6 ギャングの会合
三日後、いつも昼時に水を売りに来る、仲間たちと初めて会った広場にドンがやって来た。答えを聞かずに挨拶だけするとむんずと私を抱きかかえてどこかへ向かってしまう。どうやら、アジトへの道では無いようだ。
「ねえ、どこに向かっているの?」
「診療所だ!一度見て貰おうと思ってな!」
どんどんどんどんこのギャングの縄張りから外れていくので不安になって聞いてみる。すると予想通りの答えが帰って来た。
「行くのは構わないけれど、せめて兄弟達に行き先くらいは伝えたかったわ。」
「心配あるまい!どうせこっそりついてきておる!」
「それはそうだけど…まあ、いいわ。」
これ以上の反論を諦めた私は、景色を見ようとドンを見ていた顔を上げ、それの存在に気づく。
大きな白い石造りの建物。二階建てで、ここらでは滅多に見ることのできない新築だ。
少し感動していると、ふと目に入った建物の横の井戸の惨状に息を呑んだ。
「なんだ、これは!?一つも進んでいないではないか!どうなっているのだ!」
私の気持ちは、ドンが代弁してくれた。
井戸がボロボロの汚いまま、少しも直ってはいなかったのだ。
ドンが急いで調べさせ、改修工事を請け負った者が逃げたのだと分かった。このギャング融和策を快く思わない者たちの仕業かもしれないそうだ。
怒涛の勢いで捜索と新たな者の選別を命じ終え、その勢いのまま中へと入っていく。もちろん私は抱えられたままだ。
中は広く、病室もいくつもあるようだった。2階は医者達の居住スペースと、…ギャングの会合場所になるらしい。
これ、医者来ないのそれが原因じゃないの?
そしてその会合場所に連れて行かれると、そのまま怖いお兄さん達が見張る扉を開け放ち、中にズンズンと入っていく。
…もちろん私も連れて。
………泣きたい、、、、
「おう!よく来たな。水の娘!」
…あれは、西のギャングさん。
「まあここへ座れ!」
…これは東のギャングさん。
「…ふんっ!こんな娘っこで本当に何とかなるものかのぉ」
この髭のおじいさんも、…北のギャングさん
「よいしょ。ここに座っときな!」
そして、私をふっかふかの革張りの椅子に降ろしたのが、
これまた南のギャングさん…つまりドンです。
ここには私以外ギャングのラスボスさんしかいないようです…
シクシク
お父様、お母様。
ハンス兄、ハンナ姉、ゼム兄、ジン兄、ナサラ姉、タユタ。
お家に帰りたいよぉ。
しかも、ドンに置かれたこの席いわゆるお誕生日席っていうか、居並ぶギャングさん達を抑えてのラスボス席ですよ!
ここって一番偉い人が座る席ですよねぇ!
座らせるとこ間違えてますよ!
でも、他に席無いしな…
あ、立てばいいのか!…そう考えた途端ドンに睨まれました…
くすんくすん
「よしっ!全員集まったな!ところでドンよ、今日の主賓の到着が少しばかり遅れたようだが何かあったか?」
鋭い発言は西のギャングさん…
「もしや、嫌がられてるんじゃあ無いだろうなぁ?」
そう言ってドンを睨むのは東のギャングさん。
「そんなこたぁ無いさ、全面的な協力を約束してくれた。
なあ、クオルフの嬢ちゃん。」
ドンが凄みをきかせてくる。…こあい
「も、もちろんです!ドン!スラムの住人がギャングのボス達に逆らうわけが無いじゃないですか…あはは」
「…こいつもこう言ってる」
「結局脅してんじゃん!笑えるわぁ〜」
「んだとぉっ!?」
西と南で一触即発になろうかというその時、ごほん。と咳払いが聞こえた。北の髭じいだ。
「お前たちは、ここでは諍いをしないと言って建て始めたんじゃ無かったのか?」
おお、髭じいの一言で二人とも静まった…さすがは、年の功。
落ち着いているな。
「あー!…すまねぇ。」
「…こっちこそ、からかいすぎた。悪かった。」
あ、お互い謝った。
すごい、髭じいって保育士さんみたい。
「…それで、娘っこ。お前は一日にどのくらい水を出せるんだ。
お前一人で足りるのか?」
「っと…きちんと測ったことは無いですけど、出しっぱなしにしても三時間は持ちました。ギフトなので魔力も使いませんし…この診療所くらいなら賄えると思います。」
思い出し、考えながら計算してみても余裕だ。そもそも神様からは無限の水を貰ったのだから当然だが。
「…ふむ。それならば良かろう。儂はもう長くない。早く完成させて見せておくれ。悪ガキどもよ。」
「じじい…」
「しけたこと言ってんじゃねえ!」
「必ず間にあわせるからな!」
おぉう…あの、怖ーいギャングの元締めが、このおじいさんの前だと形無しだね。みんないい年したおっさんやら大人やらなのに子供みたい。微笑ましいわね。
この髭じいの為にあんなに急いでたのね。
ちょっと感動しちゃうかも
あ、みんな水係が見れて取りあえず安心したらしく、帰っていく。一番若くて口が悪い西のギャングが髭じいを支えて行くようだ。
私はぼうっと、全体を見渡せる席に座っている。
最後の一人が出て行き、ドンだけになった時、ドッと力が抜けふかふかの椅子に沈みこむ。
「…ふぁーっ!…もう!勘弁してくださいよ!こんな会合に放り込むなんて!酷いです!精神的なダメージで労災を申請しますっ!」
「はっはっは!しかしお前のおかげでじーさんにちょっとは安心して貰えただろ。良かった良かった!」
「良かったじゃないんですよぉっ!しかも、あの場所!絶対おかしいですよねっ!ギャングの顔が良く見渡せてとーっても肝を冷やしたんですからねっ!」
「まあまあ、気にするなよ。じーさんに座って貰おうと思ってあの席を作ったが、我らは平等で無くてはならん。って聞かなくてな!空いてる席に座らせたまでよ。」
「んもーうっ!私は立ってたって良かったのに!」
「そう怒るな。またアジトで茶を飲ませてやるから。」
「え、ほんと?やったー!もちろんお土産もあるんでしょうね!前の時の執事さんは良く気が利いたわよ!」
単純な私は機嫌を取るためのその一言でケロッと立ち直る。
ち、違うもん。機嫌を取らせてあげてるんだもん。ふん!
「わ、分かった。用意させるから…」
「っしゃ!そうとなったら行くわよっ!早くしてちょうだい!」
張り切って椅子から降り、歩き出す私にドンは少々呆れ気味でぼやく。
「俺のアジトなんだけどなぁ…」
後ろの小声など一切気にせず、部屋を出ると慌ててドンも追いかけてくる。
ちょっとおもしろくなってきたじゃないの!