ギャップ萌え・・・?
私は頭の中を切り替えて、校舎に入った。私が受験をする教室には彼はいなかった。かわりに社交界でよく見る顔がいくつもあった。でも私にはまだ友達と呼べる人が居ない。
午前中は筆記試験だ。魔法学、王都歴史学、文学、そして前世の科学にかわる現象学がある。劣化版だけどね。私は受験番号を確認して、席に着いた、一番前の席で、監督官の真ん前だ。ここなら本気を出してもカンニングの疑いはかからないだろう。やっぱ狙うなら一番だよね。
最後の現象学のテストの終わりの鐘が響いた。どのテストも自信がある。ただ現象学のテストの最後の問題はちょっと困った。風魔法と水魔法と身体強化魔法、土魔法を使わずに十メートル上の崖に上るにはどうすればよいか、だって。普通の人なら大人でも解けないはずだ。だが私は重力を無くすという考えを書いた。まあこの世界では重力なんて言葉は存在しないから、私たちを下に引っ張る何らかの力を無効化する、と書いた。仕組みさえ分かればできてしまうのだ。実際移動中にちょっとやってみた。この星の中心部が私たちを引っ張る力を自分に、はたらかせないイメージで。本当にちょっと浮いたのでびっくりした。
昼食は学食だ。私はサンドイッチを頼んだ。周りは皆友達と話しながら食べていたが、私は残念ながらぼっちだ。二人掛けのテーブルに一人とは・・・カウンター席にすればよかった。一人寂しくサンドイッチを食べていると、
「すみません、そこ、空いてますか?」
と声がかけられた。ハッと声のした方を見ると、さきほどぶつかった男の子、ゼラルがいた。
「ええ、空いてますよ。どうぞ。」
「失礼します。」
こうして落ち着いて話せれば理知的にも見えるのに。水色の長い髪は後ろの低い位置で結ばれていて、海のように青く澄んだ瞳をしている。顔も整っていて、十二歳には見えないほど大人びている。
「先ほどは取り乱していてまともにお礼ができませんでした。改めてお礼をさせていただきます。」
「そんな、あれはお互い様ってことになったでしょう?」
「いえ、よく考えなくてもあれは僕が悪いのです。ありがとうございました。」
「それで気が済むならいいわ。あと、敬語は堅苦しいからやめてくださる?」
「そう言うのならそうさせてもらうね、ルミア様。」
「様も堅苦しいからやめて。」
「じゃあ呼び捨てしても?」
「いいのよ。だって私の前に現れたってことは試験に手ごたえがあるのでしょう?だったらもう友人になってもいいじゃない。」
「はははっ。バレちゃったか。だったら僕の友人になってくれないか?」
「もちろんよ。でも私に友人なんていたことないから何をすればいいのか分からないのよ。」
「僕もだよ。でも君に友人がいないなんてね。何が悪いのだろう。」
「さあ?」
彼は驚くほど話しやすかった。見た目は冷たい感じがするのに癒しのオーラが出ている。マイナスイオンでも出てるのかな?でも一つ気になることがある。
「ねえ、思ったのだけれど。」
「なんだい?」
「あなた外で会った時と性格違いすぎない?」
「え、えーっとそれは。」
あからさまに困った顔をしてる。外で会ったときと同じだ。自分の口角が上がっている気がする
「もしかして外のが素なのかしら?」
そう言うと諦めたような顔になった。
「そ、そうなんだよね。実はあっちが素なんだ。でも、僕の一家は代々宰相を務めていてね。いまのうちに性格も直さなきゃって思ったんだけど・・・」
「けど?」
「僕には荷が重いんだよぉお!!」
そう言ったゼラルは子犬のように感じた。あふれ出る癒しオーラはここからか。もともと小柄で私より背も低いしなんか可愛く見えてきた。
「ふふっ。」
「笑わないでくれぇ・・・こっちは結構悩んでるんだぞぉ!」
「あっはっはっは!」
さっきの大人びた感じから今のヘタレ感のあるギャップに私はお腹を抱えて笑うことしか出来なかった。