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23 解決

クラスメイトとの交友期間を数カ月から約一ヶ月へと修正入れました。



翌日、キースくんに相談したら思わぬ提案が飛び出した。


「…とりあえず署名でも集めるか。」


「えっ!?署名?」


「ああ。数を集められれば頭の固い教師陣にも効くだろ。それにはまず生徒の共感を得る必要があるけどな。」


「確かに!良いかもしれないわ!さっそくクラスメイトから説得しましょう!」


やる気を出したキースとカトレアによる署名活動はとんとん拍子に進んで行く。クラスメイトは全員平民の上、約一カ月間の交友関係があるから説得はそう難しく無かったそうだ。問題はもう一つの平民クラスと、貴族のクラスだった。



私はというと、作戦その2のプレゼンテーション制作を行っている。ちなみにこれは、ナニーの息子のケヴィンにも協力を仰いで発案された作戦だ。


ナニーにはむっちゃ心配掛けて、ケヴィンにこの騒動が落ち着くまでの間は解決に専念するように言ったらしい。


「ご迷惑お掛けします。」


「いいえ、おかげで良い経験になりそうです。」


穏やかかつ爽やかに微笑むケヴィンが素敵すぎる。今回の件で色んな人にお世話になって感謝の大放出祭を行わないと足りないくらいだ。



懸念だった貴族クラスの署名集めはケヴィンの巧みな話術により、半数くらい集まった。特に女子の物が多めだ。結構モテるらしい。


もう一つの平民クラスに関しては、カトレアと私で涙目でお願いしたら男子は大体書いてくれた。うん。こっちも色仕掛けです。


私の金髪碧眼のお人形みたいな見た目と、カトレアの燃えるような赤い髪と同色の瞳の、凛とした見た目でいて性格は可愛いという最強コンビで落としました。ちなみに私は喋ったら容姿が台無しと言われる事が多い。まあ中身はこんな感じだからね。


女子の方はキースくんが時間を掛けて説得してくれましたとさ。



さて、いよいよその時がやって来てしまった。


会議室の前で深呼吸して気持ちを落ち着かせる。見送りに来てくれたカトレア・キースくん・ケヴィンの三人と顔を見合わせて頷き合い、そっと背中を押されて会議室の戸を開いた。


「失礼します。呼び出しを受けたクオルフです。」


「君が噂のクオルフ君か。まあ座りたまえ。」


「失礼します。」


0の形に並んだ机の出入り口側の端に座る。真正面には学園長と思しき人物と、その左右に数人ずつの教師が座っていた。


「まず確認を取りたいのだが、事前の聴取で述べた事は真実かね?」


「私がスラムの住人だという事、毎日仕事の為にスラムに通っている事でしたら事実です。」


「うむ…捨て子だというのも本当かね?」


「お察しの通り、生まれはまあその…アレだったんですけど、事情があってスラムに捨てられました。」


流石に直接は言えないので、貴族の証とも言えるサラサラの金髪を摘み上げながら言う。思った通り、向こうもこちらの事は既にある程度調べ上げていたようで、貴族名鑑の上巻を持ち上げて応えた。


……まあ、見た目と魔力から貴族関係者を探して、そしたら貴族名鑑で一発で見つかるわけだから。そりゃあねぇ。この年頃の女の子でクオルフなんて、二人もいる筈が無い。さらに父親の死で気が触れて療養中という事からも、そこから何があったのかある程度想像がつくだろう。


「しかし、どうやってスラムで生きて来られたのかね?真逆、犯罪に手を染めていたりはしまいかと、我々は心配しているのだよ。」


「いいえ。私はむしろスラムで慈善活動を行ってきました。」


ハイ!ここでさっそく作戦その二のプレゼンテーション行きまーす!


「生きて行く為にやむを得ず少量のお金は頂きましたが、私はスラムでは貴重な清潔な水を提供し、孤児院と似た施設では共同生活を送ると共に苦労を分かち合い、僅かな食料を買う為になけなしのお金を出し合いました。診療所で医師の助手を始めてからは、傷ついた人々を治癒士として癒やし、その傍ら診療所の前で学校を開きました。スラムの子ども達は日々の生活で一杯で、自分の名前すら持たない子もいました。私が彼らに勉強を教える内に、彼らには笑顔が増えました。私はもっとたくさんの人を笑顔にしたくて、この学園に入り、そして将来は医療学校に進学して医者になりたいと思っています。ですから、どうかここで今後とも勉学に励む事をお許し下さい。」


はいよっと。息切れするわ!だーいぶオブラートに包んで都合の良いように解釈した説明だけどね。


これ、ケヴィンによるとむっちゃ効くらしいよ?貴族は慈善活動とか社会奉仕とかお涙頂戴系の話が好きらしくてね。特に貴族の娘だとバレてる私が不遇な環境でそれを成し遂げたと知ると、同族意識も働いて感嘆してくれるらしい。


「なんと…素晴らしい行いでしょう。」


「神が幼き善良な心をお守り下さったのでしょう。いえ、神がお与えになった試練を乗り越えたのかもしれません。」


「感動に打ち震えました…」


てな感じで、概ね好評です。じゃ、次は作戦その一の署名行きますか。


「…こちらは、私の活動に共感して下さった皆さんの署名です。どうかご覧下さい。」


「ほぉ……これほどの数の署名を集めたのですか。」


「一年生の四分の三が賛同しているという事ですか…」


教師陣で回し読みして、これまた掴みは良い。さて、結論がどう出るかな?


と、ここで何故かコンコンとノックが鳴った。


「生徒会長のフィランダーです。失礼してもよろしいでしょうか。」


「ああ、構わないよ。入りたまえ。」


ええっ!?上手く行きそうだったのに一体何なの!?面倒くさそうな人が来たよ…


「こちら、遅れましたが一年生以外の分です。どうぞご覧下さい。」


って、フィランダーは何故か集めた覚えの無い上級生の大量の署名を差し出した。


「なんと!かなりの量がありますね…」


「これは、学園全体の総意と見て良いのでは?」


「うむ…では、クオルフ君の処分は取り下げ、という事になりますかな。」


「それが妥当でしょう。」


うわー、なんだかよく分からないけど、フィランダーの最後の攻めで勝利をもぎ取ったらしい。


「ありがとうございます。では、これからもスラムでの慈善活動を続けても良いのですね?」


「ああ。許可しよう。もう下がって良いぞ。」


最後に一礼して退室する。息を大きく吐き出して、心配そうに待っていた三人に飛び込んだ。


「どうだったの!?大丈夫?」


「うん!無事成功しましたっ!みんなありがとう!」


不安そうに眉根を寄せるカトレアに抱き着いて、それからパッと離れて笑顔で報告する。


「良かったぁ……!」


「良かったな。」


「ええ。本当に安心しました。お疲れ様です、クオルフさん。」


カトレアは心底安心したように表情を綻ばせ、キースはいつも通りぶっきらぼうに、ケヴィンは穏やかに微笑んだ。


「あ、ところで、生徒会長さんはどうして私の手助けをしてくれたんですか?それもあんなにたくさんの署名を…」


「この間のお詫びだよ。君がスラム育ちと聞いて、考えを改めたんだ。…それに、また怒られるかもしれないが、君がこの停滞した空気に風穴を開けてくれるかもしれないと思って密かに期待しているんだよ。」


この間のお詫びって……貴族なら国に貢献しろ的な事を言われた時の事か。もうあれから暫く立つのに、気にしてたんだ…ちょっと見直したかも。


「期待されても困りますけど、まあ色々とやらかしてる自覚はありますし、これからもそうでしょうね。とにかく、ありがとうございます。」


「僕は君が無自覚に起こす珍事を楽しませて貰っているよ。では邪魔をするのも悪いのでもう行くよ。またね。」


「はい。ありがとうございました。」


頭を下げて見送った後、ちょいちょいとカトレアに服の袖を引っ張られて振り返った。


「さっき生徒会長が中へ入って行って、それも心配していたんだけど、何かあったの?」


「あー。私も全然知らなくてびっくりしたんだけど、どうやら会長も上級生の署名を集めてくれてたみたいで、それが決定打になって無罪放免されたって感じかな。」


「そうだったの?有り難いけど、どうしてかしら?」


「まあ、それは…色々あって。」


流石に王子相手に啖呵切った結果とは言えないな。


「クオルフさんは、殿下に気に入られているのですね……今後は取り込まれないように注意する必要があるかもしれません。」


ケヴィンは貴族目線で既に別の心配をしてくれている。


「取り込みって言っても、今は貴族じゃ無いから関係無いでしょう?スラムは法が及ばない場所でもあるし。」


「そうは言っても、貴族の養子にして貴族に戻したり、クオルフさんのお祖父様に圧力などを掛け、孫娘として認めさせたりなど手はありますから。」


「そうなったら先に他の人に養子にして貰うよ。アテはあるからさ。まあ気をつけるに越したことは無いんだろうね。」


「ええ。クオルフさんが傷つけられると、母が悲しみますから。僕も情報は把握するようにします。」


やばい…ケヴィンまじかっこいい。というか、ここは大元のナニーに感謝すべきかな?両方か。


「ありがとう。ナニー…お母様にも、もう心配いらないからねって伝えて下さい。」


「はい。すぐに伝えますね。」


「なあ、今度マナー教えてくれよ。なかなか難しくてさ。」


おっと、今度はキースくんか。そういえばキースくんは商人になる為に選択授業でマナーを選んだんだったな。


「いいよー!お礼にいくらでも教えてあげる!」


「じゃあ私はイングリ語を教えて貰おうかな。得意でしょ?」


イングリ語は英語だからな。得意というより、多少は分かる。


「りょーかいっ!ケヴィンはなんかある?」


「では僕もイングリ語を。授業は取っていないのですが興味がありまして。」


「分かりました!おっけーです!後は署名してくれたみんなにもお礼言わないとだね!」


悩み事から解放されて楽しくはしゃぐ私は、幻の第三の作戦として、ナニー経由でお母様が教師陣にそれとなくさり気なく、手を回してくれていた事は知る由も無かった。



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