8 諸事情
お父様にエスコートされた私を見て、ナニーは目をまん丸くして驚いた。
「まあ、どうかされたのですか?お嬢様が叱られるような事でも?」
それに苦笑したお父様は、黙って私をナニーに引き渡し跪いて手の甲にキスをした。
「では、クオルフ姫。無事にエスコートさせていただきましたので、私はこれにて。これよりは、ナニーとの時間をお楽しみください。」
お父様は芝居がかったセリフでナニーの目を白黒させ、私を仰天させた。去り際に、小さくウインクを残すお父様は悪戯っぽく、お母様が愛したのも分かる気がした。
「、、、、、、どうされたのですか!?旦那様は!ついにどこかおかしくなりましたか?」
「ちょ、ナニー!声が大きい。説明は中でするから。とりあえず入ろ。」
「は、はい。お嬢様…」
そうして防音されている部屋の中で、今日あった事全て洗いざらい話した。ナニーは泣き崩れて、なんて悲しい行き違い。と何度も呟いていた。
涙が治まった頃に、「それでもやはり、奥様とお嬢様への今までの仕打ちを考えると許すことはできません。」と固い表情で言った。
「私もよ。憎いのも許せないのも一緒だけれど、今は大嫌いでは無くなったわ。私のお父様なんだと思えるようになった。」
「お嬢様…なんて、お優しい。それに強いんでしょう。感動いたしました。…私も応援いたします!」
「ナニー…ありがとう。なら、お父様をデレさせようの会。発足ね!会員ナンバー1 クオルフ…クオルフ・ダドレフ!」
さあ、ナニーも!目線と笑顔で促すと、ナニーも頷き、右手を宙に上げてくれた。
「…会員ナンバー2 ナニー・ハウスル!デレさせるは良く分かりませんがお嬢様についていきます!」
「それじゃあ、誓いの拳を!」
「はいっ!お嬢様!」
コツンっ
天高く伸ばされたその二つの拳は、小気味良い音を立ててぶつかる。ここに、お父様をデレさせようの会が設立されたのだ!
四歳になった私は、今日もお父様をデレさせようの会の活動をしていた。ちなみに今日は会の結成二周年の日だ!順調にデレさせている。
今までは、描いた絵くらいしか持っていけなかった私だが、ついに文字をちゃんと読めるレベルで書けるようになったのだ!
いや〜前世の記憶が邪魔して中々覚えられなかった。
普通の赤ん坊なら自然と覚えるんだろうけど、ほぼ独学で英語を勉強してるみたいだったよ。
でも、本とかも読めるようになったし、あの後、屋敷の外の庭にまで出歩けるようになったから、色々と新鮮な経験ができて、新しくスキルが増えたんだよ!
スキルだよ!スキル!ギフトじゃないんだよ!
まず、基礎形のスキルね。
いわゆる生活魔法って呼ばれてる奴。と、その派生系
小さい火、風、土、石、岩、雷に、少ない水、氷
大抵の魔法はスキルが無くても使えるんだけど、効率が悪いんだ。それで人によって回数は違うけど何回も使ってると、スキルになるんだ!
難しい魔法だと、その回数がいっぱい欲しいの。
お父様と読めるようになった本から教えて貰った。
あとは、ファイアボールとかウォーターストーム(要は嵐ね)、ウィンドストームに、ロックウォールとかの便利な基本形魔法も覚えたよ。
今の所そんな感じかな。
お父様もナニーも褒めてくれるから嬉しいんだ。
そうそう。お祖父様は、私が大きくなったら優秀な婿を取ってあとを継がせる事を認めてくれたよ。
あ、ちなみにお祖父様はエルフじゃなくて、お祖母様がエルフだったんですって。
その当時まだ迫害が酷くて、お祖母様は奴隷で産まれた子がお父様なんですって。だから、ホントはお父様に継がせるつもりは無かったけど本妻との間に男の子が生まれなかったから、仕方なくなんですって。
それで、男の子にこだわってたのね。お祖父様も今度こそはって圧力が凄かったというし。ハーフエルフってのも不本意そうだったし、それで虐められたりとかあったのかも。
また、少しお父様への憎しみが減ったわ。
お母様ごめんなさい。
私、お父様の事大好きになっちゃうかも。
でも、必ず約束は果たすから。
絶対、元気でいて、お母様を迎えに行くわ。
だから、お母様も…
今度はお父様と少しずつ分かり合って、一緒に仲良く過ごしましょう。
お父様に渡しに行ったら凄く喜んでもらえた!
凄いなって褒められた。
出かけるお父様の背にお土産よろしくね。って頼んだら、お母様にそっくりな微笑みを浮かべて分かったよって頷いた。
私はその笑顔に不安になって、絶対だよ。絶対に私に渡してね。って頼んだ。
お父様は少しびっくりして、それで、「ああ。必ず。とびっきり素敵なお土産を買って来るよ」って言って笑って言っちゃった。
不安で堪らなくて、ナニーと玄関ホールで待ったけどいつまで経っても帰ってこない。
…その日の夜、待ちくたびれて涙を溢しながらうとうととしていると、大騒ぎでお父様が帰ってきた。
いや、騒いでいたのはお父様じゃなくて、お父様を囲んだ使用人達だった。
…お父様は青白い肌をして、二度と還らぬ人となってしまった。