31 ハンス兄
ちょい短めです。昨日に続けての連投です。気をつけてね。
夜、みんなが寝静まった頃にハンナ姉の気持ちをハンス兄に伝えた。
「そうか……それは…ハンナがもう仕事を決めてるなんて知らなかったなぁ……でも、俺としてはちゃんと夢叶えて欲しいんだけどな…」
ふぅ。とため息を吐いて、ハンス兄が寂しげに呟いた。
「…ハンナ姉の夢ってなんなの?」
「あぁ……夢な。んー、言ったらあいつ怒るかな~?まぁ、いいか。夢っていうかさ、小さい頃によく言ってたんだよ。」
その……と、少し言い濁ってからハンス兄は答えた。
「あいつは…最初、大きくなったらお兄ちゃんのお嫁さんになる!って言ってたんだ。それで、その後も素敵なお嫁さんになるのが夢なの!って答えてて…俺は応援してやろうと思ってた。」
と、ここまでは微笑ましいと思って聞いていたが、急に雰囲気がガラリと変わった。
「…捨てられるまでは。」
そう続けられて、あぁなるほど…と思った。
「家は貧しくて、でもそれなりに普通に暮らしてたんだ。愛情も与えられたと思う。…でも、捨てられる時は一瞬だった。父親が怪我をして職人の仕事が出来なくなって、母親は働きに行くと行っていた。大丈夫だからと言われて連れてこられたのがスラムだった。働いている間面倒を見られないからここの人達に世話してもらえ。そう言われて二度と戻っては来なかった。それからこの家に拾われるまで、酷い目にあったし、男と女の汚い部分を否応なくたくさん見て来た。だから、あいつはほんとは男が怖いハズなんだ。……なのに、妾なんて。…本当に務まるのか…?あいつは大丈夫なのか?」
ハンス兄が苦しそうに話す。
日本で言う戸籍にあたる住民票を持たないスラムの人は法的には結婚できないし、それどころか存在しない事になっている。生まれた子もまた、かなり煩雑な手続きをして、この国で生まれた事や両親がこの国の者である事を証明しなければ住民票は与えられない。これはほぼ不可能ともいえた。
捨てられてスラムに来た時点でハンナ姉の夢は絶たれてしまったのだ。
何とも言えず私は黙りこくった。…同じ様に黙って考え込んでいたハンス兄が重い口を開いた。
「………そうだな。でも、お前の言う通りハンナと話し合ってみるよ。……一度と言わず何度でも。」
「うん。そうした方がいいと思う。」
「あぁ。聞いてきてくれてありがとう。おやすみ。」
「おやすみなさい。」
返事をして、自分自身も悶々と考え込んだ。…久しぶりにお母様が猛烈に恋しくなった。




