07 今後を見据えて国籍ねつ造??
「それで、お前はこれからどうするつもりだ?」
父さんはやっと家族が全員揃ったと大喜びでビールをのみ、その父の晩酌(晩御飯前だから食前酒か?)に美佳ねえが付き合ってるのを尻目に晩御飯の用意を進め、
そのまま晩御飯に突入。およそ半年ぶりに食卓の上座には主が座り、さらに言えば2年前の正月以来の、家族5人そろった晩御飯。
晩御飯での話題は俺の空白の2年、どこで何をやっていたか、だ。
俺は突然の異世界召喚からの始まり、住んでいるところが襲われ帰れなくなり、現代の技術を伝播しつつ、魔法の研究を進めていくと最初は使えなかった魔法が使えるようになった、というところまで話を進めたところで先ほどのこれからどうするつもりだという父さんからの質問だ。
「正直、どうするか見当もつかない。3週間くらい前まではこっちに戻ってきたら高校は諦めて高卒認定試験を受けて大学からやり直すつもりだった」
向こうの世界で帰れなくなって一か月もすると
「俺、このままだと高校留年は確実だよな」
とかをリアルに考えていた。
現代日本において社会生活を送るにあたり、高校留年はちょっと・・・
まして高校中退、中卒で働くのはもっとないだろう。
となると、日本に戻ったら高校は諦めて高卒認定試験で高校卒業資格をゲット。合わせて大学受験をし、大学からやり直せば・・・
と考えていた。
高校と違い、大学には浪人して入学する例もあるし、涼ねえ、美佳ねえから飲酒を求められるシーンもあると聞いている以上、20歳でいいところの大学に進学するのはありだろう。
高卒認定試験と大学受験勉強を合わせて2年で何とかすれば、人生の再設計は何とかなるだろう。
が、この計画は俺が立花悠司であることが前提である。
今の俺は客観的に見ればどう見ても男でなく、女。しかも日本人らしくない。
「つまり無計画か」
「考えたくなかったけど今の俺の戸籍って無国籍だよな」
一般的な性別適合手術による性転換でなく、俺の場合骨格レベルから別人なので俺を立花悠司と証明するのはどうすれば・・・
「いっそのこと別人になるか?」
何言ってんだ?このおっさん?
「お父さん、そんなことできるの?」
「俺の活動している地域だと紛争で戸籍ごと吹き飛んだ、なんてざらだし、そもそも戸籍登録していない人だって大勢みてきた」
そんな人たちに政府と交渉し、戸籍を用意するのも俺の仕事だ、と胸をはる父。ついでに俺に架空の戸籍を用意することだってつてを使えば出来るらしい。本当かよ。
「けどさ、それだと悠が赤の他人にならない?」
「そこはあれだ。女の子の悠司は俺が若い時に火遊びした時の隠し子ってことにすればいい。そうすれば日本国籍だって『俺の子供』ということで赤の他人を日本人にするよりずっと簡単に取得できる」
「それ、父さんの社会的名誉とかが」
「悠司。よく聞け。お前が幸せになれるなら俺の名誉なんて消え失せていい。これは本音だ」
パパン!素敵!
「でもその場合、親子鑑定とかでひっかからない?」
「そうそう。日本ってその辺厳しそう」
「う~む。そこー」
「その点は多分問題ないわよ」
話に割り込む涼ねえ。というか問題ない???
「あくまで学生が使える簡単な装置での結果という前提だけど、今の悠司の遺伝子は男だった悠司とは別物。一方で、私達の血縁者と言えるレベルで遺伝子に類似性があるわ」
「どうやってユウちゃんの遺伝子検査したの?」
「さっき言ったでしょ。大学で遺伝子の研究をしてるから、そのつてで装置を使ってちょっと見てみたのよ」
「いつ俺の遺伝子をとれる何かを集めたのさ」
「昨日の朝、あなたの髪を梳いたでしょ?その際の抜け毛を回収して調べただけよ。結果は今日の朝、父さんを迎えに行くついでに大学によって確認したわ」
いつの間に・・・
この後は俺の異世界話など吹き飛ばして俺の日本国国籍取得話に話をふることとなった。
その日の夜
「昨日ローテーションで俺に風呂で女子教育をするって聞いたけど、今日は涼ねえの番か。」
「そうよ。なにかあるの?」
「お願いします。前くらい隠してください。」
涼ねえは昨日の陽菜と違って水着など着ないで全裸だ。さらに手で隠しもしない。
「ここは風呂場よ?別にそんな必要はないし、美佳や陽菜と入る時も隠してはいないわ。第一、悠司だって隠してないじゃない」
「男と女ではー」
「今は二人とも女だから問題ないわね。」
「そうなんだけど、そうじゃないというか。」
「私も1つ聞きたいことがあるわ。」
というなり、俺の腕に抱きついてくる涼ねえ。
「ねえ、どう?」
「どうと言われても、困るというか、大きいというか、柔らかいというか・・・」
涼ねえの大きな胸が形を変えて俺の腕にくっついている。
「性的に興奮する?」
何言ってるんですかね?この人は?
そんな俺の気持ちも知らず、わさわさと人の体を触る涼ねえ。
「体温や脈拍に変異はなし。性器からの分泌物も・・・」
「いや、ストップ。どこ触ってんの!さすがにそこはだめだ」
「安心して。指を中に入れたりはしないわ。入り口だけだから」
もう何がしたいんだよ。涼ねえ・・・
「したいこと?あなたを調べてみたい。これに尽きるわ。いいかしら?遺伝子的にみればあなたは別人よ。なのにどうして悠司の記憶をもっているのかしら?これは記憶が脳にあるからかしら?ならどうして脳が同じなのに遺伝子は別人になるのかしら?そもそも男と女で脳は若干違うのよ?できればCTスキャンを撮ってみたいわね。そこから取り出される脳の状態は男性の特徴があるものかしら?それとも女性の特徴がある脳かしら?体表面的な特徴を見れば女だけど、あなたは心理的に男性を異性とみなしていない。どうしてかしら?サンプルとして私が相応しいかは議論の余地があるとして曲がりなりにも妙齢の女性の乳房を触っても何の反応も示さないー」
「涼ねえ。俺が悪かった。裸のまま、このままじゃ風邪ひいちまうし、風呂を長く占拠できないからまずはやることをやろう」
「そうね。美佳や陽菜だったら一緒に入っても問題ないけど、今日はお父さんがいるんですもの。いつまでもお風呂を占領できないわね。」
・・・父さんがいなかったら続けたんですかい。
数分後・・・
「・・・怒らないから素直に言いなさい。その洗い方は陽菜に習ったの?それとも我流?」
滅茶苦茶怒ってますよね?声も表情もものすごく怖いんですけど・・・
「いい?髪の毛はそんな乱雑に洗ってはダメよ。特に今日は草むしりで半日外に出ていたわけだからー」
結局俺は涼ねえにおもちゃにされて風呂を後にすることになる。
「ちょっと待ちなさい。こんな風に脱ぎ散らかしたままだと後でお父さんが困るでしょ。」
風呂を出たあとでもダメ出しですか。
「そう言わないの。あなただって男の子だったんだから、これがどう見えるかわかるでしょ?」
涼ねえが指をさした先には俺が昼間着ていた下着があった。
そうだな、男からすると、確かにこれが目につくとこにあったら困るわな。
「そういや涼ねえ。この下着ー」
「ブラのこと?」
はっきり言ってくれるな。恥かしい。
「あのねえ。これからずっとお世話になる物を恥かしがってどうするの?で、ブラがどうしたの?」
「あのさ、この手の下着って手洗いしてたんじゃないの?」
「2年前もそうだったのだけど、全部が全部手洗いしてたわけじゃないわよ。安物はブラネットに入れて洗濯機のソフトモードで洗っていたわよ。あなたが洗濯当番の時は手洗いにしていたけど」
「あ、そうだったんだ。ところで安物って、昼間着けてたこれ、結構いい値段したはずなんだけど・・・」
不用意な発言だったのだろう。涼ねえはニッコニコ顔になり俺に告げる
「あら?昨日悠司用に買った下着は全部安い方よ。そもそも子供用なのよ。それ。今度勉強がてらに高いお店に一緒にお姉ちゃんと一緒に行きましょうね」
何が楽しいのか満面の笑みを浮かべる涼ねえ。
どうやらラスボスには第二形態があるようだ・・・
またもや男の尊厳を削られ、フラフラになりながらリビングに向かうと
「なんだ悠司。随分可愛らしいパジャマだな。でも似合ってるぞ」
父さんから寝間着姿を褒められた。
なまじ悪意がないだけにたちが悪い。
2018/7/30 改行位置を修正しました。