いように、俺は旅行の準備を整えておくねぇ〜」
「ええ、旅行の準備は宜しく頼んだわね、ジグ」
翌日から、私は夫婦旅行の日程を空けるべく【仕事】をハイペースで【片付けて】いったわ……。
一日でこなす量も多くなってしまったので、帰りもより遅くなってしまったから旦那からは相当心配されてしまったけど、これも夫婦の時間を作る為。
頑張ることが出来たのは、旦那が支えてくれたから。どんなに帰りが遅くなっても起きて待ってくれていたし、朝早く行かなければならない時も朝食や弁当を作ってくれたし、疲れた体にマッサージをしてくれたりと本当に尽くしてくれたの……泣きそうになるくらい嬉しかったわ。
少々地獄を見たけど……その後に待っている楽しみを思えば、何てことないわよね、ふふっ。
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連日の妻の頑張りもあって、夫婦旅行はあの話があった数日後に行けることになった。
思ったより早くて驚いたけど、帰ってきた彼女の疲れ具合を見るに相当無理をしたに違いないねぇ……心配はしていたけど、二人の時間の為にって頑張ってくれたことは感謝しても感謝しきれない。
この後は俺のターン。妻が楽しめるように精一杯務めるのが旦那としての俺の役割だからね!へへへっ!
疲労困憊の彼女が話すには、とりあえず1週間ほどのまとまったお休みが貰えたらしい。
とはいえ、休暇の前日は本当に歩くのもやっとの様子で帰って来たから、休暇初日は休養時間として家で休み、体調を整えてから向かうようにした。
俺の【能力】というか【体質】の1つに【自己再生】って俺自身の傷なり損傷を急速に回復するのがあるんだけど、俺の【一部】をあげれば、その人も一時的ではあるけど【再生】出来るんだよね。妻には昔使って【直して】あげた事があるんだ。それも使ったから身体的には疲れが取れたと思う。
あとは精神的な疲れだけど……【伝心】で彼女の精神に直接【癒やしのワンちゃん動画】を送ってあげたんだけど、何故か怒られちゃった。あ、妻は【ネコ派】だったのかなぁ……?
そんなこんなで一日休養したこともあって、翌日彼女はすっかり元気になった。ちなみに【伝心】の件で無言で【掌底】を食らってしまったけど、きっと照れ隠しだったと思うな、あはは。
今回の滞在先兼宿泊先には車で向かう事になった。片道5時間弱の予定。久々の遠出だから念入りに準備はしたんだよねぇ〜。
どうやら妻の【専属運転手】のアンノさんが善意から送迎を申し出てくれたみたいなんだけど、今回は遠慮させてもらった。彼にとっても折角の長期休暇で仕事をさせてしまうのは申し訳ないし、何より夫婦でいる時間を少しでも持ちたいっていう理由からね。この機会にアンノさんもしっかり休養してくれるといいねぇ。
平日の早朝という事もあって道が空いていたから、予定より1時間ほど早く到着。交代しながらの運転も結構楽しかったなぁ〜。
到着後はまずパークに隣接しているホテル【フロッギー・スワンプス】にチェックインして荷物諸々を預ける事に。
そしたら何故かホテルのオーナーが飛んで出てきて、彼に案内されて着いた部屋は最上階の13Fのスイートルーム。どうやらワンフロア丸々の作りになっているようで、豪華な家具が並ぶ広々とした室内にはバーカウンター・サウナ・岩盤浴・ミニシアター付き、開放的なベランダに出れば温水プールもある。なお同フロアには専属エステティシャンがいるエステサロン・これまた専属トレーナー付きのフィットネスジム・高級料理が24時間食べられるレストランもあるんだってさ。そして各種ルームサービスは無制限で使い放題……。
何かの間違いじゃないかと確認でオーナーさんに聞いてみたけど、俺等が泊まるのは間違いなくこの部屋で合っているってさ……そりゃあオーナーも直接案内する訳かぁ……我が家より確実に広すぎて持て余すこと必至だねぇ、これは……。
「あらら、至れり尽くせりとはこのことだね……ねぇフィフィ??」
「そうね……でも【実家】の方がもっと広いし……スイートならこれくらい普通じゃないのかしら?」
俺としてはとっっても落ち着かないけど、彼女は元々【名家】の出身だからそう驚くこともなかったみたいで、颯爽と部屋に備え付けのキングサイズのベッドに横たわった後、俺の方へゆっくりねだるような視線を向けながらも少々恥じらう様子でそっと囁いてきた。
「ねぇ……ジグ?ちょっと……【休憩】……しない?」
おっと、これはこれは……早速……楽しめそうだねぇ……はははっ♪
……で、ホテルで少々【休憩】した後は、いよいよ【フロッギー・サーカス】に向かう事になった。
ホテルからも見えてはいたんだけど、5分ほど歩いた先に見えてきたのはカエルの大きな口をモチーフにした形の入場ゲート。それを前に大いにテンションが上がる俺。我ながら子供っぽいと思ったけど、一度は来てみたかった場所だし、何より彼女と一緒に来られたんだ……テンションが上がらない訳がないよねぇ!!
「はははっ!!ここがあの【フロッギー・サーカス】……ついに来たんだねぇ!!」
「アナタったら……すこしはしゃぎ過ぎよ……もう……」
あまりこういう環境に慣れていないせいか、少々恥ずかしそうな彼女。うーん、恥じらってる妻もなかなかだねぇ……へへっ。
「ああ、ごめんごめん!久し振りに二人ってなったから、ついね!さ、行こうか!」
彼女と連れ立って入場ゲートをくぐると、前方に広がる中央庭園とマスコットキャラクターの【フロッギー】と仲間たちが据えられた大きな沼、その庭園を囲むように数々のアトラクションや各種施設が配置されている。遠くにはキラキラ輝く砂浜も見えて、海水浴も出来るみたいだ。
俺達と同じように、沢山の人達が次々と園内へ向かっていく。年代も国籍も様々でその人の流れは止まることはないし、どの人も期待と笑顔に溢れている。平日にも関わらず多くの人が訪れている様子はここが人気のスポットだと裏付けるものだろう。
「アナタが言っていた通り結構な人気の場所なのね……」
「そりゃあそうさ!大人も子供も楽しめる、一度は行きたい【夢の国】だからねぇ」
「私なんかが行って大丈夫な感じかしら……正直浮いている気がするんだけど……」
ちなみに今日の彼女の服装は俺セレクト。髪留めに白のレース付きカチューシャ、水色のハイネックセーター、紺色地に花柄膝下丈のフレアスカートに、肩から薄灰色のストールを添えて、足元はヒール高めのミュールサンダルを選んでみた。まあ俺の趣味で選んじゃったんで、彼女からは少々冷ややかな視線を向けられたりしたんだけどね……でもいいんだ!俺はそんな彼女が見たかったんだ!後悔はないのさ!
対する俺は白のスウエットパーカーに濃紺のダメージジーンズにスニーカー、【普通】が一番だからね。
思った以上の人混みに少々腰が引けている様子の彼女だったけれど、そっと彼女の肩に手を回して、
「やだなぁそんなことないよ〜。ここにいる誰より素敵で美人さんだからねぇ〜」
と声を掛けてみたら、俯いてしまったよ。あらら、照れてる照れてる。
「あはは……それじゃ行こうか?」
そっと彼女の手を取って、ゆっくり歩き出した。ほらさ、こんなに人がいたらはぐれちゃうかもしれないから、しっかり手を繋いでおかないとね〜!
「ん……ありがとう」
気づけば俺の手に彼女の細い指が絡まってより深く繋がる形に。あはは〜これは離れられないなぁ、なんてね♪
「うん、これではぐれないで済むね、フィフィ?」
「もう……ジグったら……ふふ」
……【外】から見た俺達は【普通】のカップル、いや、夫婦に見えているだろうか?
一瞬だけそんな思いが頭を過ぎったけど、隣でどことなく嬉しがっている彼女をみたら……そんな不安は消え去った。俺達は俺達、他は関係ないよねってね。
6つほどアトラクションを体験した後、一旦俺達は休憩しようという話になり、園内のカフェスペースに入った。俺がコーヒーと軽食を買って席に戻ると、彼女はそこにおらず……不思議に思って探してみると、少し離れた建物の影で誰かと通話中のようだった。よく見ると手には【仕事用】のスマートフォン……ちょっと嫌な予感がするねぇ……??
「ああ、フィフィ、ここにいたんだ?ちょっと探しちゃったよ〜」
通話が終わったのを見計らってからとりあえず素知らぬ振りをして、物陰の彼女に声を掛ける。気付いた彼女は何か罰の悪い雰囲気を出しながら、ゆっくりと振り返った。
とりあえず少し落ち着こうって事で、買ってきたコーヒーを手渡すも、彼女は受け取ってくれなかった。
「ジグ……ごめんなさい、【仕事】だって……」
「あらら……それは……残念だねぇ……」
やはり悪い予感は当たるものだ。全く……彼女は休暇中だってのに……【仕事】を振らないように出来ないのかねぇ……【■■会社】め……!
「えっと……他に近い【人員】がいないらしくて……引き受けてしまったの。でも大丈夫よ、【目標】がいるのはこの園内だから……見つけ次第【始末】するわ……!!」
「そうなの?ちなみにどんなヤツ??」
彼女は俺の問いかけに一瞬戸惑ったような表情を見せた。けれど、俺の考えを悟ってかそのまま振り切って行こうとしたので、咄嗟に腕を掴んで引き止めた。軽食とか色々落っことしてしまったけど、この際どうでもいいよな。
引き止められた彼女は、俺の手を振り払うことも後ろを振り返りもしなかったけど、冷静な、でもほんの少し震えた声で俺に伝える。
「……【仕事】だもの……いくらアナタでも手伝わせる訳には……」
「そう?この園内広いし、結構な人数が湧いてるし、情報があっても流石の君でも探すのに苦労するだろ?あと、今は【仕事】の道具も持ってきてないだろうしさ?俺なら【探せる】し、【道具】も作れるし!」
「それは……そうだけど……でも……」
「ははは、俺の体調の事なら心配しないで平気さぁ。まあ【実行】は君かもだけど、【サポート】ぐらいはさせてもらっても罰は当たらないと思うんだよねぇ〜」
「でも……そんな……駄目よ……ジグ……!」
そこまで言って、彼女はようやく振り返ってくれた。いつものポーカーフェイスも焦りからか崩れてしまっていた。
俺は一旦そんな彼女の様子は無視して、今の【思い】を正直に話した。
「フィフィの気持ちは【分かって】る、その上で話してるんだ。でもねぇ……久し振りで、楽しみに楽しみに待ち焦がれて、ようやく実現した夫婦の旅行を【邪魔】してきた訳でしょ?俺としては結構頭に来てるんだよねぇ……!!」
なるべく落ち着いて穏やかに話そうって努めたんだけどさぁ、考えれば考えるほどどうにも【怒り】がこみ上げてきて、【能力】の制御が怪しくなってきてんのよ。
その証拠に、バチバチと頬と指先に【電流】が流れ始めてきたし、片手に持ってたカップ入りのジュースが【凍結】してきたし、木や建物など周りのものが【念動力】の影響か振動してメキメキと砕ける音が静かに鳴り始めていた。近くにいた客の一部が地震かって少々ざわつき始めているようだけど……関係ないね。
「ジグ……アナタそんなにまで……?」
「うん……だからさ、【手伝い】させて。何なら俺が【処理】するよ」
俺の心中を分かってくれたのか、少し逡巡したような様子はあったけれど、最終的には彼女が折れてくれた。
「……分かったわ。ありがとう、ジグ。でも、アナタはあくまで【サポート】でお願い。私が【片付ける】から……」
「ありがと、フィフィ。【サポート】なら任せて〜!」
……その後??速攻で【片付け】たよ?
やっぱりね、夫婦で【協力】するとスピードが違うよねぇ。それに【普段】は見れない妻の【仕事】光景を少し見ることも出来たし、その後はパークを堪能したり、ホテルでは熱々の夜も昼も過ごせたし……今回の【アクシデント】も含めて旅行を楽しめたってことでいいかな、へへへっ♪