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ケッペキショーの珍道中  作者: 朱華
初めましてスラム街
30/142

18 イベントは作者の気分で起こります

⚠残酷描写あり。

意気消沈する二人の下っ端ギャングを帰した後、すぐに報告のために診療所の二階の一室に向かう。


ここには、各ギャングが日替わりで配置する診療所を守るための用心棒がいる。…ホントは診療所の入り口か、待合室で待機しててくれる方が安全なんだろうけど、一般の患者さんを不必要に怯えさせる必要は無いって話になって基本何か起こるまではここにいてもらっている。


今回も普段ならすぐに駆け付けてくるはずなんだけどな…


コンコン


「すみませーん!ちょっと問題が起きたので入ってもいいですか?」


「    ………    」


「…あのー  いらっしゃいますよね?」


おかしいな。全然返事が無い。お手洗いとかで部屋に居ない時はドアのプレートを裏返しとく事になってるんだけど…


「もしもし?…まさか中で倒れてるんじゃないでしょうね。血圧高めって言ってたからな………うーん、入りますよー?いいですか?寝ぼけて切りつけるとか無しですよ?」


これ以上ここで言っててもしょうがないか、とドアノブを握る。内開きの戸をキィと音を鳴らしながら開ける。



そして見たモノはお父様の時よりも酷かった。

血塗れで倒れる男性。…今日の担当の用心棒だ。

床には血の水溜まり。むしろ小さな池と言っていいくらい。



そして、死体の側にはこれまた血塗れで立つ男性。細身で長身短い髪のとても恐ろしい男。口には笑みが湛えられている。

その手には床に倒れる男性を死へと追いやったとみられるナイフ。大振りなその凶器が私に向かって振り上げられる!!!



恐怖でなかなか体が動かない。自分に致命傷を与えうる攻撃が向かってきた事はこれまでに無い。他の人に向けられる物は幾度となく見てきたのに、これまではスラム(ここ)では当たり前だと思って目を背けてきた。いざそれが自分に向けられるとただ一歩横に避ける事。それがとても難しい。幼女だと見下してか大振りで簡単に避けられそうな攻撃なのに、足はすくむし、目がくらむ。


どうしようこのままじゃ死んじゃう!


「…っ!そうだ!!!」


ぐっ。と唇を噛む。いつも何となく言葉にして発動させるギフト。けど、今それをやれば確実にやろうとしている事が相手にバレて避けられてしまう。


だから…


「うわっ!何だこれは!!??」


襲いかかる男に大量の水を高いところから落とす。

慌てて頭を庇って逃げようとする隙にナイフを一センチくらいに小さくする。このくらいなら刺されてもかすり傷で済むし、後でどこいったか分からなくなっても困るしね。


男が水から抜け出したので、今度はポケットからちっさい石っころ取り出して投げつける。結構な勢いがついたまま小さくしてあったサイズを元に戻して、大きな重い石に戻す。


ゴン!と盛大に鳩尾を打った音がしてうめき声を上げて男は伸びてしまった。


「 …… 」


部屋に静けさが戻る。

さっきのギフトの水流で転がされたご遺体が気になるけれど今はそれどころじゃない。いつ意識を取り戻すか分からない危険な男ともう一時でも一緒に居たくはない。


心の中でゴメンナサイと水にプカプカ浮かぶ死体に謝り部屋を出る。密閉度の高い部屋だからドアを開けた途端に水が流れ出す。


ちょっとくらいの汚れた水なら除菌・除去ギフトで消せるんだけど、これは量が多すぎるしギフトの水だから綺麗で『とにかく汚い物を消し去る奴!』ってオーダーの除菌・除去ギフトでは消せないわねぇ。…後で清掃入ってもらわなきゃ。


廊下を走り、階段を駆け下りながらこれからどうするか考える。一応こういう事態になったときの為にギャングの頭達に言われてるのは診療所から一番近くにいるギャングを下っ端でもどこの所属でもいいから捕まえて事態を報告&救助を要請する。それに応じなかった者には制裁と伝わってるはずだから協力はしてくれるはず…


「…でも………」


ポツリ と呟く。

今さっき、ついさっきその掟を破って抗争紛いの事をした奴らがいたじゃない。もし、助けを求めた相手がそんな輩だったら、診療所反対派もいるみたいだし組織ってのは一枚岩じゃないから…


そんなどうしようもない不安を抱えながら外に出て一応診療所の鍵を締める。男が出てくる時に少しでも足止めになるように、診療を受けに来た患者さんや水を買いに来たお客さんに危険が及ばないように。


それからまた走って通りに出てギャングを探す。一応見つけられなかった時の為にドンのアジトに向かって走ってる。


「はっ…は…っ……んぐ…はぁっ」


現場から離れたら急に蘇ってきて頭にあの時の光景がこびり付いて離れない。必死に走っているうちにお腹も揺さぶられて吐きそうになった。今はそんな暇は無いと無理矢理飲み込んで走り続ける。



夕暮れの暗いオレンジが酸っぱくて、酸っぱくて。


顔をしかめながら走る。


ふとそこに、酒に酔って地面に寝転がってるギャングに気づいた。…下っ端だけど、酔っ払いだけどいないよりマシだ。


「お…っ、おねがい。起きて!診療所が!襲われて死人が出たの!ギャングの用心棒よ!お願いします!起きてください!」


「………」


だめか…失望に顔を歪めて涙をこらえながら立ち去ろうとする。

その時…


「………ふがっ!…何だとっ!?診療所に用心棒がきて死体が起きた!?」


「ばかっ!ちゃんときいてよぉ…っ!診療所が襲われてギャングの用心棒が死んだの!」


良かった…とりあえず起きた。でも寝ぼけてまともに報告できるか心配ね。


「どこのギャングのだ!?」


「そんなの今はどうだっていいでしょ!!!自分とこの用心棒じゃなきゃ動かないって言うの?」


「んなこた言ってないだろ!とりあえず報告に言ってくる!」


「私もアジトに向かいます!置いてっていいのでそれだけ伝えてください!」


この人がもしあの男の仲間で…私を騙して連れて行き殺そうと考えていたら大変だ。今の状況で初対面の者を信頼する事は出来ない。身の安全の為にも、ドンにちゃんと伝えられたか確認するためにもアジトには行かなきゃ。


…正直もう帰りたいけど、後をつけられて兄弟みんなまで巻き込んだら最悪だからね…


ああ、ほんと。

これが今回の教訓ね。教訓になるといいわね。死んだら意味ないもの。



犯罪は 伏線無しに やってくる



…あ、ぴったりだ。

五 七 五

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