力試しに森へ。
12歳の春。
日差しや空気がようやく暖かくなり始め、魔術と剣術をいい感じのところまで学べた頃、俺は剣を持ってこの世界に居る【魔物】とやらを狩りに街の外にある森へ行くことに決めた。
やはり、魔術が存在してる世界だから魔物も居るんだな……。
この前リアスに教えて貰ったことに興味を持った俺は、今日魔物狩りに行くことにした。
魔物を倒すと、魔石という魔力の込められた石が手に入るらしい。
人が魔力を永遠に使い続けることは出来ない。その問題を解決するのが魔物の落とす魔石だ。
魔石があれば、魔術の補助だったり、物体に魔石の中にある魔力が尽きるまで魔力を込め続けることが出来る。
魔石の中にある魔力は、最低でもおよそ人の平均の魔力量の10倍にも及ぶそうだ。
でも、正直今は魔石に手を出すよりも剣術と魔術を完璧にしたいし、専門的な知識を得てから魔石に手を出したいと考えている。
そんな俺が何故魔物を狩りに行くかと言うと、力試しだ。
最近、自分自身が成長出来てるかどうかが実感しにくくなってしまった。だから、自分の目で見て自分の力がどうなっているかを理解するために魔物を狩りに行くのだ。
リアスやアルクには「自分自身を見つめ直してくるね。夕方までには戻るよ」と、置き手紙を残して出て来たから問題は無いはずだ。
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家から数十分歩くと森への入口に着いた。そこまで遠くない距離だったな。
いざ森に入ろうとすると、背後から人の声が聞こえてきた。
子ども1人でこんな所に来ているとバレたら後々が面倒臭いので、草の茂みに隠れることにした。
「――もうそろそろいいか」
人の気配が完全に無くなったように感じた俺は周りを確認しながら茂みの中から出てきた。
「さてと。まずは弱い敵から倒していくか」
俺は森の中へと入っていった。
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木々の間から陽の光が差し込む。
上を見上げると、葉がキラキラしていてとても綺麗だ。と歩きながら思っていた俺は前を向き直すと、目の前に狼の魔物がいた。
「ラガーウルフか」
白い毛並みに赤い瞳。獲物である俺を鋭い眼光で睨みつけていた。
「まずはこいつにするか」
俺は火属性の中級魔術である焔槍を使うことにした。
「焔槍!!!!」
手を前に出しそう叫ぶと手から炎の槍が現れ、瞬く間にラガーウルフの心臓を貫いた。
そしてラガーウルフは倒れ、消滅した。
すると、ラガーウルフがいた所には直径5~6cm位の魔石が現れた。
「これが魔石……」
俺は魔石を手に取りそう呟いた。
ずっしりとした魔石の重みが手に伝わってくる。
魔石は従来だと換金する物だが…
「まぁ、これは初魔物討伐記念に持っておくか」
俺は魔石をポケットにしまい、森の奥へと進んだ。
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何度か魔物を倒して分かったことだが、ここの森の魔物は弱すぎる。
下手をすれば補助魔術の身体強化した体のデコピンだけで倒せてしまう。
試しに、1番弱そうなスライムの魔物にデコピンをくらわせてみたら倒せてしまった。
「デコピンって強えなぁ……」
【デコピンとは】という哲学にはいそうだったので、魔術の試し撃ちを続行することにしよう。
「きゃああああ!!!!」
「?!」
遠くから女の人の悲鳴が聞こえた。
……こっちの方からだ!
「脚力!!」
俺は声のした方向へ身体強化の移動速度が上がる魔術【脚力】を使って走って行った。
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森の中を駆け抜けていると、人影を見つけたので草の茂みに隠れた。
ショットガンを構えている男と剣を構えている男がいた。
その後ろには小屋があり、その窓からは椅子に縛られた同い年くらいの女の子と、一際大柄な男がいた。
「あいつらは……」
俺が森の入口で鉢合わせになりそうになった男達だった。
小屋の外にいる武器を構えたヤツらは見張りだろう。
「流石に大人を呼んでくる暇なんて無いよな……」
縛られている女の子に、奴らがなにかするかもしれない。
いや、もう既に何かしているのだが、さらに何かするかもしれない。
……話し声が聞こえる。
耳を澄ませると僅かだが聞こえた。
「……こまで苦労……」
「……れで……も金持ち」
「……だな……楽しみだ」
話の内容から察するに誘拐だろう。
女の子は金持ちの親族で、奴らは身代金を要求するつもりなのだろうか。
このまま帰るなんて俺には出来ないな…なにか俺に出来ることはないだろうか…女の子だけ逃がしたとしても子どもの足じゃ、すぐに追いつかれてしまう。
だから、男3人気絶させるしかない。
俺が作戦を練っていると、小屋の中にいた大柄な男が外に出てきた。
「おい!!誰も来てないだろうな!!」
大柄な男の声は他の奴らより大きく、俺の耳にまで届いた。
様子を見る限りだと、大柄の方の男が親分みたいなものなのだろう。
さて……3人出てきたことだし、全員気絶させて
「ぐあぁあああああ…!!!!!!!」
突然、大柄の方の男が煙に巻かれながら悲痛の叫び声を上げた。
足元には大量の瓶が落ちていた。中には割れたものもあって、そこから煙が出ているのだと俺は気付いた。
「な……何が起こっているんだっ?!!?」
ショットガンを構えていた男が驚きの声を上げた。
大柄の男の姿は変わっていった。頭に角が生え、牙が目立ち顔には血管が浮き上がり、魔力に溢れていた。あれは――
「ま……魔人だっ!!!!」
剣を抜いた男がそう叫んだあと、魔人に向かって斬りかかりに行った。
だが、剣は魔人に当たることなく向かって行った男は吹き飛ばされ、木に体を打ち付け倒れた。
「ひっ……ひぃぃいいいい!!!!」
ショットガンを魔人に向けて打とうとしたが弾が入っておらず、ショットガンを投げ捨てもたつきながらも男は走って逃げた。
魔人は、逃がさないと言わんばかりに手から魔術を出し走って逃げていた男に命中させた。
逃げた男が倒れたのを確認すると魔人は小屋の扉を魔術で破壊し、中に入って行った。
「まずいっ! 中には女の子が……!」
俺は草むらから抜け出し、魔人のあとを追うように小屋に入って行った。
すると、魔神が女の子に向かって魔術を撃とうとしている所だった。
「焔槍!!」
俺はすかさず、魔人に向かって魔術を放った。
見事俺の魔術は魔人の頭に命中し、魔人は叫び声を上げながら煙となって消えた。
……倒せたのだろうか?
周囲に女の子以外の気配がないことを確認したあと、女の子と向き合った。
女の子は怯えたように俺を見ていた。
俺は一旦、静かに深呼吸をして、持っていた自分の剣を使い一振で女の子の拘束を解いた。
俺はポケットに入れていた一際大きい魔石と普通の魔石をひとつずつ取り出し、女の子に渡した。
「これをお金にして帰るといい。森は道なりに進めば抜けられる」
俺はそう伝えた後、小屋を出た。
すると、足元には先程の瓶が落ちていた。
「……怪しすぎるけれど、これが何かの役に立つかもしれない」
割れていない方の瓶を広い、俺は小屋を後にした。
ふと空を見上げると空が赤く、太陽が沈まりかけていた。
「日が暮れてきたし、そろそろ帰らないとな」
俺は来た道を戻り森を抜け、俺の家がある街へと戻ってきた。
家の扉のドアノブに触れた瞬間、寒気がした。
恐る恐る振り返ると、リアスの姿があった。
「…ユウ。どこに行ってきたのかな? この手紙はどういうことなのかな?」
リアスは、俺が家に置いてきた手紙を開いて俺に見せた。
顔は笑っているが目が笑っていない。
な、何かまずいことをしただろうか……?
「……はぁ」
俺が冷や汗を流しながら驚いてる姿を見たリアスはため息をつき、俺の頬を抓った。
「んぐっ!」
「日暮れまでに帰るのはいい事だけれど、こんな置き手紙だけを残して何処かに行ったりしてはダメよ!」
「……はい。ごめんなさい」
俺が反省した姿を見て、リアスは俺の頬を抓るのをやめた。
「とりあえず、家に入りなさい。暖かくなってきたとはいえ、まだ夜は冷え込むでしょ」
俺はリアスの言葉に頷き、家の中へと入って行った。
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「ところで、ユウは何処に行ってきたんだ?」
リビングに行ってリアスとアルクと俺の3人で椅子に座りながら茶を飲んでいると、アルクは俺に聞いた。
「森の入口付近で魔術の試し撃ちをしていたんだ」
「「森?!?!!」」
リアスとアルクは驚きの声を上げ立ち上がった。
「……まさか、あなた森に行ったの?」
「う、うん」
俺がそう返すと、リアスはため息をついて椅子に座った。
アルクも、やっぱりか。と言いたげな顔で椅子に座り直した。
「私……この前、森は魔物がいて危険だから行くなと言ったはずでしょう?」
――え?
あれ?え?そんなこと言われたっけ…。
まじで記憶にない……
「……ユウ あなたまさか話を聞いていなかったのね?」
リアスにそう言われ、俺はギクリとした。
もしかしたら、流していたのかもしれない……
リアスに森には魔物がいて魔石というものがある。という話を聞いて、その事について深く考えていたから、流していた可能性が高い……
「まあ、こうなるんだろうとは思っていたけどな」
アルクが茶を啜りながら呟くと、リアスはアルクを声で睨んだ。
「だったら、もっと注意するべきだったでしょう………」
「おっおう。な、なんかユウだったら度胸もあるし、技量もあるから問題ないと思って………ましたすみません」
アルクはリアスに二度も睨まれ、茶を震えた手で机に起きながら敬語になっていた。
「……まあ、別に森に行ったらダメ。っていう訳ではないんだけれどね……初めての魔物どうだった?」
俺はリアスに恐る恐る聞かれたので、普通に答えた。
「……いや、別にそんな怖いものもなかったし 大丈夫だったよ」
魔人以外は。だけれどな。
流石に魔人の話でもしたら大変なことになりそうだ…。
リアスは俺の態度を見て本当に大丈夫。と思ったのか、安心した様子で茶を飲んだ。
「……ほら、魔物って普通の動物とはだいぶ違うじゃない? …だから第一印象が怖いと、魔物嫌いになったりトラウマになったりして戦えなくなっちゃう子が多いのよ」
最初は、森に一人で行くなって意味だったのか…。
「まあ、最初が大丈夫ならあとはもう大丈夫ね」
リアスは俺の頭を撫でながらそう言った。
するとアルクが思い出したように言った。
「そうだ。スライムの魔物にだけは気をつけろよ。あいつ物理攻撃が聞かないし、毒霧を吐いたり、粘液でものを溶かしたりするからあの森では1番の危険モンスターって言われているんだ」
……スライム?
……スライムが?
ゲームとかのはじまりの森とかで出てくるLv1モンスターが1番危険だ。と……?
……スライムを見くびっていたのかもしれない。
今日の昼倒したスライムはきっと子スライムだ。子ゴブリンならぬ、子スライム。
「肝に銘じておきます……」
俺はそういった後リアス達と同じように茶を啜った。
茶が美味い。
俺はその夜、リアス達にスライムの大きさを聞き、バレないように家を抜け出しスライムを探しに行った。
布団に毛布を大量に押し込み、あたかも俺が寝ているかのように仕向けておいたから問題は無いはずだ。
リアスが言っていたスライムに遭遇した。昼見たスライムと殆ど同じような大きさに見える。
恐る恐る、身体強化したデコピンをくらわせると昼と同じようにスライムを倒せてしまった。
改めてデコピンの強さを考える必要があるかもしれない……