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C  作者: ウボ山
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Cの10「ハンドスピナーの次は二重振り子が来ると思うんだよね、私は」

「ハンドスピナーの次は二重振り子が来ると思うんだよね、私は」


 朝食を食べていると、突然むつみがそんなことを言い出した。テレビでは年末ジャンボ宝くじのCMが流れている。それを見て彼女は口を開いたようだったが、どういう連想を経て出てきた話題なのかは俺には分からない。無秩序だ。


 ここ2日間、すなわち土日もまたカオスに過ぎ去っていった。むつみはなぜか我が家に入り浸っていた。さすがに連続で泊まるということはなかったが、しかし奴は朝から家に来て、晩飯を食って帰るのである。我が家を健康ランドか何かと勘違いしているのではないか(さすがに風呂には入っていかないが)。

 そして今日、月曜日の朝っぱらから彼女はいる。平日の朝から健康ランドとは、さながら老人である。


「ハンドスピナーなんかより視覚的に面白いし、いけると思うんだけどなあ」

「二重振り子ってなに?」妹が言った。

「いっぱい鉄球が吊られてて、端の球をぶつけたら逆方向の球が弾かれてずっと動くやつだよ」俺が適当に教えてあげた。

「ああなんか見た事ある」

「それはニュートンのゆりかごっていう別物」むつみは携帯を手に取り何やら操作をしたあと、画面を妹に突きつけた。「これ」

「へえ」妹は興味深そうに画面を見つめて言った。「なんかオタ芸みたいな動き」


 妹はスマホをむつみから受け取ると、画面を食い入るように見つめていた。ベアリングで繋がれた2枚の長細い板が画面の中を跳ね回っている。確かにオタクが腕を振り回しているようにも見えなくはない。


「でもこれでどうやってハンドスピナーの後釜に座るの? ジャンル全然違くない?」

「ベアリングのとこを指でつまめば同じようなもんでしょ」

「うーん?」妹は納得いかないといった表情を浮かべる。


 誰かが街中で二重振り子をつまんで動かしているのを想像してみる。不審者である。


「あー元手になる金があればこれで一発当てるのになあ。宝くじ当たんねえかなあ」むつみがオッサンみたいなことを言い出した。

「買ったのか?」

「買ってないよ」

「じゃあ当たらないだろ」

「ちっちっちー」むつみはやはり口でそう言った。「逆だよ。当たらないから買わないの」


 なんか違う気がするがなんか納得させられてしまった。


 その後俺たちは家を出た。俺たちは健全な学生であるので平日は学校に行かなくてはならない。まあ別にサボっても構わないのだがサボる理由がない。家にいてもやることがない。

 結局俺たちはパンをくわえた女の子とぶつかることもなく、無事に学校までたどり着いた。途中まではまばらだった人影が、学校の近くに来ると途端に増える。蜘蛛の子を散らすよう、という言葉があるが、その逆はなんと言うのだろうと疑問が生まれた。


「よう」


 昇降口のあたりで石原に出会った。彼は俺に向けて挨拶をしたが、俺の隣にむつみがいるのに気づくと怪訝な表情を浮かべた。彼はしばらく俺とむつみを交互に見たあと口を開いた。


「一緒に登校?」


 なんと答えようかとむつみの方を見た。彼女は少し戸惑いの表情を浮かべていた。彼女は石原の顔を知らないらしい。石原は彼女を知っていたのに。


「やあやあやあ、2次元の女子でしか興奮できないともっぱらの噂の石原くん。おはよう」挨拶ついでに石原の紹介をしてやる。

「失礼な。できないんじゃない。しないんだ」

「同じじゃないか」

「響きが違う」


 女子の前で性癖を暴露されたことよりも、そんな細かい部分が気になるらしい。


「えーと、おはよう。2次元エロ魔神の石原くん」むつみが戸惑いながらも石原に挨拶をした。

「あ、おはよう」石原は少し焦りつつも挨拶を返す。「こいつの親友の石原です」

(その自己紹介は自意識過剰が過ぎてないか?)

「ああ、親友の人」むつみは何かに納得いったように頷いた。

「えーと、さっきさらっと言ってましたけど、2次元エロ魔神ってなんですか?」石原が訊いた。

「もっぱらの噂ですよ? 2組の石原は2次元でしか興奮しないんだって」


 俺たちはそのまま教室に向かった。むつみとは1つ手前の教室で別れる。すると石原が静かに口を開いた。


「いいご身分だな。朝から美少女と一緒に登校とは」

「別にいいだろ。2次元エロ魔神」

「なんだよその妙な二つ名は! 俺の性癖をそこら中で吹聴してるんじゃねえ!」

「いや、それは違うぞ」


 俺が石原のことを勝手にそう呼んでいたら、思った以上に定着してしまったのだ。


「俺が流行らせたのは2次元エロ魔神というあだ名だけで、2次元でしか興奮しないっていう噂に俺は関係していない」

「いや関係ないっていうか、名は体を表し過ぎだろ」

「というよりも変態を表しているな」

「おい」

「ほんとごめん」


 月曜の朝はそんな感じで過ぎていった。

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