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15 親友

「悠司!」


 声の主は若い男だ。俺もよく知っているが、背が随分伸びたな。俺が見上げるなんて……

 違ったな、俺が小さくなったんだったな。


 なおも声の主はこちらを見るが、すぐに表情が曇る。


「おい、祐樹。いきなり走ってどうしたんだよ。」

 後からもう一人男が現れる。そりゃそうだよなあ。


「澤田君、佐藤君、いきなりだけど、まずはあけましておめでとうございます」

「あ、こっちこそあけましておめでとうございます」

「「「「おめでとうございます」」」」


 突如現れた二人に対し、まずは新年のあいさつをする涼ねえ。つられてあいさつをし返す両陣営。


 現れた二人は俺がよく知る、俺の友人だ。


澤田(さわだ) 祐樹(ゆうき)

佐藤(さとう) 雄太(ゆうた)


 小学生1年の時にたまたま同じクラスであったこと、名前が3人とも「ゆう」から始まることがきっかけで俺達ははじまった。その後、小中9年間を得て俺達は親友になった。部活が違っていたりはしたが、なにかとつるんでたし、高校もなんだかんだで3人とも松高を選んだ。

 当然、お互いに家に行ったこともあるので、お互いの家族に顔と名前を憶えられている(ただし立花家の父を除く)。



 実は家族にも異世界行ってます、を話したことがない俺だがこいつらには一度「俺って日曜日のたびに異世界に行ってるんだよね」などと話したことがある。その時は思いっきりスルーされたが。



「それで、澤田君。どうしたの?」

「いや、その、さっき美佳姉さんが『悠』って呼んでいるのが聞こえちゃって。あのバカが戻ってきたのかなっと……」

 いきなり暗くなる。

 実はその『悠』は俺で目の前にいるわけだが、名乗り出るわけにもいかず、名乗ったところで信じてもらえるわけもなく……

 微妙な空気を察したのか、ここで雄太が話題の切り替えとした。が、それはさらなる爆弾だ。

「ところで、そちらの外国人さんは?」

「あ~この子はね。私達の新しい家族というか……」


 美佳ねえが言いよどむ。美佳ねえもこいつらのことは顔なじみだ。付き合いの浅い人には何とも思わんが、深い奴に嘘設定を言うのはつらい。が、言わないわけにもいくまい。


「初めまして。立花優莉です。えっと、立花のお父さんの子供です」

「ほら、君達もニュースでよく見るだろ。去年軍事クーデターが起きてついで国名が変わった東欧の国。あそこで戦災孤児だったのをいろいろわけあって俺が養子にした」

「お父さん。肝心な一言が抜けてる。祐樹にい、雄太にい。優ちゃんはね、お父さんの隠し子なの」

「は、陽菜!それは大っぴらに言うな。俺はいいが、優莉が可哀そうになるだろ!」


 父さんすまん。だが、おかげで言いよどんだのは隠し子だから、とごまかせた。

 その後、なおも話を続けると、こいつらは未だに俺のことを探しているらしい。初詣の願い事も俺が見つかりますようにだそうだ。良心の呵責ってレベルじゃないくらい心が痛い。


 その後、祐樹達と別れて初詣。その帰りの車の中でのことだ。


「ねえ」

「悠司が言いたければ言えばいい。大っぴらに公表すればややこしいことになるだろうが、ご近所の一人二人にいったところでどうとでもなるさ」

 俺の質問を全て聞く前に答えを出す父さん。

 そうだよな。あいつらは親友だ。家に着くなり、俺は昔のSNSを立ち上げる。よかったまだ生きてる。


 そこに俺は2年半ぶりに書き込む。


     “よう。ひさしぶりだな、親友。ちょいとつらかせや。”



 元旦の夜は寒い。昨日なら初詣に向かう人もいただろうが、今日は一転こんな夜に出歩く奴などまずいない。


「う~寒い寒い」

 全身フル武装な勢いで着こんできたが、これでも寒い。雲一つない見事な星空だが、逆に言えば雲が残らないくらい風も強い。


「寒いなあ。あいつら遅いなあ。いっそ待たないで帰っちまうかな。」

 勝手に自分が呼びつけた集合場所に呼び出し時間の30分も前に来たくせに理不尽に憤ってみせる。

 いや、俺は怖いのだ。

 いきなり女だぜ?

 例えばだ、知り合いの男が下着も含めて女装してたらどうおもうか。

 うん。気持ち悪い。

 自己分析をすればこの4ヶ月、あいつらに黙っていたのも拒絶されるのが嫌だったからだ。

 家族についても、例えば俺がすでに独立して一人で生きていけるようなら正体をばらさなかったかもしれない。


「あ~やだやだ。こうしてグダグダやって4ヶ月。クソな俺はあいつらの気持ちも知らず知らんふりしてたわけだ。」

 3年近く行方不明だった俺を未だに探し続けているのは残るはあいつらくらいだろう。他の連中は俺のことなど過去の人となっていると思う。自分が反対の立場ならそうしている。だから贖罪の場だ。今日は謝る。明日から―


「おーい。悠司、いんのか」

「おせえよ。危うく凍死しかけたぞ」

 呼び出した公園は暗い。だが照明くらいはある。俺は俺として2年半ぶりにあいつらの前に姿を見せたわけだが、あっちは困惑顔だ。そりゃそうだ。


「えっと君は確か昼間あった―」

「昼間は悪かったな。祐樹、雄太。こんななりになっちまったが、俺が悠司だ」

 雄太の言葉を遮って改めて自己紹介。


「え?本当に悠司???」

 頭の上に?を5個は出している祐樹。そうだよなあ。


「おう。ガチで悠司だ。なんつうか2年ちょいの間、異世界旅行してたら女になった。」


 すさまじくいい加減な説明をする俺。が、雄太はちゃんと拾った。


「異世界旅行ってあれか?高一のGW直前に連休中どこいくんだ~って話になった時、お前が『俺は異世界に行く』って言ったやつ。あれ、マジだったの?」

「お~よく覚えてんな。おう、それだ。あれマジだった。つーかGW中はお前らと野球観戦しに行った日以外は毎日あっちの世界にいた」

「あれ本当だったのかよ。俺と雄太が『エイプリルフールはもう過ぎた』って突っ込み返した奴だろ?」


 こいつらよく2年半以上前のことを覚えているな。感心するわ。


「というか、悠司、本当に女になったのか?」

「脱いで証明できないのが残念だが、マジだ」

「脱がなくてもいいからちょっとおっぱい触らせて!」

「はっはっは。ぜってー言われると思った。それやってみろ。本気でぶん殴るからな」

「いや、今のお前に殴られても痛くないと思う」

「小さいからってバカにしない方がいいぞ。力だけなら前より上だ」

 これは多分本当。弱体化したとはいえ、こちらの世界でも闘気が使える以上、俺の身体能力は一般成人男性より上だ。ちょっと前に力試しに父さん(推定80キロ弱)をお姫様抱っこして全くつらくなかったことを考えるとかつての俺より上の腕力だと推定される。


「いや、そのなりじゃ信じらんねー」

「だったら試すか?」

 といって俺は公園に備え付けられた近くのテーブルを指す。所謂腕相撲だ。手袋を外し、コートも脱ぐ。


「ほれ、かかってこい」

「言っとくが手加減―」

「あ?どうした?」

「いや、握ったお前の手、ちっちゃくて柔らかいなぁっと」

「やかましい!」


 でも本当に俺はちっちゃくなったのだ。前はこいつらより背が高かったんだがなあ。


「雄太。審判頼む。」

「あいよ。レディー……ゴー!!」


祐樹が力を籠めるが予想通り。なんともない。


「はっはっは。祐樹君。なんなら両手を使ってもいいのだよ!」

「ふざけやがって。見てろよ!」

安い挑発に乗って両手を使うが……耐えられないこともない。

しばらくやりたいようにさせていたが、コートを脱いだので寒い。勝負を決めるか。


「ぐお、幼女に負けた……」

「いや、幼女じゃねえよ。今年の4月から高校に通うからせめて少女だ」

「え?お前高校行くの?というか行けるの?戸籍とかは?」

「昼間の話、聞いてなかったのかよ。俺は戸籍上は立花優莉。先月15歳になったばかりって設定で4月から高校通うのは不思議じゃねえんだよ」

「どうやって戸籍を手に入れたんだよ」

「あんま言うなよ。なんか知らんが遺伝的には父さんというか立花家の家族と類似性があるとかで簡単に隠し子っていう設定が作れた。生まれは昼間父さんが言ってた東欧でそこで戸籍もないストリートチルドレンからの戦災孤児っていう設定だ」

「それ犯罪じゃないのか?」

「だから言ったろ。あんま言うな」

「ほうほう。つまり悠司君は俺達に弱みを握らせてくれたわけだ。ばらされたくなけば―」

「別にばらしてもいいが、ばらさない方が祐樹のためだぞ?」

「あ?それどういう意味だよ」

「いや、わりとそのまんま。言っとくが、今の俺は遺伝的には立花悠司とは別人、立花司とは血縁関係が科学的にも法的にも認められている。生物学的には完全に女。戸籍についても正式に国際機関に認められたもの……。そもそも俺が立花悠司と同一人物だって客観的証拠はどこにもないんだぜ?その俺に対し、『あいつは実は悠司なんです』って言っても頭の悪い奴にしか思われんよ」

「……そりゃそうだ」


 2年半ぶり。だが、こいつらとの小学校からの9年間はその程度の垣根をあっという間に取り払っていた。

 流れで俺ってキショくない?って聞いたら、前の解析オタクの方がキショいだの、美少女無罪だので返してきた。うるせーと言いながらこいつらに殴りかかった。あっちも遠慮なしにこっちをバシバシ叩いたが、それですっきりした。

 気が付けばいろんな話をした。

 あいつらはこの2年の話をたくさんしてくれた。あぁ、こいつらと高校行けたらどんなに良かっただろう。仮に俺が立花悠司のまま帰って来れてもこいつらとの高校生活はなかったのか。


 俺は俺で異世界に行き始めた頃の話から、帰れなくなり、なんとかこっちに帰ってきた話をした。

 さっきの異常な怪力の正体は闘気だと言うと俺にも教えろと言うので使えるかどうかは知らんが、レクチャーはした。ついでに魔法にも興味があるようだ。


「なあ悠司。魔法って奴を使ってくれよ」

「さっきの話、聞いてなかったのかよ。去年の8月に1回できたきりだっての」

「話を聞く限り、9月、10月、11月に数回試した程度なんだろ?いいじゃないか。ひさしぶりに試したって」

「使えないと思うけどなあ」


 そうは言いつつも、ダメもとで使ってみる。まずは呼吸を整える。こちらの世界ではほぼ感じないが、気が集まった(ような)ところで


「集え魔力よ光源(ライト)


 ……


 おうふ。一瞬だが普通に光ったよ。しかも前より心もち明るい。祐樹と雄太は目を丸くしてる。


「なあ悠司。さっきのって……」


「あ~うん。魔法。ちょっと待って。もっぺんためす」


 なんとなくさっきは気の集まりが良かった。

 ひょっとし……


「集え魔力よ光源(ライト)


 さっきと同じ魔法だが、今度は限界まで明るいイメージで作った。するとどうだ。本当に一瞬だが、眩しいと思うほどの光源が出来た。


「おい、悠司。魔法は使えないんじゃなかったのかよ」

「そうなんだが、なんか今日は使えた」

「なんでだ?悠司。お前この手の解析は得意で好きだろ。今日と8月の類似点、魔法が使えなかった9~11月との相違点を洗い出すんだよ」


 魔法が使えた原因はいったい何であろうか。

 野外であること。これは11月に試したから違う。

 服装。8月は軽装で今は重装備。これも違う。

 天候、気温、時間。どれも魔法が使えた時と使えなかった時で関係性はない。あとは……


「う~ん。生理中かどうか、かな?」

 現在出血はほぼ止まった4日目。8月のあの日は厳密に言えば夜に来たので違うが、まあ生理前後だと思えば……


 と、考えていたら頭を思いっきりどつかれた。今日一番痛い。これはギャグじゃなくガチの奴だ。

「バ、バカかてめえは!」

「悠司、その今のお前ってその、あの、それだ」

 ……あ~そうだよな。少なくとも5か月前の俺でも同じ反応するわ。もう4回も来てるし、うちは女だらけだから気が付かんかった。


「今のは全面的に俺が悪かった。すまん。ほら、知っての通り、うち女家庭だから」

 家では父さん(と男だった時の俺)がいないと普通にナプキンが宙を舞う。というか目撃している。もっと言えば投げられたそれを受け取ったこともある。一緒に暮らしている涼ねえや陽菜の周期も風呂場の順番やら下着やらでおおよそ予想がついている。だから生理って当たり前の現象だったんだが、いや、なれって怖いね。


「なんていうか、お前、本当に女になったんだな」

「まったくもって不本意だがな」


 なおも進路の話だとかで盛り上がり、時計を見ると日付が変わっていた。両頬を触るとすっかり冷え切ってる。


「もういい時間だな。もう帰るわ」

「そうだな。一応見た目は女の子だからもう帰った方がいいな」

「じゃあな悠司。『またな』」

「ん」

 俺は背を向けて手だけをあげて別れの言葉に答えた。


次でいったんおしまいの予定です

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