35 開校
てことでさっそく学校開いてみました。とりあえず地面を黒板代わりにする予定です。集まったのは四人。リサとその仕事仲間の女の子達で、大体十歳から十四歳くらいまで。全員華奢で可愛らしい見た目。髪は伸ばしてる子が多いみたい。仕事が長引いてさっきまで寝てたのか、少し眠そうにしている子もいる。
「私はクオルフ!今日からあなた達の先生をしたいと思ってます。よろしくお願いします!」
ぺこりと頭を下げて反応を伺うと、半信半疑な感じの視線を返された。
「あなた、本当に読み書きや計算ができるの?まだ子どもじゃない。」
女の子達の中で一番年上と見られる子が棘のある調子で聞いてきた。
「そう思うのも当然ですね。ぶっちゃけると、私は半年前まで貴族の子でした。教育も受けていましたが、父が亡くなって、跡継ぎを他から迎える事になったので、要らない子になったんです。祖父から嫌われていたので家を追い出されました。今は立派にスラムの住人として生きてます。よろしくお願いします!」
「それは分かったけど…どうして私達みたいなのに教えようと思ったの?それもお金を取らないなんて、おかしいじゃない。あなた達貴族は私達の事を売女と言って蔑んでるじゃない。…自分も買うくせに。」
「それは貧しさを抜け出すためです。スラムの子は勉強が出来ないからいつまで経っても貧しさから抜け出せないんです。知識があれば、パンを買う時、高く売りつけられたり、おつりを誤魔化されたりしない。そうしたら少しずつでもお金が貯まって、病気にかかった時に医者に診て貰えるかもしれない。お腹いっぱい食べれる日もたまには出来るかもしれない。そうしたら生き延びられる。明日食べる物より、将来の結婚や仕事の事も考える余裕が出来るかもしれない。スラムの子だって、夢を見るくらいは許される。…そうは思わない?」
「そんなの、綺麗事だわ!どうせ私達なんて、病気をもらって死ぬか、男に殺されるか、体を売れなくなって飢え死ぬしかないんだからっ!他人に与えるような余裕のあるあなたには分からない!」
「そうね…私はとても恵まれていて、だから無料で知識を与えられる。そう思ってくれて構わない。実際そうだと思う。偽善者で結構よ。私はあなた達に何かしてあげられるわけじゃ無い。でも、それを利用しなくてどうする!私をとことん利用して這い上がって見せろ!私の持つ知識をどんどん吸い上げて、カラッカラになるまで搾り取れ!私は蔑んでいる人間に毛ほども何かをくれてやるつもりは無いっ!いくらでも教えるし、いくらでも与えるから、貪欲に奪い取れ!それが私のあなた達に対する尊敬の形だ!」
「………あなたは、普通の貴族とは違うって言うの?私達を尊敬するって…?……っ!馬鹿馬鹿しい!嘘を言っているだけよ!」
「嘘の見極め方も教える。まず相手の瞳孔を見て。視線は合う?瞳が揺れたりしない?瞬きが多かったりは?表情におかしな所は無い?腕や顔、髪に触れたり、腕や足を組んだりはしていない?体が硬直していたりもするかも。今回は初対面だけど、いつもと言動が違うとかでも見極められるよ。…さあ、私は嘘を言っている?」
「………っ、そんなの、それ自体が嘘かもしれないじゃない!」
「そう!正確よ!騙されちゃいけない。私が教えた見極め方自体が嘘かも。疑う事は大事な事よ。私はそういう勉強以外の事も含めて教えたい。どうかな?私の事、嘘つきかどうか見極めてみない?…どうか、よろしくお願いします。」
「………………分かったわ!あなたの化けの皮剥してやる!」
―――三回目の返事はイエスだった。今ここに演説の終了を告げる。
「よっしゃ!じゃあ、まずはお金の計算からいこう!役に立つ事を徐々に覚えていったらいい!」
「…分かったわ!」
教育は順調に進む。リサも分かる範囲で手伝ってくれて、リサと同じくらいの時間をかけて、リサと足並みが揃った。全員ほぼ毎日来てくれて、休みの日には昼前から夕方近くまで勉強に明け暮れた。給食に豆を出したのも功を奏したらしい。有意義な時間は早く過ぎるもので、気づけば三ヶ月が過ぎていた。
ある日の授業終わり、唐突に彼女は言った。
「……認めるわ。あなたの事。嘘つきじゃないって。あなたは普通の貴族とは違う。ちゃんと私達の為になる事を教えてくれた。……ありがとう。」
「ユリア…こちらこそ、こちらこそだよ!ありがとう!私の生徒になってくれて!たくさんの女の子と話せて凄く楽しかった!家は女の子が少ないの。今度小さい子達を連れてくるね。今度はお姉さんとして、先輩として教えてくれる?」
私は感動でボロボロと涙を流しながら言った。私と彼女との勝負が終わるまでは連れて来ないと決めていたから、ようやく兄弟達にも教える事ができる。
「もちろんよ!あぁ、もう。泣きやんで。先生がそんなでどうするの。」
「うん!うん!分かってるよぉ。もうすぐ冬になって会えなくなると思うと悲しくて、心配で。」
冬になったら雪はほとんど降らないまでも寒くなる。スラムの住人は凍死を防ぐ為にほとんど外出しないのだ。彼女達も多少金はかかるが、家の無い者は軒先から安宿へと住処を変える。客を取れば客が代金を支払うので、冬はいつもより積極的に客を取る。彼女達には一応安全日と危険日の概念も教えておいた。栄養不良や昼夜逆転、ストレスなどで生理が来た事の無い子の方が多いようだけど。
「たまには来るわよ。温かいお湯で体を洗わせてくれるんでしょ?」
「うん!いくらでも提供するよ!あと、除去魔法の練習は欠かさずにしてね。魔力が足りないかもしれなくても、成長するうちに増えて使えるようになるかもしれないし、魔力を使う感覚が分かれば使えるようになるから。」
彼女達が私がいなくても自分で除去魔法を使って精子を取り除き、避妊出来ればそれが一番確実なのだ。私はこれほど素晴らしい魔法は無いとまで思った。
冬の間に彼女達が妊娠してしまいませんように。私は珍しく神に祈った。




