8 診療所
契約から一週間。内装も整って今日から初出勤だ!
楽しみだなぁ。
皆にも定期的な収入が入るってんで喜んで貰えたし、暇な時は診療所の前で水売り続けても良いって言って貰えたし!
まあ、ハンスにはいつの間にか他の仕事まで加わってた事に驚いてちょっと怒られて今も心配されてるけど…
取りあえず気合いてれてやりますか!
「…………暇です。患者さんが来ません……一人も、、、」
やっぱりギャング経営の医者もいない診療所って事で、敬遠されているようです。
かなしい…
楽なのはいいけど暇すぎるよぉ…
今日来たお客様って、この一週間の間に周知して回った水目当てのお客様だけなのよ!
もちろん水売りつつ宣伝しといたけどね!
ただ…やっぱり普段は仲の悪い4つのギャングが手ぇ組んでやってる診療所だってんで、いつ決裂してここで抗争が始まるかもしれないと思って、興味はあっても二の足を踏んでる人も多いみたいよ。
なーんとか、ならないかねぇ。
医者がいないんだから、まだ必要無かろう。って手伝いもいないんだし、この広い診療所で私一人だけ受付でポツーンよ。
三日目にもなるともう開き直っちゃって、おやつ代わりの豆食って茶ァ飲んで、受付カウンターで『のべーん』ってしてるよ。日がな一日そうして、たまに水売ってるだけ。
昨日は、あのブローカーのあんちゃんがやってきて、さんざっぱら笑われた。
「ギャングに捕まって利用されてる。って言うから見に来てやったのになんだこりゃあ!客が一人もいねぇじゃねえか!クックック、まあ頑張れよ。座ってるだけで金が貰えるなんて良いじゃねぇか。ハッハッハ!」
そう言って笑いながら頭を軽く二回叩いてすぐに帰って行きやがった!来たんなら水くらい買ってけよ!
あの男!今度来たら吹っかけてやる!
水も診療料金も両方な!
…まあ、心配して見に来てくれたらしい事には感謝しなくも無いけど。
開業後、一週間経った時に初めて患者が来た。
ギャングのお抱え医者に診て貰えない下っ端のギャングさんだ。
入り口に入る時には相当躊躇ったようで、音や気配はするのに一向に客は来ず。不審に思った私が見に行こうと扉の前へ向かった時、意を決した様に勢い良く扉が開き、危うく吹き飛ばされる所だった。
「お、おい!水売りっ娘。」
キョロキョロと中を見回して他に誰もいない事に安堵したように息を吐いて話しかける患者さん。どうやら、見覚えが無い所を見ると馴染みのお客さんでは無いようだが、私が水売りをしている事を知っている人物のようだ。前に売った事があるのか噂で聞いただけなのかは知らんがどのみち患者さんだ。お客様と同じように接しておけばいいだろう。
「はいっ。お水ですか?診察ですか?」
いや、腕から血が滴ってるから診察だって分かるんだけどね。けど、今まで水のお客様しかいなかったからつい反射的に。
「診察だよ!どこをどう見たら水を買いに来たように見えるんだ…」
ありゃまちょっとお疲れのご様子。血も抜けてるしね。あちこち汚れてボロボロだし、これは抗争のお帰りかな?
「ほら、汚れてるから水で洗い流すとかね。でもま、取りあえず診察しますか。」
「…そうしてくれ。」
「じゃ、取りあえず汚れてるとこ綺麗にしますね〜。ギフト使うんで驚かないでくださいよ。」
「わ、分かった。」
くたびれたギャング様に了承を得ると、パパっと除菌・除去ギフトを使って体と汚れた靴跡がついた地面ごと綺麗にする。
「うおっ!これか治癒に使うってのは。汗まで取れてさっぱりしたな。」
「良かったです。怪我した所が汚れたままだったりすると悪化するのでかけさせて貰いました。手当するので奥の診察室へどうぞ。」
「ああ、頼む。」
ふんふふ〜ん。
経営者の身内とはいえ初めての診療よ!私でもできる簡単手当だから楽しくて仕方無いわ!
「じゃ、傷口にガーゼあてて包帯巻いときますね。」
くるくるくる。これでよし!と。
巻き終わって視線を戻すと下っ端ギャングさんと目があった。どうやら同じタイミングで顔を上げたようだ。
「…あ、いや。そんな小さな手で良く器用に巻くよな。と思って。」
「それで見てたんですか。内職で細かい作業には慣れてるだけですよ。」
「そうか。とにかくありがてえ。」
「いえ。良かったらお仲間にも宣伝しといてください。誰も来ないって知ったらボス達も悲しみますし…」
その一言が効いたようで、少し身震いして心強い返事をくれた。
「わ、分かった。必ず伝えよう。」
やっぱりギャングにはボスの名前が効くわね。
それから、同じような事が三回。別々のギャングで起こり、診療所は患者さんでいっぱいに…はならなかったけど。ポツポツと来るようになり、そこまで退屈をする事は無くなった。
ただ、今後の課題は今だ一人も来ないギャング以外の患者さんだ。料金も闇医者や、スラムの住人と分かるとふんだくる街の医者より安く、格段に良心的なのにギャングがたくさん集まる事と、ちゃんとした医者がいない事で来る気配が一つも無い。
一応、ハンス達経由で他の孤児達にも伝えては貰ったのだがやはり怖いらしい。怪我や病気の時はハンスに伝えるか家に来てもらうようにだけ伝えて貰った。その時はこっそり医薬品を持ち出して対応する予定だ。
そして、一ヶ月後。給料が入った事でうちの食卓は少し豪華になった。スープの塩味が少し濃くなり、具材も野菜の量が増えた。それに診療所で食べてるおやつはドンのはからいだけど、うちでも茹でた豆を夕飯に食べる事が出来るようになった!これだけでもがんばって退屈に耐えた甲斐があるってもんだわ!ちょっと給料泥棒してる気になって後ろめたいくらいだけどね!
そうそう、食事が増えたのには、もう一人の立役者がいる。
六歳になったナサラが外に働きに出られるようになったのだ。今までは幼くて足手まといだったから家で留守番させていたけど、そろそろいいだろ。ってハンス兄の許可が出たのだ。どうやら私が四歳で外で働き始めたのは水ギフトが使えたからだったようだ。
家計も火の車だったしね。利用できるものは何でも利用しないと!
ちなみに、まだ四歳になったばかりのタユタがいるから外に行くのはジンとナサラで代わりばんこらしい。
そうじゃないと八歳になったジンはいいにしても、まだナサラは辛いっしょ。ほぼ家から出なかったのにいきなり毎日働き詰めは。
ハンスとハンナは、それぞれ十歳と九歳になったらしい。
ハンスは将来の事を考え始めるようになった。




