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ケッペキショーの珍道中  作者: 朱華
初めましてスラム街
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19 アジトにて

「はあっはあ…っ!すみません!クオルフです。至急ドンに会わせてください!報告行ってると思うんですけど…っはぁ、診療所で用心棒が殺されたんです!」


ちなみに、ドンの率いるギャングの縄張りで寝転がってた奴に声かけたから当然ドンのとこの下っ端だから。先に行ったんだからとっくに通じてるはずだけどね?


「…ああ、お前か!頭ならさっき下の者引き連れて急いで現場に向かったぞ!『クオルフが来たら通しとけ!』とのお達しだ。中に入って待っていてくれ!」


あ~良かった〜〜〜!!!

ちゃんと話が通ってた。ありがとう、ドン!


「ありがとうございます!失礼します!」


ギャングのアジトの門番に勢い良く頭を下げて急いで中に入る。

玄関ホールですぐに執事さんが迎え入れてくれていつもの応接間に通されていつもの場所に座る。


「ふぅ………」


私が一息ついて少し肩の力を抜いたのを見計らって執事さんがいつものように声をかける。


「…お飲み物はどうされますか?紅茶とりんご、オレンジ、ぶどうのジュース、それにコーヒーのご用意がございますが。」


「……今は水でいいわ。色のついたものを飲んだら吐きそう。」


「承知しました。では、お菓子も後ほどという事でよろしいですか?」


「ありがとう。…そうしてください。」


執事さんが水を用意する為に去った後、こんな時でもやっぱり執事さんと話すと貴族の娘だった時の感覚が忘れられないわねぇ。なんて、日々の感傷に浸ったりもしてたけど、まだ目を閉じるとあの光景がはっきりと染み付いていて、鮮烈に思い出される。


恐ろしかった…危険から逃がれる為に必死で全力で走り通して疲れ果ててもいる。少しは安心できる所に来たけれど、今にもそこのドアから凶器を振りかざした男が出てくるんじゃないかと思うとどうにもならない。


はやく…はやく、ドンが帰ってくるといいのに。


トントン

そんな気持ちで待っているとドアがいつもの調子でノックされ執事さんの穏やかな声が聞こえる。


「私です。入ってもよろしいでしょうか?」


「…はい!大丈夫です。」


私は震えそうになる声を抑えて必死に返事をする。静かにドアが開けられ、一瞬身構えるもそこにはちゃんといつもの執事さんがいて、水が入ったコップが目の前に置かれる。


「ありがとうございます。」


礼を言ってすぐにコップに手をかけ、持ち上げる。プルプルカタカタと震える手とコップ。両手で支え直して口をつけ最初は少しだけ口にする。一口、喉を通ると自分がとても喉が乾いていた事に気づいてゴクゴクと一気に飲み干した。


「おかわりはいかがですか?」


「大丈夫です。ありがとうございます。」


「それでは何かございましたらお呼びください。すぐに飛んでまいりますので。」


ニコッと笑って和ませてくれる執事さんの最後の茶目っ気にも笑って返す余裕は無く、部屋に一人取り残された後は不安だけが残った。






待って、待って、待って。どれだけ待ってもなかなかドンは帰ってこない。時計を見ればそれほど時間は経っていないし、事後処理や犯人の捜索で忙しいのは分かってる。…でも、待ってる時間は永遠の様に感じられて……



外の雑音や小鳥の鳴き声、葉擦れの音さえ煩く感じられ耳を塞ぎ目をつむって、それでも耐えきれずついにはドンの大きな机の下に避難訓練よろしく隠れてしまった。自分ってこんなにも怖がりで臆病などうしようもない人間なんだと知った瞬間だった。



そのままどのくらい経っただろう。机に籠って時計が見えなくなったから分からない。でも体感ではだいぶ長く待った頃。ドアの開くまあまあ大きな音がして、誰かが入ってくる。


絶対に執事さんじゃあ無い。あの人は気遣いの人だから。さっきから弱ってるって分かってる私の事気づかって、できるだけ驚かさないように普段通りにしてくれてる。自分だって何があったか気になってるだろうに…だからこの部屋にノックもせずに唯一無断で入れる館の主ドンか、…侵入者で人殺しのあの男しかいない。


どちらか一人。どっち?ドンか、あの男か。


怖い、怖い、恐い恐い!


「……おい!」


耳を塞いでも聞こえる野太い声。聞きなれたその声は…!

耳にあてた手を離し、パッと目を開ける。そこには見慣れたドンの姿があった…


「何してる、そんなところで。……大丈夫か?」


少し心配そうな顔と声音で覗き込むドン。この人が来たらもう安心だと思える。そんな人は今のところドンとハンス兄だけ。


机から出て、飛びついて、抱きついて、ドンの体にほっぺスリスリして思いっきり甘える。ドンも戸惑いながらも抱きしめてくれて安心感で大粒の涙がポロポロとこぼれ落ちた。


「…ドンのばかばかぁ…!何でもっとはやく来てくんないの?わたし怖かったんだよ?いつ追いかけて来て殺されるかもって思って……犯人はどうなったの?捕まった?診療所は?患者さんやお客さんに被害出てないよね?」


思いの丈を吐き出したら、急に冷静になってきて、途端に色んな他の人の事が心配になってきた。同時に自分の事ばっかり考えてた自分が猛烈に恥ずかしくなった。


「大丈夫だ。犯人はまだ捕まってはいないが目星はついてるし、4ギャング総出で探してるところだからすぐに見つかるだろう。念の為見つかるまでここにいた方が良いだろう。今日はここに泊まっとけ。」


「ありがとう!…ございます。」


「何だ?まだ顔色が優れないな。じき家にも帰れる。お前ん家の前にも警備をつけておくから、兄弟の事も心配せんでいい。」


「重ね重ねありがとうございます。………それで!患者さんとお客さんは!?無事だったんてすか?」


「…ああ。その事か。」


ゴクリとツバを飲む。良くない知らせがあるんじゃないよね?



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