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06 夏の大掃除と父の帰国

 突然だが、俺の家の広さを紹介(自慢)したい。

 俺の家はなんと超豪華に5LDKと来ている。おまけに3坪(畳六畳)ほどの庭を持ち、さらには駐車場スペースも3台分もある。風呂場は大人二人なら余裕、三人でもなんとか入れる広さだ。


 これは俺の父親が高給取りだから・・・

 ではない理由がある。


 父親の給与について補足すると、NPO法人で働いているが、給与は出る。日本人の多くに誤解があるが、NPO法人=無給でボランティア活動をする連中、ではない。それなりの給与はでる。それなりではあるが・・・


 ではなぜ、こんな豪邸に住めているのか。理由は2つある。


 1つはここが田舎であること。

 俺達の住んでいるところは俗にいう研究学園都市(大学や大学院などの高等教育機関や企業や団体の研究機関・研究組織が多く集まる都市)だ。これは教育や研究にかかる税金を合法的に低くし、その利点をもって企業や人を誘致するというやり方である。逆に言えば教育機関や研究機関をたくさん招致できるくらい元々は空き地というか荒野の多い土地であり、父さんはたまたま施設が揃い、土地代が本格的に値上がりする前に購入できたため、それなりの給与でこれだけの家が買えたわけだ。

 なお、最近になり都心まで1本で行ける線路が開通し便利になったが、それ以前は本当に不便な田舎だった(らしい)。

 駐車場スペースも3台分あるが、これは一家に最低1台、できれば1人1台車がないと生活できないからである。


 もう1つはこの家が元々2世帯住宅を考えて建てられたものだから。

 父親が不在がちな家庭なので、俺達姉妹は母親と母方の祖父、祖母と共に元々は暮らしていた。風呂が広いのも将来介護をしつつ入浴、を想定したためである。

 もっとも、このうちの1世代・・・母、祖父、祖母は俺が小学生の時に交通事故で亡くなった。


 そんな経緯もあり、4人姉妹にも関わらず俺達は1人1部屋という破格の扱いをもって育ってきた。が、これには大きな弊害もある。そう、掃除がとんでもなく面倒なのである。


 なので俺達は各人の持ち場以外に、最低月1回、中規模掃除を行い、夏には大規模掃除を行うと決めている。

 なぜ年末でなく夏かって?

 はっ。これだから素人は困る。掃除と言えば水は必須。そして何が悲しくて水が冷たくて乾きにくい冬に掃除をしなければならないのか。合理性を考えれば大掃除は夏に行うべきである。


 というわけで俺は朝から雑草の無法地帯とかした庭へと出向いていた。

 ・・・2年前までは花や簡単な家庭菜園を植えるだけの余力があったが、4月に美佳ねえが寮生活になったことで抜け、6月に俺がいなくなったことで涼ねえと陽菜のふたりでは手が回らず、庭は荒れ放題となったそうだ。

 これは俺が原因なので俺が担当する必要がある。

 いうまでもないと思うが、美佳ねえや陽菜も別の場所の掃除担当となっている。

 例外は涼ねえ。さぼりではなく、別の用事を担当することになってた。


 ちなみに草むしりに向かう俺の格好だが、レディース(正確にはガールズ)ものとはいえ、ジャージの上下にサンバイザー、これに軍手といった姿であり、俺の精神的に優しい格好となっている。

 下着については考えない。あれは呪いの品で装備欄から外すことができないのだから仕方ない。

 ・・・大変遺憾ではあるが、この呪われた装備は少なくとも性能面では俺が異世界で着ていた下着やこの世界での男性用下着とは比べ物にならない程、今の俺に適した品だ。

 流石呪いの品。RPG同様、デメリットもあるが性能だけなら通常装備より上だ。


「いや~さっき庭を見てきたけど、久しぶりにすっきりしたね。」

昼御飯は夏の定番、そうめん。なお、めんつゆに少量のポン酢を混ぜるのが俺の流儀である。

「久しぶりって、冬場はすっきりしてたんじゃないの?」

「それがなんかわからないのが生えてたの。」

「そんな魔境を人に草むしりさせるなよ。」

ツルツル。うまうま。やっぱり夏はこれだな。


「で、草むしりは片づけたけど、俺は次、どこを掃除すればいい?」

「じゃ、お風呂をお願い。物置の掃除というか整頓だけど、思った以上に時間がかかりそうで・・・」

「父さんの部屋はもう少しで終わるから、それが終わったら陽菜を手伝うよ。」

「美佳ねえ。ありがとう。あぁ~。掃除なんて魔法でパパッと終わればいいのに・・・」

「・・・少なくとも俺が飛ばされた異世界の魔法ではそんなに都合よくいかなかったな」

「だったら逆に異世界の魔法は何が出来たのさ。」

「明確な意思・目的と途中経過も含めた具体的な想像が出来れば何でも出来る」

あとは魔力も必要だが、これは何とかなる方法を見つけたので、優先度は低いだろう。

「何でも出来るんだったら掃除も出来るんじゃないの?」

「前提の『具体的な想像』って奴が出来ないはずだよ。」

そう言って俺は席を立ち、ペンと紙を回収後、再び食卓に戻る。

「試しにさ、さっき言ってた『魔法でパパッと』掃除が出来た後の具体的な風景を描いてみろよ。ちゃんとどこに何をしまうのか、まで考えるんだ。それが出来れば魔法で掃除できる」


 描かせてみると案の定、意外と二人ともできない。そりゃそうだ。なんとなくのイメージは簡単だが、具体的なイメージとなると難易度が跳ね上がる。

 魔法にしても単純に「見境なしに圧倒的な火力」だとか「家々をなぎ倒す暴風」なんてのは想像しやすく、出来る者も大勢いるが「部屋にある10個の燭台すべてに程よい明りの炎」だとか「夏場に嬉しい強くもなく、かといって弱くもない涼風」となると意外とうまくいかない。大抵コントロールを失い、やりすぎてしまうか、ほとんど効果がでないかになる。



「ユウちゃんさ、前に『無限の魔力なんてなかった』って言ってたけど、その口ぶりからすると魔法使えたんだよね?」

「あぁ。最初は使えなかったが、最後には魔法を極めし者って二つ名がつくレベルで使えてた。ま、こっちの世界じゃ使えないけどな」

「それはどうして?」

「あっちの世界は世界中に魔力が満ち溢れてたんだ。そしてこっちの世界には反対に魔力がない。燃料となる魔力がないんだから魔法が使えないのさ」

 例えていうなら燃焼と酸素の関係であろうか。あちらの世界では酸素が空気中にあるので燃焼が行え、こちらの世界では酸素がないので燃焼が発生しない。

 魔法に関しては酸素を魔力、燃焼を魔法と置き換えればよいだろう。


 そんな話を昼御飯の話題に軽く上げつつ、俺達はおよそ半日を使い家の大掃除を終わらせた。そしてその日の夕方、朝から不在にしていた涼ねえの車が戻ってきた。


 俺達は3人は「2人」を出迎えるために玄関に向かう。


「「「おかえりなさい」」」

「ただいまっと・・・」


 家に久しぶりに男性があがる。


 その男性からすれば全く見慣れない、初めて見る少女・・・つまり俺に視線が向かう。


「随分見た目が変わったが、お前が悠司か?」

「あぁ、俺が悠司だよ。父さん」


本名 立花司

俺達の父親で1年の半分以上を海外で過ごし、人助けに人生を捧げる変人。


「何つーか、リアクション薄くね?」

俺は予想外に反応がない父に驚く。

「そりゃ、一昨日涼香からお前が生きてること、女になったことの連絡を受けた時は驚いたし、うれしかったさ。なんとか1日でも早く帰国を早められないか交渉だっていろんな人にしたしな。でも中1日置いたことで落ち着けた。ただ、今日涼香に迎えに来てもらって車の中で色々話した時にちょいとショックがあってな」

 言うまでもないと思うが、涼ねえが朝から不在になっていたのは空港まで父さんを迎えに行っていたためである。

空港から家までは公共の電車やらバスやらを使うと遠回りをしないとつけず、おまけに乗り継ぎも悪いので4時間前後はかかる。そこを車で行けば片道2時間強。ならば長旅で疲れた父を迎えに行くのは子供として当然のことだろう。


「ショックって何がショックだったのさ」

 自分で言ってあほなことを言ったものだ。父さんは女だらけの我が家において貴重な長男である俺を贔屓していたような気がするしな。

 2年前にも「息子のお前だけが家庭で俺の味方だ」とか「悠司、二十歳になったら俺とサシで呑みに行こう」とか言っていた。


「いや、お前が悠司かどうかを確認するために涼香も美佳も陽菜もプライベートな思い出を色々根掘り葉掘り聞いて納得したんだろ?でも父親である俺にはそんなものがない。お前だけにじゃない。改めて考えると涼香も美佳も陽菜にもない。それがちょっと今更ながらショックでな。」

「・・・」

そっちか。確かに父さんの思い出ってあんまりないな。

「ま、過ぎたことを言っても仕方ないよな。思い出がないならこれから作ればいいしな。」

「作るのは良いが、いつまで日本にいるのさ。物理的に時間がないと作れるものも作れないぞ?」

「お前の件もあってたまりにたまった有給をどっさり使うつもりだし、一か月は仕事をしない。それに年内は日本にいるつもりだ」


なるほど、少なくとも四か月ほどは日本にいるつもりか。


「なんにせよ、久々に家族が揃ったんだ。こんなめでたい日は日本のビールだな。」

「言うと思って冷やしてある」

これは美佳ねえ。

「美佳、気が利くな。ところでお前は俺に付き合ってくれるか?」

「・・・好きじゃないけど可哀そうな父のために一杯くらいなら付き合うよ。」

美佳ねえはお酒をほとんど飲まない。スポーツウーマンの自分には不要なものだそうだ。


 また、涼ねえに話をふらないのは下戸だから、ではなく単純にお酒が嫌いで飲まないからである。

 曰く、大学に入って飲み会で羽目を外しすぎた先輩を見て幻滅したらしい。そんな嫌酒家の涼ねえは嫌な予感のするニコニコ顔で俺に向かってきた。嫌な予感しかしない(二回目)。

「ねえ悠司。突然で悪いけど、これとこれ、どっちが性的に興奮する?」

取り出したのはグラビアアイドルの写真集とイケメンアイドルの写真集。


「いつか聞かれると思った。どっちも興奮しないけど、しいていうならこっちのグラビアアイドルの方。男の方はどこがいいのかわからん。そもそも俺はホモじゃない。」

そうなのね。となにやらぶつぶつ呟きだす涼ねえ。

何を考えているのかわからないけど、何もなければいいなあ。

2018/7/30 改行位置を修正しました。

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