ただの茶番
夜、俺はノアと約束した場所まで来た。
辺りを見回しても、誰の気配もない。
まだ来てなさそうだ。
数分後木々をかき分ける音が聞こえ、振り返るとそこにはノアがいた。
「いや〜ごめんごめん。これを取ってたら遅くなっちゃったんだ」
そういうとノアはポケットから大量の魔石を出した。
どれも魔力の質が良いものだろう。
「……それ、なんに使うんだ?」
俺が問いかけるとノアは何かを準備しながら答えた。
「君の魔力補充用に使うんだ」
魔力補充用?一体何のために……?
俺の心の声を聞き取ると、ノアは驚きの表情を浮かべた。
「え、僕に教わってくれるんじゃないの?」
「ん?教わると言ったのはあくまで、あの魔術だけ――」
俺がそう言いかけると、ノアは凄くしょんぼりとした様子で俯いてしまった。
「そっか……」
ノアは今にも消え入りそうな声をしていた。
「っ……わ、分かった!お前に教わるよ。他の魔術を……」
俺が荒々しくそういった途端、ノアは笑顔になって「嬉しいよ!」と言いながら後ろからどデカい魔石を取り出してきた。
「こんなもの一体どこから……」
「割と、これくらいの魔石だったら別の場所に行けばゴロゴロあるよ」
ノアは魔石を俺の前まで持ってきながら言った。
「別の場所……?それって一体――」
俺がそう言うと、ノアは俺の言葉を遮るように言った。
「ダメだよ。その話はまた今度」
え?どうして……
「だって、その話をしたら君は興味が湧いてその地に行っちゃうだろう?そして帰ってくるのが遅くなる。夕方までに帰ると君の両親と約束しているなら尚更、両親に迷惑をかける訳にはか行かないだろう?」
ノアの言葉に俺は不服だったが納得した。
まあ、確かにそっちの方に行っちゃうだろうしな。
……でも夜行けば
「そうしたら僕と会える回数が少なくなるからダメだよ。僕がちゃんと教えるからそこに行かなくても大丈夫だ」
……じゃあお前と合わない日に行けば
「その日は休憩用だ」
……だったらいつ教えてもらえるんだ?
俺が心の中で返すとノアは少し考えた。
「んー……君がこの地を出てから。かな?いずれ魔術学園とかに通うんだろう?」
……魔術学園。そうか、専門の所へ行って学ぶ方が一番効率的だ。学べることも沢山ありそうだしな。
ノアは笑顔で頷いていた。
「まあ、そこら辺は沢山時間をかけて悩んで、ユウくん自身が決めればいいと思うよ」
「そうだな」
俺はノアの言葉に頷いた。
家に帰ったら魔術学園についてもっと調べてみよう。
……というか。
魔石で魔力を補充……それが出来たらいくらでも魔術を使えるな。
今まで気付かないとは盲点だった。
俺が心の中でそう呟くと、ノアは考えるような仕草をしながら言った。
「君の場合魔力量が多かったから必要なかったんだろう。それに例え魔力を補充できても、魔術は精神をすり減らしてしまうからね。結局限界が来てしまって倒れてしまう」
じゃあ一体なんのために……
そう聞こうと思ったらノアは含み笑いをした。
「僕は寝たあとと同じような状態になれる魔術を使えるんだよ?精神回復なんてお手の物さ」
……なるほどなぁ。
これはもしかしたら俺にとって辛い練習になるかもしれないな……
だが
「その魔術を俺に教えるの……忘れるなよ」
俺がそう言うとノアは笑って頷いたあと続けた。
「よし!じゃあ、ユウくん。取り敢えず、今から火属性の聖級魔術の練習を始めようか。全属性上級までこなす事が出来ていて、火属性だけ超級まで出来ているんだろう?君の得意な属性は火みたいだしね。火から始めていこうか」
ノアには何でもお見通し。って訳だな。
俺は頷き、手を差し伸べた。
「ノア。これから宜しくな」
ノアは一瞬驚いたようだったが、意図を理解した後表情が一気に明るくなり、俺の手を両手で掴んだ。
「こちらこそこれからよろしくね!」
こうして俺は、昼はリアス達と剣術と魔術の練習。夜は週4でノアとの魔術特訓を行うことになった。
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ノアとの特訓を開始してから1年が過ぎた。
ノアのお陰で俺は1年で火、風、無の超級の1つ上である聖級魔術を習得することが出来た。
結局、あの使い勝手の良さそうな魔術は教えて貰えていないが……
でもまあ ノアが居たからこそ俺はここまで強くなれたんだし今は何不自由してないからあまり気にしていない。
リアスたちには聖級まで使えることは伝えてはいない。
何故ならば、聖級といった魔術は教えてくれる人が居ないと覚えるのは厳しいのだ。独学では聖級まで学ぶことは出来ない。
ノアの存在を知られたら、面倒なことになりそうな予感がするので、何か都合が会う時に紹介したい。
そう考えながら魔術を制御する特訓をしていた。
魔力がすっからかんの魔石に少しずつ魔力を入れていく作業だ。
魔力を魔石に入れ終わったら自分の体に魔力を戻し、今度は魔力を込める量を少しずつ変えていく。
とても地味な作業に見えるがこれが割と大事だったりする。
ふわぁあ……眠い。
なぜか今日はノアが不機嫌そうだったから言い出しにくく、眠くなくなる魔術をかけてもらえてないのだ……
眠くなくなる魔術
というのは、実はノアが考えた魔術らしい。
名前がそのまんまなのは、ノアのネーミングセンスのせいだと思ってくれ。というか、人のことを異常だとか何だとか言っておいて自分も作れてるじゃないか…………
…………ふぁあ
うん。限界だ、言おう。
「ノア 悪いんだけど眠くなくなる魔術かけてもらえないか……?」
俺は恐る恐るノアに頼んだ。
ノアはハッと気付き、俺に魔術をかけてくれた。
「すまない。すっかり忘れていたよ」
ノアの声色はさっきよりは怒ってなさそうだった。
「……ところで、君は僕をいつ君の両親に紹介してくれるんだい?」
……結婚を控えた恋人か。
俺が心の中でそう突っ込むとノアは頬を膨らませた。
「違うよ。君の家に遊びに行ってみたいんだ」
そう断言したあと、ノアは少し恥ずかしそうにしながらボソリと呟いた。
「だって……始めて出来た友達だしね……」
……ふむ。なるほど。今までぼっちだったのか。
そして、俺がいつまで経ってもお前を両親に紹介しないから拗ねていたんだな。
俺は冗談交じりにノアに聞くとノアは頷いた。
……素直か。
俺は半笑いになりながらも、ノアに顔を見せないようにしておいた。
笑ってることがバレたら流石に怒られそうだな。
って考えてることもノアと目が合った時にノアに筒抜けだと俺は気付いた。
あぁあああ〜〜〜空は綺麗だなあぁああ〜〜〜〜どうして空は綺麗なんだろう〜♪すごぉおおおおいいいいいいぃぃぃなあああぁぁああ。
俺は心の中で適当に叫んだ。
我ながらこの誤魔化し方は何とかならなかったのだろうかと思った。
「……その誤魔化し方どうにかならなかったのかい…?」
ノアに言われたくはないが……俺もそう思う。
「いいさ……周りからは年の割に子どもっぽい。ってよく言われてるんだ。ぐすっ」
後ろからノアのすすり泣く声が聞こえた。
「ノ、ノア……なんかごめ――」
俺が気まずそうに振り返るとノアは笑顔だった。
「僕のこと悪く言った仕返しさ♡」
俺は全力で水魔術をノアに撃った。
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「いっっったあいじゃないか!!!」
ノアは吹き飛ばされたあと飛び起きて怒った。
「俺の事からかった罰さ♡」
俺はノアと同じように笑顔で言ってやった。
ノアは怒りながら悔しそうな顔をしていた。
「水魔術だしそこまで痛くないだろ。寧ろ木にぶつかった衝撃の方が痛かったんじゃないか?」
「ま、まあそうだけど……君の水魔術のせいで木に打ち付けられたから君のせいだよ?」
「お前が吹き飛んだ背後に木があったのが悪い!!!」
俺は真顔でそう断言した。
正直無茶苦茶な理屈だが、もうこれで押し通そう。
「さ、流石にそれは……」
ノアがなにか言いたげだったので俺はその言葉を遮るように言った。
「じゃあ、ノアがココ最近で俺にした悪いことを全て上げてやろう。……お前が1度手本を見せると言って撃った魔術が俺に向かって飛んできて大ダメージを食らったこと。……そして1番大罪なのは……俺の分のクレープまで食ったこと!!!!」
「んんんんんん??確かに最初のは申し訳ないと思っているが、2つ目は謝っただろうう?!」
俺はノアにそう返され首を振った。なぜなら……
「あれは期間限定の超激レアクレープだからだ!!!あの時しか食えなかったんだぞ……」
「なん だと……それは本当に申し訳なかった……今度いくつかクレープ奢るから許してくれ……」
「許す。約束だからな」
俺はノアの言葉に頷きながら言った。
ノアも俺の言葉に頷いた。
期間限定クレープはまた出ることを祈ろう。
と、まあこんな感じで茶番のようなことをしながら魔術の特訓をする日々を送っていた俺は、15歳の誕生日を迎えることとなった。