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05 元英雄 ショッピングセンターで身の回りの物をそろえる

「ねえ悠司。この髪の毛は地毛?それとも染めているの?」

 俺がこの世界に戻ってきて2日目朝。

 寝癖がついた髪をそのままにしていたら三姉妹に「可愛くない!」と一喝され、現在俺の髪は涼ねえによって丁寧なブラッシングが施されている最中である。

「多分地毛だと思う。俺は20・・・じゃない21日前に女になったんだけど、その時からこんななりだった。」



最後の魔術(ラストマジック)

 死の間際、おのれの命と引き換えに生来よりもはるかに強力な効果を発揮させる禁忌魔法。ただでさえ凶悪な魔力を持つ魔王がそれを使ったのだ。


正直よく生きて……

 いや、ここでも俺は生かされたに過ぎない。魔王に止めを刺した勇者ライナスと近くにいた聖女マリアベルは最後の魔術で人とは思えぬおぞましい姿に変えられて死んだ。

俺が生き残ったのはたまたま……


「ユウちゃん?どうしたの?怖い顔をして?」

「いや、この後、女物の下着を買わされると思うとついな……」

「買わされやしないよ。お金は非常時のお金から出すからね悠のお金じゃないし。どっちかというと着させられるかな?」

「美佳ねえ。容赦してくれない?」

 俺の男としての尊厳はガリガリ削れて、もはや出汁も出ないレベルですり減っている。というか今の格好の時点でもいじめだ。


 今朝起きたら「ユウちゃん、今日はこれね」と上は白色、下は紺色のツーピースを渡してきた。昨日と違い、下はスカートである。

 当然ごねたが、他に着替えがないらしく渋々着ることとなった。

 ……もちろん、男だった時の衣類を俺は主張したが、3姉妹より却下。確かに俺が男だった時の服を着てみたがサイズが全く合わず、人前に出ていい姿にはならない。あの格好で出たら間違いなく不審者だ。

 下着もその……あれだ、男なら絶対に身につけないあれではないが、胸当てが二重になっているキャミソールを着ている。これだってごねたが、これを着ないとさすがに街中を歩くにはちょっと、という事態になるから仕方なくだ。

 そして俺が渋々女装(いや俺自身今は女だから女装とは言えないのか?)を終えると今度は髪を梳くのだという。

 俺は余計なお世話だと主張したが、聞き入れてはもらえなかった。


さらには

「いい髪質なのに、手入れがザルね。」

「ユウちゃんには髪の手入れから教えないとね」

「どうする?とりあえずローテーションでー」

などという会話が聞こえてくる。


 俺の容姿は魔王の最後の魔術、そこに込められた「反転」と「融解」により大きく変わった。本来、(少なくとも俺の行った異世界の)魔法とは具体的に○○をする、と決めることで大きな効力を発揮するもので、大雑把に「反転」(何を反転するのかわからん)とか「融解」(同じく何を溶かすのかわからん)では魔力の無駄遣いとなる。が、これを魔王の魔力で最後の魔術を使うと違った。


 ライナス。誰よりも頼れた俺達のリーダーは肉と骨をぐちゃぐちゃにされてさらに内臓と外皮を反転させられて死んだ。


 マリアベル。聖女とはかくあるべしと地で行く才媛は関節という関節を逆にされ、さらには皮膚だけが融解して死んだ。


 そして世界樹。あらゆる生命の源であり、世界の根源あり、青々と活力に満ちた大樹は、枯死した。


 ライナスに渾身の一撃を撃たせるために身を盾にした俺は、最後の魔術を行使する直前に魔王からの凄まじい衝撃波をもって吹き飛ばされていた。

 飛ばされている途中、たまたま吹き飛ばされて飛んだ俺とその直線状にいた魔法使いレティーナを巻き込んでなおもしばらく飛んで、地面を転がり、ようやく止まった。

 その為か、魔王が最後の魔術を使った際には偶然、距離が離れていた。

 この手の魔法は距離が離れれば離れるほど効力を急速に失う。さらには着ていた傷を自動的に癒す奇跡の衣とあらゆる呪いをはじくとされた妖精王の冠の効果で呪いの効果を弱めつつ、融解した身体もすぐそばから回復しつつで何とか生き残ることが出来た。代償に奇跡の衣と精霊王の冠は壊れてしまったが……

 いや、そもそも身体が融解している際にレティーナと混ざったような気も……

 そんなわけで俺とレティーナはおそらく反転の効果で性別と容姿こそ変わったが、生き残ったわけだ。ただし、俺は少女、レティーナは少年に変わったけどな。




「ねえ。悠の髪の色は茶、いやこれ亜麻色っていうのかな?だけど、ファンタジーとかだと赤とか青とかの髪の色があるけど、そんな奴はいたの?」

「あぁ。少なくとも俺が行っていた異世界だと金、赤、茶、青、緑、白、ピンク等々カラフルな感じだった。黒は逆に少なくてすごく目立った」


 戻ってきた今となってはあちらの常識的な赤だの青だのの髪でなくてよかったと思っている。

 ちなみに今の俺の容姿は髪は亜麻色、肌は白色、こちらで言えばスラブ人の特色を出しているが、目鼻のパーツはアジア系というか日本人的な要素も感じる。ありていに言えばハーフと思われる容姿だ。

 容姿は整っている方だと思うが、それが俺自身なのであまりうれしくない。

 髪は腰まで伸びている。これは正直切りたい。あっちにいた時は女性の髪は、魔力を蓄えるだとかの信心もあって中々切れなかった(切らせてもらえなかった)が、こちらに来ればそうではない。近所の床屋にいって切ってもらうか。

 身長は150cm弱。日本人女性の平均身長が確か160cm弱のはずだから、あと10cmくらいは伸びたいところだ。

 体格は子供体型。童顔で実年齢の18歳には見えないが、体の一部は丸みを帯びている。涼ねえの言葉を考えれば年齢退行の可能性もあるが、実際どうなのだろう?


「はい。ブラッシングはいったんこれでおしまい。帰ってきたら本格的に髪の手入れを教えるからそのつもりでいるように」

 本格的ってそんなのいらんよ。そもそも俺は髪なんて結ぶ気はないからそのままでいい。それなら楽だろう。

「うわぁ。その自然な感じのストレートを維持するのがどれだけ大変か知らないんだ」

しらん。最初からこれだったからな。

「え?ひょっとして魔法的な何かで美容を維持してたの?」

そんなのは聞いたことがないな。むしろこっちの世界の美容液だとかを羨ましがっていたくらいだ。

「って涼ねえ!人の髪で何をやってるのさ!」

「何って、可愛いからちょっと編み込んでみようかと思って」

「余計なことをしなくていいんだよ!」

「余計なことじゃないわよ。この方がそのツーピースには似合うわよ」


「それじゃ私は大学に行ってくるわ。今日は夏休み前最後の日だから飲み会があるの。帰りは遅くなるし、晩御飯もいらないわ。」

人の髪で遊んだ涼ねえは上機嫌に家を出て行った。

「涼ねえって手先が器用だよなあ」

「加えてセンスもいいよね。ユウちゃん、すっごく可愛くなったし。」


 まあ、客観的に見て自分でも驚くくらい可愛くなっているのは認めよう。異世界と違って容姿に使える道具の種類と数も違う(あっちじゃ精々髪を梳いてリボンか紐で結うくらいしかおしゃれが出来なかった)。髪形一つここまで変わるものかね。涼ねえの技術もあって今の俺は「あれ?ひょっとして俺、美少女じゃね?」と勘違いできるレベルの容貌に化けた。

 だが、俺は男だ。ちっともうれしくない。


「さて悠。確認だ。今日の悠の設定は?」

「私の名前はユーリです。ヨーロッパから来ました。立花のお父さんを訪ねて日本に来ています。日本語も勉強したので話せます」


 別にこれは冗談ではない。今の俺の容姿はどう頑張ったって日本人には見えない。また、ここは地元でうっかり同級生とすれ違うこともあるだろう。さらに言えば俺の失踪騒動は近所では有名で、うっかり外で「悠司」などと姉妹から呼ばれればひと騒ぎになりかねない。

 そこで一計。俺は悠司ではなくユーリという女の子であるという架空の設定を作り、買い物に出かけるのだ。

 ユーリという名前なので二人からは「ユウ」と愛称で呼ばれても変でもないだろうし、俺もいつもと同じ「ユウ」で反応できるので悪くない。

 無論、そんなことをしないで美佳ねえと陽菜だけで買い物に行ってもらうという手もあったが、めっちゃニッコニコ顔で「悠(悠にい)に頼まれたんじゃ仕方ないよね。私が悠(悠にい)に似合う服を買ってきてあげるね」などという発言を聞いて俺も一緒に行くことにした。あのまま二人に行かせたら、俺の正気が削れてしまうような衣類しか買ってこないだろう。


 余談だが、俺は英語が話せるので今の容姿と合わせれば外国人のふりは出来るだろう。英語は小学生のころ、マジック・ワールドとかいう海外製のTCGに涼ねえとドはまりしたのが原因だ。

 このマジック・ワールド、日本語訳版を販売している代理店もあるが、どうにも動きが遅く、海外版の全てのカードが日本語訳されるわけでは無かった。最新版のカードを使いたかった俺と涼ねえは輸入代理店から海外版カードを入手し、二人して英語の辞書片手に英語版のカードを訳し、それでも足りないので英会話スクールでみっちり勉強したことで英語が得意になったのである。


「それじゃ乗ったね。出発・・・の前に悠、女の子がそんなに股を開いて座らない。」

後部座席のシート席にどっかり座った俺に美佳ねえの注意が飛ぶ。

「ユウちゃん、あんまり酷いと悪目立ちしちゃうよ」

……俺とは反対に女から男に変わったレティーナを思い出す。あれは目立ったし、あの目立ち方は嫌だな。

「可能な限り努力する。変なところがあったら外国人だからってことでフォローしてくれ」


 こうして俺達をのせた車は巨大ショッピングセンターへ向けて出発した。




 そしてショッピングセンター初手から俺は敗北していた。

 ショッピングセンター1件目からいきなりパステルカラーのラスボスに精神力をぼっこぼこにされ、KO寸前だ。


 ラスボスの名は女性下着専門店。本来なら俺には一生縁がない店だ。


 俺が入口で立ち止まっている間に美佳ねえがなにやら店員と話している


「-というわけで、今までブラをつけたことがないんですよ。もういい大きさなんですが・・・。まずはサイズから測ってもらえませんか」


からはじまり


「あらら?確かにデビューには少し遅いですね」


と店員に苦笑され、その後店員とマンツーマンでブラのつけ方講座を聞かされ


「ユウちゃん、こっちのもつけてみて!多分サイズはあうから!」


と妹にまで言われ精神力を削られ続けるラスボス戦。


永遠とも思えた永い拷問時間の末、ようやく決まったようだ。


「じゃあ、サイズはこれで、後は・・・」

「美佳ねえ。ナイトブラはどうする?」

「まずは無しの方で。まだそれがいるほど大きくないし、別途ユウがほしいって言ったら買えばいい。陽菜も夜はつけないだろ?」

「周りの友達はつけてる子もいるんだけどね」

「うちでつけてるのは涼ねえだけだからなあ。大きいと苦労するんだろうな。」

「美佳ねえだってDカップじゃん。小さいって言ったら刺されるよ」


なにやら不吉な会話が続いているが、決まったならさっさと外して・・・


「あ、店員さん。あの子のブラなんですけど、つけたままお会計にしてくれませんか」

「少しでもブラに慣れてもらわないと、後で本人が一番困るので・・・」



……どうやら、この不幸で呪われた装備は取り外しができないようだ。



 続いては俺の希望により某有名ファストファッション店に行くことにした。出来ればシャツとズボンという安定装備に切り替えたい。むしろそれだけにしたい。

 が、甘かった。同じファストファッション点でもメンズとレディースでは品が違った。いや、俺の品はレディースじゃなくてジュニアとかガールズって呼ばれるカテゴリだけどさ。

 ワンピースとかなんだよ・・・


「まあ、靴下とかはこの辺でそろえた方が安くつくよね」

「ユウちゃん、ユウちゃん。ちょっとこれ着てみて」

抵抗したい。めいいっぱい抵抗したい。が、昨夜

「私達、とっても心配したんだよねえ」

「ちょっとくらい妹のわがままを聞いたって罰は当たらないよ」

と脅迫されている以上、俺に抵抗の余地はなかった。



 結局ホームと思ったここで買ったのはニットやらスカートやら・・・意外なほどアウェイな品が追加され。もちろん抵抗してシャツとズボン(見え張った。正しくはキュロットパンツ)も買えたが、勢力図的には最下位だ。


 他にも俺の尊厳を削るような買い物が続き、気が付けば昼時になったのでいったんどこかで昼食ということになった。ショッピングセンター内のフードコートという手もあったが、予算的にも余裕があるので俺達は同ショッピングセンター内のレストラン街に繰り出した。

 フードコートは色々な料理を楽しめるという利点があるが、和食なり、洋食なり、中華なりに特化した専門店の方がおいしいと思うのは間違っているだろうか。


「で、二人は何を食べたい?」

さすが年長者 美佳ねえ。まずは下の意見を取り入れようとする

「私、パスタがいい!」

遠慮なんぞない末っ子 陽菜。まあこんなもんだろう。

「パスタとなるとイタリアンか。いいね。」

俺は俺でノープラン。ならば陽菜の意見を否定する必要もあるまい。




「でね、ここのおススメはマルゲリータピザとティラミス!」

おい、妹。パスタはどこ行った?

「私はパスタにするよ。でもユウちゃんはここ初めてでしょ?だからおススメ!」

なるほど。確かにこの店には入ったことがない。そもそもオープンが1年前じゃ利用できるはずもない。

「じゃあ、お・・・私はおススメのマルゲリータピザとティラミスにするわ。」

・・・一応言っておく。独白でない部分は可能な限り女言葉を使うようにしている。

「私はきのこスパゲッティとティラミス」

「クリームリゾットとパンナコッタ。あとはみんなでモッツァレラチーズとトマトのサラダをつまもう。」


 陽菜おススメのイタリアンはかなりレベルが高かった。値段的に何度もいけないが、たまには行こうと思う範囲であろう。



 午後は引き続き俺の衣類購入(服以外にも靴だのバックだのも買わされた)、途中陽菜が夏休み後半に友達と海に行くとかで水着店を冷やかし(陽菜は冷やかしでなく買ったけど。つか妹、本当に育ったな)、本屋によっては2年間の間に随分刊行された漫画を買いためたらすっかりいい時間になっていた。


「おっと、最後に1店、寄っていないといけないところがあるからそこにいくよ」

 まあ、今更どこに行ってもどうということはあるまい。パステルカラーのラスボス(しょっぱなの下着店)やピンクの大ボス(午後一に向かったファンシーショップ)と比べればどんな店も雑魚同然。



「へ、へっへへへ・・・」

「ユウちゃん。完全に壊れたね」

「まあ、だから一番最後にしたんだけどね」

 帰り道。車の中で自尊心を粉々に粉砕された(重言)俺は放心していた。


 ま、まさかあんなところに白い隠しボスがいるとは・・・


「悠。放心してるところ悪いけど、帰ったらさっき買った生理用品の使い方を教えるから」

「ぐはっ」

どうやら隠しボスとの戦いはまだ終わっていないらしい

「その、まだ早いんじゃないかなって・・・」

「確かにきてからでもいいんだけど、普通に考えれば遅くてもあと10日以内に1回はくるはずだから今のうちに覚悟しておいた方がいい」

「そもそもさ、異世界の女性に生理ってあったの?」

 多分あったのだろう。直接は聞いていないが、同行の女性が月に数日間よそよそしくなる日があったし、何より血で汚れた衣類を(不可抗力とはいえ)見たこともある。


それにしても今日は精神的に疲れた。今日1日で一体いくつ男としての尊厳を壊されたのだろう。



 その後、家に着いてから、買った俺の新しい私物(ただし望んでいない)をしまうと、晩御飯の準備の前に姉と妹からの生理用品講座が始まった。

 最初は心底嫌だったが、

「悠もちょっと前まで男の子だったからこういう話が嫌だし、恥かしいのはわかるけど、大切な話だからちゃんと聞いてね」

と真剣な顔で美佳ねえに言われてはっとした。

 反対に美佳ねえだってついこの間まで男だった俺に生理用品の話をするのは嫌だろう。そこを割り切って美佳ねえは話してくれているのだ。これはちゃんと聞かないと失礼だろう。

 途中から露骨に態度を変えた俺に呆れつつ、美佳ねえは引き続き丁寧に使い方を教え続けてくれた。



「まあ、せっかく教えてもらってなんだけど、使わないに越したことはないんだけどね。」

晩御飯の主役、夏野菜のマリネをつつきつつ、つぶやく。

・・・自分で作っといてなんだけど、これは会心の出来。


「それはそうかもしれないけど、逆に一か月間何もなければ別の意味で問題だよ。それにしてもこれ美味しいね。どうやったの?」

 美佳ねえは苦笑しつつそう答える。やはりマリネの出来はいいらしい。ビネガーオイルの比率と油通しのやり方を変えたというと二人から称賛の声が出た。

 俺の行った異世界は料理文化も育ってなかった。はっきり言ってメシが不味かった。

 なので俺はものすごく頑張って向こうの世界の料理文化を育てたし、俺自身創意工夫していくうちに鍛えられた。



「ところでユウちゃん。向こうの世界だと、生理現象ってどうしてたの?」

「飯を食べているときに言うことじゃないけど。あれだ、あっちの世界にはどこにでも水洗トイレがあるわけじゃない。むしろ大抵は汲み取り式だ。そしてそもそも野外での活動時はトイレなんぞない。さらに文化的にトイレットペーパーもない。後は察しろ」

「うわぁ……」


 おまけに言えば下着だってこっちの方がずっと優れている。

 向こうの世界にはゴムがないからな(あったのかもしれないが、加工して使えるレベルではないのは間違いない)。

 下着は口を縛って止めるものか、巻き付けて固定するのが当たり前だった。そんな下着だが、前述したようにトイレの文化レベルも現代日本よりはるかに低い。

・・・かの徳川家康はふんどしは汚れが目立たぬよう薄黄色を推奨したというが、それも仕方あるまい。こっちに来て初日に涼ねえに「下半身もきちんと洗え」言われたが、現代日本人の感覚で言うなと声を大にしていいたい。


 異世界での冒険譚は4人そろったときに行うと昨日の家族会議で決まったので、今日は取り留めのないテレビやら雑誌やらの話をしておしまい。後は風呂に入って寝るだけ。というところだというのに・・・


「お前、何で入ってきてるわけ?」

「そりゃユウちゃんに女性としての教育をするためだよ。」


 俺が風呂に入ると後から陽菜が入ってきた。


「お前はそれでいいのか?」

「ユウちゃんが今後家族としてやっていくのに、みすぼらしい格好でいられるとむしろ家族の私達が恥をかくから、面倒だけど頑張る」

「いや、そうじゃなくて俺と一緒に風呂に入るのに抵抗ないの?」

「だから今、水着きてるんだけど?」

そう、陽菜は今日買った水着を着ていた。

「けど、正直着なくてもよかったかも。」

「いや、少しは恥じらいを持て。家族でも限度がある。」

「あのね、うちの場合、3人も女の子がいて、限りあるお風呂を1人で占領なんてできないから今でも2人以上で入る場合は結構あるよ?姉妹で今更恥ずかしがってどうするのさ」

「いや、俺は男ー」

「さっきまで生理用品講座を受けていたのに?」

ぐは……

 さっきまで俺は美佳ねえと陽菜監修のもと、生理用品の使い方講座を受けていた。はっきり言ってあれは公開羞恥プレイだ。


「ところでユウちゃん。いつまで固まっているの?早くしないと、後ろに美佳ねえもいるんだよ?それとも美佳ねえともお風呂に入りたい?」

 もう一緒に入ることは確定しているようだ。意地の悪い笑顔を浮かべる陽菜。クッソ、こうなったらササっと洗って出てやる。


「だー違うの!髪の毛はそんなにごしごししないの!もっと優しくー」

「もうもうもう!そうじゃないの!なんでそんなにガサツなの!それじゃ肌が傷つくでしょ!」

「いい?顔はこうやって洗うの!」


 たっぷり1時間後、俺は陽菜と共にげっそりして風呂から出ることとなった。


「お疲れ。大変だったね。」

 美佳ねえがねぎらいの言葉をかける。全くだ。疲れた。俺はー

「わかってたけど、相当手ごわい。一人でちゃんとお風呂に入れるのに一か月はかかると思う」

いや、俺はそんなの望んでー

「やっぱりか。こりゃ3人でローテーション組んでしっかり出来るまで毎日教えるしかないな。」

イッタイナニヲイッテイルンデショウカ


「あの、美佳さん、陽菜さん。わたくしめの寝間着はこのピンクのですか?」

「?そうだよ。昼間一緒に買ったじゃん。忘れたの?」

忘れたんじゃない。ファンシーショップでの記憶は抹消したんです。

2018/7/30 改行位置を修正しました。

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