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ケッペキショーの珍道中  作者: 朱華
初めましてスラム街
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4 ドン

アジトの一室に通され、先にドカッと座ったドンに椅子を勧められ、軽く淑女の礼で応えて座る。


「…失礼します。」


あ、ドンが少しだけ驚いているようだ。眉毛がピクッと動いた。そういえば久しぶりに貴族式の作法が出たな。


仲間には笑われるし、客には変な目で見られるので最近はほとんど治まっていたのだけど、ガラは悪いけれど質のいい服を着たドンにお父様やお祖父様、葬儀で会った貴族達を思い出したのかしら。


「…お前は貴族の出か?」


「…ええ、まあ。詳細は省きますが捨てられたので今はただの孤児です。」


「そうか。道理で…

 お前、適正検査は受けたか?」


「え、ええ。検査の事ご存知なのですか?」


「まあな。貴族とも多少のツテがある。」


「…そうでしたか。」


少し、警戒した。お祖父様からの遣いなのでは無いかと思って…


「ああ、菓子を出す約束だったな。おい、ガキでも飲みやすい紅茶と甘い菓子を出してやれ!」


「…はっ。」


指示された通りに、素早く動くあまりガラの悪くない男性。


「執事みたい…」


思わずボソッと呟いた私に、ドンは少しだけ嬉しそうにする。


「…分かるか。これは貴族の屋敷から大金を積んで貰い受けた執事だ。なかなか良いだろう?」


「はい。所作が洗練されています。久しぶりで少し屋敷が懐かしいです。」


お茶が上空からカップに吸い込まれていく様に、昔を思い出して少し遠い目になる。


「そうか。そう思って貰えるのはコイツにとっても本望だろう。」


お菓子が出されたタイミングで本題を切り出す。


「…あの、それでお話とは一体何でしょう。」


「まあ、飲め。菓子を食え。冷めたら美味しくないぞ。」


ドンはコーヒーを飲み、くつろぐ素振りをしてみせる。

何がしたいのか分からない。


「では、お言葉に甘えていただきますわ。」


毒でも入ってたりしないでしょうね。

少し警戒しながら、紅茶に口をつける。


ん!


「美味しい…」


あぁ、久しぶりの紅茶だわ。体中に染み渡るこの香り…

あ~っ!たまらない


生まれ変わってからずっと貴族育ちで舌が肥えちゃって、中々辛かったのよね。ほぼ味無しのスープに白湯だけってのは。


お菓子にも手を付ける。

お子様向けなのか、スラムじゃ絶対に手に入らないから自慢なのかは知らないけど、お菓子は生クリームのたっぷり乗ったケーキだ!


食べる。食べる。もうこの頃には礼儀なんてそっちのけだ。

食べ終わってションボリしていると今度はスコーンを出してくれた!さっすが有能な執事!褒めてつかわすフッフッフ


スコーンもあっという間に食べ尽くし、一息ついてドンに向き直る。


「ごちそうさまでした。少し興奮してしまいました。粗相をお許しくださいませ。」


「別に構わん。ワシは作法など気にせずいつも鷲掴みだ!」


「ははは。なんか想像できますね。いえ、失礼しました。」




グビッとコーヒーを飲み干したドンは、ガチャンと音を立ててカップを起き、私の目をじっと見る。


「…本題に入ろうか。その水、どのくらい出せる?」


「…さらなる大口のご注文ですか?」


ピリピリとした空気の中、向こうの出方を見ようと少しおどけて言ってみる。…ドンは重々しい口調て切り出した。


「…まあ、そうだな。注文というよりは契約という形にはなるが。悪い話では無いと思う。まずは、聞いてくれんか。」


「…分かりました。聞きましょう。元よりそのつもりです。」


ドンのその真摯な態度に、姿勢を正し耳を傾ける。


「ふむ…お前はこのスラムに四つの元締めがある事は知っているか?その一つの長がこの俺だ。」


「はい。存じております。」


「その東西南北に別れた縄張りの境界線を巡って長年我々は対立してきた。たが、今回休戦協定が発行され、もう少しのところで平和的手段で収められそうな所なのだ。

 だが、それにはちと問題があり、このままでは長きに渡る水面下の交渉が全てパァになってしまうのだ。」


「…はぁ。」


いきなりそんな壮大な話をされてもねぇ…全然実感が湧かんわ

気の抜けた相槌しか打てなくてごめんよ。そっちは真剣っぽいのにね。


「それで、お前さんに活躍して欲しいわけよ!なあ、やってくれるか!」


「え、ちょっと待ってください!いきなり話飛びましたよ。さてはこのまま誤魔化して丸め込もうって魂胆ですね!騙されませんよ!」


今までの話じゃ全然見えてこんわ!なんで私の水が必要なんだ!?意味が分からん!もっとちゃんとした説明求む!


「そんなつもりはないっ!ただ説明下手なだけだ!」


「そんな堂々と宣言しないでくださいよぉ…それで、なんで私の水ギフトが欲しいんですかぁ…!」


つい脱力してダランとなってしまう。


「そ、それはだな…境界線を争うくらいなら、そこに四つのギャンッ…いやーえっと、グループが共同所有する建物でも建てちまったらどうかって話になったのよ。」


「別に、ぼやかさなくてもいいですよぉ〜ヤクザでギャングで暴力団だって事はとうに知ってますからー」


「ガキがンな事知らなくていいんだよ〜

 …とにかく、だ。その建物を何にするかって話になってな。

 どうせなら役に立って、しかも抗争に関わり合わなそうな施設が良いだろうって事になったんだ。」


「ぬぁ〜!それで、どうして水がいるんですか?確かに生活する上で絶対に必要な物ではありますけど〜、ギャング所有の井戸がそれぞれに一つずつありますよねぇ。食堂屋でも開くんじゃなければ、汲んでくるので十分だと思いますけどね。」


「そりゃあそうだが、今度はどこの井戸から汲んでくるかって事になってよ。また争いになりかけたからそうはいかんのだ。」


「あれ、でも確かスラムの真ん中には廃井戸がありましたよね?綺麗にして、補強したら使えるんじゃないですか?」


「そうだ。今その工事を急いで進めてる。けどよ〜時間がかかりそうなんだわ。水は汚えし、使えたもんじゃねえ。

 あちこち壊れてて作り直した方が速えってんで、井戸自体を作り直してるとこだ。最低一年はかかる。

 建物自体はもう出来上がってるんだ!そう難しくねえから人を使ってな。だが、井戸が出来なきゃ意味がねえ!」


ダンッと机を叩く音とその苛立ち混じりの怒気にビビって、体が竦む。


「……あ、あのぉ…それで結局、なんの施設を作ろうとしてるんですか?」


「…そういや言ってなかったか。診療所だよ診療所!

 いい考えだと思ったんだがな〜

 医者はヤブしか見つからねえし、手伝いの女衆もなかなか捕まらねえし、今確保出来てるのは産婆だけだぞ!このままじゃ産院になっちまう!…その上、産婆が診療所は清潔じゃないといけないとか、水も同じだとか言ってきてよぉ。もう頭抱えるしか無いぜ!」


「診療所ですか!良いじゃないですか!医者も手伝いの人たちも労働条件を見直せばきっと来ますよ!診療所も水も清潔じゃないといけないってのは同意見です!不衛生な環境では病気が流行ります!」


スラムの人の為の診療所が出来たら。

そしたら、ゼムみたいな孤児も街の医院に断られる事は無く重症化する前に行って、治るかもしれない。


そう思ったら、つい語気が荒くなる。


「そうなのか…まあ、労働条件の見直しはやって見る。それでだ、お前さん。井戸が出来るまでの一年間契約して診療所に水を供給してくれねえか。もちろん、ギャング合同で報酬は弾むぞ!もうどこのギャングもお前さんが頷くのを待ってるような状況なんだ。…頼むぜ。」


「ええーっ!勝手にそんな計画が進行してたなんて恐ろしいわっ!…とりあえず、私の独断では決められないわ。私の稼ぎは皆の物だから。」


「うむ。いい返事を期待しているぞ!」


「うぅ…それでは失礼します。」


ああ〜これはなんだかんだ押し切られるパターンよ!

ハンス兄達だって、さすがに全てのギャングを敵に回しはしないでしょう。あくまで、何も知らされないまま決まっていたという状況を無くす為に報告に行くようなものね。


「…はあっ」


特大級のため息が出た。


「クオルフ様。…こちら、皆様へのお土産にどうぞ。」


さっすが執事、主人が何も言わなくてもそんな所にまで気を回してくれるのね。これで、ハンス以外は黙らせられるわ。あとはどうハンスを納得させるか、ね。


「ご配慮痛み入ります。ありがたく頂くわね。」


ドア係によって開けられたその先には、目を泣きはらしたゼムと、仁王立ちのハンスがいた。


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