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14 元旦の出来事

 年が明けた。元旦。

 うちは典型的日本人なのでクリスマスにはキリスト教になり、正月になれば神道教徒になる。なので初詣だ。家族で行く初詣に振袖を着るような家ではないため、みんなして私服でお参りだ。


 時刻はあけましておめでとうございますをしてからしばらくたった午後2時。


「お~い。優。なにやってんだ。みんなもう準備できてるぞ」

 父さんが声をかけてくる。昔と違って勝手に部屋には入ってこない。俺は気にしていないとは言ったが、以前、いきなり部屋の扉を開けた時に半裸の俺と目が合ったのを気にしているのだろう。


「ごめん。中々服が決まらなくてさ。」

 と言いつつ部屋を出る俺。父さんから「前は服なんて一瞬で決めてたのにすっかり女の子になったなあ」と言われたが、たぶん父さんが想像している服が決まらないとは意味が違う。


「優莉。なにそれ」

「優。さすがにそれはないんじゃないの?」

「優ちゃん。若さが足りない。」

「ほっといてよ。私には若さより暖かさの方が大切だから」


 やっぱり言われたか。だが、いいじゃないか240デニールのタイツをはいても。


 3人の足元を見ると、涼ねえはうっすら肌が透けて見えるからおそらく90デニール(人に文句を言う以上、100デニール以上はないであろう)。美佳ねえは若い。多分30~50デニールだ。陽菜は……


「えぇっ!!陽ねえ若い!若さが眩しい!」

 なんと生脚だ!いくら膝まで覆っているスカートをはいているとはいえ、生脚!!これが現役中学生の若さか!俺には絶対に出来ん領域の技だ。


 ちなみに俺が出てくるのが遅くなったのは最後までタイツを決められなかったからだ。なおもタイツ談義を続ける俺達に父さんが聞いてくる。


「お前ら何の話をしてるんだ?」


 そうだよな。男にはタイツの話なんか分からないよな。


 その後、父さんの運転する車で地元の小さな神社へ。小さいとは言っても伝統はそれなりにあるらしく、なんでも江戸時代にはあったとか。ということは明治の廃仏毀釈を乗り越えた神社であり、地元に根付いたものと言える。


 その為か、すでに午前0時のピークから半日以上経っているはずだが未だ人が参拝に訪れ列をなしている。


 なお、道中の車の中で初詣は友達と行くもんではないかと聞いたところ、涼ねえは午前0時ごろに一度友達と行ったらしい。美佳ねえは反対に4日にバレー部のチームメイトと行くことになっているらしい。恐るべきことに美佳ねえのバレー部は初詣が終わったら、その足で初練習となっている。つまり4日から練習。正月休みがわずか3日っておっかない。陽菜は友達が悉く親の帰省に行って地元にいないのでぼっちらしい(ぼっちといったら怒られた)。


 俺達は列の最後尾に並びつつ、順番が来るまで年初の動きについて再確認した。


 父さんは宣言通り(一時期、俺のために国外に出たこともあったけど)昨年の8月から12月まで国内にいたが、今年は早くも5日の朝一便で国外に出るようだ。となると今日も含めて父さんとまともに顔を合わせるのはあと4日か。今回の帰国で初めてとも思えるほどたくさんの思い出を作れた。あと4日でどこまで増やせるかわからないが、さらに追加してみよう。


 3月に大学院を卒業する涼ねえは、4月から生命科学研究なんちゃらだとかというところで働く(研究する)らしい。研究内容は専門用語のオンパレードでわからなかったが、一つだけわかったこともあった。その勤め先はド近所にあり、車で30分もあれば家からついてしまう。大学まで通学1時間半強であったことからそれがうれしいのだとか。


 美佳ねえは今年大学4年生となり、来年からは体育教師となる道を選ぶつもりだった。が、ここにきて熱烈に誘ってくるプロチームに困っているらしい。曰く「バレーボールで食べていく自信なんてない」そうだが、美佳ねえ確かU-23に選ばれてたよな?

「それでも全日本だとレギュラーとしてユニフォームに袖を通したことはないよ」

 とは美佳ねえの弁。なんでも6個上にすごい選手がいるらしく、彼女がいる限り日本代表でレギュラーにはなれないらしい。そんなレギュラーにもなれない奴を企業が選手として雇うのか、ということらしいが、ハードルが高すぎないか?


 俺と陽菜は松原女子高校を受験するつもりだと伝えた。うむ。俺も松女にした。合理性と利便性を考えると片道自転車で10分、往復20分はかなり都合がよい。俺が通いたいと思う他の高校は松女の次に近い霞坂でも片道30分。往復1時間。

 1年間に登校する日は少なくとも200日であるから、通年で133時間以上も違うのである。これは勿体ない。


 志望校の話をしたら、二人の姉からは高校生活を楽しみなさいと助言を受けた。


「でも優莉が高校生になると、家事がまた大変になるわね」

「大変になるって、5か月前みたいに当番制になるだけでしょ」

「いや~人間楽を覚えるとなかなか昔に戻れないというか」

「美佳ねえはそもそも家にあんまりいないでしょ!」

二人の姉の愚痴に突っ込みを返す俺。


 昨年の11月中旬から俺が家の家事の大半を担っていたからな。図らずも俺は11月12月の間、やったことと言えば受験勉強と家事だけである。遊びに行く場所も友達もいないし。

 朝は家族を起こし(起こさないと朝食がいつまでも片付かない)、掃除、洗濯。ひと段落したら昼間まで机に向かう。昼食は適当に食べ(俺一人しかいない時は凝ったものを作る必要なし)、その後、公園で運動。 帰ってきたら朝干した洗濯物を取り込み、夕方に晩御飯の買い出しにでかける。晩御飯は涼ねえか陽菜がやる時もあったが、基本は俺。


 そんなルーチンワークを2ヶ月続けた。自分で言うのもなんだが楽しかった。今まで平日の晩御飯とか時間に追われて適当にしか作れなかったけど、時間があるとあれこれ考えられるのな。今はネット上に料理サイトなんて山ほどあるからそれを利用し、作る。気に入らなかったらアレンジすればいいし、幸い味見役もいたしでレパートリーがだいぶ増えた。

 掃除も楽しい。まず無駄に家が広いので毎日全部を掃除なんて無理。計画を立てて今日はキッチンの水回り、明日は風呂場を徹底的に、と計画を立ててやると面白い。家族全員分の衣類の虫干しが出来たのもよかった。


 洗濯だけはちょっと困ったな。自分もつけているとはいえ、ブラとかの婦人下着を触るたびに未だ背徳感を感じる。あと、ルール変更で洗濯当番は家族全員分の下着を含めて洗濯する、洗濯した衣類はしまうところまでを当番の仕事とする、も困った。この追加ルールは今まで涼ねえ達3人の間だけで適用されていたが、俺が女になったことで適用範囲が拡大された。ルールを拡大するのは良いが、下着のたたみ方、しまい方に3人とも独自のこだわりがあるのがめんどくさい。

 あと、実物を見ているし、強制的に触らせられたので知ってはいたが、長女の外装についたタグ「G70」を見た時は凹んだ。彼我の戦力差が圧倒的すぎる。これを嬉しいとは思わない辺り、男の感覚はなくなってきているのだろう。


 俺の家事は思いのほか好評で、いっそのこと専業主婦にならないかとまで言われた。その場合、誰が俺を養うんだよ。


 そんな今後の話で盛り上がっていると


「悠司!」


 とよく知った懐かしい声が俺をよんだ。

あと2話くらいで終わる予定です。

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― 新着の感想 ―
読み直しています、面白いですね 高校生になると優莉の寒さに対する耐性が悪化していますね、末妹化して精神まで幼くなってしまったか そして優莉は廃仏毀釈の対象に神社が含まれると勘違いしていることに、今さら…
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