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#4 【外見】と【内面】

 今日は思ったより早く【仕事】が終わった。

 多少の雑処理はあったけど、お昼過ぎには帰宅することが出来た私。過去一番で早い帰宅かもしれない。

 と言っても、今日は【仕事】がキャンセルになったようなものなのよね……だって【目標】が牡蠣にあたって【中毒死】しちゃったんだもの。手間が省けて助かったけど、こちらの【仕事】で片付いた訳ではないから報酬もゼロだし……色々と【仕掛け】も整えていたんだけど、全部水の泡よ。そこだけは悔しいかもね。


 終わったことを気にしても仕方がないと気を取り直して、玄関のドアを開く。

「……ただいま、帰ったわよ」

 中に向かって声を掛けてみるも、今日は何の返答もなかった。明かりは付いているものの、妙に静かで、何だか違和感を感じた。

 いつもならここで旦那から返事があるのに……この時間に帰るのってあまりないから……昼寝でもしているのかしら?

 でも、もしかしたら……あの人また【能力】の使い過ぎで倒れてたりとか……まさか誰かからの【襲撃】とか!?

 旦那の異変かもしれないと思った瞬間、私の心を急激に不安と焦燥感が襲ってくる。自然と早まる足。リビングまでほんの数秒だっていうのに、何だか数時間に感じてしまうほど、変に混乱しきってしまっていた。

 慌ててリビングのドアを開けて、周囲を見回す。ドアは勢い余って取れちゃったみたいだけど……今はどうでもいいの!

 彼はすぐに見つかった。リビングにあるソファーの上に突っ伏して微動だにしていない。よく見ると背中が上下しているから、とりあえず息はあるみたいね……良かったわ……!

 ただ……彼の周囲は幾つもの氷柱と焼け焦げた跡と何か放電したような痕跡が残っていた。これは彼の【能力】によるものだろう、と私はすぐに理解した。

 ともかく事情を聞かなくては……それにしても随分と荒れてしまってるわね……修理が大変そう。

「……ジグ?」

 ソファーの彼に声を掛けると、少し間があってからだけど、ゆっくりと身を返して私の方を見た。

「……ん?ああ、おかえりフィフィ……今日は早かったんだね……」

 ちょっと元気はないようだけど、何とかニコッと笑ってみせてくれた。

 普段と違う様子に戸惑ったけれど、とりあえず平静を装いつつ、話を続けることにした。

「え、ええ、ただいま。今日は偶然【仕事】がキャンセルになって、帰って来れたのよ」

「そっかぁ……それは良かったねぇ。ああ、お昼ご飯食べるよね?準備するからちょっと待ってて……」

 部屋の片付けも俺がするからねと、フラつきながらも何とか体を起こした彼は、ゆっくりとぎこちない足取りでキッチンの方へ向かって行った。

 感情の機微に疎い私でも嫌でも分かるけれど、絶対何かあったのよね……ここまで【能力】が出てしまってるなんて、ここ最近はなかったことだもの。


 数分後、旦那が昼食を持ってリビングに戻ってきた。

 ホットサンドにサラダとスムージーを二人分。今日は見た目も綺麗で美味しそうだわ。

 片付けはとりあえず後にと、二人で昼食を食べることにする。

 ただ、いつもなら良く話す彼が黙ったままで逆に何だか落ち着かないのよね……そうだ!思い切って何かあったか聞いてみましょうか。

「ジグ……私がいない間に何かあったの?」

「んあ……あったと言えばあったんだけど……」

 その後も歯切れの悪い彼の言葉に若干不安を感じたものの、話して欲しいって暫く旦那の目をじっと見つめ続けたら……観念したようで話し始めてくれた。少し怯えていたようにも思えたんだけど……気の所為かしらね。


「実はさぁ……」

 彼が話してくれたことは、今日の朝に我が家の向かいに住んでいるフロム家との間にあった出来事だった。

 向かいのフロム家は30代前半ぐらいの同年代の若い夫婦で、私達とほぼ同時期に越してきていた。確か3年ほど前にお子さんが生まれていて、奥様がお子さんを連れて散歩をしたり、夫婦で家の前で遊ばせている様子があったと記憶している。私自身はあまり接点はないのだけれど、旦那は挨拶や多少の世間話をするぐらいの縁があるようだった。

 ……時間は今日の朝、私が出勤した後まで遡るらしい。

 偶然外に出た際に、散歩帰りのフロム家の奥様とその娘さんに遭遇、旦那はご近所さんに挨拶をしようと近づいていったらしいのだけど、娘さんが旦那の顔を見るなり何故か大号泣。奥様からは最近人見知りが激しいのでと謝ってくれたそうだけど、旦那としては予想外の展開になってしまったことで結構なショックを受けて、家に引き返して……今に至ると言う話だった。

「……そんなに俺って怖いのかなぁ……うぅ」

 なるほどね……旦那としては普通に挨拶をしたはずが、まさか泣かれるまでとは思っていなくて、それで物凄くショックを受けていたってことよね……。感情や精神の揺らぎがあると、【能力】の制御が不安定になると以前言っていたから、今日の惨事はそれが原因。合わせて言えば、元気がなくふらついていたのは意図せず発動していたとはいえ【能力】を使いすぎたから。……私の心配の一部は当たっていたようね。


「……私はそうは思わないけど?」

 普段なら気にしなければいいとすっぱり言ってしまうのだけど、先程の旦那の落ち込みようを見ていると、それは得策ではないように思えた。だから、今回は私なりに励ますように言葉を掛けるようにした。

「そ、そう!?フィフィだけでもそう言ってくれると救われるよ〜」

 少し元気が出たようで、表情も明るくなってきた気がするけど、彼はまだ何か引っかかっているみたいで、眉根を顰めながら不満げに話した。

「でもなぁ……俺の何処が怖いのかなぁ……外にいる時はそれなりに気を使って愛想良くしているつもりだし……でも、お向かいの娘さんだけじゃなく、これまで結構な人数に言われてきているんだけどさぁ……?」

 そう……彼の抱える悩みの一つに【外見】がある。

 私は一向気にしていないことだけれど、

 ・生まれつきの銀髪(髪型はショートレイヤーよ)

 ・常時眠ために見えるタレ目のオッドアイ(赤と青の瞳よ)

 ・鋭めの八重歯持ち

 ・身長190cm台のわりに結構な痩せ型(本人は中肉中背と言い張っているけど)

 ・タトゥーかと間違えられるほど取れない目の下の()()

 ・あまり外に出ないはずなのに程よくこんがり褐色の肌

 ・両耳にしているピアスの多さ(恐らく両方で15箇所以上開けていると思うけど、これは彼の【能力】の制御に必要だから外せないもの)

 ……等々の要素が合わさると、【普通】の人には【堅気】の人ではないって感じるらしくて……不思議よね。

「そうね……【普通】の人には少し威圧感とかがあるのかもしれないわ」

 少し考えてから、私はそう当たり障りのない答えを返すと、彼はそれに若干ショックを受けたようで……涙ぐんでしまった。そんなつもりで言ったわけではなかったのだけど……失敗だったかしら?

「へ?い、威圧感なんて俺出した覚えないのに……ぐすっ」

「やだ、落ち込まないでよ……。ほら、アナタって結構背が高いじゃない?身長の低い人にとってはプレッシャーになるっていうし……特に小さな子だとそれだけで怖いって思うこともあるって聞いたことがあるの……」

「な、なるほど……それはあったかもしれないなぁ……。じゃあ今度は目線を合わせて話せばいいのかなぁ?」

「その方が安心感はあるかもしれないわよ。あとはそうね、ゆっくり穏やかに話してみるとか」

「ほうほう、話し方も気をつけた方がいいのか……」

 以前だけど、子供のいる【同僚】からそんな話を聞いた覚えがあったので、思い出しながら彼に伝えてみた。

 彼は興味津々で何度も頷きながら前向きに聞いてくれていたけど、何だかその様子が子供みたいだと内心微笑ましく思ってしまったわ。


「もし手っ取り早く好感度を上げたいのなら……何かプレゼントをしてみるとか、かしら」

「プレゼントかぁ……あの位の年頃の子って何が好みなんだろうねぇ……?」

 私達はお互い子供時代の境遇は散々だったから、【普通】の子供たちの好きなものとか遊びとかに全く縁がなかったし、考えがつかないからだ。それに私達には今現在子供がいないので、そういったことにはとことん疎いのよね。自分が切り出したこととはいえ、本当なかなか困った話題だわ……。

 私が密かに悩んでいる間、旦那はパッと解決策を思いついたらしい。

「あ!分からなければインターネットで検索してみるのも良いよね?それにフロムさんの奥さんに好きそうなもの聞いてみるってのもありだしさぁ?」

「……そ、そうね!それが良いと思うわ!」

 確かに彼が言った方法が一番【普通】で【安全】な答えだと思う。私はてっきり【能力】を使って解決するのかと思っていたから……若干拍子抜けしてしまって無理に返事をしてしまった。自分の考えが少し恥ずかしかったわ……。


 早速検索してみる!とパソコンに向かった彼。私は機械オンチだから、そうやってすぐ扱える彼が羨ましい。

 カタカタとキーボードを叩く彼の後ろにそっと回り込んで背中に抱きついて彼の胸元に腕を回すと、驚いたように一瞬彼が跳ねた。そのまま彼の耳元でそっと囁く。

「ジグは……今まで私が出会った人の中で一番優しくて、一番信頼できる人よ」

「へっ!?な、何、いきなり急に……」

「……このまま聞いて。さっきも言ったけど、私はアナタを怖いって思ったことはないの。夫婦だから、じゃなくて、ジグだから。色々な意見の人がいるのは確かで、【普通】の人からすれば私達は【異端】なのかもしれない。でも、他の人が何と言おうと、私はそのままのジグでいて欲しいって思うわ、そこが好きなんだもの、私」

「フィフィ……!」

 振り返った彼はほんのり涙ぐんでいたけど、でもいつもの笑顔の彼だった。

「アナタは私が選んだ唯一の人、私の目に間違いはないわ。だから、もっと自分に自信を持って、私の旦那様……」

 言葉の最後に頬にキスを添えて。頑張ってる旦那様へのちょっとしたサービスよ、ふふ。

「う、うん!頑張る!!俺めげずに頑張る!!ありがと、フィフィ!!!」

 うん、すっかり戻ったみたいね、良かったわ。

 アナタはそうやって笑ってた方が良いのよ、私が笑えない代わりに沢山笑ってちょうだい。

 もしどうにも出来ない時は……そんな輩がいるなら、私が【始末】してあげるわよ、すぐにね。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 話している間に、フィフィが少し考えていたのを【読んで】みたけど、俺の【能力】を使えば今回のような件を解決するのは簡単ではあるんだよね。

 例えば……【読心】で娘さんの好みを探るとか、【記憶操作】してそもそも怖くないように刷り込むとか、色々とやりようはあるんだ。だけどねー、あの位の年頃の子ってさ、結構感覚が鋭かったりするじゃんか。だから、下手すると変に勘ぐられる可能性もあるし、成長途上の子供に【能力】を使って何か【不具合】が起きても責任持てないしねぇ……なので、今回は【能力】なしの正攻法で行こうと思った訳ですよ。

 さっき検索してたら良さそうな【モノ】を見つけたから……それで行ってみようかなぁ?


 そんなことを考えていた数日後のこと、俺に名誉挽回のチャンスが訪れた。

 家の前を掃除していた時に、フロムさんの奥さんが朝の散歩から帰ってくる所が見えた。娘さんのメイちゃんもどうやら一緒みたいだ。俺は家に一旦引き返し、先日仕込んでいた【対子ども用】のあるものをもって再度家の外へ。二人はまだ歩道をゆっくりと歩いている最中だった。

「あ、フロムさん、おはようございます。それと、メイちゃん……」

 急に現れるとまた怖がらせてしまうかもしれないと思った俺は、まず少し離れた所から挨拶をした後、そっと距離を詰めるように二人の元へ歩み寄っていった。

 奥さんは普通に挨拶を返してくれたのだけど……メイちゃんは俺の顔を見るなり、怯えた表情で瞬時に奥さんの影に隠れてしまった。ま、まだ警戒されてるのかなぁ……!?

「こ、こわい……おじしゃんだぁ……!」

「あ!コラっ!!メイはまたリーデッドさんにそんな事を……!ああ、本当に申し訳ないです……!昨日の事もしっかり言い聞かせたんですが……!」

「い、いえいえ……お気になさらず……」

 先日と同じく【怖い】、本日追加された【おじさん】という2つのワードに、内心で再びのショックを受けた俺。今すぐにでも家に帰って泣こうかとも思ったけど、今日は1つ【秘密兵器】を持っているんだよね!ここではめげてはいけない……フィフィも応援してくれたんだし……頑張れ俺!!

 少女の遠慮のない意見に若干泣きそうになりつつも、何とか踏みとどまる俺。愛する妻のアドバイスを思い出し、まずはスッとしゃがんで彼女と目線を合わせてみることにした。しかし、少女はまだ母の影に隠れたままで目線は合わせられず……うむむ、なかなか手ごわいねぇ。

「あはは……この間は怖がらせちゃったみたいでごめんね、メイちゃん。実はね、仲良くして欲しい君にプレゼントがあって……」

「プ、プレゼント……?」

 ふふふ……やはり子供らしく()()()()()っていうパワーワードには反応するねぇ……。

 ほんのちょっとだけど、親御さんの影から顔を見せた彼女とようやく目線があったけど……反らされたよ。ぐぬぬぬ。

「そ、そうだよ〜。おじさんね、君には何が良いかなって考えて……これ……どうかな?」

 言葉に合わせて、さっきから後ろ手に隠してあった【秘密兵器】を二人の前へ。

 差し出したのは……俺が手作りしたウサギ型のぬいぐるみ。15cmぐらいの小さめのものだけど、このくらいの年の子なら丁度良いだろう。

 この前ネットで調べたら俺でも作れそうな簡単なものがあったんで、家にあったタオルとかを材料に作ってみたんだー!ちなみに制作時間は約2日……慣れないながらも結構頑張ってみたんだ。妻も手伝ってくれたから、実質俺達夫婦の共同制作って言っても良いね、へへへ。

 呆気に取られる表情の奥さんに対して、ぱあっと笑顔になるメイちゃんでした……これは、勝ったな!!

「わ……わぁ!ぬいぐるみしゃんだぁ!うさぎしゃん!!うさぎしゃんだぁー!!ぴんくで、おりぼんもついてるの??かわいいね!!!」

「え!?これ……まさか、リーデッドさんがお作りになったんですか?」

「ええ、我が家には残念ながら子供がいませんから、子供が喜ぶものが想像できなくて……ネットで少し検索してみたら良さそうなものがあったので、参考にして作ってみたんです」

 どうぞって手渡してみると、メイちゃんは笑顔でそれを受け取ってくれて、ちいさな手で抱えてその場でジャンプしたり揺れたりととても喜んでくれているようだ。

「あらあらそんな……わざわざお手間を取らせてしまって……こんな素敵なものを本当に頂いて宜しいんですか?」

「不可抗力とはいえ、この間泣かせてしまったお詫びですから……」

「あらあら、本当にありがとうございます……ほら、メイからもちゃんとお礼をしなくてはね?」

「えっと……そのぅ……んと……」

「……メイ?リーデッドさんはあなたの為にってこのぬいぐるみを作ってくれたのよ?そういう時はどういったらいいのか……分かるわよね?」

「あ、ありがとうごじゃいました!……おじしゃん!」

「はは、良く言えました。こちらこそ、受け取ってくれてありがとう。大事にしてくれるとおじさんも嬉しいかな?」

「はーい!メイの、おともだちに、します!」

「うん、良いお返事だね!うさぎさんと仲良くね、メイちゃん??」


 フロンさんの奥さんと娘のメイちゃんは俺に今日のお礼をいった後、自宅へ帰っていった。後ろ姿は二人共、何だか嬉しそうだった。

【おじさん】って言われたのは正直心に来る所があったんだけど……できれば【お兄さん】が理想だったけど……まあ彼女(メイちゃん)が喜んでくれたなら今日はいいかねぇ。

 これもフィフィが応援してくれたおかげだなぁ……帰ったら報告しないとねー!へへへっ。

ちなみに妻フィフィの外見ですが(旦那視線)、

・身長165cm

・腰元まである黒髪ストレート

・紫色の瞳(吊り目気味)

・眼鏡(【仕事】によってはコンタクト)

・白い肌

・スレンダー体型

・やや貧乳


……以上です。

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