なんとなく王都へ
「……は? え? 嫌だよ」
俺は当然否定した。
まだ人を殺したくはない。
「ああ。すまない。いきなり過ぎたね。君に僕の知識を分け与える。といっただろう?だから、君の力はどれ程のものなのか見ておきたいんだ」
なるほど。ノアの言うことは最もだな。だが……
「どうして、お前自身に撃つ必要があるんだ? 別のものだって良いだろう」
「それは僕のただの好奇心さ!」
ノアは笑顔で言った。
「……うん? いや、無理だよ死ぬぞ?」
「大丈夫。僕は死なない。今の君がいくら本気を出したって僕を倒すことは出来ないよ」
ノアは凄く自信あり気な顔をして言った。
……そこまで言うなら…1番弱いやつを
「あー! 1番強いヤツをいくつか頼むよ」
正気か?
「正気さ。大丈夫僕は絶対に死なない」
ノアの真面目な表情を見た俺はノアを信じることにした。
余程防御力に自信があるのだろうか…。
「……分かった。どうなっても知らないからな」
俺がそう言うと、ノアは表情を明るくさせた。
「本当かい?! いやあ楽しみだなぁ。本気でいつでも来ていいよ!」
……ノアの言葉に少し抵抗を感じながらも頷いた。
「行くぞ」
「うん」
俺は深呼吸をした。
「ディスペア・フレイム・ランス」
俺がそう唱えると、火の槍が全てノアに向かって行った。全弾命中したように思える。
俺は直ぐに次の魔術を唱えた。
「クラッシュ・バブル」
「ブレイズ・レイ」
バブルを割るようにブレイズ・レイが突き抜けた。そして最後……
「炎の玉」
炎の玉は初級魔術だが、細かく調節することが出来るから愛用している。
……まあ、今回のはノアの頼んだ通り全て全力だが。
土埃がやっと晴れたと思ったら、ノアが血だらけで倒れている。
「……っ……ぜ、全然大丈夫じゃないじゃないか」
俺はノアの元へ近寄って行き、脈を調べてみたが完全に止まっている。
……これで俺はこの世界でも人殺しだな……どうするか…………
「いっやー!! あれが炎の玉かい?! 威力が段違いじゃないか〜!」
「うおっ」
ノアは突然血まみれで起き上がり、服に着いた土を落としていた。
血だらけだから意味がなさそうだが……
「ほら。大丈夫だと言っただろう?」
ノアは含み笑いを浮かべていた。
何故あれだけの攻撃を受けて無事なんだ……?
まさか、さっき言っていた絶対に死なない。って言うのは……
「うん。言葉の通りの意味だよ」
不死身か。だから絶対死なないなんて言えるんだな。
ノアは笑顔で頷いていた。
「あー……でも、正確には不老不死かな。僕はこれ以上歳を取らない」
不老不死?じゃあノアは一体いくつなんだ?見た目は10代後半ぐらいに見えるが……
「年齢は……うーん。確か 3世紀ぐらいだったかなあ。途中から面倒臭くなって数えていないんだ」
ノアは苦笑いをしていた。
年齢を世紀で言う人初めて見た。
「まぁ、僕みたいに長生きしてる人はそう居ないからね〜」
ふふふ。といった感じで笑っていた。俺を驚かすことが出来て嬉しそうだ。
どこが、しがない魔術学園の教師なんだか……
ノアは笑うのをやめ、突然考え出した。
「何だか、君の魔術は一般的な魔術師と比べると精度が高い上に威力が桁違いに強いんだよねぇ」
「……あー、それは幼い頃から訓練しているからかもしれないな」
ノアは納得したように頷いた。
「ふむふむ。もしかして君は大魔導師か賢者の職かい?」
俺はノアの言葉に首を横に振った。
「じゃあ一体……」というノアの言葉を遮るようにして、手の甲の紋章を見せた。
「俺の職は魔法剣士だ。」
ノアは目を見開き俺の元まで来て紋章をよく見た。
「……本当に魔法剣士なんだ。てっきり、弱く見えるよう紋章を違うように見せてるのかと思ったよ」
……それはこの世界のルールに逆らっているんじゃないか…?
この世界にはいくつかのルールが存在する。そのルールを破ったものは刑が課せられる。
確か、紋章を別のものに見せる。というのもルール違反だったはずだ。
「……いや〜君ならやりかねないと思っていたんだけれどねぇ」
……ノア お前は俺を一体何だと思っているんだ……
「常識を覆す存在」
ノアは真面目な顔をしていた。
「だってそうだろう? オリジナル魔術を作ろう。なんて普通考えないし、考えたって実行することが出来ない。魔法剣士にしては魔力量や精度や威力が凄すぎる。それに、君は転生者なのだろう?もうその時点で異質なんだ、異常なんだ」
言い切った後、ノアは呼吸を整えていた。
「……成程な。確かに俺は元々この世界の人間とは違うな」
俺はそういった後、目を伏せた。
「ああ! すまない。君を責めるつもりは無いんだ。転生なんて自分の意思では出来ないだろうしね。…ただ、君に常識を理解して欲しいんだ」
「常識…?」
俺がノアの言葉に首を傾げるとノアは頷いた。
「ああ。君ほど強い人間はそう存在しない。だから、君がどこに行っても頂点を取ってしまうだろうね。でも、強い力は身を滅ぼす。それを気をつけて欲しいんだ」
……そうか。肝に銘じておくよ。
「まあ、人間以外なら君に敵うやつが居るだろうね」
人間以外……?……魔人?
「ご名答」
ノアはニッコリと笑った。
「魔人の中には龍魔人や魔神もいる。そいつらには、君はまだ勝てないだろうね」
「そいつらを倒せれば俺は最強になれるか?」
ノアは頷いた。
「倒せれば。の話だけどね。龍魔人ならまだしも、魔神はキツイかもしれないね。魔神は、全ての魔物の頂点に君臨する化け物さ」
つまり、魔神が1番強いって事か。
「成程な…魔神っていうのはどういうやつなんだ?」
ノアは暫し考えた後空を見上げた。
「……この話はまた明日にしないか?」
「え?」
俺もノアと同じように空を見上げると、空が赤くなりかけていた。今の時刻は4時半ぐらいだろう。
「はあっ?! や、やばい!!!」
俺が慌てふためいていると、ノアが申し訳なさそうな声で言った。
「す、すまないね。久々に会話してて楽しかったから……」
こいつまさか……過ぎてることに気付いてたけどスルーしてたのか?!
「……ごめんね?」
ノォォオオアァ???
「ごっごめんよ……! ほら眠くなくなる魔術かけるから!」
ノアは半泣きになりながら唱えた。
すると、体が少し楽になった気がした。
「え……こ、これはどんな魔術なんだ?!」
凄い……こんな使い勝手の良い魔術があったとは!
俺が驚いてる姿を見たノアは笑っていた。
「明日の夜もまたここに来てくれるかい?」
……成程な。まあ、することも無いしいいか。
「約束だよ!」
ノアは今日一の笑顔を俺に見せた気がした。
ノアと別れた後、フライと脚力を使って急いで家に戻った。
幸いなことにリアス達はまだ起きていなかったので、窓から家に入り土人形を押し入れに押し込んだ後、リアス達が起きてきたら、あたかも先程まで寝てたかのように振舞った。
なんとかバレてなさそうだ。
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夜、ノアが言っていた通り一睡もしていないのに昼になっても全然眠気が来ない。寧ろ元気だ。
これは、夜絶対に行くしかないな……
そう思いながら俺は森の中を脚力を使い駆け抜けていた。
何故なら、俺は森を抜けた先に一度も行ったことがない。だから、1度くらいは行ってみよう。と思ったのだ。この先に何があるか楽しみだな。
数十分後、俺は森を抜けることが出来た。
目の前には広大な草原が広がっていて、奥の方には俺が今住んでいる街の10倍ぐらい広いミハラ王国の王都があった。
王都には森を避けるように丸1日かけて行くと聞いているが…。これは森を突きぬけた方が断然速いな。
「身分証明書さえあれば王都にも入れると聞いていたし、少し行ってみるか。」
俺はそう呟いた後、王都の入口まで来た。
「あー……今、王都で通り魔殺人事件が頻繁に起きていてね。入るには厳しい審査が必要なんだ。身分証明書だけじゃ無理かなあ」
「そうなんですか……」
俺は門番にそう告げられ落胆しながらも、仕方ないと思いつつ帰ろうとした。
「いや、子どもでしかも魔法剣士ぐらいだったら良いんじゃねえか?ここまでせっかく来たんだし入れてあげようぜ」
隣にいた男前な門番が笑顔でそう言ってくれた。
「んー……まあ、先輩が言うなら別に俺は何も言いませんけどね」
おお……!男前な門番の人有難う!!
「ほら。入っていいぞ」
俺は男前な門番に門を開けてもらった。お礼を言おうと思ったら、歯を見せて笑っていた。
良い奴だ……
俺は門番二人にお礼を言いながら王都の中へと入っていった。
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王都の中は凄く賑わっていた。
周りには数々の売店があり、活気に溢れていた。
「流石王都……!」
期待していた通りだった。
人の流れが多く、様々なものが売っている。
「あ、あれは……!!」
俺の目線の先にはクレープのような物が売られていた。
めちゃくちゃ美味そう……
俺はリアス達から貰っていたお小遣いを使ってクレープを買った。
1ポドル1円と考えて、180ポドルのクレープ。日本と比べると物価が安い。
ここで食べると邪魔になるだろうと思った俺は路地裏に避難することにした。
「……うま」
生地がふわふわで甘くて生クリーム……のようなもの、も程よい舌触りで美味い。
生地は蜂蜜を使っているのかもしれないな。甘うまぁ。
これで180円なら俺は毎日通いたい。
「ぎゃぁぁあああ!!!」
男の悲鳴が聞こえた。
最近よく悲鳴を聞くなあ。と思いつつ最後の一口を食べ、悲鳴の聞こえた方へ走って行った。
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「マルク!!!!」
マルクと呼ばれた男は、黒い覆面をした男に剣で斬りつけられ倒れた。
「……っくそ!!なんなんだよお前……!!まさかお前が最近王都で噂になっている通り魔?!」
覆面を被った男は頷きはしなかったが、通り魔の男で間違いないだろう。
相棒のマルクは斬りつけられたせいで気を失っている。大量の血を流しているため、一刻も早く病院に担ぎ込まなければならない。
こんなやつの相手をしてる暇じゃないのに……!!
男前な男は門番の職に就いていて、マルクと休憩をとっていた時に急にマルクは襲われてしまった。
マルクは不意打ちに弱い男だからなっ……早く 早くこいつを倒さなければ……
男前な男がそう考え、焦りながらも剣を強く握り直した。
その時だった。
「ブレイズ・レイ」
覆面を被った男の背後から声がした瞬間に、覆面を被った男は倒れた。
よく見ると肩を撃ち抜かれていた。
「殺してはいない。後はお前に任せる」
低い声で喋る男の声が聞こえた。
前を向くと黒いフードを深く被った顔の見えない男がいた。
「お前は一体……」
「あーあ。殺られちまったかァ」
男前な男がフード男に聞こうとした瞬間、フード男の後ろから声がした。
5人ぐらいの集団の男が影からでてきた。全員武器を持っている。身なりからして盗賊だろうか。
「誰お前? ……まあいいや。とっととこのフード男とその後ろにいる男やっちまおうぜェ!!!」
頭のような男が声をはりあげた途端、4人突っ込んできた。
もう……ダメだっ!!!
男前な男は死を覚悟した瞬間だった。
だが、突然地面に武器が落ちる音と複数の人が倒れ込む音が聞こえた。
フード男が有り得ないほどの速度で剣を敵に斬りつけていたのだ。
「こんなものか?」
フード男は剣に付いた血を振り払った後、剣先を頭の男に向けていた。
「は?! な……何なんだよお前ッ!!」
頭の男は、フード男の異常なまでの強さに後ずさった。そして、男は逃げ出した。
「逃げるな」
フード男がそういうと何かを唱えた。
すると、突然逃げ出した男の前で爆発が起こった。
男は驚きと恐怖で気絶し、その場に倒れ込んだ。
フード男は振り返ると、マルクを指さした。
「早くその男を病院に連れていけ」
男前な男はマルクを一瞬見た。
そして前に向き直ると、フード男は忽然と姿を消していた。
「一体何だったんだ……?」
男は謎の状況に困惑し固まっていたが、こうしちゃいられない。と思った男はマルクを病院へ連れていき、覆面の男の身柄を取り押さえた。
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まさか襲われていたのがあのいい門番さん達だったとは…。
流石に正体を晒す訳にもいかないので黒フードを被り、声を低くしただけだったが、何とか誤魔化せただろうか?
うーん……犯罪者だし肩掠っただけだし大丈夫だよなぁ。爆発も直撃はしていなかったし。
肩掠った奴も出血多量で死ぬことは無いはず。ブレイズ・レイは急所さえ狙わなければそこまで強くないからな。
なんか盗賊みたいな奴らも出てきたけど、一体なんだったんだろうな……
斬られていた門番さん 無事だといいな。
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男前な男は、通り魔殺人事件の犯人を捕まえた褒美として昇格することが出来た。
王の居る祭壇に備え付けてある階段を登りながら男は、あの日のことを思い出していた。
あの時のフード男の剣は、全員急所を外していて大事に至らなかったようだ。あれほどの速さで斬りつけておいて、手加減が出来ているなんて末恐ろしい奴だ。
「ムスト・ヅベラニーニョ。貴殿を王国騎士団に入隊することを許可する」
「有り難き幸せ」
男前な男……ムストは深く頭を下げた後、王国騎士団の証である紋章を王から受け取った。。
多くの者からの拍手を受けながら王国騎士団に入隊することが出来たのだった。
王国騎士団は、王を直接守る騎士団でとても重要な役割を補っている。
毎回、王国騎士団に入団する場合は王から直接紋章を頂かなければならない。
ムストは、謎のフード男のおかげで昇格することが出来た。
もし、また会うことが叶えば感謝の言葉を告げたいと考えていた。