4 おかたま達
この家は、結構なお金持ちだと分かった。
私はもう一歳。
ハイハイも、少しの間なら立ったりもできるようになった。
こっそり床に除菌・除去ギフトをかけて家のあちこちを歩いて回ったけど、一日で一部屋見て回ってたら、私がいつも過ごしてる二階だけで10部屋あった。廊下を見て回るのにニ日かかった…
肖像画とか、絵画とかもいっぱいあって、高そうな壺も置いてあったりで、とにかくちょっとびっくりした。どんだけいいとこに転生したのよ。これ除菌・除去ギフトあんまり必要無かったかも。水ギフトも、なんならスモールライトもどきも…
いやいや、この先何があるか分かんないしね。お父さんが破産するかもだし!…て、やだなそれは。
「あら、お嬢様、またこんなところに。もう、いつもいつもどこかへいなくならないでくださいませ!お嬢様がいなくなると私が怒られるんですからね!」
「ごえん」
彼女は私の乳母。第二のお母さんだ。前に初めて屋敷の探検に出たとき、この人は真っ青になって探して、見つかってこっぴどく叱られた。で、この人もお母様に叱られた。あの時の事は申し訳ないと思ってる。
けど、探索意欲は尽きなくて、あんまり心配させ過ぎないように定期的に歩き回った。基本子ども部屋に置いておくように言われているようで、用事がある時しか部屋から出してくれないのだ。
「謝ったっていけませんよ、さあ行きましょう。お母様がお呼びです。」
「おかたま!あう!いこ!」
まだあんまり喋れないから、伝えられなくてもどかしい。
彼女に抱っこされてお母様のもとへ連れて行かれる。
「奥様、お嬢様をお連れしました。」
「入ってちょうだい。」
「失礼します。」
「まあ、クオルフ。またナニーを困らせたのですって?いけませんよ。お部屋で大人しくしていないとお父様に叱られてしまいますわ。」
「おかたま、わたくちおちゃんぽちゅきでちゅの。
ゆゆちてくだたらない?」
あ~!すまして答えようと思ったのに赤ちゃん言葉しかでないせいで台無しじゃない!悔しいわ!
「ふふっ。そう。お散歩が好きなのね。可愛いクオルフちゃんに免じて許してあげたいところだけれど、お父様に叱られたくないでしょう?お父様は厳しいお方ですからね。」
「むぅ。おとたまなんかきあい。おかたま、なにーだいちゅき。」
子どもらしくほっぺを膨らませて上目遣いで言ってみる。これで悩殺できるはず。というか、小さいから自然と上目遣いになるんだけど。
「あら、可愛いらしいわね。でもお父様の事を嫌ってはいけませんよ。お父様だってあなたの事、嫌いなわけでは無いんですからね。」
「…とかな。おとたまわたくちきあい。たぶ。
だて、わたくちおんな。だか、おとたまわたくちきあい。
おとたまのうちろ、つげないかあ。」
あ、間違えてあとをうしろって言っちゃった。まだまだ勉強中だからね。
「……それは、どこでそんな事聞いたのですか?ナニー!?」
「私ではありません!断じてそのような事は…お嬢様がおかわいそうですから。」
「そうよね。クオルフの事、実の娘の様に可愛いがってくれているあなたに限ってそれはないわね。…という事は他の使用人ね。子ども部屋は防音加工をしてあるから、クオルフが出歩いた時の事ね。」
やばい。なんか、やばい気配を感じる。お母様が怒ってらっしゃる。
「クオルフ、外に出てはいけません。悪い使用人が嘘をついたのです。悪い使用人はあなたの部屋には入って来れませんから、あなたはお部屋にいるべきです。分かりましたか?」
やっぱり!このままじゃほんとに部屋に閉じ込められちゃう!
ええい!奥の手だ!
「…や!くおうふおとという。へあひま!
しよにんわるない。ほんととといてるだけ!」
「…はぁ。どうやらクオルフにはお見通しの様ですね。それに部屋に閉じこもっているつもりも無さそうです。…ナニー、日に三回、十分ほど部屋の外に連れ出してあげてください。…目の届かない所で旦那様の怒りを買ったり、使用人の噂を聞いたりするよりはマシですからね。」
お母様が頭の痛そうな顔で保護者同伴での外出許可をくれる。
「承知しました。それでお嬢様も少しは落ち着かれると良いのですが。」
「そうですね。とにかくクオルフの事は貴女に頼みましたよ。」
「はい。お任せ下さい。それでは失礼いたします。」
「ええ。…ふぅ、私が早く男の子を産めたら、きっと旦那様も余裕が出来て、少しは、クオルフの事も可愛がってくれるようになるはずだわ。…クオルフの為にも頑張らなくちゃ。」
去り際に聞いた声に、キュッと胸が締め付けられるような思いになった。…余計な事言ったかな。