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ケッペキショーの珍道中  作者: 朱華
初めましてスラム街
19/142

7 契約

「あ、ちょっと待って。井戸の様子見てきていい?」

「ああ。構わんぞ。」


帰り際、というかアジトへ向かう途中、目に入った見るも無残な井戸の姿が少し気にかかり立ち止まって寄る事にした。


「うっわあ、これじゃ夏の間に虫湧きそうね。蓋も無いんですもの。」


「ああ。酷いもんだ。逃げ出した奴ら見つけたらただじゃおかねぇ!ただてさえ遅れてる工期をさらに延ばしやがって!」


「これじゃ、髭じいが生きてるうちに間にあわないよ…」


「………ぷっ!お前髭じいってあのじーさんの事か!あっひゃひゃっひゃっひゃ!髭じいは良い!お前センスがあるな!人を笑わせる!ぶぁっふぁっふぁ!」


「ちょ!変な笑い方しないでくださいよ!もー!

 えいっ!除菌・除去ギフト!」


キラキラキラー

孤児の汚れを払った時よりも強い光が降り注ぎ、どんどんと汚れが落ちていく。ドンもまた、孤児達や通行人の時の様に口と目をあんぐりと開いてまんまるにして、呆然と見つめている。


しばらくして、光が消えそこにはピカピカになった綺麗な井戸と水だけが残る。


「…ふぅ。どうやら今回は水源の近くまで汚染されかかってたみたいで時間がかかったわ。さ、行きましょ。」


ふふ。私はなんとこの一年の間でギフトをかけている対象の状態や、除菌・除去完了度まである程度分かるようになったのだ!

おかげで、兄弟が風邪を引きかけててもすぐに気づいてその部分のウィルスを優先的に除去したりできるようになったのだ!


えへん。


一人で胸を張っていると、突然両肩を掴まれてガクガクと揺さぶられた。あれ、どうしたの?


「な、何だ今のは!まさか除菌魔法と除去魔法か!?ギフトって言ってたか!なら魔力は使わないんだよな!」


「え、ええ。でもちょっと落ち着いて!頭揺さぶられてフラフラする。」


「あ、あぁ。すまない。よし、すぐにアジトに行ってちゃんと契約を結び直そう!お前は診療所の救世主だ!よーし、俺はやるぞ!じーさんに完成した診療所を見せてやるぞ!

ほぉら、ついて来い!」


「わわっ!ちょやめて引っ張らないで!早く行きたいなら抱っこしてよ!もうっ!」


「それもそうだな。ほら乗れ!」


目を輝かせて、一刻も早くと私の手を引っ張るドンに、地面を引きずられそうな恐怖を感じたので必死の助言というか嘆願をしてみると、すぐにひょいっと抱きかかえて、急いで走り出してしまった。


「お、大怪我するとこだった…」


ギャングこあい!




「ほれ、一緒に契約書考えるぞ!」

「は、はい…」


揺られた衝撃でドンの硬い体にぶつかりまくって、体中が痛い!…あとちょっと酔った。


「まずは契約期間、念の為一年半な。で、契約内容は診療所に必要な分だけ水を用意する事。その際必要な量は医師と4つの共同組合で決める事。んで報酬は…どんくらい欲しい?」


「え、こっちで決めていいんですか?そりゃ多いに越したことは無いですけど…」


びっくりした、報酬なんて向こうでさっさと決められて、タダ働き同然になるのかと思ってたわ


「んじゃあ、一日1マンエルな。」


「えっ!そんなに貰っていいの!?まじで?それだけで暮らしてけるじゃん。」


「まあ、今回は急ぎだから特別だ。んで、緊急で水が必要になった時はさらに上乗せで状況に応じて1センエル以上払う、と。」


「ひょえーっ!こんな高待遇でいいのっ!?まじかー!」


「病気の時はどうするか…お、優先的に診療所の医師に診て貰える、と。何なら割引もつけとくか。」


ガリガリとペンでどんどん破格の内容が上乗せされていく。

ギャングこあい!ある意味その余裕がこあい!


「それから、住居はどうする?医師達の居住スペースに移るか。そうなると他のガキどもは連れてけないが…」


「いえ!そこは今まで通りで。」


「まあ、そうだよな。じゃあ通いと。ん、そこまでは契約書に書かんでもいいか。」


「そうですね。」


「んじゃそんなもんかな。次の契約書を作るぞ!」


「え?次?他になんかありましたっけ?」


なぜかトントン拍子に進む契約に少し不安を感じていると、案の定ドンがおかしな事を言い出した。


「いや〜しばらくは医者が確保出来そうに無いだろ?だから、治癒士としてしばらくお前に居てもらおうと思って。」


「は、はいぃぃ〜っ!?私五歳児ですよ?そんなの出来るわけ無いじゃないですか!」


「気にすんな!そのもう一個のギフトでガキを治してやったんだろ?自信持てよ!がっはっは!」


「また〜!あれは菌が病気の原因になってたからたまたま治せただけです!大体こんな素人の幼女がやってる診療所に人が来ると思ってんですか!それくらいなら閉めといた方がいくらかマシですよ!」


「んなこたぁねえさ!白衣の幼女に診て貰いたい奴ぁこぞってやってくるさ!がっぽがっぽと儲かるぞ!どうだ?やってみるか?」


「それって、変態が集まってきてるだけじゃないですか!ていうか、何気に売春を勧めないでください!えっち!スケベ!不潔!もう、いやー!ドンなんか大ッキライだもん、ベーだ!」


「ちょ、ちょっと待って帰らないで!おじさんが悪かったから。…ほらほら飴ちゃんあげるよ〜ケーキもあるよ〜」


立ち上がって舌を出し、半ば本気で歩き去ろうとすると、ドンは慌てたように胸ポケットから出した飴を目の前でゆらゆら揺らして見せる。


ごくり。

「ふんっ、まじめにやるなら考えてやらない事もないわ!」


そう言ってそっぽを向くが、手のひらは飴を受け取ろうとピンと上に伸ばされている。


「はいよっと。飴でも舐めて落ち着いて、落ち着いて。」


その手のひらの上に乗せられた飴をぎゅっと握りしめて感触を確かめ、すぐに包装を開け中身を取り出す。


…だって久しぶりの飴なんだもの。喉つまらせたら怖いからってお母様やナニーからはあんまり貰えなかったのよ。


「もにゅもにゅ。…甘くて美味しいわ。」


あ、私は大失態を演じたわ!

少しお腹が空いているのに、飴で口が塞がっててせっかく執事さんが用意してくれたチョコレートケーキが食べられ無いじゃない!んもう!


「…それで、その治癒士って何するんですか?」


ケーキより先に飴を与えたタイミングの悪い男、ドンに恨みがましい目を向けて尋ねる。


「要は、そのギフトで診療所と患者を綺麗にして、治せる病気なら治してくれればいいだけなんだよ。なあに、あそこはギャング経営のスラムの診療所だ!治せなくったって文句を言える患者はいねぇよ!だぁっはっは!」


「んな、無責任な…まあ、医者が来るまでならそのくらい良いですけどね。…はぁ。」


「それと噂によると、お前さん。少々医学の知識をかじってるそうじゃねえか。出来る範囲で応急処置やら手当やらしてやってくんねえか。」


「ほんとにたたの聞きかじりとうろ覚えですよ!?そんなんでいいんですか!?」


「構わん。医者が来るまでの間だ!異存が無いなら契約書に書いちまうぞ!」


「出来る範囲でってちゃんと明記しといてくださいよ!患者さん悪化したりしても責任取れませんからね!」


「分ぁかった!まずは、契約期間だな。一年半以内、かつ医者が来て落ち着くまで。次!契約内容は、治癒士として診療所の中を清潔に保ち、患者もまた清潔にし、ギフトによって治せる病気は治す。患者に出来る範囲の応急処置と手当を施す。…これでいいな?」


「…はい。不本意ですが。」


「じゃ次、報酬は一日5センエル!水のと合わせたらこれで充分だろ。水と治癒士じゃ優先度は水のが高いからな。あとは、働きによって加算だ!休日は五日に一回でいいだろ。あと一月に一回報告を兼ねてご褒美にお菓子をやろう。それでどうだ?」


「乗ったあっ!」


ガッツポーズ!したけど…別にお菓子に釣られたわけじゃ無いもんね!


「あ、あと、行き帰り暗いと危ないから護衛兼ねて送迎をつける。診療所は日の出からニ刻後から日が沈むまでだ。大丈夫か?」


「大丈夫っす!風邪引いた時とかは休んでいいよね?病気うつすと悪いから。」


「構わん。だが給料は出んぞ!」


「そりゃもちろん。分かってますって〜。で、休日診療や時間外の時はコレ弾んでもらえますかねえ、えへえへ。」


「…お前どんどん貴族の娘らしく無くなってくなぁ。」


手でお金マークを作っておねだりすると呆れた顔で笑われた。

ドンの言うとおり!私貴族の娘に馴染むのも早かったよ!

えへへ


「しゃあねぇな。ただしこっちが頼んだ患者だけだぞ!他は払わねえからな!」


「ええ、ええ。分かっていますとも。忖度って奴ですよね。ギャングのお仲間方への。」


「んっとに、やな所で賢い奴だな。その通りだよ!ギャング纏めるのも大変なんだぞ!」


「はいはい。分かりましたよ。えらいえらい。」


弱って絡んできたおっさんには、適当にあしらうのが一番!

前世の親戚の集まりで思い知った事よ…


「まあそういう事だから、ここにサインしろ。字は書けるよな?」


「書けますよ。その前にちゃんと契約内容確認させてくださいね。」


じっと、見つめるが特におかしな点は無いようだ。うぅ…一人で契約するのは心細いな。


「あの、これ魂縛られたりとかしないよね?」


「ぷはっ!…するわけ無いだろ。そんなのお貴族様のよっぽど重要な契約にしか使われんよ。」


まぁた、変な笑い方された!腹立つわ!黒い執事さんの漫画の影響でちょっと心配になっただけじゃない!もうっ!


「じゃあいいです!ここにサインすればいいんですもんね!何なら血判もいりますか?痛そうだからあんまりしたく無いですけど。」


ヤケクソ気味に言い投げて、ペンでサラサラと名前を書く。一瞬、家名も書こうか迷ったが一応やめておいた。



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