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ケッペキショーの珍道中  作者: 朱華
初めましてスラム街
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37 スラムの外

長いです。読みにくかったり分かりにくかったらごめんなさい。



翌日、ハンナ姉に連れて来て貰って服屋へ向かった。そこはスラムを出てすぐに広がる貧民街も超えた庶民街にあった。スラムを出るのはスラムに来て以来初めてで、その前は屋敷の外にも出た事が無かったから、初めての普通の街はとても新鮮に感じられる。


街は活気に溢れていて、下町情緒の漂うとても雰囲気の良い所だった。ハンナ姉も最近は私も、いつも目立たないようにわざと服をちょっと汚してから出かけるけど、今日は身奇麗にしてやって来た。こちらでは汚れている方が不自然だからだ。髪もきちんと梳いてきてある。ついでに言うと今日はゼムも護衛としてついて来ている。女の子だけじゃ危ないし、服屋に舐められるからと。


貴族や商人の屋敷から回って来たような古着でも上質な素材の服を売る服屋に到着して、まずは私が話をする。


「今お時間よろしいですか?」


「はいはい。…なんだ、スラムのガキじゃないかい。今日は仕事は無いよ!」


私の丁寧な口調に客だと思ったらしい店主の大柄な女性が振り向いて明らかに不快そうな顔になった。


「いえ、今日は服を売りに来たんです。上級貴族の娘が着るワンピースドレスですよ。素材もシルクで、傷まないように管理はしっかりと行いました。買わなきゃ損ですよ。」


「ん……ほんとだねぇ。普段扱う品物より随分と良い。…だが、こんなものどこで手にいれたんだい?まさか、盗んで来たんじゃあ無いだろうね?」


「そんなまさか!それは私の着ていた物ですよ。丈が短くなって着られなくなったので、売りに来ただけです。」


「ふぅん…本当かねぇ。確かにその髪と目の色はお貴族様のようだが…お貴族様の盗品を扱ってるとなりゃあこの店も私も終わりだよ!」


「では、証明しましょう。炎!風!土!石!岩!雷!水!氷!」


次々に言いながら、生活魔法に毛が生えた程度の大きくして見栄えを良くした魔法を手の平の上に出す。


「どうです?これでもまだ足りませんか?」


私のショーに驚きすぎたのか目を瞠ってぼーっと見ている店主に余裕綽々で笑いかけて今度は基本魔法で私の背丈ほどもある大きな岩を出す。


それを見て今度はあわあわと慌てている店主に頷いてポンポンと岩を叩いた。


「…あんた!そんなもんしまっとくれよ!服は買い取るからさ!目立ってしょうがない。」


「分かりました。消えろ。」


実はこの魔法で出した物体を消すのは意外とかなり難しい。生活魔法の上の基本魔法よりも難しいくらいだ。代わりに一時間以内くらいに消せば魔力が半分くらい帰ってくる。魔力で物体を形作っているだけだから、消すというより魔力の状態に戻して体に返すといった感じだ。


まあ、貴族以外はなかなか魔法を使えるほどの魔力持ちはいないから、生活魔法程度のパフォーマンスでも納得してくれただろう。


「さて、それじゃあこの服なんですけど、いくらで買い取ってくれますか?」


「そうさね…一万エルってところだね。」


古着でそれは結構な大金!と思って頷きかけたら、ゼムに手で制されて口を閉じた。


「それはあんまりだ!普通の下級貴族の服ならそんなもんかも知れねぇが、これを見ろ!上級貴族の物で、かなり状態も良い!そんなチンケな値段で買い叩かれてたまるかよ!」


「…ちっ、分かったよ!三万エルだ!それ以上は出せないよ!」


店主はゼムの一歩も引かないという剣幕と、魔法の脅威にあっさりと食い下がるのは止めた。


「それと、これと揃いの革靴と靴下があるんだけど、どうかしら?」


ちなみにあんちゃんもさすがに下着は買って来てくれなかったのでそのまま履いている。縫い付けたポケットとその中身もそのままだ。


「……五万エル。ほら、とっとと帰んな!落とすんじゃ無いよ!」


店主のおばさんはドンッとお金の入った重い袋を差し出し、最後に気遣いの言葉をかけて私達を追い払った。私達は頭を下げるとすぐにその場を立ち去り、路地に入ってお金をギフトで小さくして三分割して懐に隠し持った。…もちろん私は下着の中だ。ハンナ姉は出来かけの谷間の間…ゼムは筋肉谷間の間……解せぬ。


そして帰り道を行く。皆のんびりと歩く余裕は無いけど、早足にもならず普通の速度で市場を見て回りながら持って来たお金で一つだけ買って三人で回し食べする。ハンス兄から貰ったお小遣いだから味わって、でも冷めないうちに串肉を食らった。……実に久しぶりのお肉だ。スラムに来てからだから、一年ぶりかな。


そんな事を考えていたら誰かとぶつかった。気づいたその瞬間に走り去ろうとしたので足を引っかけて転ばせた。さすがに一年もスラムで生きてりゃ分かるし対処できる。…スリだ。


どてっと転げて中々起き上がらない様子を見ると、新米のスリなのかもしれない。お金も取られていないようだ。


「お前、馬鹿なのか?子どもとはいえ、三人でつるんでる相手に仕掛けるなんて、普通の腕じゃ無理だろ。それに、獲物は良く見定めなきゃな。子どもがそんなに金を持っているわけが無いだろう?」


三人で取り囲んで、ゼムがそのスリの欠点を言い連ねる。実際自分達が小金持ち、スラムならちょっとした大金持ちである事は当然だけど言わない。


「うるせぇ!金が無きゃ妹が死ぬんだよ!」


起き上がった少年にそう言われてよくよく見たらその腕には小さな赤ん坊が抱かれていた。まだ生まれたばかりじゃ無いだろうか、そのくらい小さくて、なんだか今にも死んでしまいそうなほど栄養が足りていなさそうだった。


「……その子は君の妹?血の繋がった?何故君が妹を連れてスリをしているの?」


「そうだよ!親に妹が売られそうになったから逃げて来たんだ!」


「はぁ………それは、かわいそうに。」


「同情してんじゃねえよ!」


「私は君に同情してるんじゃ無いの。君の妹によ。勝手に連れ出されて。こんなに痩せて、満足にお乳を与えてる?これなら売られた方がよっぽどマシだったわね。」


「ふざけんなよ!お前に何が分かる!」


わざと分かりやすく憐憫の眼差しを向けてやると、怒って少年は立ち去ろうとした。それはゼムとハンナ姉が肩を抑える事で止めて私は言葉を続ける。


「分かるわよ。これでも私達もスラムの住人よ?とりあえず話をしたいから、私達の家に来て。その前にその子のお乳も確保してあげるから。」


「ほんとか!?もらい乳は金がかかるだろっ?」


少年はその為にスリをしてたのか。泣きそうな顔をしている。


「大丈夫よ。アテがあるから。」


そう言って、スラムの中まで案内して辿り着いたのは富裕層の街に近い場所にある娼館。今は灯りのついていない豪奢な造りの建物の裏口から人を呼んで、出て来た男に会いたい娼婦と用事を告げて通して貰った。少し痛いがチップを渡すのも忘れない。


「…お休みのところを突然大勢で押しかけてしまってすみません。診療所のクオルフです。」


「あぁ…診療所の!あの時は助かったわ。清潔な水が確保出来たおかげで今も元気に成長しているわ。」


そう言って見せてくれたのは、私のギフトの水の産湯に浸かった赤ちゃんだった。もう一歳近いのでは無かったかな?


「いえ、こちらも光栄でした。それでその、厚かましいお願いだとは分かっているのですが、この赤ん坊にお乳を与えてやってくれませんか?こちらが代わりに提供出来るのはお水と感謝くらいですけど…あ、良かったら簡単に診察もします!」


「いいのよ、あなたにはお世話になったし、今小さな仲間とお勉強会してるんですって?あの中には亡くなった先輩娼婦の子も混じっているからね。でも、せっかくだから白湯をくださる?」


「そうだったんですか。ではお願いできますか?白湯はどの容器に入れれば良いですか?」


私達の間で交渉が纏まったのを見て、少年がぐいっと頭を下げて妹を彼女に渡した。お乳を与えながら彼女に渡されたコップにお湯を出した。少し風を当てて冷ましてから、ついでに除菌・除去ギフトをかけて渡す。


「ありがとう。丁度いい温度ね。」 


お乳を飲ませ終わった彼女が少年の妹の背中をトントンと叩いてげっぷをさせると、少年に渡した。そして今度は自分の赤ん坊に白湯を与えている。


「こちらこそ!ありがとうございました!それと、今日一日家に泊める予定なんですけど、何かすぐに必要な物ってありますか?」


「そうねぇ…このくらいの年齢の子だと頻繁にお乳が欲しいけど、夜は私も店があるしねぇ。それと、おむつにする布なんかはあるの?まあ、今つけているのを洗えば一日くらいなんてこと無いけれど。」


「分かりました…明日朝イチで他の所へ連れて行くので何とかなんでしょう。おむつは除菌・除去ギフトで綺麗にして使います。…あ、帰る前にパパッと診療しときますね。」


「助かるわ」


赤ん坊と彼女にギフトをかけて、パパッと診る。って言っても明らかに顔色が悪かったりとかしない限り私にゃ分からんのだけど。


「何か気になる事があったら出来れば街の医者にかかってくださいね。私の診察じゃ心配ですから。」


彼女にお礼と挨拶をして娼館を出た。その途端に勢いよく肩を掴まれて少年に睨み付けられた。


「勝手に決めてんじゃねえよ!妹をどこに連れてくってんだよ!まさか売る気じゃねぇだろうな!」


「まさか。そんな事しないわ。そこまでお金に困ってるわけじゃないもの。」


「じゃあなんだって言うんだよっ!」


「…とりあえずここじゃ迷惑になるから家で話そう。私も独断で決めちゃうわけにはいかないし。ねぇ、ゼム。ハンナ姉。ハンス兄はもう帰ってるかな?」


「どうかしら?今日は荷運びのお手伝いだから終わるまで帰って来られないわね。」


「あぁ…あそこの荷運びなら、今日は荷が少ない日のハズだからもう帰ってるかもな。」


「じゃあ直行で帰ろう。あんまり赤ん坊連れ歩いたらいけないよ。感染症怖いからね。」


というわけでまっすぐ家に帰って来た。家にたどり着くまでに、狭い穴をくぐり抜け、細い板の上を渡り、今にも壊れそうなハシゴを登らなきゃいけないけど、まだ首も座ってない赤ん坊抱えながらだからとってもヒヤヒヤした。ちなみに少年は慣れてなくて危ないからハンナ姉が代わりに抱えて運んだ。


「君たちにもギフトかけるね。菌とか汚れを消す奴だから安心して。」


いつも通り兄弟にギフトをかけて、入り口のほうで緊張して固まってる少年と赤ん坊にも同じく警戒を解くために説明してからかけた。


「…さて、ハンス兄。この子達なんだけど、放っといたら野垂れ死にそうだったから連れて来た。妹が売られそうになったから家出して来たんだって。今日泊めてあげてもいい?」


「泊めるくらいなら構わねぇけど、そいつ、スリじゃないだろうな?教えただろ?家にはスリは入れられない。」


「一晩でもダメ?せめて赤ん坊だけでも預かるとか。このままじゃ死んじゃうよ?」


「冬だからな…泊めてやりたいのは山々だが、他の兄弟にまで類が及ぶ。赤ん坊だけならいいけど、お前スリって何盗った?何回?どんな奴から?」


「………俺は、スリはやったけど、三回とも全部失敗した。ぶつかっただけで何も盗れなかったし、相手もぶつかっただけだと思ってる。スリだって気づかれたのはお前らだけだよ!」


「…なるほど。それなら問題無いか。良ければこのままここの住人になってもいいぞ。」


「本当かっ!?屋根のある所で寝られるのか?これで妹が助かる…」


へたりと放心状態で座り込んだ少年に厳しいけど伝えなきゃいけない。私が連れて来た以上はハンス兄に嫌な役回りを押し付けるなんて許されない。


「そのことだけど…あなたは妹とは一緒に暮らせない。」


「は…?っ…なんでだよっ!」


「ここにはお乳の出るような女の人は居ないし、働けない子を二人も面倒見る余裕は無いから君には働いて貰わなきゃいけない。そうしたら赤ちゃんの世話が出来る人は居ないの。タユタと、ジンとナサラが交代で家に居るけど、タユタとナサラはまだ四歳と六歳だし、ジンは八歳だけど交代だから半分は居ない。…だからね、残念だけど赤ちゃんとは離れて暮らす事になる。それでも…」


「ふっざけんなよ!やっぱり売るつもりなんだろ!俺は騙されないぞっ!」


続けようとした言葉に割り込んで少年が激高して叫んだ。


「だから、売るつもりなんて無いよ。そのつもりなら話なんてせずにとっくに奪い取ってる。話を最後まで聞いて…それでも彼女はその方が幸せだと思う。何故なら、食べ物の心配をしなくて良い、寝る場所の着る物の不自由も、スラムと比べたら無い。何よりごく普通の人生を送る事が出来る。

 スラムに入ったら住民票も失って、結婚も出来ない、子どもが生まれてもその存在は認められない。それどころか大人になるまで生きられる方が珍しい。奴隷狩りだって横行してるし、娼館に捕まったら一生体を売り続ける羽目になる。女の子は特にっ(・・・・・・・)!スラムに入っちゃいけないのよ。」


「……じゃあ、じゃあっ!どうしろって言うんだよ!どのみち家に帰ったって売られるんだぞっ!妹を、どこに連れてくってんだよ!」


「…孤児院よ。あそこなら受け入れてくれる。」


「孤児院って!ダメだそんなの!酷いとこだって聞いたぞ!親を亡くして親戚にも引き取って貰えない子が行く監獄のような所だって!」


「…確かに街ではそんな風に言われてるわね。でも実際はそんな悪いとこじゃ無いのよ。さっきも言ったけど、衣食住整ってるし、就職先の斡旋もしてる。うまく行けば養子に貰われる事もあるし、ある程度の教育も受けられる。


 孤児院出身者は差別される事もあるけど、スラムの子ほどじゃない。運営してる教会の方針で俗世に塗れないように外にはあまり出して貰えないけど、教会の敷地内は自由に動けるし、監獄って言われるほどじゃ無い。


 …ただ、孤児院は身元のはっきりしている子以外は赤ん坊しか受け入れて無い。スリや売春をしてた可能性のある年齢の子や、幼い子でもスラムに馴染んでしまっていて凶暴になる可能性を恐れて一歳以下の赤ん坊のみで。しかも誰からでも引き取るわけじゃない。際限無く産んで預けられても困るから、身元がはっきりしていたり、信用のある相手からしか受け付けてない。


 だから、赤ちゃんである君の妹は良くても、君は一緒に行くわけには行かない。どうかな?妹のためを思うなら考えてくれる?」


「そんなっ…!……今すぐには決められない。」


「そうだね。明日までに決めてくれればいいよ。こっちも準備があるからね。…それと、君には三つの選択肢がある。一つ目は今言った妹を孤児院に入れる。二つ目は妹とここを出て生活する。三つ目は妹と家に帰る。

 二つ目はオススメしないな。もらい乳はお金がかかるし、妹を抱えてたら満足に稼げもしないでしょ?二人とも野垂れ死んで終わりね。

 一つ目と三つ目には君がココで暮らすか、君だけ家に帰るって選択肢もあるけど、それもどうかと思う。せっかくの金のなる木をどこかへやってしまった君を親が許すとは思えないね。」


「……分かった。とりあえず考えておく。」


「じゃあ私、夜の分のお乳を手に入れてくるから。ハンス兄ごめんね。1000エル、いや、値切るから500エルだけ使わせて貰っても良い?」


「あぁ、今回お前の服のおかげで金が手に入ったしな。」


「じゃあこれ、残りのお金ね。他はハンナ姉とゼムから貰って。いってきまーす!」


さて、この時間だとヤギ飼いはそろそろ帰る時間だな。急いで市場に行ってミルクを買わなきゃ。日本でも戦時中だと飲ませてたみたいだから、多分大丈夫だとは思う。帰り支度をしていたヤギ飼いのおじさんを呼び止めて、スーパーの夕方のタイムセールのごとく安くしてくれないかと頼み込んで、ついでにヤギにお水を飲ませてあげたら快く半額にしてくれた!水を入れる皮袋に乳を注いで貰って、お礼を言ってホクホク顔で家路についた。



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