5 おかあさま
後半色々重いです。
お気をつけください。
二歳になった。
こないだ、みんなの前でギフトを使ったら、目をまん丸くして驚かれた。この歳でスキルを取得するのは珍しいんだって。「ぎふと」って言ったらさらに驚かれた。
でも、水を出すギフトしか使ってないからそれほどでも無かった。それくらいのスキルなら大きくなったら人族なら誰でも使えるからね。
ただ、人によって一度に出せる量とか、一日に出せる量が違って、私は無限に出せるから「わたくちのがちゅごいもん!」て、胸張って言ったらプッてお母様とナニーで顔を見合わせて笑われて、なでなでされて「そうだね。クオルフが世界一可愛いわ。」って言われた。そうじゃないのにぃ…
しばらくして、小さくするギフトを見せた。
また驚かれた。けどこれなら、スキルでもできる人はいるんだって。でも、スキルだと、時間が経つと少しずつ元に戻っちゃうし、あんまり小さくできないんだよ!
私のはいつまでも小さくできて、しかも、戻したい時はすぐに戻せるから、また「わたくちのほおがちゅごいもん!」って言って、また二人とも笑ってなでてくれて「そうだね。クオルフは世界一よ。」って言ってくれた。ちょっとは評価上がったんじゃない?…ふふふ。
お母様は、いつも穏やかに笑っていて、私を膝にのせて編み物をしたり、本を読んでくれたりする。
ナニーは、この国の常識とかを知るためのおままごとに付き合ってくれる。間違った事をすると、やんわりと正してくれる。…ナニーも良いとこの奥様らしくて、あんまり料理とか知らないみたいだけど、この家で暮らす分には私も知らなくていいよね。
最近どんどん精神が肉体に引っ張られててね。
お母様もナニーも子どもとして接するからだろうね。
こないだお母様が妊娠して、とっても嬉しかった。
あんまり会えなくなって、私じゃなくてお腹を撫でてる姿を見るとちょっとだけ寂しくなったりもしたけど、ナニーがその分優しくして構ってくれたから、早く生まれてこないかなって、楽しみに待ってる事ができたのに…
お母様は流産してしまって、悲しみに暮れるお母様になんて声をかけたらいいか分からなくて、そしたらお父様が来た。
ほんの少しだけ、いつもは冷たいお父様が優しく慰めてくれて、お母様が笑顔になるって信じてたけど、やっぱり駄目だった。
お父様は、男の子だったらどうするんだ!とか、役立たずとか、酷い言葉を投げかけてどこかへ行ってしまった。
…知ってた。お父様はこういう人だ。
お母様はすすり泣いていた。
悲しくなって私も泣いた。
わんわん泣いて、お母様と二人で抱き合って、慰めあった。
半年後……お母様は、離縁されてどこかへ行ってしまった。
使用人の噂によると、一度実家に戻されて、まだ若いからどこかの後妻にされるらしい。
…悲しい。お母様に会いたい。
最後の日、お母様は泣きながらずっと私の心配をしていた。連れていきたいけど、実家には拒否されているし、無理やり連れて行っても実家で虐められるか、嫁ぎ先で慰みものにされるかもしれないから。と、最後は自分で自分の体を引きずるようにしながら、私の前から消えた。
私は大粒の涙で顔中をぐしゃぐしゃにしながら、後を追いかけた。子どもの足では時間がかかり、追いついた時にはお母様は既に馬車に乗っていた。
「おかあさま!おかあさまっ!おねがいっ、どんな目にあってもいいから!だからつれてって!おいてかないでよぅ…おかあさまっ……」
必死に馬車を追いかけようとして、ナニーに止められて、子どもながら必死で、ナニーの頬をぶった。子どもの力でも少しは痛かったはずなのに、ナニーはそれでも力を緩めなかった。
その時、お母様が淑女らしさをかなぐり捨てて、馬車から身を乗り出して叫んだ。
「必ずっ!必ずまた会いましょう!だからっ…だから元気でいてください。お母様の最後のお願いです!」
おかあさま。それじゃ矛盾してるよ。また会えるなら、その時またお願いをしたらいいじゃない。
…そんな、最後のお別れみたいにいわないでよ。
「おかあざまっ!必ずですよ!ぜったいに!また会いますから!会いに行きますから!だから、それまでお母様も元気でいてくださいっ!私からもお願いしますっ!」
ガラガラと、馬車は無情にもそれっきりお互いの声を伝えない。
…せめて、最後のお願いだけは聞こえていただろうか。