狙いはやっぱり大物
昼食が終わったので、ゼラルと魔法試験会場まで行った。魔法試験は受験生皆で一斉に受けるのだ。場所は学院の裏にある魔の森。そこで魔物を倒すことによって得られるポイントが高い者から順に成績がつく。もちろん魔物には魔法しか効かないのだ。だから魔法が使えない者はどうすることもできない。でも命の危険があった場合は潜んでいる試験官の上級者が助けてくれる。あと魔物は強さによってポイントが高くなる。その辺にいるスライムは1ポイントだが、森の主であるゴブリンロードを倒せれば50ポイントももらえる。前例はないけどね。
開始時間になるまで私はゼラルと話していた。どうやら素の自分をさらけ出してスッキリしたのか何なのかは分からないけれど、私には素の方で接することを決めたようだ。私もなぜかゼラルといると落ち着くので、公爵令嬢モードには戻らなかった。でもすれ違ったときに軽くぶつかった女の子には宰相の息子モードを出していたので笑った。
開始時間の鐘が鳴った。私たちが並んでいるところの前にいかついおっさ・・・強そうなおじさまが出てきた。どうやらここの学院長らしい。いろいろと危なかった。
「これより、魔法試験を始める。今年も例年通りの方法をとる。だが、いつもとは二点違うところがある。一つは、ポイントが10以下の者は学力テストの結果に関係なく不合格とし、帰ってもらうこと、もう一つは、同時に魔物にとどめを刺すことがあった場合、ポイントが人数分に分配されるということだ!!」
周りからざわざわと声が聞こえた。それもそうだろう。魔法が使えない者もいて、そのために勉強だけを頑張った人もいるのだから。だが今年は受験者数が多いからこの制度を取り入れたのだろう。一つ目がショックすぎてほとんどの者の耳に二つ目が入っていない。
「・・・まずいな。」
「?ゼラル、どうしたの?」
「僕は攻撃魔法がほとんど使えない。魔力はあると思うが、現象の理屈が分からない。唯一使える火魔法も二十発当ててスライム一体倒せる程度だから・・・」
「それは・・・そうだわ!!私と一緒に魔物にとどめをさせればいいのよ。あなたの魔法の速度に合わせて私が魔法を撃つわ。」
「でもそうすると君のポイントが・・・」
「いいのよ。どうせゴブリンロード狙いですから。」
「えっ!?何言ってんの君!」
「では、これより試験開始とする!!諸君らの健闘を祈る!!」
「さ、行くわよ。」
「え、ちょ、ちょっと待って!・・・うわっ!」
返事を聞かずに私はゼラルと自分に風魔法をかけて宙に浮かせた。もちろん行先は森の主であるゴブリンロードがいる森の奥だ。
「ルミア、本気なの!?あんなの新入生が倒せるものじゃないよ!」
「大丈夫よ。私、ワイバーンくらいなら倒したことがあるし、ゴブリンロードなんかそれ以下でしょう?最悪負けかけても上級生が助けてくれるはずよ。」
「そ、そうだけど、何でワイバーン倒してるの!?君、公爵家の生まれだよね!?」
「あら、知ってたの。たまに家を抜け出して竜の山に言っているのよ。さすがにワイバーンが限界だったわ。」
「竜の山って!あそこはBランク以上の冒険者しか入っちゃダメだしちゃんと門番もいるはずでしょ!?」
「姿は消しているけど堂々と正面から入っているわ。」
「それは堂々とは言わない!!」
こうしている間に森の奥に着いた。魔法を解き、地面に降りると、ウォオオオオオオオというゴブリンロードの雄たけびが聞こえた。それと同時にたくさんのゴブリンと思われる足音と、それに遅れて大きなゴブリンロードと思われる足音が聞こえた。ゴブリンの群れに五分ほど遅れてゴブリンロードがやってくるだろう。
「どうすんのさ!君が強くても数が多いって!」
「ちょっとは落ち着きなさい。このくらい平気よ。」
確かゴブリンは3ポイントだ。全部倒せば何ポイントになるだろう。やっと見えてきたゴブリンの群れの先頭に向かって私は手をかざそうとした。
____その瞬間、目の前のゴブリンの群れが約半分吹き飛んだ。
「悪いねぇ。ポイントは俺がいただくぜ!!」
そういって現れた少年は、緑色の短髪で、碧眼のイケメンだった。