教会にて
「さ、アルン着いたぞ、ここは、父さん達の知り合いがシスターを勤めているサンクトス教会だ」
「大きいですね!父様!」
「だろう?お前は今日、ここで洗礼を受けるんだぞ」
「ちょっと、緊張します…」
「アル、最初は誰だってそうなるのよ」
「母様達もですか?」
「ええ、そうよ、ね?あなた?」
「ああ、この洗礼で将来はほぼ決定するからな…」
なるほど、本で見たことが事がある。洗礼で[暗殺]に向いていると判定された少年がその素質を見出され暗殺者ギルドに両親を殺された後、連れ去られたという話を…
「頼むから、暗殺向きの技能とスキルだけは習得するなよ」
「分かってますよ父様」
「あなた、こればかりは創造神様に祈るしかありませんよ」
「中に入ろうか」
扉を開けるとそこには、どこかで見たことのある装飾の施された教壇と一人の女性が…
「あら?ラフィー?それにガル!久しぶりね!」
「おい、それにって俺はおまけか!」
「ええ、昔も今もそうでしょう?」
お、おおぅ…マイパピーがぶちぎれそうなんだけど…
「冗談ですよ、冗談、だからそんなきれる寸前みたいな顔で睨まないでくださいよ」
「あなた、それにエリーもアルの前なのよ?」
うん…マミーの言う通り私の前での喧嘩はめんどくさいから控えてほしい……陰でする分には構わないけど…
「アル!?ちょっと待てラフィー!今アルって言ったのか!?奴はどこに!」
「ふふふ、エリー勘違いしてるわよ?アルは私たちの娘の名前よ?」
「娘!?聞いてないぞ私は!出産報告の一つでもよこしてくれていいんじゃないか!?」
「あら?あなた?報告をするように言っておいたはずよね?」
「………」
「あなた?」
「っ…」
「あ・な・た?」
「は、はい!ごめんなさい!」
「いい気味だな!ガル!ハハハハハ!」
尻に敷かれてるな~
「で、二人の娘のアルはどこに?」
「あ、ここです」
「むっ!…か、」
「か?」
「かわいい!おい!二人共!何だこのかわいい子は!」
「アル、ちゃんと自己紹介して」
「は、はい、アルン・フリントローグ、今年で8歳になります」
「うむ!アルンちゃんだな?私はそうだな…エリーと呼んでくれ」
ちょっと、引っかかった事があるけど、今は洗礼について聞かなきゃね…
「それで、洗礼についてなんですけど…」
「ああ、準備は済んでいるよ、アルンちゃんさえよければ今すぐ始めよう」
「はい、お願いします」
何の説明もないけど、このまま始めていいのか?
「アルン、とりあえず、祈れ」
「え?それだけで良いんですか?」
「ああ、後は神が適当に役割を振ってくれるはずだ」
そんな適当なものだとは思わなかった…
「あ、詠唱を忘れるなよ」
「あ、はい」
詠唱は確か…
「神よ我が身に宿命を、この限りある命に祝福を」
ちょっと、演技をしようか
「うっ…あっ!」
「アルン!?どうした!」
「あー?何処だここ?」
「アルン?」
「懐かしい名前じゃねえか」
「お前、誰だ?」
「ラフィーならわかってるんじゃねえか?」
「ああ…アザゼル…あなたがどうして?」
「アルなのか?」
「そうだぜ?」
「お前は何故この子に?」
「そいつ、俺の転生体だから」
「おい、詳しく聞かせろ!」
ここは、話をでっちあげとくか
「あー…だから、俺が下界に堕ちた時に適当に異世界から魂引っ張ってきて強引に融合したって事」
「異世界からだと?」
「ああ、不幸にも事故にあって苦しんでた魂を煉獄から助けてな」
「そうか、お前は確か〔煉獄の探究者〕を持っていたんだったか」
「そういうこった」
「その魂は?」
「消えちまったよ。要はあのガキンチョの魂は俺ともその消えちまった魂とも違う異質なもんってことだ」
「そうか、つまり、このアルンちゃんは私たちの知るアザゼルではないんだな?」
「ああ、それと本人からも聞くだろうけどよこいつ、勇者に選ばれやがったぞ」
「何だって!?」
「やべえ、悪いが時間切れだ、そろそろ俺も消える」
「消えるってどういうことだ!」
「どうもこうも、俺は消えていなくなる、ああ、安心しなこのガキは消えねえよ」
「そうか…達者でな」
「ああ、俺のスキルとかはガキが全部持ってるはずだ、後で聞いてみな」
よし、うまくいったかな?
「あれ?ここは…」
「アル?アルなのか?」
「父様?どうしました?」」
「ああ、いや何でもないよ」
「父様…その…大変言いづらいのですが…」
「ああ、勇者になってしまったのだろう?」
「はい…」
「それでスキルは?」
「はい、〔暗黒天使の加護〕というのがありました」
俺がそう言うとガルは悲しそうな顔で
「なるほど、取り敢えず今日は帰ろうか」
「はい」
こうして俺は勇者となった…