44 確保ォ!
私がいつものラスボス席、ギャングの頭達が両端に座って、彼は私の対面の席に座った。相変わらずこの配置なんかおかしい!
「こいつが俺が探して来た診療所の医者だ。名前はなんて言ったか…医者の息子で優秀な成績で医療学校卒業後、親父の跡を継ぐ前に修行として街の医院で働いていた時に禁忌を犯して医学界から追放された。腕は良いから問題ねぇとは思うがどう思う?」
「俺はエインだ。年は25。」
「うむ…エインとやら。その禁忌とは一体何をしでかしたのじゃ?ここはスラムじゃから多少の事は問題無いが、住人の信用を失うようでは困るのでのう。」
髭じい…五、六歳のチビガキを治癒士にするのは多少の範囲内なのね。安心しろ!エインさん。なんでも来いのバッチグーよ!
「ああ、それは俺も気になるな。調べはしたがその医院が隠蔽してるのか情報が上がって来やがらねぇ!一体何やらかしたんだ?」
「……出産前に危険な状態になった妊婦の腹を裂いてお腹の子を取り出した。そうする事で結果的には母子共に無事で助かったが、医療行為といえど人体を切り裂くというのが問題になってな。
その医院でも情報統制が敷かれて一部の者しか知らないハズだ。何より父が必死にもみ消した。勘当どころか息子など初めから居なかったように振る舞ってるよ。」
「うむ…それならば雇われたは良いが家族の反対でやっぱり辞めるという事は無いな。儂は医者で無いから分からんが、それは命を救うのに必要な処置だったのだろう。この者を雇う事、儂に異存は無いぞ。」
「俺は猫で動物実験しない医者ならそれでいい…」
「クハハッ!お前よぉ、マジウケるんですけど!」
東のギャングさん、セオさんは相変わらずの猫好きだ。西のヘッドさんはそれをからかうのが好き、と。
「ま、俺もいいぜ!腹掻っ捌くなんて大した事してねぇじゃねえか!」
ヘッドさんが謎の暴論で(というかスラム理論で)同意してくれて、残るはドンだけ。
「俺も構わねぇが、というか連れて来た張本人だしな。それより嬢ちゃんの意見が聞きたい。曲がりなりにもこの一年診療所を切り盛りしてきたのは嬢ちゃんだ。」
「んにゃ?私か……あぁ、言っとくとね。多分この辺には無い方法だと思うけど、帝王切開って言ってちゃんと確立された医療としてお腹を切って赤ちゃんを取り上げる出産方法もあるのよ。という事で特にその辺りの反対は無いです。
あと、ちゃんとしたお医者さんが来てくれるのは万々歳です。今回もエインさんが駆けつけてくれなかったら、重症患者を助けられない所でしたから。」
「ほう…そうなのか。ちなみにそれはどこの地域だ?詳しく教えてくれ!」
エインさんが前のめりでちょっとビビった。
というかこの時代じゃまだ無いでしょ。無いよね?
「んー、本か何かで知った情報なので詳しい事はなんとも。ただ体にメスを入れて治療する事は他の部位でもあります。…だそうです。」
「まあ、とにかく!嬢ちゃんも構わねぇんだな?だったら後はお前の気持ち次第だ!なあ、やってくれるよな?」
未知の治療法にまだ質問を続けたそうなエインさんを遮ってドンがエインさんに脅しをかける。怖ぇ…迫力あるわぁ。
「…この娘、クオルフを助手にくれるならば考えよう。素質はありそうだから鍛えれば一人前の治癒士に出来そうだ。…それにこの頭の中身に興味がある。」
「そりゃ構わねぇが、解剖したりするなよ?あと不埒な行為をしようとしたら逆にお前が殺されるぞ。警告しておくがこの嬢ちゃんはギャングの頭と渡り合い、仲裁して金をせしめてる太ぇ女だ。気をつけろよ?」
おい、ドン。聞き捨てならんぞ!ほぼほぼその通りだけどさ!あと確かに頭の中身に興味あるってマッドサイエンティストっぽくてちょっと怖かったけどさ!それと我が身の貞操を心配してくれてありがとよ!最初に白衣の幼女儲かるって言いやがったのドンだけどな!
「いや、解剖などせんよ。私はその知識に興味があるだけで…」
エインさんが戸惑ってらっしゃるよ!
「分ぁかってますって!それにしても助手良いですねぇ…うんうん。とってもありがたい提案ありがとうございまーす。」
「はは。お主また悪知恵を働かせたな?確かに医者が来て引き継ぎを終えてしまえばお主の仕事はそれでお終いじゃものなぁ。助手として雇って貰えればお主はこれからも金の心配をせずとも済むな。」
「…ふっひっひ、そういうお代官様こそ。」
って、悪ノリしてる場合やないわ!髭じいめ、すぐに看破しおってからに!
「お前のノリたまに分かんねぇけどなんかおもしれぇな!ぷははっ!」
おぉぅ…西のヘッドがまた笑ってるよ!この謎テンションについて来れるとはお主も中々悪よのう。
「ま、そういう事ですよ。私は助手の話歓迎ですけど、皆さんはどうです?」
「…今とそう変わらないだろう?医者が来て正式開業になったら、どうせ手伝いが欲しかったんだから丁度良いんじゃないか?」
「そうだな。慣れてる奴の方がいいだろ。」
てことで全員の了承が得られて晴れて新しい仕事ゲットしました!イエーイ!パフパフ!ちなみに髭じいはあのくだりで何も言わなかったって事でOKだと判断したよ。
「それじゃ、診療所の案内とか説明とか諸々の引き継ぎは明日からでいい?私はそろそろ帰らなきゃ皆を心配させるし、何よりご飯を食べ損ねちゃうのよね。」
診療所を閉めたのが日没だから、そろそろかなり暗くなってきてるはず。完全に暗くなる前に帰らないと蝋燭つけてまで食事の準備するのはもったないない!ちゃんと節約しなきゃ!って事で適当にパンをむしゃむしゃ食って寝るってのも寂しいしね。仕事終わりにスープくらいは飲みたいよ。日本にそのままいたら今頃お酒だって飲める年齢だったハズだしね。
「そういやお前はここに住まないのか?医師用の居住スペースがあると聞いてるが、今は空いてるんだろ?」
「嬢ちゃんは俺んとこのシマのガキが集まって生活してる家に住んでるんだ。やっぱりガキはガキ同士でいた方が楽しいんだろうよ。」
「孤児院とは違うのか?まあ良い、帰るならとっとと帰れ。子どもは飯食わなきゃ大っきくなれないぞ!」
「分かってますよーだ!どうせ胸は育たないもん。じゃ、戸締まりよろしくね!さよなら、また明日〜!」
すたこらさっさとお家に帰りましょう。ゼムにも報告しなきゃね。




