46 正式開業
翌朝いつも通りに診療所に出勤して四つの扉にOPENの札をかける。開業準備をしてたら着崩した白シャツ姿のエインさんが二階から降りて来た。
「おはようございます!今日ここに泊まったんですね。どうでした?居住スペースは。台所の方はちょこちょこ私も使わせて貰うと思うんですけど。」
「あぁ。一人で住むにはもったいないくらいの広さがあって快適だったな。台所は勝手に使え。どうせ俺は使わん。」
「そうなんですか?ご飯はどうしてるんです?ちゃんと食べなきゃ大っきくなれませんよ?」
「あほぅ、それは子どもの話だ。俺はパンとその辺で買った肉か干物で充分だよ。」
肉かぁ、良いな肉食いたい。そういえば魚も食べてないな。そもそもこの国は海に面して無いからな。
「スラムで物買う時は気をつけて下さいね。慣れてないってバレるとぼったくられますよ。」
「分ぁかってるさ!めんどくせぇガキだな。」
「ま、口の悪さはもうスラムに馴染んでるみたいですけどね。」
「からかってないでさっさと案内しろよな。もうすぐ患者来んだろ!」
「そうでしたね。えーとじゃあ、二階はとりあえず後回しで良いかな。居住スペースと会議室と用心棒の待機部屋があるだけだから。」
「ああ。二階は昨日あらかた見て回った。」
「じゃ、一階の診療スペースですね。まずここが待合室です。で、そこが診察室。二つあるけど普段はそっちしか使ってないです。薬は診察室に置いてあるけど、ちょっと危険な奴とか扱いが分からない奴は隣の使ってない診察室に置いてあるよ。
あとは真ん中にあるここが受付。受付台の後ろにカルテを仕舞ってある。紙とインクは節約してね。それから玄関は四つあってそれぞれのギャングの縄張りから患者さんが入って来るんだ。
エインさんはどこの縄張りの人でも無いからどの扉を使っても良いとは思うけど、一応医者の着任が周知されるまでは不用意に出歩かない方が良いと思うな。
長くなったけどここまでで何か質問ある?」
「いや、スラムの事はよく分からんからこれからも色々教えてくれ。あと俺にも護衛がつけられたからとりあえずは今抗争をしてない北の縄張りで行動しろとさ。」
「そっか、それなら安心だね。今日は患者さんに紹介して、さっそく診て貰って良い?けっこう手術した方が良い人いるからさ。」
「そうだな。では着替えて来よう。」
そう言って一旦二階に引っ込み、戻って来たエインさんは昨日と同じかっちりとした白衣姿でお医者様って感じがする。
「はーい!100エルです!どーも!」
そういう私はというと、さっそくやって来た水のお客さんを相手にしている。
「なんだ?そいつらは。患者では無いだろう?」
「この方達は私の個人的な商売のお客さんです。お水を買いに朝方や昼時はこうやって賑わうんです。患者さんが来るのはいつももう少し後かな。」
「そういやギャングから金せしめてるんだったな。意外と守銭奴か?」
「否定はしませんよ。そうでもしないとスラムでは生きてけないんです。」
「そういうもんか。お、あれは患者じゃないか?具合が悪そうだぞ。」
「あの方も水のお客さんです。具合が悪そうなのはアル中だったせいで肝臓とか壊してるからよ。ぶっ倒れてから今はアルコールの量徐々に減らしてるみたい。」
「……それ、患者じゃないのか?」
「あははっ!患者さんはあの方ですよ。ほら、咳き込んでる。具合悪そうでも気にしてなさそうなのは水のお客さん、不安そうにしてたりするのが患者さんです。」
「俺にはどっちも同じに見えるがな…」
「ま、実地で覚えましょう。患者さん、こちらへどうぞ。」
私が新しく来てもらうことになったお医者さんです!って紹介してエインさんはサクサク診療進めて、私はその様子をじっくり観察しつつ除菌・除去ギフトをかけて順調に午前の診療が終わった。
「もぐもぐ。その治癒魔法ってのはどうやって使うんですか?あと、全ての患者さんに使ってるわけじゃ無いですよね。そこら辺の使い分けとかはどうなってるんです?」
いつも通りパンを齧りながらの私の質問に、目の前で串肉を喰らおうとしたエインさんが手を止めた。
「あ?魔法は使えんだろ?だったら普通の魔法と覚え方は同じだよ。あと俺は貴族じゃねぇからそんなに魔力が多く無い。それでも医者の家系は他と比べたら多めではあるんだが、とにかくそんなに贅沢には使えねぇ。だから本当に必要な患者にしか使わんよ。」
「ほう。じゃあ実物を見てイメージして、魔法を発動させやすいように呪文を唱えて使うんですね。でも、イメージって言ってもけっこう難しく無いですか?」
火とかは実物を見る機会も多いし想像しやすいけど、傷を塞いだり、折れた腕を直したりっていうのはちょっとどうなってるのかイメージが沸かない。
「そりゃそうだろうな。そのために医療学校があるんだ。あらゆる体の仕組みを学んでイメージを明確にする。それと、いくつかの病気では治癒魔法は逆効果だ。覚えても乱用しないように。」
「分かりました。……ところでそのお肉、一口分けてくれません?私のおやつの豆全部あげますから。」
エインさんが手に持ったままの肉に我慢しきれなくなって、ゴクリと喉がなった。うるうるお目々で交換条件出してみたけど…
「やるかよ。んな目で見るな!」
「あっ!」
ちっ!あっという間に食べやがったぜ!
あ~あ、私が肉を食べられる日は一体いつになるんだろうか…
あ、でも。こないだのオムライスに鶏肉入ってたな。




