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最弱職の魔法戦士  作者: 悠久ヒロ
第一章
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辛い過去①

 この世界は腐っている。


 気付いていた……いや


 

 気付きたくなかった。


 たった一人の友の死と母親の死を体感した少年は残酷過ぎるほど冷静だった。全てを悟ってしまった少年は感情を忘れた。


 ビルの屋上で少年は最期に一言呟く。

「こんなつまらない世界はもういい」


 そして少年は地面から足を離した。

 


 

 紅葉が咲きそろそろ季節が秋に移り変わる頃、あるクラスでは最近問題視されているいじめが行われている。


 ある教室に怒声が響き渡る。


「何でお前学校来てんだよ。来る必要ねぇだろ」

 ある少年はそう言われても無視をし、本を読んでいた。


「おい! 無視すんじゃねぇよ!!」

 少年は胸ぐらを掴まれる。


 ため息を付いた少年は仕方なく本を閉じ、面倒臭いクラスメイトの相手をすることにした。


「君は俺をどうしたいの」


「学校に来るな」

 クラスメイトは少年の質問に即答した。


「君に決められる筋合いはないね。どうしてそんなことを言われなくちゃいけないんだ」

 そう言い返すとクラスメイトは少年を突き飛ばされ、身体を壁に強打した。


「お前の存在が迷惑なんだよ。天才ぶりやがって」


 少年は別に天才ぶってる訳でもなく、むしろ自重している。ただ、休み時間には本を読んでいただけだ。


 ハッキリいってクラスメイトのただの嫉妬である。


「お前のその、俺はクールな天才です。見たいな素振りがうぜえんだよ。しかも俺の彼女まで取りやがって」

 クラスメイトは少年を睨みつけた。


 少年はクラスメイトの彼女を奪ったつもりもないし、正確にはそれは事実ではない。


 ただクラスメイトとその彼女がいざこざを起こしている時に、彼女の方が俺の事を見て「クールな人の方がいいわ!!」という一言を放ったのが原因らしい。いい迷惑だ。


「……俺のどこがクールな天才なんだ? いつも昼休みに一人で読書をしていることか? 授業中難しい問題を答えることか? そんな奴他にも居るだろ」

「ぷっ……。お前ぼっちなの認めやがった笑」


 少年は急に関係ない所を突かれて驚いた後、心底「勝手に笑ってろ」と思った。


 少年は無言で席を立ち教室を出ようとすると、クラスメイトはそれを見て舌打ちをする。

「おい、逃げるのかよ」


 去り間際にクラスメイトの声が聞こえたが少年は無視をした。

 



■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□▫▪




 屋上に行く前にトイレに行こうと思いながら廊下を歩いていたら、こちらに走ってくる足音が聞こえてくる。

「悠宇くんー!」


 俺…葛西悠宇の名前を呼ばれ振り向くとそこには幼馴染の優香がいた。


「なんだ。優香だったのか」

 優香は同じクラスだ。さっきクラスにはいなかったが、俺を見つけたから走ってきたのだろう。


 俺のいじめに関しては優香本人も知っている。


 優香は俺がいじめられているのを心配そうに見つめているだけだ。そして誰もいない時に近付いてくる。


 まあ、俺としてはそっちの方が有難い。


 クラスの奴らに知られて茶化されたり、優香が巻き込まれたりしてほしくないからな。


「ごめんね、いつも助けてあげられなくて。男子の前だと怖くて……」


 優香は男性恐怖症だ。父親からの虐待が原因で男の性別に組み込まれてる人が怖くなった。昔、俺が優香に対する父親からの暴行を止めたことがきっかけで俺は近づいても平気なようだ。


 因みに優香は今、親戚の家に居る。


「別に謝る必要はないよ。あんなくだらない奴、無視しておけばいい」 

 俺は普通にそう思い割り切っていたが、優香はそうは思わなかった。


「でも……前、体育から戻ってきた時悠宇くんの本……引き裂かれてた……」

 そう…今は亡き母親から貰った本を無惨にも引き裂かれていた。


 俺がずっと大切にしていた本を引き裂いたそいつらに対し、殺意が湧いたが問題事を起こし退学にでもなったら、俺の為に死ぬ気で学費を稼いでくれた母に申し訳ない。


 俺には頼る親戚が居らず、父親は小学生の時事故死した。貧乏でも、家族2人との暮らしは幸せだったのに。そして数年後に母が過労死した。母が節約しながら貯めていたお金がいくらか残っていたため、高校には通えている。


 だけれど二年後、高校を卒業したら働かなくてはならない。流石に大学を通うほどのお金はない。


 

 施設に入る気はない。思い出の家を手放したくなかったから。


「まあ、そのお陰で大切なものは隠せって学んだからね」

 俺は表情を変えず話した。


 その一言を聞いた優香は苦しい表情をし、一瞬俯いたあと笑顔で俺に聞いた。

「そっか……。そ、そう言えば今から何処に行くの? 私もついて行っていい?」

 優香にそう言われた瞬間に目的地に着いた。


 足を止めた俺を見て優香は「どうしたの?」と言ったあと、状況を察し顔が赤くなった。


「ご、ごめん!! まさかトイレだとは思わなくて…。む、向こうで待ってるね!」

 そう言って、トイレの入口から離れようとした優香の手を掴んだ。


「ふぇ?! な、なに?!」

 優香は顔を赤らめてこちらを振り返った。


「ごめん。この本を持っててくれるか?」

俺が本を差し出すと、優香はコクっと頷いた。


 俺はお礼を言いトイレの中に入った。


 数分後、俺がトイレから出てくると優香が涙目になりながら青ざめていた。

「? 優香…どうしたんだ?」


 俺がそう聞くと優香は「ごめん……」とか細く呟いた。


 状況が上手く飲み込めなかった俺は優香の手に俺の本が握られていないことに気づき、全てを察した。


「…クラスの奴らか……」

 優香は頷いた。


「優香、怪我はない?」

 優香はまた頷いた。


「変な事されてない?」

 頷いた。


 そして優香の目から涙が零れた。

「…っ! まさかあいつら何か…!!」 


 俺があいつらを探すためにクラスに戻ろうとすると、優香は俺の裾を掴み首を振った。


「……違うの……悠宇くんが…優しいなって…」

「え…?」

 俺が聞き返すと優香は続けた。

「さっきの本だって大切な本なんでしょ……?」


 確かにあの本も母から貰った本だ。

「なのに……私がちゃんと持ってれば良かったものを、取られちゃって。でも……悠宇くんは責めない上に私の心配をしてくれた」


「それは当たり前だよ。俺の大切な友達だからね。それに、本は何度だって読んだから思い返すことが出来る。だから平気だよ」

 俺はそう言って笑った。


「悠宇く……っ!!」


「ひゅーひゅー! お二人さん熱いねぇ〜」

 不意に声がして振り返るとそこには俺に対するいじめの主犯の芝崎がいた。他にも原田、飯田がいた。


 そして、その手には俺の本が握られていた。

「これ、返して欲しいだろ?」


「お前…っ!!」


「今話してるのはお前じゃない。なあ…早乙女優香。返して欲しいだろ?」

 優香はビクッとなり俺の後ろに隠れた。その手は微かに震えていた。


「……要らない」

 俺は要らないと答えた。優香に何かされると察したからだ。

「は? だからお前に聞いてねぇっつうの」

「俺もお前には言ってない。優香に言ったんだ」


 優香は今にも泣きそうな目をしていた。


「行こう」

 俺は優香を連れてその場を離れた。


 中庭に着いた俺たちは、ベンチに腰を下ろした。

「優香。本当に気にしなくていいからな」


 優香は俯いていた。頷きはしなかった。


「……そんなに気にするんだったら、今度一緒に本を買いに行かないか?」

 俺がそう提案すると、優香は頷いた。


 そして優香は「ごめんね……ごめんね……」と顔を手で覆い隠し何度も泣きながら呟いた。


 俺は優香の頭を何度も撫でた。

「明日、一緒に買いに行こうな」

 優香は頷いた。何度も頷いた。



■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□▫▪



 昼休みが終わり授業も終わり放課後になった。


 俺は優香があいつらについて行こうとしたら止める為に、優香の後ろをついて行った。何故なら「一緒に帰ろう」と言ったが断られてしまったからだ。


 流石にまずいかと思ったが、手段を選んではいられなかった。


 優香が無事に家に着き、俺は罪悪感を感じながらも優香の家を隠れながら見張っていた。


 そして、数時間経った後俺は優香にメールを送った。


 数分待っても返信が帰ってこなかった。…もう少しで日が暮れそうだ。


 優香の部屋は電気が付いていた。

「まだ部屋にいるはず」


 その考えが甘かったと気付いたのは数時後だった。


 いつもは30分ぐらいで返してくれるLINEがいつまで経っても返信が来ない上に嫌な予感がする。


 

 …っ…!!俺はいつの間にこんなに零落したんだ…。裏口があるじゃないか…っ!!!!


 玄関から出てくるとは限らない……!!あいつらに呼ばれたんだ!!

「くそ……!!」


 俺は動揺しながらもスマホを手に取り、優香に電話した。すると何コールかで、優香は電話に出た。


「悠宇くん? どうしたの?」

 いつも通りの優香の声だった。


「……あ……い、いや…何でもない。急に電話して悪かった」

「え? う、うん」

 俺は電話を切り、安堵した。


 ただの思い過ごしだったようだ。特に変わっていない、いつも通りの声だった。

 

 ……いつも通り?


 さっきの事がまるで無かったかのようにいつも通りだった……。


 優香は怒りや悲しみなどの物事をズルズルと引きずったりする奴だ。そんな数時間でいつも通りになる筈が無い……!!


 俺は慌ててもう一度優香に電話した。だけど優香は電話に出ることは無かった。


 ……っ!!優香は何処にいる?!


 ……確か優香は合気道を習っていた。あいつらもそれを知っている。


 一対一じゃ到底優香には敵わない。確実にあいつらは大人数で来る。


 ということは、大人数の男が女子一人を囲んでも何も思われない場所。人気がない場所。


 さっき電話した時も優香の声以外音は何も聞こえなかった。つまり、場所は大通りから離れた路地裏か廃ビル……!!


 俺は急いでスマホを使い、周辺のマップを開いた。


 ここら辺にある廃ビル。そして大通から離れている路地裏。多すぎる……。


 明らかに効率が悪すぎるな……でも、警察に行ったって時間がかかるだけだし、何より証拠がないから信じてもらえない。手段を選んではられない!!まずは廃ビルから片っ端に探していく!!


 俺は駆け出し複数ある廃ビルの中を探しまくった。

 

 

 そうこうしている内に数時間が経ち、優香から電話がかかってきた。


 俺はその事に気付きスマホを手に取り「優香ッ!!」と電話口に向かって叫んだ。


「……悠宇く……ん……」

 今にも消え入りそうなか細い声の主は紛れもない優香だ。


「ゆ、優香! 何が……ッ!!」


「ごめんね……悠宇くんとの……約束、破っちゃった……」

 優香の声は震えていた。


「そんな事はいいッ!! 優香!! 今何処に……!!」

 俺の声を遮るように優香は言った。


「悠宇くん」

「何……っ?」

「あはは。悠宇くんの幻影が見えるよ……」


 幻影…?!


 まさかッ!!


 俺は闇に包まれた空を見上げた。側には今向かっていた廃ビルがあり、そこに人影があった。


「優香!! 早まるな!! 待ってろ……俺が今そこに――」

「最期に悠宇くんの声が聞けて……良かったな」

 優香はそう言って電話を切った。


 そしてその後直ぐに優香が落ちてきた。

 

 

 落ちてきた。



 ぐしゃっ。



 俺は手に持っていたスマホを落とし画面を割ってしまった。だけれどスマホが落ちた音も割れた音も聞こえなかった。


 ぐしゃっ。ぐしゃっ。ぐしゃっ。


 何度もその音が頭の中でリピートした。


 ぐしゃっ。何かが潰れた音。


 そこには関節がありえない方向に曲がり頭から大量の血を流した優香がいた。見るに耐えない無残な光景だった。


 俺は何秒か思考停止しその場で固まっていた。


 震えながらも唯一出た一言が「……っ優香……?」だった。


 信じられなかった。


 俺は何を間違えた?


 何処で間違えた?


 俺はふらつきながら優香の元に歩み寄った。その時、ガサッという紙を踏んだ音が聞こえた。下を見るとそこには紙切れがあった。


 拾い上げるとそこには優香の文字で

「悠宇くん。有難う。ごめんね」

 と、一言書かれていた。


 途端に俺の目から涙が溢れ出てきた。


 その場に崩れ落ち、優香を胸元に寄せ抱きしめた。


 そして俺は声を上げずに泣いた。


 泣いた。

 

 次第に雨も降り始めた。まるで俺の涙を隠すかのように。

 

 数分が経過し、俺は制服を脱いだ。

「優香のせいじゃないよ。ただ俺があいつらを殺したいだけ」


 そして優香の頬にキスをした。そのあと立ち上がり、脱いだ上着を優香に被せた。


「待っててね。優香……」

 俺は優香を優しく見つめながら言った。


「……愛してます」

 

 段々と雨は止んでいき小雨になった。


 小雨に打たれ、滴が頬に流れ落ちた少年の表情はニッコリと笑っていた。


 それは、優香への愛する気持ちと奴らに対する復讐心が入り交じった結果であった。

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